1. 総説
FamFG
第99
条第1
項によれば,ドイツ裁判所は,第151
条第7
号に定める手続(精神病者の保 護収容に関する州法に基づく,未成年者の自由を剥奪する保護収容命令に関する手続)のほか,子が①ドイ ツ人であるとき(同第1文第1号),あるいは②ドイツ国内に常居所を有するとき(同第2号)には管 轄をもつ。また,ドイツ裁判所は,子がドイツ裁判所による保護措置を必要とする場合にも,管轄 をもつ(同第2文)。FamFG
第99
条第2
~第4
項は,ドイツ裁判所及び外国裁判所の双方が後見及び補佐(Pflegschaft
) について管轄をもつ場合の特則である。それによれば,①ドイツ裁判所と外国裁判所の競合管轄が 認められ,後見事件がすでに当該外国において係属している場合には,それが被後見人の利益にか200 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 228 et seq. 結局,扶養権利者と扶養義務者の双方がドイツに住所 をもつ場合にのみ,義務的な附帯処分の管轄が妥当する(FamFG第232条第1項第1号)。
201 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 98 FamFG, Rn. 106.
202Dieter Martiny, Die Kommissionsvorschläge für das Ehegüterrecht sowie für das Güterrecht eingetragener Partnerschaften, IPRax 2011.
203 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 231 et seq.
204 Staudinger/Spellenberg, op.cit., § 606a ZPO, Rn. 237参照。
なうかぎり,ドイツ裁判所は後見開始命令を下さない(同第2項)。また,②同じく競合管轄が認め られ,ドイツ国内ではすでに後見が行われているときには,ドイツ裁判所は,それが被後見人の利 益にかない,後見人が同意し,当該外国が後見の引継ぎをする意思を表示した場合には,当該外国 の裁判所に後見をゆだねることができる(同第3項)。③これらの規定は,補佐及び自由を奪う収容 措置にも準用される(同第4項)。以上の規定は,実効的な子の保護を図るために,内外裁判所の手 続を調整することを目的としている205。
2. 親子事件の適用範囲
(1) FamFGの事項的・人的適用範囲
FamFG
第99
条第1
項は,未成年者の身上監護又は財産管理,あるいはその代理に関する事件の国際裁判管轄について定めている。その者が未成年者であるか否かは,多数説によれば,法廷地 法であるドイツ法ではなく,
EGBGB
第7
条に従い,各人の本国法によって決定される206。ただし,常に法廷地法であるドイツ法に従って
18
歳を基準とする少数説もある207。また,胎児の保護もFamFG
第99
条第1
項の適用対象となる208。この規定にいう親子事件とは,具体的には,
FamFG
第151
条第1
から第6
号及び第8
号に定め る事項を指す。すなわち,①親権・監護権(親権・監護権の存否確認を含む)(第1号),②面接交流(第 2号),③子の引渡し(第3号),④後見(第4号),⑤補佐又はそれ以外の未成年者又は胎児の代理人 の指定(第5号),⑥子の自由を奪う収容措置(第6号),そして⑦少年裁判所法に基づく措置(第8 号)である。それに対して,精神病者の保護収容に関する州法に基づく未成年者の自由を剥奪する 保護収容命令(FamFG第151条第7号)は,公法上の収容措置であるため,明示的に適用除外されて いる(成年者についても同旨〔第104条第3項〕)。この場合には,ドイツ裁判所の国際裁判管轄は,FamFG
第105
条に従い,土地管轄ルールを準用することで導かれる。なお,成年者の世話人及び補佐人の選任及び事務の遂行,そして
EGBGB
第24
条第3
項に基づ く外国法上の成年者の後見(ドイツ実質法上は存在しない制度)の実行に関する国際裁判管轄は,FamFG
第104
条によって決定される209。(2) EU規則及び条約との適用関係
FamFG
第99
条第1
項が規定する親子事件については,以下のEU
規則及び条約が優先的に適用される。すなわち,①ブリュッセル
IIbis
規則,②1980
年ハーグ子奪取条約,③1961
年ハーグ未 成年者保護条約,④1996
年ハーグ子の保護条約,⑤1902
年ハーグ後見条約,⑥オーストリア,ポー205 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 1 et seq.
206 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 3; Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 1.
207 Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 1.
208 Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 4.
209 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 4 et seq.
