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1. 婚姻の成立

ドイツ法上は,義務的な民事婚制度が採用されており,両当事者の合意と身分登録局への届出 によって婚姻が成立する410。婚姻年齢に達していない者の婚姻(BGB1303条:16歳の者と18歳以 上の成年者であること)及び婚姻障碍のある婚姻(BGB1306~第1308条:重婚;近親婚;縁組親族との 婚姻禁止〔ただし,家庭裁判所の許可を得て婚姻しうる〕)は,取り消されうる(aufheben)。婚姻におけ る意思表示の瑕疵(錯誤,詐欺,強迫など)も婚姻の取消原因となる(BGB1314条第2)。婚姻の 取消しは,家庭裁判所の裁判によって婚姻関係を現時点から解消する(BGB1313条第1411

婚姻取消手続は,家庭裁判所によって行われる(FamFG111条第1項,121条第2)。手続は,

申立てによって開始され,申立権者は実体法上の規定によって決定される(BGB1316)。一方配 偶者が申立人となる場合には,他方配偶者が相手方となる。それに対して,行政機関が申立てをす る場合,あるいは重婚について第三者が申立てをする場合には,夫婦双方が相手方となる。婚姻は,

婚姻取消裁判が確定することで解消される(BGB1313条第2)。婚姻取消原因は,法律上限定列 挙されている(BGB1313条第3)。

婚姻が取り消されると,現時点から婚姻関係が解消され,当事者は再婚することが可能になる。

遡及効は認められないのが原則である。ただし,婚姻挙行時に重大な婚姻取消事由が存することを 知っていた配偶者は,BGB第

1913

条による生存配偶者の相続権を失う(BGB1318条第5)。婚 姻取消しに伴い,原則として年金分割及び婚姻住居・家財の分配が行われ,また一定の場合には,

婚姻取消後も当事者間で扶養請求が認められる。夫婦間の未成年者の親権については,離婚の場合

409 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 110 FamFG, Rn. 13 et seq.

410 従来は,教会での挙式を行うには,事前に有効な民事婚が成立していることが要件であったが(Verbot der

kirchlichen Voraustrauung200911日以降はこの原則が廃止されている。それによって,理論的には,民事

婚と教会法上の婚姻が並立し,宗教上だけ有効で民事上の効力をもたない婚姻がなされうることとなった。も っとも,プロテスタント教会は,従前と同じく事前の民事婚を教会での挙式の要件としており,カトリック教 会は,例外的に司教の許可を得た場合にのみ,事前の民事婚なしに教会で挙式しうる扱いとなっている。Dieter Schwab, Familienrecht, 19. Aufl., München 2011, S. 30.

411 Schwab, op.cit., S. 39 et seq.

と同じく共同親権が存続するのが原則であり,父母の別居後,申立てがあって初めて単独親権への 転換が行われうる(後述B参照)。

2. 婚姻の効力

婚姻をすることで,夫婦は,婚姻共同体を共に形成する義務を負う。具体的には,同居,共同 生活に関する配慮(家事,子の監護,自由時間の過ごし方など),家財道具及び婚姻住居の共同占有,夫 婦相互の援助(配偶者の自殺の予防など),夫婦相互の配慮(信教及び職業選択の尊重,信書の秘密の尊重,

自宅での隠しマイクによる録音の禁止など),そして夫婦の同権が包括される。これらの義務の違反があ っても,履行請求できず(BGB1353条第2項:婚姻生活の実現を命ずる裁判は執行力をもたない〔FamFG 120条第3項〕),一定の場合に損害賠償請求が認められるに過ぎない412。氏については,夫婦は婚 姻後も従前の氏を維持できるほか,一方配偶者の氏を共通の氏とすること,あるいは一方配偶者の 氏を共通の氏としたうえで,他方配偶者が自分の氏をその前又は後に付加すること(ダブルネーム:

