社団 法人 不 動産 証券 化協 会
不動産証券化を共に推進する情報誌
エイリス
41
2009・September-Octo ber
サンチアゴ・デ・コンポステ ラはレコンキスタ(失地回復運 動)の聖地であり、かつてはそ の前線基地だったことを忘れて はならない。十二使徒のひとり である聖ヤコブは、その激しい 性格から「雷の申し子」といわ れていた。その聖ヤコブ(サン チアゴ)の墓所(コンポステラ) が地名になった。そして、この 聖地のシンボルがホタテ貝であ るのは、異教徒との戦いのため に海を泳いで渡ってきたピメン
テルの領主の身体がホタテ貝でおおわれていたからだとされている。そしてまたこ の都市の守護聖人はレコンキスタの英雄的戦士であり「サンチアゴ・マタモロス」
(モーロ人殺しの聖ヤコブ)といわれている。つまりイスラム教に席捲されたイベ リア半島に対するキリスト教徒の失地回復という悲願を抜きにしてこの地は語れな い。特に十一世紀以降、トルコ帝国が巨大になり、聖地パレスチナ(約束の地)へ の巡礼が不可能になると、それに代わる聖地としてサンチアゴ・デ・コンポステラ が巡礼の地になったのである。そして今なおピレネー山脈を越えてフランスからの 巡礼者が多いのは十字軍の聖地奪還の夢のつづきということだろう。このような悲 願の歴史を踏まえてみると、大聖堂の入り口が「栄光の門」と名づけられているこ との意味がわかる。三つのマーチから構成されており、そこにはヨハネ黙示録を題 材にした二〇〇体もの彫刻が飾られている。作者は十二世紀の天才マテオ。遠方か らの巡礼者を迎えるにふさわしい豪華な入り口だ。その中央の柱の上部に聖ヤコブ の像があり、巡礼者を迎えてくれる。たどりついた巡礼者は必ず聖ヤコブ像の支柱 に手を置いて祈りを捧げる。その思いのつよさが手につたわるためか、石さえもが 手の形にすり減っている。大聖堂の中央祭壇前では、その長旅をしてきた巡礼者を 癒いやし、清めるために巨大な香炉(ポタフメイロ)で香を焚く。僧たちが香炉を左右 に大きく振って巡礼者を祝福する。
(井尻 千男:拓殖大学客員教授)
サンチアゴ・デ・ コンポステラの大聖堂 内部、香を焚たく瞬間
提供●井尻 千男
ARESマスターのための
不動産証券化ジャーナル
ARES Certified Master Journal
Vol.21ARESマスターのための
不動産証券化ジャーナル
ARES Certified Master Journal
東京スカイツリーをご存じですか?東京タワーに代わって、2012年から関東地 方の電波塔の役割をするタワーで、完成時には610mにもなります。2005年に 建設地が墨田区押上、業平橋地区に決まったという報道からはどうなっているのか 知らないという方が多いと思いますが、9月11日現在、なんと143mの高さまで 建設が進んでいます。もう少しで我が家のベランダからも建設中のタワーの鉄骨が 見える高さになります。タワーの伸長とともに街の成長も楽しみですね。 (松崎)
会報「ARES」第41号 平成21年9月30日発行 編集発行 社団法人不動産証券化協会
〒107-0052
東京都港区赤坂 1-9-20 第16興和ビル北館1階 TEL:03-3505-8001
FAX:03-3505-8007 URL:http://www.ares.or.jp
編集 後記
社団法人不動産証券化協会は、本年11月19日に「ARES-PREA年金フォーラム2009」 を開催いたします。
平成17年より、年金による不動産投資の進展に資することを目的に開催している「ARES 年金フォーラム」は、本年で5回目になります。今回は初めての取り組みとして、米国年金 不動産投資協会(PREA)と共同で開催することになりました。
今回は再構築の過程にある不動産投資市場、特に、日本を含むアジアに焦点を当て、その 方向性と潜在力について確認し、年金にとっての投資の意義やメリット等について議論い たします。PREAとの共催により、海外からも従来以上に多くのスピーカーにご参加いた だけることになりました。米国を始めとするグローバルな市場動向を踏まえて、よりタイ ムリーな情報提供および議論の展開をご期待いただけるものと思います。
主 催: 後 援: 日 時: 会 場: 参 加 費: 申込期限:
社団法人不動産証券化協会(ARES)、米国年金不動産投資協会(PREA) 企業年金連合会
2009年11月19日(木)10:00∼17:30 THE GRAND HALL(品川)
ARES正会員:18,000円、ARES賛助会員:36,000円 2009年11月5日(木)(予定)
なお、申し込み状況によっては、当初の予定より早めに申込受付を締め切る場合もございますので、予め ご了承願います。
(※)米国年金不動産投資協会(PREA:Pension Real Estate Association)とは
非課税の年金基金・寄付基金により設立された不動産投資のための非営利団体。年金の不動産投資に関する対話および 会員向けの情報交換の場として機能するほか、リサーチ、教育活動を行っている。
詳しい内容・参加申込等については下記のフォーラム・ホームページをご覧ください。
(http://www.ares.or.jp/ares-prea2009.html)
なお、参加申込に際しては、別途会員窓口あてに送付させていただいているID及びパスワードが必要です。
SPECIAL
●J-REIT View
∼リーマン・ショックによるJ-REIT市場環境の激変と今後の展望∼……… 3 澤田 考士(社団法人不動産証券化協会 調査部 上席研究員)
●不動産市場安定化ファンド創設の経緯と期待される役割 ………17 巻島 一郎(不動産市場安定化ファンドの設立・運営に関する検討委員会委員、社団法人不動産証券化協会 専務理事)
●Jリートの合併 制度と税のポイント ………22
上場投資法人の合併について………22 田中 俊平氏(長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
投資法人の合併に係る税務上の取扱い∼平成21年度税制改正を中心として ………29 桑原 幸江氏(新日本アーンスト アンド ヤング税理士法人 パートナー)
山本 恭司氏(新日本アーンスト アンド ヤング税理士法人 ディレクター)
NEWS
●「平成22年度制度改善要望」の経過報告 ………40
REPORT
●不動産ファンドに関する国際財務報告基準
第3回 連結およびSPCに対するIFRSの規定………42 清水 毅氏(あらた監査法人 代表社員 公認会計士)
●不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び
成果報告書の記載事項に関するガイドライン(価格等調査ガイドライン)について………46
