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大竹 喜久

ドキュメント内 ARES41号 法人税法研究 租税法講義資料2009 (ページ 102-114)

1. はじめに 2. 米国の住宅市場の現状

次住宅価格インデックス注 3においても、直 近の 6 月の指数は前月比0.6 %で 2 ヶ月連続 の増加となった注 4。なお、2009 年5 月の指 数は2005年2月と同程度の水準となってお り、今年3 月以降はほぼ横ばいで推移して いる。

ちなみにこの2 つのインデックスの差異 は、前者(S&P)が主として全米の10また は20都市において、サンプルとなっている 住宅のリピートセールス(同じ不動産が異 なる時点で複数回売買された際の価格)に 基づき、「借入とは無関係に」売買に関す る政府の記録によって算出しているのに対 して、後者(FHFA)は全米をカバーし、

ファニー・メイやフレディ・マックなどの GSE(政府支援機構)の保証をうけたモー ゲージでファイナンスされた、すべての住 宅の売買記録を対象としている点である。

前者はサブプライムやジャンボローン(高 額ローン)注 5でファイナンスされているもの も含み、投資用の住宅も含まれていること もあり、後者に比較してややボラティリテ ィが高くなる傾向にある。

共通に、住宅価格はそろそろ底値圏に入っ ており、回復の時期が近づいているという ことが判断される。

注1 ケースシラー・インデックスおよび全米10市 および20市の定義については、S&P社ホーム ページ(下記アドレス)参照のこと

http://www2.standardandpoors.com/portal/

site/sp/en/us/page.topic/indices̲csmahp/0 ,0,0,0,0,0,0,0,0,1,1,0,0,0,0,0.html

注2 センサス・ディビジョンとは、アメリカ合衆 国国勢調査局(U.S Bureau of the Census)

による用語で、国勢調査実施のために合衆国 を理論上分割したものをさす。大きく四つの 地域(ノースウエスト、サウス、ミッドウエ スト、ウエスト)に分けられている。

注3 FHFA(Federal  Housing  Finance  Agency)

は、ファニー・メイやフレディ・マックなどの GSE(Government Sponsored Enterprise)

の監督のための機関であり、住宅指数はHP

(http://www.fhfa.gov/Default.aspx?Page=

14)で月次で公表している。

注4 ただし、同時に発表された四半期ベースでの データでみると、4 〜6 月期は前四半期比▲

0.7%と、まだ下落が続いている。

注5 フレディマック・ファニーメイなどのGSEが 保証するローンをコンフォーミングローンと いい従来上限が 417,000 ドルであったが、

2008年の緊急経済対策法で729,750ドルに引 き上げられた。ジャンボローンは、この金額 を超える高額住宅購入に主として使われるロ ーンであり、属性的には比較的高額所得者が 多く利用しているといわれている。

② 住宅販売

米国の住宅販売はわが国とは異なり、既 存(中古)住宅の販売がメインとなる市場 である。NAR(全米リアルター協会)が発 表する既存住宅販売注 6においては、本年7

S&P Case Shillar Index

100.00 120.00 140.00 160.00 180.00 200.00 220.00 240.00

2000年1  

2002年1  

2004年1  

2006年1  

2008年1   Composite-10

Composite-20

(出典;S&P社) 

月の数字は524万戸(前月比.3.6%)と4ヶ 月連続で前月比増加し、前年比でも 5.0 % 増と3 年8 ヶ月ぶりにプラスに転じた注 7。4 ヶ月連続の前月比増加は2004 年6 月以来の ことである。全米の既存住宅の販売は、図 表2  のとおり2005年には700万戸を超える セールスを記録していたが、2008年以降は、

年500万戸程度の戸数にとどまっている。

また 7 月の販売在庫は 409 万戸と前月比 7.3%と増加となったが、前月までは2ヶ月 連続の減少であり、趨勢としては減少傾向 といえる。しかし、月間販売戸数で計算す ると9.4ヶ月あり、2007年の平均8.9ヶ月よ

