第 8 章
結論
本論文における結論を各章ごとにまとめる。
まず,第2章における結論は次のように要約される。
• CFD計算の実施には膨大な時間を要することから,空気潤滑システムの初期計画段階にお いて,省エネルギー効果の概算値を簡便かつ短時間で把握することを念頭において,簡易的 な抵抗低減効果推定ツールの検討を行った。ここでは,「気泡がない場合の馬力」,「被泡さ れる面積」,「摩擦抵抗低減量」,「気泡流中のプロペラ性能」,「空気供給に要する動力」に関 して,既存の研究例や水槽試験結果および著者らが実施した模型試験による知見に基づいて その取り扱いを定め,空気潤滑システムによる摩擦抵抗低減効果を考慮した実船馬力推定 ツールを作成した。
• 類似船の諸元や性能データを参考にして,肥大船および痩せ型船の仮想船型のデータを作成 し,実船馬力推定ツールを用いて省エネルギー効果推定計算を実施した。省エネルギー効果 算出に至る計算過程を確認しながら効果の増減に及ぼす影響を把握することができ,初期設 計時に最も効率良く省エネルギー効果が得られる被泡面積や空気量の設定に用いることがで きる。
第3章における結論は次のように要約される。
• 空気供給方法に関して,設計した吹き出し孔を空気室に配置し,各孔からの吹き出し量が均 一になるように空気室の内部形状の検討を行った。圧力損失や工作の容易性等も考慮して,
スリット構造のデバイスが最も適しているとの結論を得た。また,設計したチャンバの模型 を水中に設置し空気を吹き出して,放出される状況を観察したところ,横方向の傾斜を与え た場合に,左右の静水圧の差から空気が圧力の低い方に偏ることが確認された。これについ ては,横傾斜した状態で長時間航海することはないことから,空気吹き出しが左右舷のどち らかに偏ることは稀であると考えられる。
• 管路網解析ソフトウェアを用いて,船体傾斜や喫水条件を変更し,流量分配シミュレーショ ンを実施した。その結果,片舷に傾斜した場合でも,弁の調整により流量をほぼ等分配でき
る結果が得られた。しかし,弁開度を調整した状態でさらに傾斜が変化すると,空気の出口 圧力が変化し一部配管で空気が吹き出せなくなることが予測されたので,弁開度の調整方法 を追加検討した結果,全配管を一律の開閉度で閉める方法,または配管出口位置に対して比 例ゲインを与えて弁開度を調整する方法により,全ての配管で均一な空気流量を確保できる 見通しを得た。
• 岸壁係船時に空気を吹き出して,吹き出し状況観察,配管に取り付けた弁の圧力損失の確 認,数値計算による解析へのフィードバックを実施した。以下にその結果と知見を記す。
– 配管に取り付けたバルブを適当に絞って圧損を与えれば,船体が傾斜している状態で も,弁を絞ることで空気流量が均一になることを確認した。
– 岸壁試験時の弁の圧損係数は,弁開度が40deg 以下では想定していたバタフライ弁の 値とほぼ同じであった。
– 岸壁試験結果を補正して求めた圧損特性を用いてMelTHERFYによる流量分配の再解 析を実施した結果,岸壁試験の流量分布と良く一致しており,MelTHERFYは,実船 の流量分配解析ツールとして十分に活用できると評価される。
第4章における結論は次のように要約される。
• 海上運転において空気潤滑法の効果を確認した結果,最大で12%の正味省エネルギー効果 を確認することができた。相当空気厚さが大きくなるに従って,省エネルギー効果も大きく なっている。また,燃費についても,空気を吹き出した場合に燃料消費量が小さくなってい ることが確認できた。
• 空気潤滑効果による船体抵抗の減少に伴い船速が増加することを確認した。本船はCPPを 装備していることから,ピッチ角の再調整によりさらなる効率向上の可能性がある。
• 水中曳航体に搭載したカメラで,船底の気泡の挙動を観察した結果,開孔部から吹き出され た空気は,周囲を流れる海水によってせん断され,気泡となって船底をなんべんなく覆いな がら,船尾に向かって流れていることを確認した。船速が遅いとせん断する力と気泡を押し 流す力が小さいため,気泡は周期的に固まりを形成して流れる。船速が速くなると固まりが 少なくなり気泡のまま流れていることが観測結果からわかった。