●2009年上半期の米国の商業/投資不動産市場の近況 ………52 三澤 剛史氏(全米リアルター協会 日本担当、前アジア太平洋地区総括責任者)
●「コア・インデックス」について………57 コア・レーティング株式会社、株式会社中央不動産鑑定所
INFORMATION………62
表紙文 井尻 千男●いじり・かずお
拓殖大学客員教授/日本文化研究所所長/元日本経済新聞編集局文化部編集委員
1938年山梨県生まれ。立教大学卒業後、日本経済新聞社入社。編集委員として文化論を中心に広く社会評論を手 がける。97年 4 月より拓殖大学教授。『消費文化の幻想』『劇的なる精神 福田恆存』『言葉を玩んで国を喪う』
『自画像としての都市』『保守を忘れた自民政治』など著書多数。
1. 初の価格下落局面に入り成熟途上 にあったJ-REIT市場を襲ったリーマ ン・ショック
( 1 ) オ ー バ ー パ フ ォ ー ム か ら 転 じ て 、 2007年6月以降、調整過程に入ったJ- REIT市場
2001年9月にスタートしたJ-REIT市場は、 2007年5月をピークに価格下落局面に転じ た。図表1に示すとおり、J-REIT価格がピ ークを迎える以前の2006年後半において、 不動産株式指数や東証REIT指数は東証市場 第一部に上場している全ての日本企業(内 国普通株式全銘柄)を対象とした株式指数 であるTOPIXや新興株式市場である東証マ ザーズに上場している全ての銘柄が対象と する東証マザーズ指数を大幅にオーバーパ フォームしていた。当時、日本の不動産市 場のファンダメンタルズの改善を示す指標
が数多く示されており、それが一因となっ てJ-REIT価格が上昇したとしても不思議で はない状況にあった。だが、図表1に示す とおり、東証REIT指数は、公表が開始され た2003年3月末から3年以上なだらかな上昇 を続け、2006年後半以降は一層顕著に上昇 した。当時のJ-REIT価格の上昇がファンダ メンタルズの改善のみで説明できるか否か は意見が分かれるかもしれない。だが、長
J-REIT View
∼リーマン・ショックによる
J-REIT市場環境の激変と今後の展望∼
図表1 日本の株価指数とJ-REIT価格指数の推移(配当込みベース)
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
2003年3月 5月 7月 9月 11月
2004年1月 3月 5月 7月 9月 11月
2005年1月 3月 5月 7月 9月 11月
2006年1月 3月 5月 7月 9月 11月
2007年1月 3月 5月 7月 9月 11月
2008年1月 3月 5月 7月 9月 11月
2009年1月 3月 5月 7月
TOPIX(配当込み) TOPIX配当込み不動産業株価指数 東証REIT指数(配当込み)
Bloomberg提供データよりARES作成
東証マザーズ指数(配当込み)
社団法人不動産証券化協会 調査部 上席研究員
澤田 考士
ARES SPECIAL
く継続した大幅な価格上昇は永続するわけ ではなく、やがて終焉するはずである。実 際には、米国のサブプライムローン問題の 顕在化によって、外国人投資家のJ-REITへ の投資態度が、図表2に示すように大幅な買 い越しから大幅な売り越しに急に転じたこ とをきっかけとして、J-REIT価格は下落局 面に転じた。だが、もし仮にこのような問 題がなかったとしても、J-REIT価格はいず れ下落局面に転じていた可能性が高い。
J-REITの価格下落局面においては、投資 パフォーマンスは悪化し、投資家は損失を 被る。また、J-REITにとっては、資金調達 コストが上昇し、資産取得が行いにくい状 況となる。よって、J-REIT価格の下落は、 投資家、J-REIT運営者の双方にとって歓迎 されないことが多い。しかし一方で、市場 の調整機能を通じ、価格が適正な水準へと 調整される過程で価格が下落するのであれ ば、そのようなJ-REITの価格下落には歓迎 すべき面もある。結果として適正な価格形 成が実現すれば、効率的な資源配分が実現 するなど、社会的なメリットが大きいから
である。そしてJ-REIT価格の動向を振り返 ると、少なくとも2008年9月のリーマン・シ ョック以前におけるJ-REIT価格の下落は、 適正水準への調整の過程で生じた側面があ ったように思われる。
(2)成熟過程にあったJ-REIT市場を襲っ たリーマン・ショック
2007年半ば以降のREIT価格の下落は、図 表3に示すとおり、日本のみならず世界的 に共通の傾向であった。この時期には、金 融環境の変化をきっかけとして、REIT市場 は世界的な調整過程に入ったといえる。こ れは、J-REITが経験したはじめての本格的 な価格調整であった。一方、市場の歴史が 長い米国REITは、過去にいくつもの価格調 整を経験してきた。そのため、米国REITは 過去のデータの蓄積が十分にあり、REIT価 格がどの程度まで下がると割安であるか、 それぞれの投資家が判断を下しやすい環境 にあった。リーマン・ショック以前の米国 REITの価格変動を見ると、ある程度下落す ると比較的早い時期に反発しながら推移し
図表2 J-REIT投資部門別売買状況(東京証券取引所)
-100,000,000 -50,000,000 0 50,000,000 100,000,000 150,000,000(千円)
2003年04月 06月 08月 10月 12月 2004年02月 04月 06月 08月 10月 12月 2005年02月 04月 06月 08月 10月 12月 2006年02月 04月 06月 08月 10月 12月 2007年02月 04月 06月 08月 10月 12月 2008年02月 04月 06月 08月 10月 12月 2009年02月 04月 06月 生保・損保
東京証券取引所提供データよりARES作成(一部の投資部門に関するデータを抜粋) 銀行 投資信託 事業法人 国内個人 外国法人・個人
図表3 日本、米国、欧州のREIT価格(配当無しインデックス)推移
(2007年6月末=100と基準化) 2007年6月∼2008年12月
20 30 40 50 60 70 80 90 100 110
2007年06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月 2008年01月 02月 03月 04月 05月 06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月
日本REIT
東証REIT指数(配当無し) 米国REIT FTSE/NAREIT. index 欧州REIT Euronext IFIF REIT Price Index