りも高い水準であり、図表3 で見られる巡 航時の 5 ヶ月程度の在庫水準からはまだま だ高止まりしている注 8

以上のとおり、住宅販売件数の状況から 見ても、住宅市場はボトムアウトしたとい える材料が揃いつつある。懸念としては在 庫の水準が依然として高く、後述する延滞 率の増加傾向継続等の在庫増加要因もリス クとして考慮に入れる必要があるだろう。

注6 http://www.realtor.org/research/research/

ehsdata

注7 ただし、このうち40%〜50%が差押さえ物件

(REO;Real Estate Owned by bank)ともい われている(NARおよびBank of America ヒ アリングによる)

注8 ただし、新築住宅に限ると2008年末には14 ヶ月であった在庫は2009年7月時点では6.9 ヶ月と半減しており、米国住宅ビルダーが着 工を絞ってきた効果が顕在化していると考え られる。

注9 National Association of Home Builders http://www.nahb.org/generic.aspx?sectionID

=819&genericContentID=97096&channelID

=311

③ 住宅着工

一方で新築住宅の着工についてであるが、

米国の新設住宅着工数は、図表4 に示され るように2006年1月に1980年以降ではピー クとなる 227.3 万戸(年換算)注 1 0をつけた 後、急激な下落を示した。2009年には一時 50 万戸を割り込む水準まで落ち込んだが、

直近の 7 月の着工数は 58.1 万戸となり回復 を示している。この数字は 6 月の 58.7 万戸

(改定値)より1%減少したが、戸建住宅だ けに限定すると 1.7 %増の 49 万戸と5ヶ月

住宅販売戸数 

0 1,000,000 2,000,000 3,000,000 4,000,000 5,000,000 6,000,000 7,000,000 8,000,000

1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002 2005 2008

Units Sold

図表2 全米既存住宅販売(年間) 

(出典;NAR) 

Housing Inventory

−  1,000 2,000 3,000 4,000 5,000

1999.1.31 2001.1.31 2003.1.31 2005.1.31 2007.1.31 2009.1.31

Number of Units (in thousands)

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0

Month

Inventory Inventory/Sales

図表3 住宅在庫 

(出典;NAHB(全米ビルダー協会)注9) 

連続の増加となった。

また、先行指数である許可件数注 11も約半 年間のラグをもって2005年の9月に226.3万 戸とピークをつけたが、着工と同様の傾向 を示して減少を続け一時50万戸を割り込ん だが、2009年7月は56万戸と回復している。

以上、①〜③の米住宅市場に関するイン デックス及び各種の統計データから判断す る限りは、米国住宅市場はすでに回復に向 けての底固め段階にあると総括することが 出来るだろう。それでは、今後どういった レベルに回復が期待されるのかを、新築住 宅着工数をベンチマークとして、マクロ数 字を元に検証してみた。

注10集合住宅(Multifamily)を含む。なお、集合 住宅の着工は限定された都市部に限られるた め、戸建住宅より景気の変動に左右されると いわれている(NAR)。

注11米国商務省の説明によると、戸建てにおいて は着工件数は2.5%許可件数よりも多く、集 合住宅では逆に着工件数は22.5%許可件数よ りも少なく、トータルでは着工件数は2.5%許 可件数よりも少なくなるという。

http://www.census.gov/const/www/

nrcdatarelationships.html

newresconstindex.html

① 持ち家率の推移

米国ではブッシュ政権下の「オーナーシ ップ・ソサエティ」の政策の下で、それま で持ち家比率の低かったマイノリティや低 所得者層に対しても持ち家比率を高めるこ とが目指された。これに対応してか、FRB 前議長のアラン・グリーンスパンは、こう したクレジットスコアの低い世帯へのサブ プライム・ローンの貸し出しを「融資の民 主化」と称して容認し、一時は低金利の変 動金利型ローンの活用を「証券化技術の賜 物」として推奨した注 13

