第5章 「読書日記指導」実践の実際(2012 年度、第3学年)
第2節 自分との関連づけ
平成 20 年度版の小学校学習指導要領解説国語編の第1学年及び第2学年では「文章の内容と自分の 経験とを結び付けて、自分の思いや考えをまとめ、発表し合うこと」、第3学年及び第4学年では「自 分のもっている知識や情報、現実などと結び付けたりして、自分の考えを深めること」、第5学年及び 第6学年では「自分の知識や経験、考えなどと関係付けながら、自分の立場から書かれている意見に ついてどのように考えるか意識して読むこと」など、自分と関連づけながら文章を読み、自分の考え をもつこと、深めることが求められるようになった。
平成 23 年度版の国語科教科書(G社とT社)のてびきにおいても、自分と関連づけながら読むこと を求める問いが増えている。例えば、平成 17 年度版第5学年の国語科教科書(T社)のてびきには、
自分と関連づけながら読むための問いは一つしかなかったが、平成 23 年度版のてびきには、4個の問 いが用意されている。
しかし、学校の授業では、解釈等の読解中心になりがちであったり、読書会が行われても「自分と の関連づけ」の指導と評価の方法が明確になっていなかったりしているように思われる。まず、教師 は「自分との関連づけ」がどのようなものであるかを具体化する必要がある。
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筆者は、「個人的なつながりをつくるためのヒント」を使うアメリカのリテラチャー・サークルに注 目し、それを改善して小学校3年生に対し実践し、一定の成果をあげてきた(細 2012)。
吉田(2010)は、優れた読み手が使う方法の一つとして「関連づける」を挙げ、「本と自分とのつな がり」「本と本とのつながり」「本と世界とのつながり」に分類している。そして、「本と自分とのつな がり」の力によってもたらされるものとして「知識や体験を増やすこと」「身近にいる人や出会った人、
あるいは場所や出来事と置き換えて理解すること」「読む内容に寄り添える度合いが増すので、より楽 しんで読めること」などを述べている(pp.85-86)。
このような「自分との関連づけ」を行う力は読書意欲を高め、作品の登場人物のことを深く理解し たり自分自身を見つめたりするために必要な力であり、読書を続けていく力をつけるためにも段階的 に育てていく必要があると考える。
本章では、2012 年度の1年間、小学校3年生の児童が書いた「読書日記」を対象とし、「自分との 関連づけ」の内容と、時期による「自分との関連づけ」の特徴、「自分との関連づけ」と解釈の力との 関係について分析し、「自分との関連づけ」の力を具体的にすることが目的である。
第1項 実践の概要
ダニエルズ(1994)は、「教師主導」-「児童主導」、「クラス全体」-「個人」、「精読」-「多読」
という両極の軸でリテラチャー・サークルをバランスのよいものとして位置づけている(足立 2004、
p.16、「バランスのとれた指導の中のLCの位置づけ」による)が、筆者も、読書日記を次のようにバ ランスのとれたものにするようにした。
・教師が個に応じた指導(朱書き)を行いながら児童が自由に内容を考えて書く。(「教師主導」-「児 童主導」)
・個人で書くが、クラス全体で読み方を学び合うことも取り入れる。(「個人」-「クラス全体」)
・自由読書を中心としながら、国語科との関連を図り(表 5-2)、精読させることもある。(「多読」
-「精読」)
読書日記を始めた年度当初には、児童の読書日記のノートに筆者が作成したてびき(表 5-3)を貼 らせ、読み方の参考にできるようにした。
読書日記を継続していく間には、児童の読書日記から多様な読み方を取り上げ、学級のみんなで共 有できるよう、教室にも掲示した(表 5-4)。
表 5-3 と表 5-4 の下線部は、本章で取り上げる「本と自分とを関連づける」読み方である。
「自分との関連づけ」のための具体的な言葉は、アメリカのリテラチャー・サークルの「個人的な つながりをつくるためのヒント」(Day,J.P.et al.2002、p.98)と吉田(2010)の「関連づける」を教 える時に使う言い回し(p.94)を参考にした。表 5-3・表 5-4・表 5-5 の( )は、後述する「自 分との関連づけ」に付けたラベルである。
7月には、国語科教材「あらしの夜に」の学習で、読み方のてびき(表 5-5)を児童に渡し、それ を拡大したものを教室に掲示した。表 5―5 のてびき(下線部:「自分との関連づけ」)は、主に児童の 初発の感想やこれまでできていた読み方をもとに作成したものである。国語の時間には読書会でこれ らの読み方を交流した。
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表 5-3 読書日記のてびき(ノート用) 表 5-4 読み方(教室掲示用)
表 5-5 読み方のてびき(「あらしの夜に」の学習から使用)
① 音読したいところは・・・
② はらはら、どきどきしたところは・・
③ ほっとしたところは・・・
④ おもしろいところは・・・
⑤ すきなところは・・・
⑥ やぎ、おおかみのことをどう思うかというと
⑦ やぎとおおかみをくらべると・・・
⑧ 自分とやぎ(おおかみ)のにたところは、ちがうところは・・・(比較)
