不動産流動化・証券化と 倒産手続 (第5回)

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請負人の倒産時の法律関係に関する諸問題

本稿では更生手続についての記載は割愛する。

注2 なお、本稿における意見にわたる部分は、筆 者の個人的な見解である。

注3 いわゆる開発型不動産流動化案件のうちTK-GKストラクチャーにおいては、土地所有者 たる信託受託者が竣工リスクや請負人に対す る監督責任を負うことが事実上困難であるた め、土地所有者たる信託受託者とゼネコン等 の請負人との間で建物建築請負契約を締結 す る の で は な く 、 信託受託者が 合同会社

(GK)に対して土地を無償で使用させ、合同 会社(GK)が建物建築請負契約の注文者と なって当該土地における開発計画が進められ るのが通常である。

2.  請負人について破産手続が開始した 場合

請負人について破産手続が開始したから といって、法律上自動的に請負契約が終了 するわけではない。この点、破産法第53条 第1項は、「双務契約について破産者及びそ の相手方が破産手続開始の時においてとも にまだその履行を完了していないときは、

破産管財人は、契約の解除をし、又は破産 者の債務を履行して相手方の債務の履行を 請求することができる。」と規定している。

そして、請負契約は、請負人が仕事を完成 させる債務を負い、注文者がその仕事の結 果に対して報酬を支払う契約であるから、

双務契約注4に該当する(民法第632条)。し たがって、請負人及び注文者が請負契約上 の債務の全部又は一部の履行を完了してい ない場合(例えば、建物建築工事が途中で 請負代金の支払も完了していない場合な ど)、請負契約には破産法第53条第1項が適

を解除するか、又は請負契約を維持して請 負人の債務を履行し注文者に請負代金の支 払を請求するかを選択できることが原則で ある(破産法第53条第1項)注5

(1)請負契約の債務の履行が選択された 場合

請負人の破産管財人が破産法第53条第1 項に基づき請負契約の債務の履行を選択す るためには、原則として裁判所の許可を要 する(破産法第78条第2項第9号)。これは、

破産財団に新たな負担を生じさせる可能性 のある履行選択について、適切な判断を確 保しようとするものとされている注6

裁判所の許可の下、請負契約の債務の履 行が選択された場合、破産管財人は、請負 人又は第三者をして、建物建築工事債務を 履行させて(注文者の建物建築工事請求権 は財団債権となる(破産法第148条第1項第 7号)。)、注文者に対して請負代金の支払を 請求することになる。当該請負代金請求権 は破産財団所属の財産となる。なお、請負 契約を維持することが破産財団にとって不 利益であるにもかかわらず、請負人の破産 管財人が当該請負契約を解除しない場合に は、破産管財人に善管注意義務違反の責任 が生じ得る(破産法第85条)。したがって、

破産管財人は、かかる善管注意義務違反と ならないよう請負契約を維持するか解除す るか選択することになる。

ア 注文者からの請負契約の解除

請負人の破産管財人によって請負契約の

債務の履行が選択された場合、注文者の有 する建物建築工事請求権は財団債権として 保護され(破産法第148条第1項第7号)、注 文者は、破産財団に対して請負代金支払債 務を履行することになる。しかし、財団債 権が常に保護されるわけではない(破産法 第152条第1項参照)。また、注文者として は、一旦破産手続が開始された請負人に引 き続き建物建築工事を任せることに不安を 覚えることもあろう。そこで、注文者のほ うから、請負人を変更するべく、請負契約 を解除することができないか、以下検討 する注7

(ア)倒産解除特約に基づく請負契約の解 除

注文者側から請負契約を解除する手段の 一つとして、請負人について破産手続など 法的倒産手続が開始されたことを解除事由 とする特約(以下「倒産解除特約」という。)

を予め締結しておき、請負人について法的 破産手続が開始された後、かかる倒産解除 特約に基づいて請負契約を解除することが 考えられる注8。しかし、請負人に破産手続 が開始された場合、倒産解除特約があると 注文者が常に請負契約を解除できることに なり、破産管財人に契約の維持か解除かに つき選択権を与えた破産法第53条と抵触す るため、判例は、倒産解除特約の効力を制 限する傾向にある。

