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第三章 研究方法

3.3 分析方法

3.3.1 語彙レベルの多義性分析

まず、多義語の語彙レベルの多義性を研究するにあたり、瀬戸(2007:46-56)は、「多 義語を体系的に記述するという方針を実現するために、新たに次の問題を設定して検討を 進めよう。(ⅰ)中心義の設定(ⅱ)各意義の設定(ⅲ)各意義の関連(Ⅳ)各意義の配 列」からというように述べている。三次元形容詞を多義語と見なすと、プロトタイプ的意 味が存在することを前提にし、周辺的意味はプロトタイプ的意味を中心にひろがり、放射 状的カテゴリーを成すとする。瀬戸(2007)が述べているように、中心義、或いはプロト

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タイプ的意味の設定は多義語語彙レベルの多義性研究の第一歩である。プロトタイプ的意 味とは「共時的な多義ネットワークの中心に位置する意義であり、その出発点となる意義

である」(瀬戸2007:47)。プロトタイプ的意味の認定について、瀬戸(2007:46-56)は、

「他の意義を理解する上での前提となり、具体性(身体性)が高く、認知されやすく、想 起されやすく、用法上の制約を受けにくい。(中略)意義展開の起点(接点)となること が最も多い意義で、(中略)言語習得の早い段階で獲得される意義でもある」と述べてい る。

意味はどのように分ければ最も適切であるかについて、瀬戸(2007:46-56)は、「意義 が細分すればきりがない。かといって大づかみすぎては、一つの意義の中に雑多な意義は ひしめき合う」と述べている。この問題を解決するために、瀬戸(2007)は「メタファー・

メトニミー・シネクドキによる意義の切り分け」を基準として意味分類を行うことを提案 している。即ち、意味項目の間に明らかにメタファー・メトニミー・シネクドキ的な関係 が想定できる場合は、独立した意味として扱うということである。本研究では,瀬戸(2007) のこの指針をふまえて意味分類を行う。

ただし、上述の方法は意味項目が確立された後、各意味項目が独立した意味であるか否 かを検証する方法であると考えられる。言い換えれば、意味項目をどのように分類するか はあくまでも論述されていない。そこで、本研究では、三次元形容詞のプロトタイプ的意 味の認定に関しては、次のような二つの判断基準によって認定する。

判断基準:①その意味の使用量が最も多いか否か(数量的に優勢であるか否か)

②具体的な空間位置関係および延長のある物体が空間を占めることを表す か否か(図式化することができるか否か)

次に、周辺的意味をどのように区切るかについては瀬戸(2007:48)も述べているよう に、「何をもってひとつの意義と見なすかが大きな問題である」。さらに続けて、「意義の 認定には、二つの逆方向の注意がいる。(ⅰ)ひとつの意義のなかに明らかに領域(domain)

が異なるものを混在させてはならない、(ⅱ)単なる文脈的ゆれ(contextual fluctuation)

にすぎないものを別の意義と認定してはならない」(瀬戸 2007:48)と多義項目を分類す る基準を提案しているが、プロトタイプ的意味の認定基準と同じように、具体的な認定方 法は言及されていない。そのため、本研究では、周辺的意味を認定する際には、データベ ースから抽出された例文に基づき、実際に表している意味によって分類する方法を提案す る。例えば、

52 例3-1

a. あれもこれも無関係では、二つの事件の繫がりがますます薄くなる。

b. 日常生活とは関係が薄いと思われる人格改造の方法が紹介されていた。

c. 今回の事件との関連は薄そうだった。

例3-1a、b、cの「繋がり」、「関係」、「関連」はそれぞれ異なる語であるが、一つの物

事と他の物事と関わりあうことを表すという点で共通することから、上述の例文は同じ意 味項目に入れ、「かかわりが強くない」という意味項目にまとめられる。すなわち、同様 の意味を表している例文は同様の種類にして意味項目を作る。もう一つの例として、次の 例3-2を挙げることができる。例3-2の両方とも「物事や人間などに著しい影響がある」

を意味しているため、「著しい」という項目に入れる。

例3-2

a.機械機器の輸入の伸びが大きく鈍化し,輸入総額の伸びの鈍化に大きく寄与した。

b.このカメラの与えたインパクトは大きく、後発のすべてがなんらかの影響を受けてい る。

c.深い悲しみを扱う際は、援助する側の心身にも大きく影響を及ぼしますので、慎重な 取り組みが必要です。

例3-2の各例文を各々見ると、異なる意味を表すように見えるが、実際に「ある物事に よって作用(影響、貢献、インパクト)を与えられる」という点で統一できると考えられ る。

その後、各々の三次元形容詞の意味ネットワークをまとめ、意味拡張の動機付けも分析 しながら、各対の三次元形容詞にどのような共通点と相違点があるについて考察する。語 彙レベルの分析によって、各三次元形容詞の多義構造を明確に示すことができ、諸意味の 間の動機付けから人間の知的な働きも分かると考える。

ただし、次に次元形容詞の拡張的意味として利用できない例を挙げる。

例3-3

a.面の皮が厚い

b.脸皮很厚(厚かましい)

c.心の壁が厚い

d.我们之间已经隔了一层可悲的厚障(我々の間は悲しむべき厚い障壁で仕切られてい

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る)=心的な距離が遠くなった e.細い糸で繋がった盟友関係

f.赚了钱也要细水长流(お金を稼いても節約しながら使うべきだ)

例3-3の各例文はそれぞれ「厚かましい」、「心理的距離が遠い」、「節約している」とい う意味を表すが、それは「厚」・〈厚〉と「細」・〈细〉の拡張的意味とは言いにくい。なぜ かというと、それと共起している部分である「面の皮」、「脸皮(面の皮)」、「心の壁」、「障

(障壁)」、「糸」と「水(水)」の意味拡張が「厚かましい」、「心理的距離が遠くなる」、

「節約している」という意味を成り立たせる際に関わっているからである。言い換えれば、

例3-3のすべての三次元形容詞は共起した語あるいは句とともに拡張的意味を生み出し ているのである。そこで、本研究では、上述の「厚かましい」、「心理的距離が遠くなる」、

「節約している」などの意味は三次元形容詞のみによる拡張的意味ではなく、フレーズ全 体の拡張的意味であると考える。言い換えれば、三次元形容詞はフレーズの中でプロトタ イプ的意味として働いているとしか認めない。

一方、先行研究ではいくつかの辞書を参照し、その意味項目をまとめる方法を用いる研 究が数多くある。本研究は辞書を参照しないことにする。なぜかと言うと、辞書に載せら れた意味項目はその辞書を編集する目的に基づくからである。換言すれば、語の多義性を 示す目的ではなければ、本研究で参照することができない。『日本語多義語学習辞典形容 詞・副詞編』という辞書は語の多義構造を示す目的ではあるが、意味項目の規定方法を述 べられておらず、また、意味項目の抽象度も高いため、意味項目の分類基準として参照に はなりにくい。そこで、本研究は上述の問題を避けるために、辞書に参照せず、データベ ースからの抽出例を用いることにする。本研究で用いた二つのデータベースの容量はより 大きく、データの出典も多様であるため、それを基にし、実際に使用されている例から三 次元形容詞の意味項目をまとめることは、辞書の基準に従うことより適切であると考える。