ている。これは、米国において、投資家が 過去の経験を踏まえながら適正価格を冷静 に判断し、割安と判断した段階で買い入れ るような市場環境が整っていたからであろ うと推察される。
一方、J-REITは価格下落局面に転じて以 降、リーマン・ショックまでの間、あまり 反発せず下落し続けた。もちろん、下落局 面に入る前の2006年後半にJ-REIT価格は大 きく上昇した反動から、大きな調整が必要 とされ、なかなか価格が反発しなかった面 もあろう。だが、J-REITには、①保有資産 の大半が実態のはっきりした不動産である、
②開発事業などのリスク・期待リターンの 高い事業が行われることはない、③概して 負債比率が低い、といった特性があり、将 来キャッシュフローの不確実性はそれほど 高くはない。また当時は、日本の不動産市 場のファンダメンタルズは依然として堅調 に推移していた。したがって比較的早期に 割安と判断する投資家が現れ、価格が大き く反発する局面があってもよさそうであっ たようにも思える。しかし実際には、J- REITへの買い圧力がなかなか高まらない状 況にあった。
J-REIT価格の下落が続く中、価格の下げ 止まりに対する期待感が高まっていたのは 確かであろう。しかしながらJ-REIT市場の 歴史はまだ長くはなく、価格局面を迎える こと自体初めてのことであった。そのため 過去の情報の蓄積がなく、どの程度の下落 が妥当なのか、その判断が難しく、多くの
投資家が様子見の状況であったものと推察 される。このような状況下においては、J- REIT価格の調整が円滑に機能せず、J-REIT 価格が一時的に下がりすぎる可能性はある。 しかし、少なくともリーマン・ショック以 前においては、ある程度価格が下落した時 点で、J-REIT価格はやがて価格上昇局面に 転じてゆくことが多くの市場関係者に期待 されていたように思われる。
2007年6月以降初めて本格的な価格調整局 面を迎えたJ-REITは、まさに、様々な経済 環境を経験しながら、投資家の間に相場観 が形成されてゆく過程にあった。そのよう な状況下、2008年9月のリーマン・ショック は、世界的な金融市場を大きく混乱させ、J- REIT市場に多大な影響を与えた。これは、 まさに想定外の事態であり、その結果、成 熟途上にあったJ-REITを巡る環境は激変す ることになったのである。
2. リーマン・ショックがJ-REIT市場 に与えたインパクト
(1)下落傾向にあったJ-REIT価格の更な る急落と初のJ-REIT破綻
2008年9月15日の米国証券大手のリーマ ン・ブラザーズの破綻によって、金融市場 は、100年に1度の危機ともいわれる世界的 な大混乱に陥った。J-REIT市場もこの大混 乱の影響を強く受け、2008年10月上旬には、 既に下落傾向に転じていた東証REIT指数
(配当無し)が一層急激に下落して、2008年
ARES SPECIAL
10月6日に公表以来、初めて終値ベースで 1000ポイントを下回ることとなった。更に、 2008年10月9日にニューシティ・レジデンス 投資法人がJ-REITとして初めて民事再生法 の適用を申請したことで、市場に激震が走 り、破綻翌日の10月10日には、東証REIT指 数の日次収益率は過去最悪の約−12%にも 達した。J-REITは保有資産の大半を不動産 が占め、かつ保守的な財務戦略を採る安定 的な商品であり、J-REITの破綻自体全く想 定されていなかった。そのため、ニューシ ティ・レジデンス投資法人の破綻は、市場 に大きな衝撃を与えたのであった。
この時期には、J-REIT価格は、図表4に 示すとおり、日本の株価、米国の株価推移 と大きく連動して推移した。J-REIT価格が、 このように株価と高い連動性を示しながら 下落したことは、J-REIT価格の下落が、金 融市場の世界的な混乱の影響を受けた現象 であり、J-REITの保有資産等のファンダメ ンタルズ悪化による現象ではない可能性を 示唆しているといえよう。
(2)J-REIT銘柄間のリターン特性の差異 拡大
リーマン・ショックは、また、J-REIT各 銘柄のリターン特性に格差を生じさせた。 図表5、図表6、図表7はそれぞれ、2008 年8月、9月、10月におけるJ-REIT各銘柄の
図表4 リーマンブラザーズ破綻前後の米国株価と東証REIT指数の推移
600 700 800 900 1000 1100 1200 1300
2008年9月2日 2008年9月4日 2008年9月6日 2008年9月8日 2008年9月10日 2008年9月12日 2008年9月14日 2008年9月16日 2008年9月18日 2008年9月20日 2008年9月22日 2008年9月24日 2008年9月26日 2008年9月28日 2008年9月30日 2008年10月2日 2008年10月4日 2008年10月6日 2008年10月8日 2008年10月10日 2008年10月12日 2008年10月14日 2008年10月16日 2008年10月18日 2008年10月20日 2008年10月22日 2008年10月24日 2008年10月26日 2008年10月28日 2008年10月30日 2008年11月1日 2008年11月3日 2008年11月5日
6000 7000 8000 9000 10000 11000 12000 13000
東証REIT指数
東京証券取引所提供データよりARES作成(一部の投資部門に関するデータを抜粋)
(左縦軸は、TOPIX及び東証REIT指数の水準を、右縦軸はNYダウの水準をそれぞれ示す。)
TOPIX NYダウ
図表5 2008年8月J-REIT各銘柄のリターン・リスク
(ニューシティ・レジデンス投資法人含む) 縦軸:2008年8月における日次キャピタルリターンの平均値 横軸:2008年8月における日次キャピタルリターンの標準偏差
-8.0% -7.0% -6.0% -5.0% -4.0% -3.0% -2.0% -1.0% 0.0% 1.0% 2.0%
0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0%
図表6 2008年9月J-REIT各銘柄のリターン・リスク
(ニューシティ・レジデンス投資法人含む) 縦軸:2008年9月における日次キャピタルリターンの平均値 横軸:2008年9月における日次キャピタル収益率の標準偏差
-8.0% -7.0% -6.0% -5.0% -4.0% -3.0% -2.0% -1.0% 0.0% 1.0% 2.0%
0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0%
図表7 2008年10月J-REIT各銘柄のリターン・リスク
