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経済分析の仕事を長くやっていると、これはいいチャンスだなと思うことが何度かありま したが、今回の金融危機をきっかけとした世界経済の、そして日本経済の変化を見定めると いうことは、今まで私が見てきた日本経済、そして世界経済の流れの中でも大変興味深いも のだと思っています。

今回の金融危機の背景には、アメリカでの金融商品の構成があったことは皆さんご存じの とおりですが、サブプライムローンをきっかけとして、なぜこれだけ大きな不均衡が生じた のかを考えますと、これを、ただ単にこの仕事に携わっていた人の貪欲さとか、そういうこ とだけでは説明できないものがあります。

私は、アメリカが資本主義国であるにもかかわらず、「フェアネス」を強調せねばならな かった国柄であったことが、これを生んだのだと思っています。どういうことかといいます と、資本主義の長い歴史の中において、貧しい人たちは当然出てくるわけですが、社会の亀 裂を大きくしないために、「公平さ」は不可欠だったのです。どういう形でこれを表すのか、

多くの人が様々な形で努力したのですが、その中で出されたのはオーナーシップ・レボリュ ーション、要するに、住宅に代表される資産を所有することを通じて、社会の前進、社会に おける富の蓄積の何かに手をかけることができる仕組みを作るべきだという考え方だったの です。これは資本主義アメリカの中において、過去30年ぐらいの間、大変強い考え方だった と私は思います。

1970年代の初め、ちょうど私が勉強し始めたころ、やはりアメリカで勉強していた人たち のうちの何人かは、我々がちょうど安手の分譲マンションを購入するのと同じ頃に、住宅ロ ーンを組み家を建てましたが、彼らは頭金20%を用意できるまでは、夫婦で歯を食いしばっ て、お金を貯めていました。当時、住宅を購入するには頭金が住宅価格の20%は必要だった のですが、それから頭金の比率がどんどん下がってきまして、21世紀を迎えるころには、つ

いには頭金ゼロで住宅が購入できるようになりました。

なぜこのようになったのかと考えてみますと、米国議会が、マイノリティーや所得が少し 不安定な人たちも住宅資産が持てるようにしようと、頭金をどんどん下げていくことを後押 ししたのです。しかし頭金ゼロで住宅を購入した人が、果たして返済をし続けられるかとい うと、当然誰でも疑問を持つわけですから、そうした住宅抵当証券は本来は簡単には売れな いはずなのです。

では、なぜ売れたのでしょうか。これはガバメント・スポンサード・エンタープライズで あるファニーメイとかフレディマックがどんどん買い込めるように、米国議会が後押しした からです。アメリカにおいて、ちょうど金融商品が次々と出るころになりますと、インセン ティブをつけ、いろいろな知恵を出した人に高い給与を出すという仕組みを取りました。統 計的に見ても、上位5%とか、あるいは1%の人たちが多額の富を得るという時代が1980年代 以降に出てきたわけです。それだけだったらアメリカ社会といっても、やはりもたない。あ わせてマイノリティーや所得の不安定な人にも住宅の取得機会を与える仕組みを競って作っ たのです。

この結果、住宅抵当証券を買い込むためにはお金をマーケットから調達しなければいけま せんので、ファニーメイやフレディマックの負債額はどんどん増えるわけで、ついには米国 国債の残高より、このガバメント・スポンサード・エンタープライズの発行する債務証書の ほうが増えてしまったのです。

今回、フレディマック、ファニーメイを、もう一度連邦政府の傘下に入れましたので、結 果としては政府部門の債務残高は2倍以上になるということになってしまったのです。なぜ ここまでのことをやったのでしょう。日本はそのときどうしていたかというと、ご存じのよ うに、景気が悪いというと日本列島に公共事業で仕事を配ったわけです。ですから、大都市 圏以外の自治体では、県会議員や市会議員などの自治体議員の半数近くが不動産関連の仕 事をしている人という時代がやってきたのです。それはおかしなことでしょう。付加価値を つけるのではなく、政府がばらまく資金に依存しながら、コミュニティーは形成できるので しょうか。金魚鉢の中にえさをやると、金魚はパクパクとえさのところにやって来ますが、

