第2章 読書指導理論・実践の考察
第2節 調査研究及び歴史研究の成果と課題~読書活動に焦点を当てて~
第1項 野口(2009)の検討
今後どのような読書活動を行っていくか検討するために、これまでの歴史的経緯を概観する。対象 としたのは、野口(2009)の「小学校・中学校における読書指導の実践に関する報告記事の分析:全 国学校図書館研究大会を事例として」である。野口は、子どもの読書活動を推進していくためには学 校で行われている読書活動や読書指導の実態を把握しておくことが重要だと考え、全国学校図書館研 究大会の参加者による実践報告や議論をまとめた記事を分析した。野口の研究で注目できる点は、実 践を進めている教員だけではなく、読書指導に対し問題があると考える教員なども含め、より多くの 事例や意見を分析したこと、10 年毎に3つの観点(a:どのような場で誰が読書指導を行ってきたか、
b:どのような内容で読書指導を行ってきたか、c:a および b に関してどのような考え方や意見があっ たか)で分析を行ったことである。
野口が分析した結果を表にまとめると以下のようになる(表内の言葉は野口から引用)。
表 2-1 野口が分析した結果
年代 a b C(小学校)
1950 ・国語科を中心に、学級 活動や特設時間の中で 実践が行われた。
○読書記録
・記録を取ることで自分 の読書内容や生活を省 み、深める。
○読書会
・集団の中で感想や思っ たことを発表すること で自分の考えをふくら ませ、自己の読書に深み を持たせる。
・読書指導の時間を特設するにしても、
その時間をどうして生み出すかが難しい ところであるが、教科の時間を割くとか、
余分にその時間を取るとか、もしその学 校の職員にこの指導の熱意があれば何と か一週一時間くらいは見つけ出すことが できる。
・担任教師の工夫と能力に左右されると ころが多い。
・読書ノートの目的は、読書の幅を広め たり、深めたり、高めたりし、子どもの 読書生活を拡充してやることである。
・読書によって自己を見つめるための読 書感想文でなければならない。感想文を 通して子どもの考え方やものの見方を指 導することに意義がある。
・読書意欲や能力の未熟な子どもの読書 力を引き上げるとともに、多角的な人間 関係の中で読書人格の形成を図る。
26 1960 ・約 50%の小学校で読
書指導のための特設時 間を設けている。
・毎日 15 分ずつ、朝や 昼に時間を設けて一斉 読書活動を行う。
・土日は宿題の代わりに 読書をするようにすす め、週 2 回 10 分間、読 んだ本の感想を発表さ せる。
○必読図書を活用した 指導
○読書感想文の実践
○一口感想、読書感想 画、手紙、鉛筆対談、紹 介文、読書ゆうびん、読 書はがきなどの新しい 方法が提案、実践され た。
・特設時間がたやすくとれない現状があ る。
・『何をどう読ませるか』を必読図書選定 の際の目安として利用しているという報 告があった一方で、その内容やあり方を 批判する意見も出された。
・感想文にあらすじが多いのを懸念し、
作者への手紙、主人公への手紙、友達と の鉛筆対談、読書日記といった方法をと ったところ、感想文の内容がやや改善さ れた。
・読書感想文を家庭学習として書かせて いるが、教員自身がどのように指導した らよいかわからないため、特別な指導は していない。
1970 ・国語科、学級活動など で読書指導を行ってい る。
・特設時間については学 校間の格差が現れてい る。
○不読者への対応
○個人読書
・読書記録、読書会、必読図書のあり方 を批判する意見が出された。
・読書記録については、子どもを本嫌い にさせる。単に必要だからと書かせるの は無意味である。
・必読図書については、大人の基準で一 方的に決めつけてしまって良いのか。
1980 ・「ゆとりの時間」を読 書指導に活用した。
・週 4 回、ホームルーム 後の 20 分間を活用し て、全校読書を実施。
○一定の時間を確保し、
自分で本を選んで読む、
一斉読書活動。
○読書への関心や興味 を引き出す方法が多様 になった。(ペープサー ト、紙芝居、指人形など)
○創作や工作を伴った 活 動 が 多 彩 に な っ た 。
(読書ゆうびん、読書新 聞、本の帯の作成、手づ くり絵本、続き話づく り、粘土の利用、劇化、
歌づくりなど)
1990 ・始業前の時間を活用
(朝の 20 分間読書を 基本に、特別活動、国 語科や放課後にも指 導を行った。
○読書ゆうびん
○異学年の児童生徒の 交流を通した活動(読み 聞かせ、ブックトーク)