(ニューシティ・レジデンス投資法人含む) 縦軸:2008年10月における日次キャピタルリターンの平均値 横軸:2008年10月における日次キャピタルリターンの標準偏差
-8.0% -7.0% -6.0% -5.0% -4.0% -3.0% -2.0% -1.0% 0.0% 1.0% 2.0%
0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0%
日次リターンの月間平均値と標準偏差(リ スク)の水準のプロットを示している。 2008年8月と9月を比較すると、9月の方がリ ターンの平均値及び標準偏差が若干高いよ うに見える。しかし、2008年8月から9月に かけて生じたこの差異は、J-REIT銘柄の格 付け引き下げや不動産流動化事業で業績を 伸ばしてきたアーバンコーポレーション等 の大規模破綻、などのネガティブなニュー スや、J-REIT運用会社あるいはそのスポン サーへの新たな資本参加参画、などのポジ ティブなニュースのJ-REIT双方に反応した 価格調整の結果であり、市場に大きな構造 変化が生じた差異であるとはいえない。こ れに対し、2008年10月においては、各銘柄 のリスク・リターンは、それ以前の2008年 8月、9月と比べ大きく異なる状況となった。 2008年10月には、J-REIT価格が、国内外の 株式と強く連動して大きく下落した事情を 反映し、それ以前の期間と比較して、全銘 柄に渡ってリターンが低下し、ボラティリ ティ上昇する傾向が見られた。このような 傾向に加え、リターンの低下の度合いに、 それ以前と比較して銘柄間に大きな差異が 見られた点が、2008年10月に観察された極 めて顕著な特徴であったといえる。このよ うなJ-REIT銘柄間のリスク・リターン特性 の差異を大きく拡大させたこともまたリー マン・ショックがJ-REIT市場に与えた大き な影響だったわけである。
3. リターン特性の差と信用リスク
(1)上場J-REIT銘柄数とリターン差異の 推移
既に述べたとおり、リーマン・ショック の影響で、2008年10月におけるJ-REIT銘柄 間のリターン差異は極めて大きなものとな った。だが、銘柄間のリターンの差異は、 それ以前の期間においても概ね上昇傾向に あった。図表8は、J-REITの月次キャピタ ルリターンの銘柄間最大値、銘柄間最小値、 および銘柄間最大値と銘柄間最小値の差の 推移を、上場J-REIT銘柄数の推移と合わせ て示している。J-REITの上場銘柄は市場創 設以来、時期によってペースに差はあるも のの、2007年11月まで増加してきた。特に、 2005年度には銘柄数が16から32へと倍増す るなど、上場ラッシュの様相を呈していた。 従来は銘柄の増加とともにJ-REITの多様化 が進展し、その結果、リターンの格差が若 干ながらも拡大傾向にあったことがわかる。
図表8 上場J-REITの銘柄数と銘柄間月次キャピタルリターン格差
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
2001年10月 2002年1月 2002年4月 2002年7月 2002年10月 2003年1月 2003年4月 2003年7月 2003年10月 2004年1月 2004年4月 2004年7月 2004年10月 2005年1月 2005年4月 2005年7月 2005年10月 2006年1月 2006年4月 2006年7月 2006年10月 2007年1月 2007年4月 2007年7月 2007年10月 2008年1月 2008年4月 2008年7月 2008年10月 2009年1月 2009年4月 -1.50
-1.00 -0.50 0.00 0.50 1.00 1.50
上場J-REIT銘柄数 キャピタルリターンの銘柄間最大値−銘柄間最小値 月次キャピタルリターンの銘柄間最大値
Bloomberg提供データ及びその他公表データよりARES作成
月次キャピタルリターンの銘柄間最小値
ARES SPECIAL
だがその後、図表9に示すとおりJ-REITの 新規上場の計画が相次いで中止・延期とな り、破綻したニューシティ・レジデンス投 資法人が上場廃止となったことから、上場 J-REITの銘柄数は伸び悩んだ。しかし、そ のような状況にあってもJ-REIT銘柄間のリ ターン格差は拡大を続け、リーマン・ショ ックによってその格差は一層拡大したので ある。
この時期には、上場J-REITの銘柄数が伸 び悩んでいるとはいえ、既に40銘柄以上の 上場J-REITが存在していた。よって、当然 ながら、J-REIT各銘柄間に運用方針・運用 ノウハウの違いが見られたはずである、そ のため、銘柄数が伸び悩む状況下にあって もJ-REITが様々な経済局面を経験する中、 銘柄間の差異が、リターンの差となって表 れたものと考えられる。そして、リーマ ン・ショックの影響は極めて大きかったこ とから、2008年10月には、その影響を受け、 銘柄間のリターンの差異が大きく拡大した ものと思われる。
(2)J-REIT銘柄間で二極化したパフォー マンス動向
ただし、2008年10月において日次リター ンの平均値が相対的に高かったJ-REIT銘柄 群と、日次リターンの平均値が相対的に低 かったJ-REIT銘柄群の間には、2008年10月 の一期間において、一方の銘柄群が他方の 銘柄群をリターンの点で凌駕した、という 単純な現象以上の差異が観察される。例え ば、①2008年10月の日次リターン月間平均 値の上位10銘柄からなる単純平均ポートフ ォリオ(以下、「ポートフォリオA」とい う。)、②2008年10月の日次リターン月間平 均値の下位10銘柄(2008年10月に破綻した ニューシティ・レジデンス投資法人を除く) からなる単純平均ポートフォリオ(以下、
「ポートフォリオB」という。)、の2つのポ ートフォリオを構築し、両ポートフォリオ の日次リターンの動向を見ると、両ポート フォリオの日次リターン20営業日平均値の ローリングデータは、図表10のとおり推移 しており、両者動向には大きな差が認めら れる。2008年10月の日次リターン月間平均 値の高い10銘柄からポートフォリオA、 2008年10月の日次リターン月間平均値の低
図表9 J-REITの新規上場の取りやめ・延期の事例
Bloomberg提供データよりARES作成
年月日 事例
2007年12月 3日 米保険大手AIG系のジェイリート投資法人、東京証券取引所への上場取りやめを発表。 2007年12月11日 エイブル系のエイブルリート投資法人、東京証券取引所への上場取りやめを発表。
2007年12月26日 長谷工コーポレーションが、明豊エンタープライズなどと東京証券取引所への上場準備を進めていたエコロジー・リート投資法人の解散を発表。 2008年 1月25日 トーセイが、トーセイ・リート投資法人の解散を発表。