子には引き継がれない)が認められている(BGB1355413

夫婦は,相互に扶養する義務を負う。扶養は,労働(特に家事労働,子の監護,勤労による収入) 及び財産によって行われる。日常家事債務は,①それが性質上,生活に必要な行為であること,② 家族の必要に応えるものであること,そして③その手段が適切であること(家族の経済状態及び生活 習慣に則していること)という三要件をメルクマールとする(BGB1357)。日常家事債務について は,夫婦は連帯債務を負うが,判例法上,財産を取得しても共有にはならない414

3. 夫婦財産制

法定の夫婦財産制は,いわゆる剰余共同制(Zugewinngemeinschaft)である。ただし,家族関係 の多様性に鑑みて,当事者には,夫婦財産契約を締結することで,別産制(Gütertrennung)又は共 同制(Gütergemeinschaft)を選択することが認められている(後二者を合わせて選択的夫婦財産制と 呼んでいる)415

別産制(BGB1414)は,夫婦が婚姻中に取得する財産は各人に帰属し,各人が管理するも ので,婚姻に基づく処分又は債務負担の制限等はない。婚姻関係を解消する際にも,財産分与は行 われないが,年金分割請求だけは,明示的な合意によって排除されていないかぎり行われる。ただ し,上記の婚姻関係の効力として生ずる婚姻共同体を形成する義務,扶養義務,日常家事債務の連 帯責任という効力は,別産制においても発生するほか,婚姻中の支出(

Zuwendungen

)については 婚姻解消時に分割請求が認められる416

412 Schwab, op.cit., S. 52 et seq.

413 Schwab, op.cit., S. 89 et seq.

414 Schwab, op.cit., S. 75 et seq.

415 Schwab, op.cit., S. 95.

416詳細は,Schwab, op.cit., S. 96 et seq.

反対に,共同制(BGB1415~第1518)においては,夫婦が婚姻前に有していた財産も婚姻 中に取得する財産もすべて両者の合有となる。特段の合意のないかぎり,夫婦は財産全体について 同一の権利をもち,義務を負う。一方配偶者は,財産全体又は個々の財産に対する持分を処分する ことはできない。ただし,法律行為によって譲渡できない特別財産(Sondergut),あるいは夫婦財産 契約又は第三者の終意処分において定められた留保財産(Vorbehaltsgut)については別扱いとなる。

夫婦の共通財産は共同管理され,各配偶者の債務については共通財産及びその者の個人財産が引き 当てとなるほか,原則として他方配偶者の個人財産も引き当てとなる417

法定の夫婦財産制である剰余共同制は,夫婦が婚姻中に取得する財産には両者の貢献があった と見るものである。しかし,フランス法系の法定財産制である後得財産共有制(Errungenschaftsge-

meinschaft)とは異なり,剰余共同制においては,従前の各人の財産及び剰余共同制が開始した後に

各人が取得した財産は,各人の単独所有とされる。財産管理は,各人が行うが,他方配偶者の保護 のため,一定の債務及び処分の制限が定められている(一方配偶者が自己の財産全体を処分する場合又 はそのような債務を負う又は履行する行為,家財道具を処分する行為等は,他方配偶者の同意を要件とする)。 婚姻中に取得した財産に対する夫婦相互の関与は,剰余共同制の解消時に顕在化する。一方配偶者 の死亡による剰余共同制の解消の場合であって,他方配偶者が相続人又は受贈者であるときには,

相続分の増加(BGB1371)によって両者の財産が調整される。それに対して,

(i)

離婚,

(ii)

婚姻 取消し,

(iii)

夫婦財産契約による剰余共同制の終了,

(iv)

一方配偶者が死亡したが他方配偶者が相続 人でも受贈者でもない場合,あるいは

(v)

剰余共同制の早期の解消の場合には,取得財産が少ない配 偶者が他方配偶者に対して債務法上の財産分割請求(BGB1363条第2項第2文,第1378)をする ことで,調整される418

