まり分野によって、不動産は地場的な要素 が大きいために、地域によっても大きな格 差があるのである。
現に今回のサブプライムローン問題で住 宅が2005年9月をピークにして下がり始め ても、商業/投資不動産は2007年12月まで 大丈夫だったセクターもあれば、金融収縮 や昨年9月のリーマンショックまで持ちこ たえていた分野もあったほど一律ではない。
日本では、不動産といえば住宅物件であ れ商業/投資物件であろうが市場はほぼ一 律に上がり下がりして、それも首都圏を中 心として起こるものだ。昨年夏以降のよう に金融機関からの不動産への資金が途絶え れば、黒字でも倒産という欧米では考えら れない市場である。加えて、投資側も専門 的に1つの分野に集中した投資ではなく、
オフィスビルから、リテール、アパートや ウェアハウスなど、ありとあらゆる分野へ その投資先を分散している。
アメリカの住宅市場は峠を越えマーケッ トが回復の傾向にあり、経済の全体的な復 調には時間が掛かるものの、リセッション は終わりに近づいているという観測がある 中で、商業/投資不動産市場は今後も悪化 の傾向にあり、FRBからの支援も限定的な ものでしかないというエコノミストの意見 もある。
ニューヨークのリサーチ会社、リアルキ ャピタルアナリティクス(Real Capital Analytics)によると、今年の8月までで約 830億ドル(約7兆7,190億円。1ドル=93円 で換算、以下同様)ものオフィスビル、リ テール、インダストリアル、アパート(マ
ルチファミリー)物件がローンの延滞通知
(Notice of Default: 通常3ヶ月)、フォーク ロージャー(Foreclosure: 抵当権回収)、
あるいは倒産(Bankruptcy)の憂き目に あっている。
延滞率(Default Rate)も今年の第1四半 期には1.62%から2.25%に上昇しており、年 末にはこれが4.1%まで上がるとも予想され ている。
このマーケットも住宅市場と同様にロー ンが借りやすい状況下にあったため、2004 年から2007年の商業/投資不動産ブーム時 に、デベロッパーはショッピングモールや オフィスビルを作り過ぎていた。「2007年 ピーク時を過ぎると、空室率は増加し物件 価格は低下し始め、価格はピーク時の2007 年と比較して全米平均で40%は落ち込んで いる」とドイツ銀行などは試算している。
全米で最も価格の上昇が大きかったニュ ーヨークのマンハッタンでは、その下落幅 は50%を超えるともいわれている。
また、何百もの地域に密着した地方銀行
(Regional Banks)などはブーム時にその ローンを商業物件にも広げ過ぎたために、
ここ数年で破産に追い込まれる金融機関も 多々出てくるという予想も出ている。
債権者である金融機関は、このダウンマ ーケットで全体のわずか9%のローンしか回 収していないとしている。市場価格よりも 割安で再販しなければならないために動向 を見ているようで、この危機を長引かせる だけであることは明白である。
さらに大きな問題は、2004年以降に借り
入れしたコマーシャルローンの償還が、
2010年から数年間に一斉にやって来ること である。
ニューヨークのリサーチ会社、リアル・
エステイト・エコノミクス(Real Estate Economics)によれば、金融機関が保有し ているアパートを含む商業用ローンの総額 は1.3兆ドル(約120兆9,000億円)で、それ 以外に開発/建設用ローンが5,358億ドル
(約49兆8,295億円)にも昇るという。
債務額が不動産価格を上回っていること や、貸出基準(Underwriting Standards)
が強化されたためにローンが付かない現状 では、プライムローンでさえリファイナン スが利かないために、債務不履行に追い込 まれる可能性も大きい。
上記の金額の内、2010年終わりには約 393億ドル(約3兆6,549億円)がローンの償 還を迎えることになっている。
マンハッタンでは短期のローン償還期が 来年始めから数年内に来るために、現行の 基準で65%近くの物件が危機に陥るのでは ないかともいわれている。
商業/投資不動産の価値の下落は、地方 自治体にも大きな重石となって降り掛かっ ている。ニューヨーク市を例に挙げれば、
2007年のピーク時の不動産譲渡/移転登記
(登録)税収入が21億ドル(約1,953億円)
であったのが、今年は7.67億ドル(約713.31 億円)に留まる見通しと予想している。特 に高層ビルやコンドミニアムが林立してい るニューヨークのマンハッタンでは、近年 の融資の半分近くがCMBS化されており、
その被害はアメリカの他の都市よりも大き
いことも絡んでいる。
住宅物件の価格の下落に留まらず、商 業/投資物件の大幅な価格の下落は、全米 のあらゆる地方自治体の税収にも連鎖的に 大きな打撃を与えているのである。
商業/投資不動産の分野での売買取引も 当然の事ながら減少している。その中でも 唯一明るい傾向は、売買取引の件数が増加 している事であろう。
2009年第2四半期には650件もの取引があ り、これは第1四半期の627件と比較して 3.67%の上昇である。取引総額は91億ドル
(約8,463億円)で昨年の第4四半期と比べて 6.6%の減少であり、前年同期との比較では 実に78.1%のマイナスであった。
それぞれのセクターを見ると、マルチフ ァミリーとインダストリアル市場が前期比 でプラス42.5%、プラス53.3%と取引額が増 加している。だが、オフィスビルとリテー ル市場は正反対にそれぞれ前期比マイナス 40.0%、マイナス25.2%と減少している。
融資を受けるのが難しい時点で、どのよ うな取引がされたのであろうか。アメリカ では珍しい現金取引、オールキャッシュ ARES REPORT
米国での地域別の不良債権