2008年 2月 5日 日本レップが上場準備を進めていたジェイ・レップ・ロジスティクス投資法人の解散を発表。 2008年 6月10日 大和ハウス工業が大和ハウスリート投資法人の新投資口の発行と投資口の売り出し中止を発表。
い10銘柄からポートフォリオBを構築した わけであるから、リーマン・ショック直後 の時期でポートフォリオAがポートフォリ オBを日次リターンの20営業日平均値の点 で大幅に上回っているのは当然の現象であ る。だが、その後の期間で、両者の関係が 逆転し、ポートフォリオBの日次リターン 平均値がポートフォリオAの日次リターン 平均値を上回る時期がつづいた。ポートフ ォリオAの日次リターン平均値の推移は比 較的安定的に推移する一方、ポートフォリ オBの日次リターン平均値の推移は大きく 変動したことから、両ポートフォリオの日 次リターン平均値の関係は、時期によって 大きく変化したのである。また、図表11は、 ポートフォリオAのリターンとTOPIXのリ ターンの相関係数、ポートフォリオBのリ ターンとTOPIXのリターンの相関係数を示 している。J-REITとTOPIXとの相関の高ま りについてはしばしば指摘されてきたが、 ポートフォリオBについていえば、TOPIX との相関が相対的に低かったことを確認で
きる。
このように、リーマン・ショック以降、 異なるリスク・リターン特性を示す2つの 銘柄群が出現したのである。
4. リーマン・ショック後のJ-REIT価 格低迷の背景
∼リファイナンスリスクの顕在化と再 編への障壁∼
(1)リファイナンスの顕在化と価格の低迷 J-REIT価格の水準は、リーマン・ショッ クによってJ-REITの純資産と比較して著し く低い水準にまで急落した後、すぐには回 復せず、1口当たり純資産時価を大幅に下回 る水準で推移した。この時期には、不動産 賃貸市場の大幅な落ち込みは見られず、J- REITのキャッシュフローに大きな毀損は認 められない状況にあった。リーマン・ショ ックとそれ以降の時期におけるJ-REIT価格 の低迷は、信用収縮下でJ-REITが厳しい資 金調達環境に直面する中、J-REITのリファ
図表11 TOPIXリターンとの相関係数
(ポートフォリオA、ポートフォリオB、20営業日ベース)
-0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
2007年11月 12月 2008年1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 2009年1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月
相関係数20営業日ベース(ポートフォリオA vs. TOPIX) 相関係数20営業日ベース(ポートフォリオB vs. TOPIX) Bloomberg提供データよりARES作成
図表10 2008年10月の日次リターン月間平均値上位10銘柄の 単純平均ポートフォリオリターン平均値と下位10銘柄の 単純平均ポートフォリオリターン平均値(20営業日ベース)
(ただし、破綻した、ニューシティ・レジデンス投資法人を除く)
-0.07 -0.06 -0.05 -0.04 -0.03 -0.02 -0.01 0.00 0.01 0.02 0.03 0.04
2007年10月 11月 12月 2008年1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 2009年1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月
ポートフォリオA(2008年10月の日次リターン月間平均値上位10銘柄の単純平均ポートフォリオ) ポートフォリオB(2008年10月の日次リターン月間平均値下位10銘柄単純平均ポートフォリオ) Bloomberg提供データよりARES作成
ARES SPECIAL
イナンスリスクに対する懸念が高まったこ とによる部分が大きいように思われる。例 えば2008年9月末の格付けと2008年10月のJ- REIT価格の上昇率についてみると、図表 12、図表13が示すとおり、2008年9月末の格 付けが低いほど2008年10月におけるJ-REIT 価格上昇率が低く(価格下落率が高く)な る明瞭な関係が見られる。また、破綻した ニューシティ・レジデンス投資法人の投資 口価格は、図表14に示すとおり、上場廃止 までの間に大幅に下落した。このように、J- REITのデフォルトリスクが顕在化する中、 他のJ-REIT銘柄についても、破綻の可能性 が折り込まれ、価格がディスカウントされ
た面もあろう。
さらに、このようなJ-REIT価格の大幅な ディスカウントの結果、J-REITは更に厳し い資金調達環境に直面し、その結果一層の デフォルトリスクへの懸念が高まる、とい った負のスパイラルに陥った面もあった。 図表15は、J-REIT上場後増資額の推移およ び第三者割当増資額が占める割合を示して いるが、2008年後半以降、資金調達額は大 きく低下するとともに、第三者割当増資に 頼らざるを得ない状況であったことを示し ている。
図表12 2008年9月末格付(R&I)と2008年10月の J-REIT価格上昇率(格付ノッチ別の平均値)
-60.0% -50.0% -40.0% -30.0% -20.0% -10.0%
0.0% AA AA- A+ A A- 格付未取得
公表データよりARES作成
R&I格付
(2008年9月)
図表14 ニューシティ・レジデンス投資法人 投資口価格の推移
0
(円)
100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 700,000 800,000
2004年12月 2005年2月 2005年4月 2005年6月 2005年8月 2005年10月 2005年12月 2006年2月 2006年4月 2006年6月 2006年8月 2006年10月 2006年12月 2007年2月 2007年4月 2007年6月 2007年8月 2007年10月 2007年12月 2008年2月 2008年4月 2008年6月 2008年8月 2008年10月
上場廃止時点 14,200円 2008年11月7日
最低価格 6,300円 2008年10月16日
民事再生申立時 71,000円 2008年10月9日 最高価格 737,000円 2007年5月24日
上場日終値 561,000円 2004年12月15日
Bloomberg提供データよりARES作成
