• 検索結果がありません。

小林 ヤンネ 孝貢

ドキュメント内 ARES41号 法人税法研究 租税法講義資料2009 (ページ 114-120)

株式市況の回復

は約45%も上昇しています。欧州不動産セ クターについては、未だリーマン・ショッ ク以前の水準まで達しないものの、2008年 10月初旬の水準まで回復しており、市場の 不動産セクターに対する見方が相当改善し ていることがうかがえます。この株価回復 を支えた要因として、各国政府による緊急 経済対策及び信用不安の収縮、株価バリュ エーションにおける著しい割安感、不動産 ファンダメンタルズの回復期待等が挙げら れます。

3 月以降の株価回復をチャンスとみて、

英国・欧州の不動産銘柄が積極的にエク イティを調達してきたことは皆様の記憶

に新しいところかと思います。主要UK-REIT銘柄では、Hammersonが5.8億ポン ド(約880 億円、2 月9 日)、British  Land が7.4 億ポンド(約1,120 億円、2 月12 日)、

Land  Securities が7.6 億ポンド(約1,150 億円、2 月19 日)、そしてSEGRO が5.0 億 ポンド(約760億円、3月4日)がそれぞれ ライツ・イシュー(株主割当増資)によ る増資を果たしており、新規のエクイティ を調達することで、財務体質の改善を果 たし、次の戦略に出ようという動きが見 られました。中でも SEGRO による増資 は、増資発表時の時価総額の約1.4 倍に相 当する規模であり、増資前までは「破綻 の危機にあるのではないか」とまで囁かれ ていましたが、十分な資本調達を果たし たおかげで増資後の株価は極めて堅調に 推移し、市場からの評価も相当に改善し ました。

0 20 40 60 80 100

2008.9.1 2008.11.1 2009.1.1 2009.3.1 2009.5.1 2009.7.1 グローバル  英国  欧州圏 

欧州圏は昨年10月  頃の水準まで回復 

積極的なファイナンシング

3 月に 760 億円の資金調達に成功したと 思 い き や 、 S E G R O の 狙 い は い ち 早 く B r i x t o n の 買 収 へ と 向 け ら れ ま し た 。 SEGRO も Brixton も物流施設にフォーカ スした事業戦略を持つ UK-REIT であり、

双方の合併が戦略的にも意義深いものに なるとかねてより考えられてきました。こ の2 銘柄についてご存じない読者も多いか と思いますので、まずは簡単にご紹介しま しょう。

SEGRO

2007 年に現在のSEGRO という名称に変 更する前は、Slough  Estatesと呼ばれてお り、これは、その名の通りヒースロー空港 から更に西に行くこと約8マイル(約13km)

にあるSlough(スラウ)という町が会社の 起源であることに由来しています。その歴 史は第一次世界大戦直後(1921年)まで遡 り、スラウの町にSlough  Trading  Estate という総合的な再開発プロジェクト(オフ ィス・商業・インダストリアル(発電所 等))に取り組むことから始まりました(同 プロジェクトは、ハイドパークを凌ぐ474 ヘクターもの敷地に600以上の建物が並び、

かつ17,000人以上の雇用を賄っているもの として欧州最大級)。その後、事業はオフ ィスや物流セクターに徐々に特化していく ようになり、地域も英国のみならず大陸欧 州や米国にも進出を果たします。2007年に 米国ポートフォリオを売却したことで、英 国・欧州にフォーカスした事業戦略を確立 し、現時点では10カ国に16拠点を置くグル ープとなっています。2007 年 1 月には、

UK-REIT への転換組第一陣の一社として REIT化を果たし、今ではUK-REIT銘柄中

Slough Trading Estate 

(スラウ) 

Tulipan Park 

(Strykow、ポーランド) 

SEGRO保有物件例 

出典:会社資料 

SEGRO:保有ポートフォリオ(08年12月末) 

Slough Trading   Estate  24%

ロンドン地区  14%

その他英国  24%

欧州大陸  38%

保有資産:37億ポンド 

(約5750億円) 

SEGRO&Brixtonの合併劇

1,500億円、09年5月末時点)。

Brixton

1924年に設立されたBrixton社は、以前 はBrixton Estate Limitedという名称でロ ンドンのBrixton  Roadに所在する6エーカ

始まりました。第二次世界大戦で焼かれた ロンドンで不動産を買収・開発をし、更に 事業拡大を果たし、そして1997年には名称 をBrixton  plc.に変更し、戦略的にもイン ダストリアル系不動産に特化した不動産デ ィ ベ ロ ッ パ ー へ の 方 向 転 換 を し ま す 。

出典:ブルームバーグ 

注:Brixton株価は合併比率が発表された6月22日時点株価をSEGRO株価に調整 

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

2009.1.2 2009.2.2 2009.3.2 2009.4.2 2009.5.2 2009.6.2 2009.7.2 2009.8.2

(英ド) 

SEGRO Brixton(調整後) 

3月16日 

Brixton、不動産評価額が  10%以上下落するとコベナン  ツに抵触すると発表 

5月22日 

SEGRO、Brixtonへの  合併提案を検討中と発表 

6月22日 

SEGRO、Brixtonに対する  正式合併提案 

Polar Park 

(ヒースロー) 

Premier Park 

(パーク・ロイヤル) 

Premier Park 

(マンチェスター) 

Brixton保有物件例  Brixton:不動産ポートフォリオ(08年12月末) 