このようなことは長続きしないということが当然分かっていたわけです。

この結果、日本においてGDPに占める公共事業の比率は8%ぐらいまで上がりました。公 共事業を通じて最も日本中に仕事場を配っていたときのことです。これはいくらなんでも多 いというので、ここから大幅な削減が始まって、今ではGDP比で3%台ぐらいまでになりま した。ほぼ半分の水準です。これが、小泉改革が行われたことによって地方が疲弊したとい われることの最も具体的で直接的なものです。

他方で、国際比較をするとなぜ日本はこのようなことができたのでしょうか。アメリカは 東西冷戦の華やかなりしときには、軍事費にGDP比で7〜8%を使っていた。これが東西冷 戦構造が終わると、GDP比で3%台にまで低下した。ここのところ、またイラクの問題もあ りますし、アフガン増兵をしていますので、また少し膨らみ始めています。

ために8%使っていた。そして、この仕組みをつくるために、アメリカはガバメント・スポ ンサード・エンタープライズという法人にどんどん負債を溜め込み、日本では特殊法人とい う形式を取って、橋を架けたり、道路を作ったりし、その他にもいろいろな形で政府の補助 金に依存しなければいけないところは、毎年GDPの1%ずつもらっていました。小泉内閣が 成立したときには、この特殊法人に対する年間の補助金は5兆円で、GDP比で1%でした。小 泉内閣1年目で20%の削減がされましたが、アメリカにはアメリカのやり方、日本には日本 のやり方がありましたが、少なくとも比例案分で考えれば、こうしたメカニズムはおかしい、

こんな異常性のある資源配分をすることはないだろう、このようなことが持続するわけはな いだろうということになったわけです。

今回アメリカで起きたことは、こうして住宅部門に異常な形で資源をつぎ込む中で起きた ことだったのです。これが背景です。しかし、これだけで今回の話のすべてが説明できるわ けではありません。ガバメント・スポンサード・エンタープライズの借入金が、連邦政府の 借入金より多くなっただけでは、今回の金融危機の原因の引き金を引くことにはならなかっ た。では何があったかというと、「シャドー・バンキング・システム」が、この状況に乗っ かったわけです。これは何かといいますと、これもまた1980年代の後半のことになります が、貸し出しをどんどん増やせば、金融機関の貸出し債権が増えるわけですが、そのときに、

この貸出し債権と、もし貸出し債権が回収し切れなくなったときにそのショックを吸収する ための自己資本との間に、明確な比率を設けるべきだという議論がバーゼルのBIS規制で導 入されたのは、ご存じのとおりだと思います。

このバーゼルの規制は、日本の大手都市銀行をはじめとして、日本の銀行にも大きな影響 を与えたのですが、実際にはアメリカの金融機関に大きな影響を与えたわけです。すなわち、

自己資本を一体どのくらい使って、どういう仕事をするのかということが、アメリカのファ イナンシャル・インスティチューションにとって大きなテーマになったわけですが、同時に 自己資本に対してどれだけの利益を上げなければならないのか、自己資本利益率、ROE

(Return  on  Equity)という概念も、同時に資本市場の中に重要な概念として入ってきたこ ともご存じのとおりです。

そうして、アメリカの金融機関の経営者の間では、経済が順調に推移しているときには、

20%ぐらいのROEが欲しいということが判定指標になっていったわけです。もちろん日本で は、そんなに高いROEは実現しておらず、せいぜい数%で、かなり効率的に仕事がされてい るところでも、やっと二桁に乗る程度でした。アメリカの金融機関では軒並み20%近くの ROEを実現していた時代がかなり長く続くことになりますが、どうしてそんな数値が実現で きるのかということが、日本の金融機関の議論でした。

簡単なとりあえずの解釈は、アメリカは金融機関が高い利ざやを取っているけれども、日 本では利ざやが取れていないということです。例えば貸出金利と預金金利をそれぞれ平均す ると、アメリカでは2%から3%近くのさやを抜くところもある。これに対して、日本ではと

ドキュメント内 ARES41号 法人税法研究 租税法講義資料2009 (ページ 89-102)