図表13 2008年9月末格付(ムーディーズ)と 2008年10月価格上昇率(格付ノッチ別の平均値)
-60.0% -50.0% -40.0% -30.0% -20.0% -10.0% 0.0% 10.0%
Aa3 A1 A2 A3 格付未取得
公表データよりARES作成
ムーディーズ格付
(2008年9月末)
図表15 J-REIT上場後増資額の推移と第三者割当増資額が占める割合
0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000
∼2001年12 月31
日
2002年01 月01
日∼06 月30
日
2002年07 月01
日∼12 月31
日
2003年01 月01
日∼06 月30
日
2003年07 月01
日∼12 月31
日
2004年01 月01
日∼06 月30
日
2004年07 月01
日∼12 月31
日
2005年01 月01
日∼06 月30
日
2005年07 月01
日∼12 月31
日
2006年01 月01
日∼06 月30
日
2006年07 月01
日∼12 月31
日
2007年01 月01
日∼06 月30
日
2007年07 月01
日∼12 月31
日
2008年01 月01
日∼06 月30
日
2008年07 月01
日∼12 月31
日
2009年01 月01
日∼06 月30
日 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0% 100.0%
上場後増資額合計(百万円) 公表データよりARES作成
(百万円)
第三者割当増資額が占める割合
(2)市場再編への期待の高まりと実務上の 障壁
リーマン・ショック以降のJ-REIT価格の ように、上場エクイティ商品の価格が、純 資産価値を下回る現象は、金融危機下にお いてはもちろん、それ以外の場合もしばし ば起こりうる。このような場合、特に一時 的なショックによって上場エクイティ商品 の価格が大幅に下落する局面においては、 短期的な価格調整が働き、価格は適正水準 に回復傾向がある。だが、株式については、 非効率な経営が改善される見込みがない場 合や、市場や制度等に短期的には解決し得 ない構造上の問題がある場合には、価格が 低迷し続ける可能性がある。このような場 合、M&Aによって企業価値を高めようとす る圧力が次第に高まる。そして、M&Aの実 現によって、株価が回復するシナリオが想 定されるのである。
リーマン・ショック後のJ-REITは、まさ に過度の信用収縮下にあり、投資口価格が 1口当たり純資産を大幅に下回る水準で長ら く推移した。そのため株式と同様、J-REIT についてもM&Aによる市場再編への期待が 高まっていった。J-REITはパッシブな不動 産投資を目的とした特殊な会社であって、 株式会社と異なり、J-REITには事業性があ まりない。よって、J-REITのM&Aを株式 のM&Aと同列に論じることができない面は 当然あろうが、J-REIT価格が下落するにつ れ、より少ない資金でJ-REITを買収し、J- REITの保有資産を手に入れることが可能と
なるのは確かである。J-REIT価格が大幅に 低迷する市場環境において、J-REITの買収 を通じた規模の拡大は、資産拡大を目指す J-REITにとって有望な戦略の一つになり得 る。M&Aによる有利な条件での資産規模の 拡大は、投資家にも歓迎されるばかりか、 市場活性化を通じた市場全体に対するポジ ティブな影響を期待されるはずである。
ところが、J-REITのM&Aについては、 法律上認められてはいるものの、制度上い くつもの実務上の課題に直面せざるを得ず、 その実現が困難な状況にあった。そのため J-REIT市場の再編は、図表16に示すような J-REITのスポンサー(J-REITの運用会社の 株主)の変更にとどまった。格付機関が発 行するJ-REITの格付けレポートの一部では、 J-REITがスポンサーから独立した存在であ ること認める一方で、「スポンサーがJ-REIT の運営に密接に関連している実態を根拠に、 スポンサーの破綻がJ-REITの運営、特に資 金調達に影響を及ぼす可能性がある」、との 見方が示されている。このような見方がJ- REITの格付けに強く反映されているとすれ ば、スポンサーが交代することによって、J- REITに対する評価が高まる可能性を期待で きる面があるのは確かである。だがスポン サーの変更は、M&Aによる本格的な市場再 編と比較すれば軽微な調整であり、市場の 本格的な再編はうまく進展しているとはい えない状況にあった。
ARES SPECIAL
5. J-REIT低迷からの脱却に向けた政 策の実現
(1) J-REIT市場低迷が不動産市場や経済 全般に及ぼす影響と政策の必要性
リーマン・ショックの影響によって混乱 する金融市場環境下、J-REITは困難な資金 調達環境に直面したことから、図表17に示 すとおり、J-REITによる不動産の取得は大 幅に減少し、実物不動産市場における不動 産価格の下落要因となった。結果として、 図表18に示すとおり、J-REITの保有不動産 の価格は下落した。
一般に、証券市場においてJ-REIT価格が 下落する過程では、投資家の要求利回りが 上昇することによって不動産の取得が抑制 され、実物不動産市場において不動産価格 に下げ圧力が生じる傾向にある。もし仮に、 不動産市場のファンダメンタルズの変化が 情報効率的な証券市場で早期に察知され、 そして、証券市場においてその変化を反映
図表18 AJPPI(ARES J-REIT Property Price Index)
(キャピタル収益率ベース)の推移
80.00 90.00 100.00 110.00 120.00 130.00 140.00
2002.1 2002.4 2002.7 2002.10 2003.1 2003.4 2003.7 2003.10 2004.1 2004.4 2004.7 2004.10 2005.1 2005.4 2005.7 2005.10 2006.1 2006.4 2006.7 2006.10 2007.1 2007.4 2007.7 2007.10 2008.1 2008.4 2008.7 2008.10
全物件/All properties Office/オフィス Residential/住宅 Commercial/商業
(社)不動産証券化協会ホームページ www.ares.or.jp 以下のグラフに示すAJPPI(キャピタル収益率ベース)は、上場J-REIT(不動産投資信託)が保有する不動産 の収益率を元に算出した価格インデックスであり、日本の不動産価格の平均的な動向を2004年5月の水準を 100として示した指標です。AJPPIの算出に用いられる不動産の収益率の算出方法は、米国で広く普及してい るNCREIF Property Indexの算出方法に準じております。米国のNCREIF Property Indexについては、 http://www.ncreif.com/ にて閲覧可能です。
