4.3.1 気泡流観測装置
船底の空気吹き出し孔から放出された空気は,前進している船の周囲の流れにより引きちぎられ て,気泡流の状態で船尾に向かって流れるが,実船では船尾に到達するまでに数十mの距離を流 れることになる。船底を流れる途中で気泡が合泡して気膜を形成すれば,圧力の低い方向に一気に 流れていくため,船側部から空気が漏れて船尾まで気泡が到達しないこともあり得る。また,吹き 出した空気が船尾方向に流れていく間に,船底をまんべんなく覆っているのか,あるいは偏りを生 じてまだら模様の状態になっているのかなど,実際の気泡の状態について確信を持って判断するに 十分な知見が不足している状況であった。
付録Bに示すように,著者らは気泡の挙動に関して少しでも知見を増やすため,実船と縮尺模型 船では気泡径が相似にならないことを承知の上で,模型船の船底部から空気を吹き出して気泡の挙 動を観察する水槽試験を実施し,船底上の気泡の状態を観察した[83]。観察時には,気泡が合泡し
て固まりを形成し,気膜状態となり船側部から流れ去っていく状況を確認したが,それでも実船に おける状態を説明するに十分とは言えなかった。
そこで,吹き出された空気が船底表面上を流れる状況を実船で確認するために,水中曳航体を用 いた観測を実施した。Fig.4.3に観測用水中曳航体の写真と説明図を示す。水中曳航体を固縛した 曳航索を船首部ムアリングホール(フェアリーダー)を通して繰り出し,船首フレア部から船底へ 向けて海中に投下した後,船の前進速度を利用して船底に潜り込ませる。また,水中曳航体は可動 式水平翼を装備しており,この翼角を遠隔操作して水深方向の位置を調整することが可能である。
水中曳航体の内部には,VTRカメラおよび光源を装備し,船底の観測・撮影を可能とした。本船 から水中曳航体への電源供給および制御信号通信は高張力複合ケーブルを介して行われる。
Fig.4.3: Towed vehicle for ship bottom observation.
Fig.4.4に水中曳航体による船底観測方法を示す。船首部より繰り出す曳航索および水中ケーブ
ルが,水中曳航体を無理なく曳航できる水深位置として水深基準位置を船底から5 mとし,船速が 速くなると水中曳航体が浮上してくるため,可動式の水平翼により3 mを限界として船底との距離 を維持するようにオペレーションを行った。
Fig.4.5に水中曳航体による船底観測位置を示す。曳航索の繰り出し本数は,耐強度と冗長性を
考えた上で2本とした。観測位置の左右移動は,2本の曳航索の繰り出し長さを変えることで行っ た。船底観測時に曳航索(ϕ14 mm×150 m)が破断しないように十分な引張強度(90.2 kN/本)の
Fig.4.4: Observation method by towed vehicle.
Fig.4.5: Observation point by towed vehicle.
索を使用した。さらに,曳航索のオペレーション中にプロペラ近づき過ぎないように,曳航索の繰 り出し長さは,最後尾のせん断力計位置(プロペラより43 m位置)までに制限した。
4.3.2 プロペラ観察用カメラ
船底に放出された空気がプロペラに及ぼす影響を調査するために,本船の右舷プロペラ前方に2 個の船外カメラ(以降,船尾カメラと称す)を設置して,プロペラへの気泡流入状況を観察した。
Fig.4.6に船尾カメラの取り付け状態を示す。船尾カメラは右舷スタンチューブを挟むように配置
している。また,船尾カメラが気泡に覆われてプロペラを撮影できなくなることを想定して,カメ ラは船体表面より300 mm突出した専用ケース内に収納した。
Fig.4.6: Propeller observation cameras.
4.3.3 せん断力計
本船に搭載した空気潤滑システムによる摩擦抵抗低減効果を定量的に確認するために,せん断力 計を船底の数箇所に取り付けてせん断力を計測した。このせん断力計は戸田ら[85]により開発さ れたものをベースとしている。実船におけるせん断力計測は,永松ら [45]によるSR239の青雲丸 マイクロバブル実船実験や児玉ら [49]によるセメント運搬船における空気潤滑法実船実験などの 実績がある。
Fig.4.7に実船に取り付けたせん断力計を示す。せん断力計は船底に平行な検出面と,検出面を
平行に保持するための板ばね,防水型ロードセルから構成される1分力計である。また,検出部と は別に気泡流状況を観察するための小型カメラを内蔵した。
Fig.4.8にせん断力計を船底に取り付けた状態を示す。船体にせん断力計を取り付けることによ
る凹凸が推進抵抗となるため,この影響を最小化するためにせん断力計の周囲にフェアリング部材 を取り付けて整流した。図中の黄色の破線で示した部分がフェアリング部材である。
Fig.4.7: Shear stress sensor.
Fig.4.8: Sensor arrengement on ship bottom.
4.3.4 プロペラによる船尾変動圧力計測センサ
プロペラによる船尾変動圧力(以下,プロペラ変動圧力と称す)に気泡が及ぼす影響を確認する ために,本船の右舷プロペラ直上付近の四箇所に圧力センサを取り付け,プロペラ変動圧力を計測
した。Fig.4.9に変動圧力計測位置とセンサ取り付け後の外観を示す。
Fig.4.9: Sensor position of propeller pressure fluctuation measurements.
4.3.5 船体振動計測センサ
空気潤滑システム作動時の船体振動応答特性を把握する目的で,Fig.4.10に示す九箇所に加速度 計を取り付け,上下・前後・左右方向の船体加速度を11点計測した。また,プロペラ回転周期と の同期を取るために,プロペラ軸の2点で回転パルスを計測した。
Fig.4.10: Sensor position of hull vibration measurements.