・児童生徒が読書の情報 交換をしたり、相手に自 分の考えを伝える力を 身に付けられる。
・学級内だけでなく、他学年の児童生徒、
教職員、両親など、さまざまな人々との 触れ合いが可能になる。長い感想文を書 かせるより喜んで取り組める。
2000 ・始業前の一斉読書活動
(朝読書)
・学期ごとに 2 週間を読 書習慣として位置づけ る方法
・火曜から木曜の朝の
○読書のアニマシオン
○必読図書を標榜する 実践報告がわずかにな った。先生のおすすめ本 の紹介
○交流の範囲が拡大し
27 15 分間を充てる方法 た。(他校との交流)
・児童生徒が保育園や幼 稚園に出向いて読み聞 かせや自作絵本のプレ ゼントを行う。
以上の調査研究・歴史研究からそれぞれの時代の読書指導、読書活動の特徴が明らかになっている。
しかし、どんな力をつけているか、連続的、系統的な活動になっているか、個に応じた指導になって いるか、話すこと、書くこととの関連を図った読む力を育てる指導になっているかについては明確に 示されていない。この野口による分析から筆者は以下のように考える。
aについて
野口も分析したように、読書指導のための時間確保は、国語科だけでは困難な実態から、短い時 間(始業前)を利用して朝読書という形で広がっていった。これは自由読書であり、読む側の選択 を尊重することができるという良さがある。一方、多様な文章に触れる機会は少ないという課題も あると考える。確かに、現在も、国語科の中で読書指導の時間を確保することは難しい。
bについて
野口は、不読者の増加が問題になり、1980 年代頃から読書指導の内容に変化が起こったとしてい る。読書を楽しむこと自体を重視する取り組みが多く見られるようになり、内容が多様になったこ とや後に提案された一口感想や読書ゆうびんなどは、読書感想文に比べると気軽に取り組むことが でき、発達段階や個人の読書能力に見合った方法を選択できることに利点があることを述べている
(p.138)。筆者は、その利点と共に、以下の課題も考える。
・感想文を書く抵抗を減らすために、多様な楽しい活動を設定するだけではなく、感想文を書く力 も身に付ける必要がある。感想文を書くための素地となる力(感想をもつ力、文章の書き方を理 解する力、読み方を理解する力等)を育てる必要がある。
・読書情報を広げるだけではなく、自己の読書生活を振り返ったり、今後の生活を考えたりする力 をつけることも必要である。記録を取ることで自分の読書について省み、深めた、1950 年代の読 書記録を見直すべきである。読書指導は児童自身の将来につなげて行う必要がある。
・一人の読書活動で終わることなく、友だち同士で読みの交流を行うことで、自分の考えを深めた り広げたりすることができる。集団の中で感想や思いを交流することで自分の考えを膨らませ、
自分の読書に深みを持たせることに重点を置いた、1950 年代の読書会を見直すべきである。
・野口は、1980 年代頃から必ずしも教職員の主導性を前提としない読書推進活動に関心が寄せられ ていると述べているが(p.137)、不読者を減らすためにも、一人ひとりの本を読む力をつけるた めにも、自由読書と共に、教師の意図的な指導(つけたい力を明確にした指導)も行うべきであ る。
C について
・読書活動が多様化したことや児童の意欲を高めるような、取り組みやすいものが行われるように なったことは分かるが、質の向上については検討されていない。読書活動においてはそれぞれ身 に付ける力が異なるはずである。どの活動でどのような力を身に付けるのか、そのために、どの
28 ような指導が必要なのかを検討していく必要がある。
・野地や増田が論じた精読や多読をどのように行うのか、また、どのような力をつけていくのかを 明らかにする必要がある。
・個のどんな課題に対し、どのような手立てをとるのかを明らかにする必要がある。
第2項 まとめ
野口の研究から、読書活動は多様になってきたが、「それぞれの読書活動がどのような力を身に付け させることができるのか。」「どのように質を高めていくことができるのか。」「読むことを書くこと・
話し合うこととどのように関連させればよいのか。」「読書に課題をもつ児童に対してどのように取り 組んでいけばよいのか。」については明確に示されていない。
そこで、筆者の研究の視点として、①「読書力の明確化」②「読書力の形成を目指す連続的・系統 的な読書活動」③「書くこと・話し合うことと結びついた指導法」④「個に応じた指導法」を設定し、
これらに適合する読書活動はどのようなものがあるのかについて、先行実践を検討していくことにす る。