図表17 上場J-REITによる物件取得額の推移(単位:百万円)
0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000 1,400,000
∼2001年12月 2002年上期 2002年下期 2003年上期 2003年下期 2004年上期 2004年下期 2005年上期 2005年下期 2006年上期 2006年下期 2007年上期 2007年下期 2008年上期 2008年下期 2009年上期 (8月31日まで) 物件取得額(取得価格ベース)
公表データよりARES作成
図表16 J-REITのスポンサー(運用会社の主要株主)の主な変更事例
時点 運用会社名称(新名称) 変更前メインスポンサー 変更後メインスポンサー 備考
2007年11月 アセット・リアルテイ・マネジャーズ
(ラサールインベストメントアドバイザーズ) アセットマネジャーズ ラサールインベストメントマネージメント 運用会社の全株式をラサールインベストメントマネージメントに譲渡
2008年3月
フロンティア・リート・マネジメント
(三井三井不動産フロンティアリートマネジメント) 日本たばこ産業 三井不動産 運用会社の全株式を三井不動産へ譲渡
2008年10月 リプラス・リート・マネジメント
(ミカサ・アセット・マネジメント) リプラス (オークツリー) アップルリンゴHD
アップルリンゴHD(オークツリー)が投資法人に対してTOB、運用 会社の株式をリプラスから35%取得、リプラス破綻後、リプラスの 運用会社の株式持分を追加取得
(アップルリンゴHD(オークツリー)の持分は90%に上昇)
2008年11月 モリモトアセットマネジメント
(大和ハウス・モリモト・アセットマネジメント) モリモト 大和ハウス工業
大和ハウス工業がメインスポンサーのモリモト及びキャピタラン ドの運用会社の保有株式を取得。(大和ハウス工業の運用会社の
株式持分を10.0%から73.5%へ上昇)
2008年12月
クリード・リート・アドバイザーズ
(ジャパン・オフィス・アドバイザーズ) クリード いちごアセットトラスト 運用会社の全株式をいちごアセットトラストへ譲渡
2009年7月
ダヴィンチ・セレクト
(大和リアル・エステート・アセット・マネジメント) ダヴィンチ・ホールディングス 大和証券グループ本社
運用会社の全株式を大和証券グループ本社に譲渡 大和證券グループは、同日付で投資法人の第三者割当増資を引き 受ける(発行新投資口数は51,893口で、発行総額は100億円)
公表データよりARES作成
され、J-REITの投資口価格が適正水準へと 調整されれば、その影響が不動産市場に伝 播し、不動産市場における適正価格が早期 に実現するメリットを期待できる。すなわ ち、市場メカニズムが円滑に機能する環境 下では、J-REIT市場の価格発見機能により、 実物不動産市場における不動産の価格調整 が円滑に進むことが期待されるのである。 しかしながら、リーマン・ショック後の J-REIT市場は、世界的な金融危機の影響を 強く受け、証券市場において市場メカニズ ムの円滑な働きによる自律的な価格調整が 短期的には実現しにくい状況下にあった。 そのため、J-REIT価格は過度に低い水準で 推移したことから、J-REITによる不動産の 取得意欲は過度に抑制され、不動産価格が 適正水準を大幅に下回る水準にまで下落す る可能性が懸念された。不動産価格の過度 な下落は、既に、バブル経済崩壊後の1990 年代に日本が経験したとおり、不動産業界 や不動産への投資家のみならず、経済全般 に深刻な悪影響を与えかねない。J-REIT市 場や不動産市場のみならず、日本経済の更 なる悪化を軽減させるためにも、J-REITの 信用リスクを解消し、市場の正常化に寄与 する政策の早期実現が必要とされる状況に あった。
(2)政策の実現とJ-REIT市況の改善 このような状況を受け、リーマン・ショ ック後には、平成21年度税制改正によって、 J-REITの導管性が破綻するリスクが大きく
軽減したことや、内閣府令及び監督指針の 改正によって合併交付金の活用可能性につ いて明確化されたことなど、J-REITの M&Aに関連する制度改正が急速に進展し た。その結果、J-REITのM&Aにおける実 務上の障壁の多くが取り除かれ、J-REIT市 場における市場再編の実現性は大きく高ま った。
そして、2009年8月には、アドバンス・レ ジデンス投資法人と日本レジデンシャル投 資法人が合併する旨の基本合意書が締結さ れることが公表され、J-REIT初の合併が具 体化した。これは、従来からアドバンス・ レジデンス投資法人のスポンサーであった 伊藤忠商事が、2009年3月にスポンサーのパ シィックホールディングズが破綻して新ス ポンサー選定を行ってきた日本レジデンシ ャル投資法人の新スポンサーとなった上で、 両投資法人を合併させる運びとなったもの である。図表19に示すとおり、J-REITには すでにいくつかのスポンサー破綻事例があ る。J-REITスポンサーが破綻した場合、新 スポンサーが選定され、新たな体制が敷か れることになるわけだが、新スポンサーの 選定プロセスの過程においてM&Aも含めた 再編も選択肢に含めた検討が可能となった ことで、スポンサーが破綻したJ-REITの将 来に対する不安感は相当程度解消された。 加えて、J-REITの困難な資金調達環境の 改善につながる政策が、策定・実施された。 例えば、2008年度には、日本政策金融公庫 の「危機対応円滑化業務」を活用して日本
ARES SPECIAL
政策投資銀行を窓口に運転資金を供給する 枠組みの策定や、J-REITが発行する投資法 人債の適格担保(金融機関に資金を供給す る担保)への追加などの施策が実施された。 また、2009年4月10日の経済危機対策(「経 済危機対策」に関する政府・与党会議、経 済対策閣僚会議合同会議)の中で、J-REIT を銀行等保有株式取得機構の買取対象に加 える旨、官民一体となったファンドの創設 や日本政策投資銀行等によるJ-REITへの資 金供給の充実が盛り込まれるなど、J-REIT の資金調達環境の改善に向けた政策が実 現・策定された。官民一体となったファン ドの創設については、2009年6月末から「不 動産市場安定化ファンドの設立・運営に関 する検討委員会」が国土交通省によって4回 にわたり開催され、構想が具体化され、9月 5日にはファンドが実際に立ち上がることに なった。
