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読書力と PISA 型読解力との関連の検討

ドキュメント内 児童の読書力を形成する (ページ 93-97)

第3章 読書力の検討

第2節 読書力と PISA 型読解力との関連の検討

2000 年 PISA 調査結果が公表されてから、読書と学力(読解力)の関係が注目され始め、PISA 型読 解力という概念が一般化されるようになり、読書指導のとらえを変えていく必要が出てきた。しかし、

研究においては、それ以後、読書習慣の形成・教科が中心となった論考が多かった。2003 年 PISA 調 査の結果後は、PISA 調査の結果を分析した上で読書と学力を結ぶ論考も出てきたが、問題提起にとど まり、実践的な提案が少なかった。学校では全国学力状況調査が行われるようになったが、それらの 結果を踏まえた実践の改善は十分に図られていないのが現状である。小学校の国語科では、読書と学 力(読解力)が未だ切り離された関係にあり、読書で読解力を身に付けさせることを目指す実践、長 期的な視野に立つ実践は少ない。

本研究では、読書と読解を切り離して指導するのではなく、読書でも、本や文章を読むために必要 な読解力を身に付けさせることを目指す。では、読書で目指す読解力がどのような力なのかを、PISA 型読解力と関連させながら考えていく。

第1項 情報の取り出し

2003 年に OECD による生徒の学習到達度調査が行われ、PISA 型読解力の調査結果が発表された。

PISA 型読解力は「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するた めに、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」とされている。「情報の取り出し」はテキ ストに書かれている情報を正確に取り出すこと、「解釈」は、書かれた情報がどのような意味を持つか 理解したり推論したりすること、「熟考・評価」は、書かれていることを生徒の知識や考え方や経験と 結びつけることとされている。

その後、2007 年度から全国学力・学習状況調査が小学校第6学年及び中学校第3学年の児童生徒を 対象に始まり、従来の読解力とは異なる PISA 型読解力が注目され、その力を身に付けさせる授業改善 が求められるようになった。

PISA 調査問題の作成と調査結果の分析を担当している国立教育政策研究所(2012)は、小学校、中 学校ごとに平成 19 年度~22 年度の4年間の調査結果を分析し、成果と課題を教科ごとにまとめ、こ れからの学習指導のポイントを示している。

ここでは、国立教育政策研究所が4年間の調査において、同じような趣旨の下に複数年度にわたっ て出題し、正答率がおおむね 70%を下回る内容を課題としてとらえたものの中から小学校「読むこと」

を取り上げる。

「読むこと」における課題は以下の通りである。

①物語に登場する人物についての描写や心情、人物相互の関係を捉えること

②目的に応じて必要となる情報を取り出し、それらを関係付けて読むこと

この中の②が「情報の取り出し」であるが、具体的な課題としては以下のように示されている。

②についての課題

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○文章の内容と資料の数値などを関係付けて正しく読むことに課題がある。

○情報に含まれる限定された事実を認識しながら読むことに課題がある。

○登場人物の心情と場面についての描写とを関係付け、物語の展開をおさえながら読むことに課題が ある。

○情報に含まれた曜日や人数などの必要な事実を的確に捉えることに課題がある。

○複数の情報を比較・検討し、条件に即したものを的確に選択した上で、その選択の理由を明確に説 明することに課題がある。

以上の課題を見ると、「情報の取り出し」は、市販のテストのように、単に文章から抜き出すだけで なく、他の資料と関連づけたり、文章と文章を関連づけたりすることや複数の文章を比較し、選んだ りすることも求められている。これらは、複数の資料を多読し、読み比べる力、長文の中で文章同士 を関連づけながら読む力であり、読書で身に付けていくべき力であると考えられる。

第2項 解釈~語用論を基にして~

前述した「読むこと」の課題①は、「解釈」の力についてである。具体的な課題としては以下のよう に示されている。

①についての課題

○物語の登場人物を把握するために叙述内容を分析的に読むことに課題がある。

○物語の登場人物の心情を表現や叙述と関係付けて読むことに課題がある。

○物語の冒頭部分における登場人物の特徴を一つ一つ整理して捉えることに課題がある。

○物語の主人公の心情や登場人物の相互関係を捉えることに課題がある。

PISA 型読解力の中の「解釈」は、「書かれた情報がどのような意味を持つか理解したり推論したり すること」と定義されている。従来の小学校の授業では、人物の行動や会話から人物の心情を読み取 ったり、物語の主題を考えたりして解釈を行ってきたが、文章の叙述を根拠にしてもそれが妥当なの かどうか判断できず、曖昧なままにしてしまうことも少なくないのが現状である。例えば、同じ文章 から解釈する内容は、個人のこれまでの経験や知識、価値観等によって異なる。また、作者の思いを 文章から推測することはできにくく、少しでも推論するために同じ作者の作品をいろいろと読ませる がそれでも現在目の前にいない作者の思いを推論することは困難である。そのため、答えを絞ること はできない。しかし、教師は、自分が考えている答えに近いものを正解として認めていく傾向がある。