ランド,スペイン,ロシアとの二国間条約である。ここでは,特に重要度の高い①~④と
FamFG
第99
条第1
項の適用関係のみ紹介する。(a) 1980年子奪取条約
1980
年子奪取条約は,ブリュッセルIIbis
規則によっても適用除外されず,同規則第11
条によって補充されるに過ぎない。もとより子の返還手続を行う奪取先の国は,子の監護権に関する国際 裁判管轄をもたず,あくまで子の返還について決定できるに過ぎない。
(b) ブリュッセルIIbis規則
ブリュッセル
IIbis
規則第8
条以下は,親責任に関する国際裁判管轄を定めている。ブリュッセ ルIIbis
規則の事項的適用範囲となる親責任は,EU
法上の拡大解釈によれば,1996
年子の保護条約 第1
条a
号に定める保護措置の概念に相当し,同条約第3
及び第4
条において詳細に定義されてい る210。そこで,ブリュッセルIIbis
規則は,上述のFamFG
第151
条第1
号から第6
号に掲げる事項 については,FamFG
第99
条第1
項に優先して適用されるが,FamFG
第151
条第8
号に関する事項(少年裁判法上の措置)については,ブリュッセル
IIbis
規則の適用対象外となるため,FamFG
第99
条第1
項が適用される211。また,胎児の保護についても,ブリュッセルIIbis
規則は適用されないた め(同規則第2条第7から第11号参照),FamFG
第99
条第1
項による212。ブリュッセル
IIbis
規則の場所的適用範囲については,EU
構成国(デンマークを除く)のいずれ かに常居所をもつ子が対象となる。ブリュッセルIIbis
規則においては,人的適用範囲を定義してい ないが,1996
年子の保護条約第2
条と同様に,18
歳未満の者を指すと解される213。この点は,FamFG
第99
条第1
項の対象となる子の定義がその本国法にゆだねられているのと異なる。そこで,18歳 以上の者が本国法はまだ未成年である場合には(EGBGB第7条:18歳又は19歳の日本人など),EU 構成国に常居所をもっていても,その親権・監護権等に関する親子事件の国際裁判管轄は,FamFG 第99
条第1
項によって決定される214。210 1996年条約第3条及び第4条は,次のように定めている。
第3条「第1条の措置は,特に以下の事項に関するものとする。
a 親責任の帰属,行使,終了又は制限及び委任,b 子の身上保護に関連する権利特に子の居所指定権を含む 子の監督保護権及び子の常居所地以外の地に限定された期間子を連れていく権利を含む面接交渉権,c 後見,
補佐及びこれらに類似の制度,d 子の身上監護,財産管理,代理又は補佐の任にあたる者若しくは機関の任命 及び権限,e 受け入れ家族若しくは施設への付託又はカファーラ(筆者注;イスラム教国法上の付託制度)若 しくは類似の制度による監督保護,f 子の監督保護の任にあたる者に対する公的な監督,g 子の財産の管理,
保全又は処分」。
第4条「本条約は以下の事項には適用されない。
a 親子関係の成立又は係争,b 養子縁組に関する決定,養子縁組の準備段階の措置又は養子縁組の無効若し くは取消,c 子の氏名,d 親権解放(emancipation),e 扶養義務,f 信託又は相続,g 社会保障,h 教育 又は保健に関する一般的な公的措置,i 子の刑事法上の行為の結果として執られる措置,j 庇護権及び入国に 関する決定」。
211 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 13.
212 Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 2.
213 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 14; Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 1.
214 Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 1.
ブリュッセル
IIbis
規則が適用される場合には,その第8
条以下の規定によって親責任事件の国 際裁判管轄が決定され,FamFG
第99
条第1
項の適用は除外される。ブリュッセルIIbis
規則第8
条 によっていずれの構成国も管轄をもたず(ブリュッセルIIbis規則第14条),また1961
年条約又は1996
年条約によっても締約国が管轄をもたない場合にのみ,FamFG第99
条第1
項が適用されうる215。 なお,ブリュッセルIIbis
規則は,国際裁判管轄しか決定しないため,ドイツ国内の土地管轄は常にFamFG
第152
条によって決定される216。(c) 1961年ハーグ未成年者保護条約及び1996年ハーグ子の保護条約
ブリュッセル
IIbis
規則は,原則として,1961
年未成年者保護条約よりも優先して適用される。もっとも,次の場合には,ドイツ裁判所の国際裁判管轄は
1961
年条約に従って決定される。すなわ ち,①子がEU
構成国以外の1961
年条約締約国に常居所をもつ場合,あるいは②子がEU
構成国に 常居所をもつが,EU
構成国以外の1961
年条約締約国の国籍をもつ場合(EU域内の関係にとどまらな いため:ブリュッセルIIbis規則第60条a号参照)である。それに対して,1996
年子の保護条約の適用 は,子の常居所がEU
構成国内にあるかぎり,端的にブリュッセルIIbis
規則によって除外される217。 なお,1996
年条約は,2011
年1
月1
日にドイツについて発効しており,1996
年条約と1961
年条約 双方の締約国である国との関係では,前者が後者に代わって適用される。ブリュッセル
IIbis
規則及び両ハーグ条約が適用されない場合には,FamFG
第99
条第1
項によ ってドイツ裁判所の管轄が決定される218。3. 親子事件の国際裁判管轄の決定
FamFG
第99
条第1
項は,3つの管轄原因を定めている。すなわち,①子がドイツ人であること(同第1文第1号),②子がドイツ国内に常居所をもつこと(同第2号),あるいは③子がドイツ裁 判所による保護措置を必要とすること(同第2文)である。従前の
EGBGB
第23
条は,本国が保護 措置を取らない場合にのみ他の管轄原因を認めており219,管轄原因相互間に順位があったが,現在 ではこの要件は削除されており,①から③の管轄原因は同等の選択的な管轄原因となっている220。 成年者の保護に関するFamFG
第104
条第1
項も,ほぼ同第99
条第1
項と一致した規定を採用している。
FamFG
第99
条が適用され,ドイツの国際裁判管轄が肯定される場合には,その土地管轄はFamFG
第152
条によって決定される221。215 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 15.
216 Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 2.
217 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 16 et seq.
218 Zöller/Geimer, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 5.
219 法例24条2項,法の適用に関する通則法第35条第2項参照。
220 Staudinger/von Hein, op.cit., Art. 24 EGBGB, Rn. 102.
221 Staudinger/von Hein, op.cit., Art. 24 EGBGB, Rn. 104. フォン・ハインは,訴訟経済に従って国際裁判管轄と国内 土地管轄のいずれを先に審査するかを決定するとし,特に順序は決められていないという。