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第3回 連結およびSPCに対するIFRSの規定

結及び個別財務諸表」(「以下IAS  27」)が 定めています。また、一時支配の子会社の 連結については、IFRS5号「売却目的で保 有する非流動資産及び廃止事業」が適用さ れます。また金融資産の証券化等を目的と して創設される特別目的事業体の連結につ いては、解釈指針第12号(「SIC12」)が適 用されます。

2. IFRSにおける「支配」の概念 IFRS では自社が「支配している事業体」

をすべて連結することになりますが、「支配」

とは「企業活動からの便益を得るために、

企業の財務および経営方針を左右する力」

と定義されています。日本基準では、「支 配」とは「ある企業又は企業を構成する事 業の活動から便益を享受するために、その 企業又は事業の財務及び経営方針を左右す る能力を有していること」と定義されてい て、実質的な差異がないことがわかります。

こうした支配の有無を決定するための具 体的な指針として、企業の議決権の過半数 を直接・間接に保有している場合には「支 配」が存在しているものとの強い推定が働 くこととされます。また議決権が過半数に 満たない場合でも<図表1>の要件を満た す場合、「支配」があるとみなされることに なります(<図表2>参照)。なお IFRS及 び日本基準における支配の有無に関する判 断についての具体的規定は<図表1>のと おりです。日本基準では、50%超、40-50%

と数値基準が定められていますが、「支配」

の概念について、実質的な違いはないと考 えられます。

IFRS

1.議決権の過半数を直接・間接に保有している場合  2.過半数を保有していなくても、以下のような状況では、

支配があるとみなされます 

1)他の投資者との合意を通じて議決権の過半数を有し ている場合。 

2)法律や契約により財務及び経営方針を左右する力を 有している場合。 

3)取締役会等の企業を統治している機関の構成員の 過半数を選任又は解任する力を有している場合。  

4)取締役会等の企業を統治している機関における投票 権の過半数を有している場合。 

日本基準 

1.議決権の過半数を自己の計算において所有している 場合 

2.議決権の40%以上、50%以下を自己の計算において 所有していてかつ、次のいずれかの要件に該当する 場合 

1)自己の計算において所有している議決権と、自己と・・・

緊密な関係がある者が所有している議決権とを合わ せて、他の企業の議決権の過半数を占めていること  2)役員若しくは使用人である者・・・が、当該他の企業の

取締役会その他これに準ずる機関の構成員の過半 数を占めていること  

3)他の企業の重要な財務及び営業又は事業の方針の 決定を支配する契約等が存在すること 

4)他の企業の資金調達額の総額の過半について融資

(債務の保証及び担保の提供を含む。)を行っている こと。(以上抜粋) 

図表1. 支配の要件 IFRSvs日本基準 

図表2 IFRS 支配の要件 

ケース1   他の者と支配 

A社 

関連会社  a社 

合わせて  50%超  保有 

取  取  取  B社 

B社  ケース3   取締役の過半数を  選任・解任 

ケース2   契約による支配 

A社 

A社  A社 

取  取  B社 

B社  ケース3  

取締役会における投票  権を過半数保有  B社の経営 

を支配する  契約 

3. 潜在的支配

また、支配しているかどうかを決定する 際には「潜在的議決権」を考慮することが 求められています。例えば、「新株引受権」

や「株式コール・オプション」、普通株式 への転換が可能な「優先株」等、行使され たり転換された場合に保有者の議決権比率 を増加させることになる(したがって他の 株主の議決権比率を減少させることにな る)効果、すなわち潜在的な議決権を与え る金融商品を企業が保有することがありま す。IFRS  における支配の有無の判定に当 たっては、こうした潜在的議決権のうち、

現在行使(転換)可能なものの存在が有す る影響を考慮することが求められます。潜 在的議決権の有する影響の評価に当たって は、単にオプションや転換権の行使を仮定 した場合の議決権の数値のみで判断するの ではなく、オプションの行使条件やその他 の契約条件等、関連するすべての事実及び 状況を総合的に勘案して判断することにな ります(<図表3参照>)。わが国会計基準 においても、「連結財務諸表原則」の第三 において自社が意思決定機関を支配してい る他の会社(子会社)をすべて連結の範囲 に含めなければならない旨が定められてお り、支配力基準が適用されている点ではほ ぼ同様と考えることができます。なお、わ が国においては、「連結財務諸表制度にお ける子会社及び関連会社の範囲の見直しに 係る具体的な取扱い」(企業会計審議会)、