この点、請負人が破産した場合に注文者 が請負契約を解除できるとする特約の効力 について直接判断した判例及び裁判例は見 当たらない。もっとも、東京地判平成10年 12月8日判例タイムズ1011号284頁は、売主

が倒産した場合に買主が売買契約を当然に 解除できるとする売買契約中の特約につ き、破産手続においてその効力を認めるこ とができないと判示する。上記東京地裁平 成10年判決は、売買契約における倒産解除 特約の有効性について判断したものであ り、当然に請負契約をその射程範囲とする ものではない。しかし、上記東京地裁平成 10年判決は、倒産解除特約を有効とする と、売主に破産手続が開始された場合に買 主の意向によって売買契約の解除が決定さ れることになり、破産法第53条第1項にて 破産管財人に認められた契約の維持か解除 かを選択できる権利と抵触し、破産管財人 の権限を無意味にしてしまうことを理由と している。かかる理由は請負契約に当ては まり得るため、請負契約も上記東京地裁平 成10年判決の射程範囲に含まれると解され る可能性も存在する注9。したがって、請負 人が破産した場合に注文者が請負契約を解 除できるとする特約を注文者と請負人の間 で合意することはできるものの、当該特約 につき、規定した内容通りの効力が認めら れるかについては疑義があると考えておく べきであろう注10

(イ)破産手続開始前の債務不履行を理由 とした請負契約の解除

注文者から請負契約を解除する別の手段 としては、破産手続が開始される請負人の 中には、破産手続開始前において既に請負 人の建物建築工事債務につき、債務不履行 が認められるケースが少なくないため、か かる債務不履行を理由として請負契約を解 除することが考えられる。すなわち、破産

存在し、かつ、催告がされているなど解除 権発生の要件も充足されている場合には、

注文者は、破産手続開始後であっても、そ の解除権を破産管財人に対し行使すること ができる注11

(ウ)履行選択後の債務不履行を理由とし た請負契約の解除

請負人の破産管財人による請負契約の履 行が選択された場合でも、その後の工事に ついて債務不履行が認められれば、平時の 場合と同様に注文者側から請負契約を解除 することができる注12

(2)請負契約の解除が選択された場合

請負人の破産管財人が破産法第53条第1 項に基づき請負契約の解除を選択した場 合、かかる選択に従い、破産法第53条以 下に従った整理がなされることが原則で ある注13

ア 請負契約の解除の効果

破産管財人が契約の解除を選択した場 合、解除の効果として遡及的に契約関係が 消滅し、両当事者が原状回復義務を負うの が原則である(民法第545条第1項本文)。

しかし、解除の対象が建物建築請負契約の 場合、常に当該請負契約の解除に遡及効を 認め、既履行の出来高部分を取り壊して更 地に戻すことを強いるのは社会経済上あま りに不利益が大きい。この点、最判昭和56 年2月17日判例タイムズ438号91頁は、工事 全体が未完成の間に注文者が請負人の債務

工事請負契約を解除する事案において、工 事内容が可分であり、しかも当事者が既履 行部分の給付に関し利益を有するときは、

特段の事情のない限り、既履行部分につい ては当該請負契約を解除することができ ず、未履行部分について当該請負契約の 一部解除をすることができるに留まるとす る注14。上記最高裁昭和56年判決は、債務不 履行を理由として請負契約を解除する事案 であるが、破産法第53条第1項に基づき請 負契約を解除する場合も既履行部分につい ては当該請負契約を解除することができ ず、未履行部分について当該請負契約の一 部解除をすることができるにすぎないと考 えられている注15。すなわち建物建築工事の 途中で建物建築請負契約が破産法第53条第 1項に基づき解除された場合、かかる解除 の効力は将来に向かってのみ効力を有し、

遡及効は有さず、既履行部分について当該 請負契約は解除されず、未履行部分につい てのみ当該請負契約の効力を消滅させるも のとされているのである。

イ 出来高部分に応じた請負代金

民法上、請負の報酬は、特約のない限り 請負の目的である仕事が完成しその引渡し を行わなければその請求をすることができ ないとされている(民法第633条)。そうだ とすれば、建物建築工事が途中の状態で請 負人が破産し請負契約が解除された場合、

仕事が完成していないのであるから、請負 人は、特約のない限り、注文者に対しそれ までの請負代金についても請求できないよ うにも思われる。しかし、東京地判昭和45

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