• 空気潤滑システム作動時のプロペラへの気泡流入状況をカメラによる映像で確認した。プロ ペラ後方の舵の付け根位置に,吹き出した気泡が船体表面に沿って流入している。この時,
プロペラディスク面へ大量の空気の流れ込みはないものの,プロペラ翼先端部へ掛かってい る気泡がプロペラ変動圧力や船体振動に及ぼす影響については以下に記すとおりであった。
• せん断力計測に関して,水中曳航体による船底観測時に,空気潤滑システム をOFF→ON
→OFFに切り替えた時のせん断力の時系列から,空気潤滑システムOFFの時,対水速度 の増加とともにせん断力が大きくなることが確認できた。その後,速度を維持した状態で空 気潤滑システムを作動すると,せん断力が低下することが確認された。
• 速力試験時のせん断力計測結果から,本船の局所摩擦抵抗は相当空気厚さが大きいほど小さ くなり,tb=7mmの時,空気潤滑システム非動作の抵抗値に対して最大50%程度減少する
ことを確認した。
• 相当空気厚さの増加に伴う摩擦抵抗低減効果に関して,今回実施した実船計測結果と日夏ら の50m長尺模型を用いた実験結果は良く一致していることを確認した。
• 速力試験時にプロペラ直上近傍の四箇所でプロペラ変動圧力の計測を行い,その平均値をプ ロペラ直上のプロペラ変動圧力とした。そして,空気潤滑システム作動時におけるプロペラ 変動圧力を,非作動時のプロペラ変動圧力の1次成分をベースとして相対比較し評価した。
結果は,空気潤滑システムを作動するとプロペラ変動圧力が増加し,プロペラ回転数の1次 成分に着目すると約1.8から2.6倍の増加となっていた。また,相当空気厚さが大きくなる ほど,変動圧力の増加量は小さくなっていた。
• 空気潤滑システム作動時の船体振動は,Upper Deckの船尾両端部において顕著な振動応答 の増加が確認されたが,ISO規制値を十分にクリアーしており問題ないレベルであった。ま た,船体振動応答はプロペラへの気泡流入による影響よりも,潮流や砕波から受ける影響が 大きいと考えられる。
第5章における結論は次のように要約される。
• 船尾船底傾斜部基点直後に長さ1m程度の範囲で局所摩擦抵抗低減効果の大きくなる領域が 現れる。この傾向は,傾斜角度が大きいほど,また相当空気膜厚が大きいほど低減効果が大 きい。本現象は,傾斜部起点付近の低圧部に気泡が溜まり,その部分が気膜状になるために 発生すると考えられる。気膜は,その後流側において,水とのせん断力により再び空気が引 きちぎられ気泡流になると予想される。
• ビルジコーナ部の摩擦抵抗低減効果は後流側になるほど小さくなる。ビルジコーナ部で気泡 が船側から離れて,壁面近傍の局所ボイド率が低くなるために,局所摩擦抵抗低減効果が小 さくなるためと考えられる。
第6章における結論は次のように要約される。
• 海上試運転において速力確認試験を実施して空気潤滑効果を検証した結果,主機出力の減少 分からブロワの消費電力を差し引いた正味の省エネルギー効果(Net)は約3.7 %であった。
• プロペラディスク面へ気泡の流入によってプロペラ変動圧力が出力の大きさにかかわらず約 1.4倍増加していた。一方,船体振動についてはいずれの計測場所においても低減しており,
空気潤滑による船体振動への悪影響はなく,むしろフェリーなどの乗客を運ぶ船にとっては 大きなメリットであると評価することができる。
• 本船の就航後に長期間の運航モニタリングを実施して,省エネルギー効果を検証した。シス テムを搭載していない同型姉妹船を比較対象として評価した結果, 正味の省エネルギー効 果(Net)は3.13 %となった。ただし,“フェリー波之上”はNOx規制対応の主機を搭載し ており,それに伴う燃費の悪化を補うのに十分な省エネルギー効果がある。
第7章における結論は次のように要約される。