このような政策の具体的進捗によって、J- REITの資金繰りに対する投資家の不安感は 軽減した。図表10のポートフォリオBの日
次リターン平均値の動向が示すとおり、こ れらの制度改正や政策の議論の過程で、 2008年10月の日次リターン平均値が低かっ た銘柄群のリターンが大幅に改善した。こ の動きは、信用リスクが懸念され、リーマ ン・ショックの影響を大きく受けた銘柄 が、その後に制度改正や政策の議論に反応 して大幅な価格上昇に転じたことを示唆し ている。
また、市場全般の動きについてみると、 リーマン・ショック後の東証REIT指数(配 当無し)は、図表20に示すとおり、2008年
図表20 リーマン・ショック以降の東証REIT指数(配当無し)の推移
600.00 700.00 800.00 900.00 1,000.00 1,100.00 1,200.00 1,300.00
2008年
9月 2008年 10月 2008年 11月 2008年 12月 2009年 1月 2009年 2月 2009年 3月 2009年 4月 2009年 5月 2009年 6月 2009年 7月 2009年 8月 2009年 9月 東証REIT指数(配当無し)
Bloomberg提供データよりARES作成
図表19 J-REITのスポンサー(運用会社の主要株主)の破綻事例
日付 破綻したJ-REITスポンサー
(運用会社の主要株主) 証券コード J-REIT名称
2008年9月24日 リプラス 8986 リプラス・レジデンシャル投資法人
2008年11月28日 モリモト 8984 ビ・ライフ投資法人
2009年1月9日 クリード 8983 クリード・オフィス投資法人
2009年3月10日 パシフィックホールディングス 8962 日本レジデンシャル投資法人 3229 日本コマーシャル投資法人
2009年5月29日
公表データよりARES作成
ジョイント・コーポレーション 8973 ジョイント・リート投資法人
10月に大きく下落した後、長らく700ポイン ト台から900ポイント台の間で推移したが、 2009年度に入り回復傾向を示している。 2009年7月2日、同指数は2008年10月3日以来 終値ベースで初めて1000ポイントを上回り、 それ以降1000ポイント前後で推移している。 このように、J-REIT市況に全般的な改善の 兆しが見られるのが2009年度前半の状況で ある。
6. 今後の展望
最近のREIT価格の上昇は、図表21に示す とおり、日本のみならず各国共通の現象で ある。世界各国は、リーマン・ショックに 端を発する深刻な金融経済危機から一刻も 早く脱却すべく、財政・金融政策をはじめ とする広範な政策を積極的に打ち出してき た。その甲斐があってか、まだ将来の不確 実性は高い状況にはあるものの、金融市場 の混乱による短期的な影響の懸念は以前と
比べ解消されつつあるように見える。その ような状況下、資産構成や仕組み上、リス クが相対的に低い商品であるREITが、魅力 を取り戻しているのかもしれない。もしそ うであれば、リーマン・ショックによる混 乱から脱し、REITが世界的に本来の商品性 を取り戻す新たなステージに入るシナリオ が実現することも想定されよう。
しかしながら、日本ではJ-REITのM&A について、制度改正等によって実務上の障 壁は大幅に解消され、J-REITの初のM&A 案件が具体化したものの、その実現はこれ からである。また、破綻したニューシテ ィ・レジデンス投資法人の処理の過程で、 米ローンスターを支援先とする再建計画が 債権者集会で否決されるとともに、大和ハ ウス工業をスポンサーとするビ・ライフ投 資法人との合併に向け再度、民事再生手続 きを申請する方向にある。今後、M&Aによ るニューシティ・レジデンス投資法人の再 生が実現する可能性が高まっているが、ま だ不確定な部分がある。市場を通じたJ- REITの資金調達については、図表15のとお り低迷しているのが実情である。日本にお いては、M&Aによる市場再編やREITの資 金調達環境の改善が、海外ほど具体的な形 で進展していないものの、制度改正や政策 の実現や進捗によって将来への期待感が高 まったことを反映して、J-REIT価格の上昇 が実現しているというのが最近の状況だと いえる。
一方、海外ではREITのM&Aの実務上の
図表21 日本、米国、欧州のREIT価格(配当無しインデックス)推移
(2009年3月末=100と基準化)
60 80 100 120 140 160 180
2008年
12月 2009年 1月 2009年 2月 2009年 3月 2009年 4月 2009年 5月 2009年 6月 2009年 7月 日本REIT
米国REIT 欧州REIT
日本REIT:東証REIT指数(配当無し) 米国REIT:FTSE/NAREIT inde 欧州REIT:Euronext IFIF REIT Price Indexx
Bloomberg提供データよりARES作成
ARES SPECIAL
障壁が元々存在せず、市況の変化に合わせ てREIT市場の再編が行われてきた。また、 最近では、米国等のREITによる市場からの 資金調達は活発化しており、REITの資金調 達環境の改善が目に見える形で明らかにな っている。
米国等のREIT価格は、資金調達環境の改 善や市場再編が具体的に進展している状況 を踏まえ、2009年3月以降大きく上昇してい る。これに対しJ-REIT価格は、一時800ポ イントを下回る水準にまで下落した東証 REIT指数が、1000ポイント程度にまで大幅 に回復しているが、欧米REITと比較する と、2009年3月以降のJ-REIT価格の上昇は、 図表15に示すとおり低調である。今後、日 本においても、欧米と同様にJ-REITの資金 調達環境の改善やJ-REITの市場再編が具体 的に進展すれば、それらはJ-REIT価格の大 きな上昇要因になることが期待される。
とはいえ、既に賃料下落や空室率の上昇 といった不動産市場のファンダメンタルズ 悪化を示す統計が公表されるようになって おり、REITのキャッシュフロー上昇要因が 見込まれる状況にはない点には注意を要す る。キャッシュフロー上昇要因が見込まれ る状況にはないにも関らず、資金調達環境 の改善や市場再編の進展への期待によって J-REIT価格が上昇している、というのが最 近の状況である。よって、中長期視点に立 てば、市場が正常化されるにつれ、景気後 退局面において悪化した不動産市場のファ ンダメンタルズの影響がより注目される可
能性もある。そうなれば、厳しい市場環境 下、投資家の利益を如何に確保できるかが 問われることになり、J-REIT各銘柄の不動 産運用の巧拙への関心が、今以上に高まる ように思われる。