(フォークロージャー、倒産及び延滞通知物件数とその総額:
2009年第1四半期時点:単位=10億ドル)
Source:Real Capital Analytics, Troubled Assets Radar, August 1,2009 Region Properties Volume($Bs) West
Southeast
Southwest Midwest Mid-Atlantic Noutheast
1,502 1,498
1,087 963 341 595
$32.9
$24.5
$16.8
$14.4
$8.4
$17.2 Troubled Real Estate
Commercial real estate assets in foreclosure, bankruptcy or receiving modified loan terms,by region
(All Cash Transactions)が目立ってきた のが事実であるが、多くの取引では現在も 引き続いて融資が求められている。
今の主流を占めているファイナンシング としては、売主が支払っているローンの譲 渡抵当債務を引き受ける方法(Assumable Mortgages)と、売主が融資側の肩代わり をする方法、セラー・ファイナンシング
(Seller Financing)の2通りである。
事実、今年上半期では上記2つのファイ ナンシングが取引の50%を占めるようにな っていた。それと同時に物件の売主が融資 元であるセラー・ファイナンシングが、融 資方法で2番目に大きく成長し全体の市場 の7%を占めるに至っている。
前述の2つの融資方法は住宅市場でも以 前から広く利用されている方法である。セ ラー・ファイナンシングは、金融機関から の融資方法とほぼ同じであるが条件は若干 悪い。だが、融資が難しい段階などでは、
バイヤーとしては持ち出しが少なく物件を 買収できる利点もある。ノンリコース形式 なので、バイヤーがローンの支払をストッ プすれば通常のように抵当権は融資先であ る売主、セラーに戻るようになっている。
融資側としての金融機関は、ブーム時も 現在も大手の銀行(National Banks)のシ ェアは変わらない。地方銀行(Regional B a n k s ) や コ ミ ュ ニ テ ィ ー バ ン ク
(Community Banks)等が2007年には6%
のシェアだったものが、この上半期には 1 2 % へ と 伸 ば し て い る 。 保 険 会 社
(Insurance Companies)や他の金融機関
(Finance Companies)なども昨年は活動 インダストリアル市場の販売総額推移
(2008年第4四半期〜2009年第2四半期)
Industrial Market Sales Volume
$4
$3
$2
$1
$0
2008.Q4 2009.Q1 2009.Q2
Billion
オフィスビル市場の販売総額推移
(2008年第4四半期〜2009年第2四半期)
Office Market Sales Volume S10
S8 S6 S4 S2 S0
2008.Q4 2009.Q1 2009.Q2
Billion
リテール市場の販売総額推移
(2008年第4四半期〜2009年第2四半期)
Retail Market Sales Volume
$4
$3
$2
$1
$0
2008.Q4 2009.Q1 2009.Q2
Billion
マルチファミリー市場の販売総額推移
(2008年第4四半期〜2009年第2四半期)
Multi-Family Market Sales Volume S5
S4 S3 S2 S1 S0
2008.Q4 2009.Q1
Billion
2009.Q2
が目立ったが、今年に入りスローダウンし て い る 。 政 府 系 金 融 機 関 ( G S E s : Government Sponsored Enterprises)であ るファニーメイ(Fannie Mae: 米連邦住宅 抵当公社)やフレディマック(Freddie Mac: 連邦住宅貸付抵当公社)も融資して いるが、その範囲はあくまでもマルチファ ミリー市場に限られている。
この状況を救済するために、FRB(連邦 準備制度理事会:Federal Reserve Board)
と財務省は、サブプライムローンの影響を 避けるために、通称「ターフ」と呼ばれて いる期限付資産担保証券貸出制度(TALF:
Term Asset-Backed Securities Loan Facility)を設立し、2,000億ドル(約18兆 6,000億円)を上限として商業用不動産ロー ン 担 保 証 券 ( CMBS: Commercial Mortgage Backed Securities)や消費者用 ローン(Consumer Loans)の買い取り支 援を継続してきた。
しかし、現時点でわずか296億ドル(約2 兆7,520億円)しか利用されていないのが実 情で、このプログラムは年末に終了するこ とになっていたが、市場の回復がままなら ないために最大限で来年6月まで持ち越さ れることとなった。
加えて、CMBS市場は本年6月、7月にそ れぞれ6,385億ドル、2,500億ドルが発行さ れている。全体の商業/投資不動産がリフ ァイナンスを必要としている総額と比較す るとわずかな額ではあるが、今までの金融 状況からすればまずは始めの一歩として見 るべきであろう。
来年以降でローン償還が満期になる物件
のリファイナンスの行方が今後のこのマー ケットの復調の流れを決めるであろう。ア メリカでは不動産は周期的(Cyclical)な ものなので、この数年がバイヤーにとって はまたとない絶好の買いのチャンスになる ことであろう。ある意味ではその繰り返し がこの市場を今迄成長させて来ている。
日本の不動産の周期は一体いつ訪れるの だろうか。
ARES REPORT