1. 血縁上の親子関係の成立 (1) 総説
ドイツにおいては,
1997
年親子法改正以来,嫡出子と非嫡出子の区別が撤廃され,統一的な親 子法となっている。ただし,父母が婚姻しているか否かの区別は,全く意味を失ったわけではなく,一定範囲で親子関係の成否の基準とされる。
(2) 母子関係
子の母は,子を分娩した者であると定義されており(BGB第1591条),母子関係については事 実主義がとられている。
BGB
第1591
条は,1997
年親子法改正によって導入されたもので,生殖補 助医療の発展に伴い法的な母子関係を定義する必要が生じてきたことによる。この規定によって,母となるのは分娩した者だけであり,卵子提供者ではないことが示されている425。
424 Schwab, op.cit., S. 219 et seq.
425 Schwab, op.cit., S. 252 et seq.
(3) 父子関係の成立
それに対して,子の父は,①子の出生当時に子の母と婚姻していた者(BGB第1592条第1号),
②認知をした者(同第2号),あるいは③BGB第
1600d
条又はFamFG
第182
条第1
項(裁判所による 父子関係の確定)によって父とされた者である。父母が婚姻関係にない場合には,認知主義がとられ ており,父による認知があって初めて父子関係が成立する(認知については,BGB第1594条以下)。も っとも,①及び②に基づく父子関係は,裁判手続を経て父子関係が否認されれば覆る(BGB第1599 条第1項及び第1600条以下)。(4) 父子関係の否認
父子関係の否認を申し立てることができるのは,
(i)法律上の父(
子の母との婚姻又は認知によって 父であると推定されている者),(ii)母,(iii)子, (iv)事実上の父,そして(v)認知に基づく父子関係を否認
する権限をもつ行政当局である(BGB第1600条第1項)。これらの否認権者は限定列挙であり,それ 以外の者は対象にならない。(i)
~(iii)
による否認には,特段の要件が付加されていないのに対して,(iv)
事実上の父による否認は,その者が受胎時に母と同衾していたと宣誓すること,そして子と法律 上の父との間に「社会的な家族関係」(法律上の父が基準時において子に対する事実上の責任を負っている 又は負っていたこと)が存しないことも要件としている(BGB第1600条第1項第2号及び第2項)。(v)
による父子関係の否認は,偽装認知に対応するために2008
年に導入されたものである426。父子関係を早期に確定させ,身分関係の安定を図るため,父子関係の否認には,原則として,
父子関係を疑わしめる事情を知った時点から
2
年間の出訴期限が設けられている(BGB第1600b条第 1項:(v)については1年)。ただし,子については,未成年の間に法定代理人が適切に否認権を行使し ないこともありうるため,成人後,父子関係を疑わしめる事情を知った時点から2
年以内に自ら否 認権を行使しうるとされている(同第3項)。また,父子関係の維持を期待できない事情が生じた場 合には(母の夫が母を殺害しようとしたと事後的に知った場合など),子の否認権は復活し,その時点か ら2
年間の出訴期限にかかる(同第4項)427。父子関係の否認の申立てが認容されれば,遡及効をもって(婚姻子の場合には出生時に,非婚子の 場合には認知時に遡って)父子関係が否認される。父子関係を否認する決定が確定すれば,対世効を もつ(FamFG第184条第2項)。
(5) 父子関係の確定
法律上の原因によればまだ父子関係が成立していない場合には,家庭裁判所の決定によって父 子関係を確定することができる(BGB第1600d条第1項)。申立権者は,法律上明記されていないが,
制度趣旨に照らせば,子,母,そして父本人である。子が生物学上,当事者の男性から生まれたと 解される場合には,申立てが認容される。父子関係の確定を容易にするため,子の母と同衾してい