また、そもそも米国においては、公正住 宅取引法(Fair  Housing  Act)が存在し、

この適用の厳格化によって融資手続きにお ける人種、肌色、性別、宗教等に関する差 別の禁止がなされ、マイナリティに対する ローン拒否の割合が低下したことも、サブ プライム・ローンなどの需要の拡大につな がった。2002年からブッシュ政権下で実施 された、マイノリティの住宅取得層を2010 年ま で に 5 5 0 万件増や す 「 A m e r i c a’s Homeownership Challenge」注 14もあって、

持ち家率は2004年第四半期には69.2%とな ったが、その後急速に低下し、現在では 67.4 %まで低下したが、それでも歴史的に 見ると依然として高い状況である(図表5 参照)。

Housing Starts and Permits

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500

1980年1  

1984年1  

1988年1  

1992年1  

1996年1  

2000年1  

2004年1  

2008年1  

Units (in thousands)

Housnig Starts Housing Permits

(出典;商務省注12) 

3. 米国の新築住宅需要ポテンシャル

注13Greenspan,  Alan  (February  23,  2004).

" U n d e r s t a n d i n g   h o u s e h o l d   d e b t o b l i g a t i o n s " .   C r e d i t   U n i o n   N a t i o n a l Association  2004  Governmental  Affairs Conference. Federal Reserve Board お よ び Greenspan,  Alan  (April  8,  2005).

"Consumer  Finance".  Federal  Reserve System's Fourth Annual Community Affairs Research  Conference.  Federal  Reserve Board.にもとづく。

注14http://www.policyalmanac.org/social̲

welfare/archive/wh̲minority̲housings.html ブッシュ大統領は、この実現のためモーゲー ジ産業部門においても、マイノリティへのロ ーンのバリアをなくす努力を要請している。

またこの一環で、頭金補助制度(American Dream Down Payment Fund)により低所得 者のためのハウジングバウチュアを頭金に充 当できるような仕組み等を作って初期費用を 低減化させるなどの施策も行った。

注15http://www.census.gov/hhes/www/housing /hvs/charts/index.html

② 米国の住宅需要(将来予測)

米国は先進国の中では数少ない人口の増 加が予想されている国であり、2050年には 4 億 3800 万人になると予想されている。

Pew  Research  Center注 16によると2005年

(2億9500万人)から45年で1億4300万人の 増加が見込まれ、そのうち1 億17 百万が移 民によるもの(移民そのものが67百万と移 民の子孫が50百万)と予測されている。ま た、移民の増加に対応して2005年において 6 7 %で あ っ た 白人の 比率は 2 0 5 0 年に は 50 %を下回り(47 %)、それに取って代わ るのがヒスパニック(14→29%)と予測さ れている。

世帯数に目を転ずると、米国の世帯数は 03 年から 08 年の 5 年間で 585 万世帯増加し ている(国勢調査)。また、前出のデータ では米国における中長期的な人口増加は年 間約318 万人と想定されているから、中長 期的な平均世帯人数を 2.7 人(2008 年実績 2.73 人)と仮定すると年間117 万世帯の増 加が予想されることになり、03年から08年 の世帯増実績に符合した数字が算出される。

また、毎年約30万戸の住宅が取り壊され ていていることを考慮にいれ、さらに持ち 家率(65%と仮定)を勘案すると、中期的 に 102.5 万戸の新設住宅が必要という計算 になり、現状の着工戸数58万戸がまだ相当 低いレベルにあること、また逆に2005〜6 年の 200 万戸超が過剰な供給であったこと が推定される。

後述する現地専門家のコメントから判断 しても、今後住宅着工が正常なレベルに戻 ったときの水準は100〜120万戸程度が妥当 であることから、現在の50万戸強の着工戸 数から判断する限りにおいては、米国住宅 市場が正常な水準まで回復するまでの道の りはまだ遠いと判断され、その回復水準も 着工ベースで議論すると2005〜6年の半分 程度に留まると推測される。

HOMEOWNERSHIP RATE

58.0 60.0 62.0 64.0 66.0 68.0 70.0

1965 1974 1983 1992 2001

HOMEOWNERSHIP RATE

図表5 持ち家率 

(参照;米商務省注15) 

ドキュメント内 ARES41号 法人税法研究 租税法講義資料2009 (ページ 102-114)