そもそも推論とはどのようなものでどのように行われていくのかを明確にし、児童にその力をつけ ていく必要がある。そこで、解釈の多様性について説明できる語用論の中の「関係性理論」に注目す ることにする。

内田(2013)は語用論を「実際の発話とその文脈との関連を追及する学問分野」と定義し、「語用論 のレベルでは解釈に幅がある可能性が大きく「こうでなければならない」ということは必ずしもなく、

「こういう解釈も可能である」という柔軟性があるのである。」と述べている(p.10)。そして 1986 に発表した Sperber and Wilson による関係性理論では、「推意」(「表意」(発話によってコード化され ているところからそれを基盤としてさらに推論によって得られる明示的な想定)に対して明示的に伝

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達されていない命題)に強弱を仮定していることを示し、聞き手が高い可能性で導き出す推意とその 可能性が低い推意があるという考え方をテクスト解釈に応用できると述べている(p.58)。

内田は、サスペンスの表現効果、推理小説の伏線等、これまで漠然としか説明できなかったことを 語用論から理論的にアプローチしようとしている。例えば、‘After Twenty Years’を取り上げ、巧妙 に配置されている強い推意によって、読者が作者の意図通りに誘導され、作者の罠にはまってしまう ことを紹介し、「事実とは異なることは述べず、強い推意と弱い推意が話の流れのなかで重要な伏線と して二重、三重に絡んで物語に厚みを加えている。結果として意外性を含んだより深みのある結末と なっている」と述べている(p.171)。ミステリー作品『さよならドビュッシー』においても内田は、

強い推意、弱い推意の観点から考察し、「ここでも強い推意と弱い推意が複雑に入り混じりながらミス テリーの謎解きに決定的な役割を果たしている」と述べている(p.185)。

つまり、発話に限らず文字を読む際にも、書かれたことをもとに自分の記憶や知識等を手がかりと して推論を繰り返すことにより、作品を理解し、おもしろさを感じることができるようになることが 分かる。

では、その関係性理論をもとに文章の推論解釈の過程を示した難波(2008)の解釈理論を援用し、

今後小学校で求められる解釈の力について考察したい。

難波(2008)は、文章言語においても解釈の本質は音声言語と変わらないとした上で、「コード解釈」

(日本語の音韻・文字・語彙・文法の各知識による解釈)によって生まれた、文の表面上の意味を「表 意」、「推論解釈」(その人が記憶の中から推論して選択する行為)によって生み出されたものを「推意」

と呼び、この二つの解釈は、テクストの解釈において同時に行われていると述べている(p.84)。 難波は、音声言語の場合、推意の解釈には、既有知識・文脈・場面・人物像・ノンバーバルコミュ ニケ―ション・音調・表現からの連想が推意決定の根拠になり、いくつも形成される推意の内、コス トと利益の相関という関連性理論の原則によって一つの推意が決定されるが、文章の場合は音声言語 と異なり、推論解釈の根拠とあるものが少なく、文脈と表現からの連想しかなく、そのため、推意(書 き手の意図)を一つに絞るのは難しいと説明する。

難波は、井島(1993)の枠組み(物語は現実世界(作者と読者との世界)、表現世界(物語る世界、

語り手と内包された読者との世界)、物語世界(物語られる世界)の3つの世界で構造化されている)

を援用し、それぞれの世界について関連性理論がどう働くかを考え、以下の内容を述べている

(pp.120-121)。

・ 物語世界は、会話文に表れており、発話状況や話し手についての知識は物語の中でかなり与えら れるので明確なコンテクスト知識が利用できる。「この時この人物はどういう意図でこういったのか」

の発問について最適な関連性を求めて話し合うことは妥当である。

・ 語りの世界は地の文に表れる。語り手についての知識や語り手が語っている状況についての知識 は、作品の冒頭・結末に散見されるだけで、コンテクスト知識はかなり乏しい。地の文で「ここで 語り手はどう思っているか」という発問に対し、最適な関連性をもつ推論解釈を得ることは困難で ある。

・ 現実世界では、作者についての知識や作品を生み出している状況についての知識は作品からは一 切分からない。コンテクスト知識は利用できない。「作者がどう思ったか。」について妥当な答えを

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