「連結財務諸表における子会社及び関連会 社の範囲の決定に関する適用指針」(企業 会計基準委員会「ASBJ」)等が公表されて

おり、IAS27号より詳細な指針や例示が示 されています。また、潜在的議決権の取扱 いについてはわが国会計基準において明確 な定めは存在しておらず、IAS27  号の実務 適用にあたっては検討が必要な項目の1つ です。

4. 特別目的事業体の連結

限定的かつ明確な目的を達成するために 創設された事業体である特別目的事業体

(「SPE」)について、SIC12は上記に示した 一般的な「支配」の考え方に加え、 <図表 4>のような状況がある場合については、

SPE を支配しており、連結範囲に含められ ることがあることを規定しています。

このように、現行のIFRS  ではSPE  につ いて、誰が便益を受けているか、誰がリス クを負担しているのかという分析を行い、

それに該当する者が支配をしていると推定 されることになっています(<図表5>参 照)。しかし、詳細な指針がないため、非 常に判断を要する分野とも考えられます。

わが国では、「財務諸表等規則」第8条第 7項で、特別目的会社については、適正な 価額で譲り受けた資産から生ずる収益を当 該特別目的会社が発行する証券の所有者に ARES REPORT

A社 

B社 

普通株  オプション  ワラント  優先株 

図表3. IFRS 潜在的議決権 

行使の可能  性等を総合  的に判断  潜在的議決 

権も加味して  判断 

享受させることを目的として設立されてお り、当該特別目的会社の事業がその目的に 従って適切に遂行されているときは、当該 特別目的会社に対する出資者及び当該特別 目的会社に資産を譲渡した会社等から独立 しているものと認め、出資者等の子会社に 該当しないものと推定するとしています。

したがって、基本的には適正な価額で資産 が特別目的会社に譲渡され、また当該特別 目的会社が「自動操縦」の仕組みとなって いる場合には、出資者等の連結から除外さ れていますが、IFRS  の適用にあたっては、

再度、上記の観点から連結の可否について それぞれの事案ごとに十分に検討する必要 があると考えられます。

ASBJでは、当該特別目的会社の取扱い について、平成21年2月に「連結財務諸表 における特別目的会社の取扱い等に関する 論点の整理」を公表しました。本論点整理 は、国際的な会計基準やその動向を踏まえ、

連結財務諸表における特別目的会社の取扱 い等に関する論点を示し、今後の議論の整 理を図ることを目的としています。ASBJ

では、論点整理の過程において当面の対応 として平成19年3月に、出資者等の子会社 に該当しないものと推定された特別目的会 社(開示対象特別目的会社)の概要や取引 金額等の開示を行うことを定めた企業会計 基準適用指針第15号「一定の特別目的会社 に係る開示に関する適用指針」を公表して います。

公認会計士、日本証券アナリスト協会検定会員、不動産 証券化協会認定マスター あらた監査法人 代表社員 不動産ファンドおよび運用会社に対して、監査およびア ドバイス業務を提供。主たる著書として、「投資信託の計 理と決算」(中央経済社・共著)、「不動産投信の経理と 税務」(中央経済社・共著)、「集団投資スキームの会計 と税務」(中央経済社・共著)等。あらた監査法人の不動 産業・IFRSチャンピオン、およびPwC・GlobalのIFRS・

業種別委員会・不動産部会の委員を務める。

しみず・たけし

SPCはA社 の便益のた めにある 

A社はSPCから の 残 余 価 値ま たは所有リスク の過半を保有  a)事業運営からの便益 

A社 

A社 

A社 

SPC SPC

b)権限の保有 

c)便益とリスク 

SPC

d)残余価値OR所有リスクの過半 

自動操縦 

図表5. IFRS SPCの連結要件 

A社はSPCか らの便益の過 半およびリスク を有している 

A社 

SPC S P Cに関す

る権限を実質 的に保有 

(a)事業活動 

実質的に、SPEの事業活動が企業の特定の事業上の 必要に従ってその企業のために行われ、それにより企業 はSPE の事業運営から便益を受けている。 

(b)意思決定 

実質的に、企業はSPEの事業活動の便益の大半を獲得 するための意思決定の権限を保有し、又は「自動操縦」

の仕組みを設定することによって企業はこの意思決定の 権限を委託している。 

(c)便益とリスク 

実質的に、企業はSPEの便益の大半を獲得する権利を もつゆえにSPEの事業活動に伴うリスクに晒されている。 

(d)残余価値又は所有リスク 

実質的に、その企業は、SPE の事業活動からの便益を得 るために、SPE又はその資産に関連した残余価値又は所 有リスクの大半を負っている。 

 

図表4. SPE について支配が推定される場合 

ドキュメント内 ARES41号 法人税法研究 租税法講義資料2009 (ページ 42-46)