⑨ この話を読んで思い出したことは・・・(経験の想起)
⑩ この話を読んでいくうちに考えがかわったことは・・・
⑪ 自分がおおかみだったら、やぎのどんな言葉や行動がうれしいかというと・・・
(代理経験)
自分がやぎだったら、おおかみのどんな言葉や行動がうれしいかというと・・・(代理経験)
⑫ この後の話を自分が作るとしたらどうなるかというと・・・(仮定)
⑬ その他
9月には、夏休みに各自が読んだ本の感想を交流し、友だちの読み方について話し合った。
11 月には、国語科教材「木かげにごろり」を読み、人物に対する評価や学んだことを中心に、読書 日記に書き、「自分との関連づけ」(代理経験、願望)についても交流した。
1月には、国語科教材「冬眠する動物たち」で、自分の知っていることと比較しながら動物たちの 生きるための知恵を読み取った。
2月には、国語科教材「わにのおじいさんのたから物」で、自分と比較したり、代理経験をしたり して、人物に対する感想をもつことや人物の気持ちを読み取ることを行った。
日常の読書日記指導においては、筆者が児童のできた読み方に対して朱書きで肯定評価したり、友 だち同士で読書日記を読み合う場をつくったりしてきた。また、休み時間には、読書日記をもとに児
①本の中のすきな文章や心に残った文章をう つしましょう。
②本の中のすきな場面、心に残った場面の絵 をかきましょう。
③本を読んで思い出したこと(自分がこれま でにけいけんしたこと、テレビやえい画で 見たこと、本を読んだ事など)を書きまし よう。(経験の想起)
④本を読んでふしぎに思ったことや心に残っ たことを書きましょう。
⑤とう場人物のせいかくをしょうかいしまし ょう。
⑥自分の読書生活をふり返りましょう。(自分 はどんな本を読んでいるか。いつ読んでい るか。どれくらいの時間読んでいるか。ど んなしゅるいの本がすきか。なぜすきか。
① おもしろいところ、すきなところ、ふしぎな ところ、感動したところ、疑問に思うところ など
② 人物や人物関係に対する思い。
③ 本の内容や表現に対する思い。
④ 人物の気持ち、人物の気持ちの変化。
⑤ 人物同士をくらべる。
⑥ 大切なこと、学んだこと
⑦ 自分の考えが変わったこと。
⑧ 作者が伝えたいこと。
⑨ 自分と人物をくらべる。(比較)
⑩ 自分が登場人物だったら・・と考える。(代 理経験)
⑪ 思い出したこと(経験の想起)
⑫ これまでの自分、今の自分、これからの自分
(内省・願望①②③)
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童と対話をし、本を紹介したり選書や読み方についてアドバイスをしたりしてきた。
第2項 分析方法
児童一人ひとりの1年間分の読書日記を分析し、考察する。
(1)学級全体に関する分析方法
①「自分との関連づけ」の内容
寺田(2012)は山元(1992)の先行研究をもとに、国語科教材「きつねの窓」に対する生徒の反応 行為を大きくa~eに分類した(a対象を認識する。b対象をもとに類推する。c対象に同調する。
d自己を表出する。e対象を評価づける。)。この分類の中の「自己を表出する」(願望、代理経験、仮 定、想像、経験の適用、経験の想起、内省)を参考にし、以下の8種類のラベルを設定し、児童の読 書日記の内容をラべリングしていく。
<比較> 自分の知識や考え、行動、性格と登場人物のそれらを比べ、共通点や相違点を考える。
<経験の想起>自分の経験を思い出す。
<仮定>「もし・・が・・すると」と考える。
<代理経験>「もし自分が登場人物だったら」と考える。
<願望①>作品世界に入り、登場人物に同化してやってみたいことを考える。
<願望②>生活の中で自分がやってみたいこと(希望)を考える。
<願望③>自分の目標・将来の夢、自分のあり方・生き方について考える。
<内省>これまでの自分や今の自分の行動や考え方を見つめる。
筆者が〈比較〉を加えたのは、これまでの国語科で児童が学習した読み方(自分と登場人物を比較 する読み方)だったからである。また、〈願望〉を3種類に分けたのは質の違いを明確にするためであ る。願望には、物語の世界に入って同化するものと現実の自分のあり方を考えるもの(典型化)と典 型化までいかないが自分の希望するものがあると考えられる。〈想像〉を使わなかったのは、筆者がこ れまで幅広い読書力の中の「解釈」と「自分との関連づけ」を分けて考えており、<想像>は解釈の力 の一つとしていたからである。<経験の適用>を使わなかったのは、〈経験の想起〉との違いを3年生 の反応で明確にすることが難しいと考えたからである。
ここでは、ラベルごとに児童の読書日記を取り上げ、どのような「自分との関連づけ」を行ったか、
それによりどのような読み方が行われたかを考察する。
②時期による「自分との関連づけ」の特徴
1年間を表 5―2 の年間読書指導をもとに、以下の4つの時期に分け、各時期に学級の児童が上記8 種類の関連づけを行った総数を求め、それぞれの関連づけの割合を算出する。
この目的は、発達過程における特徴があるのか、国語科の学習との関連があるのかについて検討す ることである。
<Ⅰ期>4月 15 日から6月 15 日(国語科教材「あらしの夜に」の学習が始まる前)まで
・ノートに貼った「てびき」(筆者が作成したもの:表 5-3)を参考にしながら自由に書いていった。