ヒースロー  37%

英国南東部  14%

マンチェスター  8%

パーク・ロイヤル  35%

その他ロンドン  6%

保有資産額:18億ポンド 

(約2700億円) 

SEGRO 同様、Brixton も 2007 年に UK-REIT への変換を果たしております。不動 産ポートフォリオは、英国の南東部に所在 する物流・インダストリアル不動産を主軸 に構成されており、特にヒースロー空港近 辺の商業地帯及びロンドン北東部に位置す るパーク・ロイヤル地区に集中していま す。時価総額は約180 億円(09 年5 月末時 点)の小型株銘柄でしたが、物流に特化し たUK-REITとしてSEGROと共に差別化が 計られていました。

合併のきっかけとなったのは、Brixton が財務的に非常に窮地に立たされており、

何か手を加えないとデット・コベナンツに 抵触してしまうリスクが顕在化したことで した。しかも、今年 3 月には会社側より

「保有資産の評価額があと 10 %下落した場 合、デット・コベナンツに抵触してしまう」

という声明も出され、速やかな財務体質の 改善が喫緊の課題だと市場で広く認知され

るようになりました。株価推移をご覧にな っても、3 月辺りに株価が著しく下落して いることがお分かり頂けます。経営陣とし ては、保有資産を売却したり、金融機関と の折衝を続けたりと相当の自助努力をし て、厳しい局面を乗り越えようとしたよう ですが、その努力にも限界があり、SEGRO を含む複数社とM&A の可能性について協 議を開始しました。メディアでは、SEGRO の他にも複数社が関心を示していると報じ られましたが、最終的に5月22日にSEGRO より正式な合併提案が提示され、デューデ リジェンス作業及び最終交渉を経て、7月9 日に両社の取締役会で正式に合併提案が承 認されました。8 月25 日時点で両者の合併 は完了しており、SEGRO が存続会社とし て上場を維持しています。

では、合併のメリットやディールのポイ ントについて、簡単にまとめてみましょう

(会社発表資料より抜粋)。

◆事業戦略の合致:重要地域(ロンドン西部、ヒースロー 地区)におけるシェアの拡大 

◆魅力的なバリュエーション:実質的にBrixtonの持つポー トフォリオをインプライド・イールド8.7%で取得 

◆コスト・シナジー:年間1200万ポンド(約18億円)の費 用削減 

◆一株当り利益(EPS)の大幅な上昇 

◆SEGROによる新株発行後は一株当り純資産価値(NAV)

への影響は概ねニュートラル 

◆市況サイクルの観点から時機を得た投資:市況回復と 共に著しいアップサイドの実現を目指す 

◆Brixtonによるコベナンツ抵触を避けるため、SEGROに よるエクイティ調達 

◆Brixtonが発行した2015年及び2019年償還予定の社 債のロール・オーバー、2010年償還社債の買取償却 

◆商業銀行とのファシリティ・ラインの新規設定及び既存 ラインの期限延長 

◆25億ポンド(約380億円)の新規エクイティ調達により バランス・シートの健全性を維持 

 

合併におけるメリット  財務体質の改善 

交換比率はBrixton1株に対してSEGRO1.75 株となっています。交換比率をベースに計 算したBrixton株価は40.3ペンスとなり、こ れは合併発表直前の株価(6 月19 日、63 ペ ンス)に対して約30%のディスカウントと なります。株価推移をご覧頂けると、合併 比率の発表と同時に Brixton 株が急落して いる点がお分かり頂けると思いますが、合 併比率に対する憶測や期待が株価押上げ要 因になっていたことが推察されます。8 月 25日に合併が完了しておりますが、合併が 発表された時点からの株価(6月22日及び9 月3 日の株価比較)は、実に50 %程度も上 昇しており市場が本件に対して非常に好感 していることがうかがえます。

この一連の流れを追っていくと、SEGRO の経営陣が財務的に窮地に立たされていた 09 年年初から、3 月にエクイティの調達を 成功させ、そして5月には既にBrixtonとの 合併に乗り出しているというスピード感と 大胆な経営判断に本当に圧倒されます。企 業の売買が頻繁に行われる市場ということ もあるとは思いますが、資本の増強と企業 合併がこれほど短期間の間に行われるとい う事例も珍しいかと思います。8 月25 日の 合併完了時には、さぞかしの祝賀会が催さ れたのではないでしょうか。関係者の方々 には暑い夏だったことと思います。常に変

成長戦略を執行していこうという SEGRO の姿に私もエールを送ります。

劇団俳優座、佐川急便(セールス・ドライバー)を経て、1996 年にヘルシンキ大学卒業。同年、ブリガム・ヤング大学法科 大学・経営大学院に入学、2000年にJD/MBA過程終了。

メリルリンチ・インベストメント・マネジャーズ(現ブラックロッ ク)にて不動産・銀行セクター担当アナリストを経験した後、

2001年よりUBS証券会社(東京・ロンドン)投資銀行本部 にて不動産投資銀行業務に従事。国内外の不動産業界に おける資金調達、REIT組成・上場における引受業務、主に クロスボーダー案件におけるM&A業務に携わる。2008年 10月よりクレディ・スイス証券会社投資銀行本部に移籍。

こばやし・やんね・たかみつ 現状維持ではなく、常に変化に対応

ドキュメント内 ARES41号 法人税法研究 租税法講義資料2009 (ページ 114-120)