426 Schwab, op.cit., S. 253 et seq.
427 Schwab, op.cit., S. 264.
た男性が父であると推定される。ただし,反証を挙げれば,その推定を覆すことができる(BGB 第
1600d条第2項)428。父子関係の確定を認容する決定が確定すれば,対世効をもつ。
2. 親権 (1) 親権の内容
親権(elterliche Sorge)は,身上監護と財産管理からなる(BGB第1626条第1項)。
身上監護は,子の世話をし,子を教育し,子を監督し,子の居所を決定する義務と権利を包括 する(BGB第1631条第1項)。親は,身上監護のために法定代理権,子の居所指定権,子の引渡請求 権,面会交流決定権などの法的権限をもつ(BGB第1633条)。子の氏の決定も身上監護に属する。父 母が婚姻しており,共通の氏をもっていれば,子は自動的にその氏を取得するが(BGB第1616条), それ以外の場合に共同親権をもつ親が別の氏を称している場合には,父母の合意によって氏を決定 し,父母の合意がなければ,家庭裁判所が父母の一方に氏の決定権を付与する(BGB第1617条)。
財産管理の目的は,第一義的には,子の利益のために財産を維持し,増加させ,処分すること にある。親権者は,財産管理のための法定代理権をもつが,子に不利益を及ぼす管理処分,リスク のある管理処分,あるいは特に重要な管理処分を行うには,家庭裁判所の許可を得なければならな い(BGB第1643条)。
(2) 親権の帰属
ドイツ民法上,子の出生時点で父母が婚姻していれば,法律に基づいて自動的に共同親権とな
る(BGB第1626a条第1項の反対解釈:婚姻に基づく共同親権)。また,父母が子の出生時に婚姻してい
なくても,両者が「親権宣言」(Sorgeerklärung)をすれば,共同親権者となる(BGB第1626a条第1項 第1号:意思表示に基づく共同親権)。親権宣言は,親の自己決定権の尊重を基礎とするため,父母の 意思表示だけで成立し,家庭裁判所による審査(親権宣言が子の福祉にかなうか否か)や子の同意は要 件とされていない。また,父母の同居も要件ではない429。
共同親権をもつ父母の別居又は離婚後も,一方親が家庭裁判所に単独親権への変更又は親権の 一部移転を申し立てないかぎり,法律上の効果として共同親権が存続する(BGB第1671条第1項)。 単独親権への変更又は親権の一部移転は,他方の親権者が同意したとき(同条第2項第1号),あるい は家庭裁判所がそれが子の福祉に最もかなうと判断したとき(同条第2項第2号),認容される。
父母が子の出生時点で未婚であり,「親権宣言」もしていない場合には,母の単独親権となる
(BGB第1626a条第2項)(母子関係に基づく単独親権)。そして,父母が事後的に婚姻すれば,婚姻の
時点から法律に基づいて共同親権に切り替わる(同条第1項第2号)。それ以外の場合には,父は,母 の同意がなければ子を認知できず(BGB第1595条第1項),親権宣言をして共同親権を取得すること もできないと定められていた(BGB第1626a条第1項第1号)。また,父は,母との別居後も,母の同
428 Schwab, op.cit., S. 268 et seq.
429 Gernhuber/Coester-Waltjen, Familienrecht, 5. Aufl., München 2006, S. 704.
意に基づいて家庭裁判所に親権の全部又は一部移転の申立てをし,それが子の福祉にかなうと判断 されて初めて,共同又は単独親権を取得することとされていた(BGB第1672条第1項)。この母の「拒 否権(Vetorecht)」は,現在では違憲であるとされており430,法改正が待たれている。
(3) 親権の行使
単独親権者である親は,子の身上監護及び財産管理に関する事項について単独で決定する。他 方の親は,たとえ子との面接権をもっていたとしても,親権に関する事項には干渉できない。それ に対して,父母が共同親権を行使する場合には,両者が同等の権利を有し義務を負い,自己の(た だし共通の)責任において,相互の合意に基づいて子の福祉のために親権を行使する(BGB第1627 条第1文)。父母が合意に達しないときには,特定の事項に関する決定権を付与するよう家庭裁判所 に求めることができる(BGB第1628条)。ただし,共同親権者は,緊急の場合には各々単独で代理権 を行使できる(BGB第1629条第1項第4文)。
父母の別居又は離婚後に共同親権を行使する際には,父母は「重要事項」については合意する 必要があるが,それ以外の「日常生活に関する事項」については,子と同居している親が単独で決 定する権限をもつ(BGB1687条第1項・第2項:「共同親権の分割」)。
(4) 親権の停止及び取り上げ
親が行為無能力であれば,親権は停止する(BGB第1673条第1項)。親が制限行為能力者である ときも親権は停止し(BGB第1673条第2項第1文),親は子の法定代理人とともに身上監護権をもつ が,代理権はもたない(同第2文)。共同親権者の一方が,事実上の障碍によって親権を行使できな い又は親権が停止している場合に,他方の親が親権を行使できるときには,その親が単独で行使す る(BGB第1678条第1項)。
親権が本来の機能を果たしておらず,子の福祉が危険にさらされている場合には,家庭裁判所 は,親権を全面的又は部分的に取り上げ,子を保護することができる(BGB第1666条~第1667条)。 親権が全面的に取り上げられ,他方親が代わりに親権を行使し得ない場合には,後見人が選任され る。また,親権が部分的に取り上げられた場合には,補佐人が選任される431。
430 ドイツ連邦憲法裁判所の2003年1月29日決定(BVerfG vom 29.1.2003, FamRZ 2003, 285)は,BGB第1626a 条第1項第1号及び第1672条第1項を合憲としたが,欧州人権裁判所は,2009年12月3日判決(European Court of Justice, Judgment of 3.12.2009, Zaunegger v. Germany (Application No. 22028/04))においてドイツには欧州人権条 約違反があったとした。それを受けて,ドイツ連邦憲法裁判所も2010年7月21日(BVerfG vom 21.7.2010, FamRZ
2010, 1403)に判例変更をし,BGB第1626a条第1項第1号及び第1672条第1項はドイツ基本法第6条第2項
に定める親の権利を侵害するものであり,違憲であるとした。
431以上の点については,西谷祐子「ドイツにおける児童虐待への対応と親権制度」民商法雑誌141巻6号545 頁以下,142巻1号1頁以下(2010年)参照。