夫婦は,夫婦財産契約によって,特に以下の合意をすることができる。すなわち,①選択的夫 婦財産制としての別産制又は共同制を選択すること,②婚姻後に法定夫婦財産制又は選択された夫 婦財産制を変更すること,③単に法定夫婦財産制を排除すること又は事後的に取り消すこと(代わ りに別産制による),④法定財産制における分割請求権だけを排除すること(代わりに別産制による),

⑤夫婦財産制に関する個別の規定を変更又は補充すること,⑥他方配偶者に自己の財産の管理をゆ だねることである419

4. 離婚

(1) 離婚要件

離婚については,裁判離婚主義がとられており(BGB1564),

1977

年の離婚法改正以来,

積極的破綻主義によっている。離婚のみならず,離婚の効果についても,配偶者の有責性は問題と

417 Schwab, op.cit., S. 101 et seq.

418 Schwab, op.cit., S. 103 et seq., 122 et seq.

419 Schwab, op.cit., S. 104 et seq.

されない。離婚原因は,「婚姻関係が破綻していること」,すなわち夫婦の婚姻生活がもはや存在せ ず,その回復も期待できないことだけである(BGB1565条第1)。

家庭裁判所が婚姻関係の破綻の認定に当たって,夫婦のプライバシーに立ち入るのを避けるた め,反証を許さない形で破綻を推定する規定が置かれている。それによれば,①夫婦が

1

年以上別 居しており,両者が離婚を申し立てる又は相手方が離婚に同意する場合(BGB1566条第1),あ るいは②夫婦が

3

年以上別居している場合(同第2)には,反証を許さない形で破綻が推定される。

夫婦が別居を開始してから

1

年経過していない場合には,申立人にとって婚姻の継続が耐え難い場 合(重大な暴力行為,重大な扶養義務の不履行など)にのみ離婚が認められる(BGB1565条第2420

それに対して,婚姻関係が破綻している場合にも,相手方は婚姻関係の継続に強い関心をもつ ことがある(離婚によって相手方配偶者の精神病が悪化すると予想される場合,夫の事業のために献身的に尽 くしてきた妻が離婚によって不利益を被る場合など)。また,子の利益に鑑みれば,むしろ破綻していて も婚姻関係を継続するのが望ましいこともありうる(特に離婚によって子の家庭環境,教育環境,精神状 態,あるいは経済状態が大きく悪化し,子の福祉が損なわれる場合がそれに当たる)。このような場合に対応 するため,

BGB

は過酷条項(BGB1568)を設けており,婚姻関係が破綻していても,例外的に 離婚申立てを棄却することを認めている421

(2) 離婚の効果

(a) 扶養義務

離婚後は,各配偶者は自己の費用で生活するのが原則であるが,例外的にそれができない配偶 者は,BGB第

1570~第 1576

条のいずれかの規定に該当する場合には,他方配偶者に対して扶養請 求をすることができる(BGB1569)。この場合には,申立人配偶者は,BGB第

1570~第 1576

条のいずれかの要件事実の存在を主張・立証しなければならない422

(b) 年金分割請求

年金分割請求は,

1976

年から存在するが,当初の制度においては実態に合わない高額の支払い が命じられることがあり,憲法問題となった。2009年改正によって423,重要な規定は

BGB

から特 別法である「年金分割に関する法律」(

Gesetz über den Vorsorgungsausgleich [VersAusglG]

)に移行して いる。それに伴い,年金分割の算定基準も変更されており,各配偶者が婚姻期間中に得た年金期待 権を合算し,それを清算するのではなく,各配偶者が相互に相手方配偶者が婚姻期間中に得た年金 の基礎となる価値の半分を取得すること,すなわち両者が年金期待権を取得したのであれば,相互

420 Schwab, op.cit., S. 154 et seq.

421 Schwab, op.cit., S. 159 et seq.

422 Schwab, op.cit., S. 173 et seq.

423 Gesetz zur Strukturreform des Versorgungsausgleichs vom 3.4.2009, BGBl. I S. 700.