• 検索結果がありません。

1. 総説

ドイツ国内法上,外国裁判は,承認要件を満たすかぎり(FamFG109),特別の手続を要す ることなく自動承認されるのが原則である(FamFG108)。もっとも,そうすると外国裁判が承 認要件を具備しているか否かは,ドイツ国内において司法機関や行政機関が各々独自に判断するた め,場合によってはその判断が食い違い,国内での判決調和(

Entscheidungseinklang

)が達成されな いこともある。特に重要な身分関係である婚姻事件(離婚,別居,婚姻取消しほか)については,国内 での判決不調和は望ましくない。そこで,立法者は,

1941

年に行政機関による形式的な承認確認手 続を導入しており,

1962

年には

FamRÄndG

7

条第

1

項,

2008

年には

FamFG

107

条に引き継が れ,現在に至っている。この承認確認手続は,安価かつ迅速で,専門性が高いメリットがあるとさ れる366。なお,州によっては州上級裁判所に移管されている(FamFG107条第3項参照)。州法務局 が申立てを棄却した場合には,

FamFG

63

条及び第

107

条第

5

項に従い,

1

ヶ月以内に州上級裁判

364 Verschollenheitsgesetz vom 1.1.1964, zuletzt geändert durch das Gesetz vom 27.6.2000, BGBl. I S. 897.

365 Staudinger/Weick, Berlin 2007, Art. 9 EGBGB, Rn. 41.

366 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 1 et seq.

所に異議申立てをすることができる。立法者は,それによって州法務局の決定が既判力をもち,法 的安定性に資することを企図している。また,州上級裁判所の決定については,

FamFG

70

条以 下の規定に従い,法律審への上告(FamFG70条以下)も認められる367

FamFG

107

条は,本来,

司法機関が行うべき職務を行政機関にゆだねるもので,違憲であり(GG36892),欧州人権条約369

6

条第

1

項及び

EU

人権憲章370

47

条第

2

項にも違反するという見解もある371

2. 適用範囲

(1) 事項的適用範囲

承認確認手続の事項的適用範囲は,異性間の婚姻事件に限られる。婚姻していた配偶者の一方 が外国で離婚し,ドイツにおいて登録パートナーシップを締結することを望んでいる場合にも,外 国離婚判決の承認確認手続が行われうる。それに対して,登録パートナーシップを解消する外国裁 判は,承認確認手続の対象にならないと解されている372。しかし,そうなると登録パートナーシッ プを解消する外国裁判の承認の可否が個別の事件に附帯して判断されるため,国内での判決調和が 達成されず,跛行婚が生じうることになり,立法論的には批判がある373

(2) 場所的適用範囲

承認確認手続の場所的適用範囲については,

EU

構成国(デンマークを除く)が下した婚姻事件 の裁判の承認に関するかぎり,ブリュッセル

IIbis

規則が優先して適用される。しかも,ブリュッセ

IIbis

規則は,承認について間接管轄を要件としておらず,構成国が同規則の管轄ルール又は国内

法上の管轄ルールのいずれを適用した場合にも同規則に基づいて承認される構造をとっている。ブ リュッセル

IIbis

規則は,自動承認制度をとっており,州法務局の承認確認手続なしに他の事件に附 帯して承認要件が審査される。当事者は,外国裁判の承認要件の存否確認を求めることもできる( リュッセルIIbis規則第21条第3)(土地管轄は集中されている〔IntFamRVG12条〕374

367 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 5 et seq.; Zöller/Geimer, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 2. 従前は,州上 級裁判所への1ヶ月の控訴期限が設けられておらず,法律審への上告は認められていなかった。

368 Grundgesetz für die Bundesrepublik Deutschland vom 23.5.1949.

369 Europäische Konvention zum Schutze der Menschenrechte und Grundfreiheiten vom 4.11.1950.

370 Charta der Grundrechte der Europäischen Union, ABl.EU 2010, Nr. C 83/389.

371 Zöller/Geimer, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 3.

372従前のFamRÄndG7条第1項については,それを登録パートナーシップを解消する外国裁判に類推適用す

るか否か争われていたが,2008年にFamFG立法者がFamFG107条では婚姻事件しか対象とせず,登録パー トナーシップを明記しなかった以上は,後者が排除されると解釈されている。

373 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 3 et seq.

374 婚姻事件の外国裁判の承認に適用される多国間条約はない。ドイツと他のEU構成国との二国間条約につい ては,ブリュッセルIIbis規則に劣後し適用されない。ドイツとスイス及びチュニジアの二国間条約は適用され るが,優遇原則に従い,FamFG107条も補充的に適用されうる。

3. 承認確認手続

州法務局は,承認確認手続を専権的に行い(

Monopolisierung

),

FamFG

109

条に定める承認 要件が具備されているか否かを決定する。州法務局の専権性のため,裁判所や行政機関(身分登録局 又は税務局など)は,婚姻事件に関する外国裁判の承認について州法務局の判断を先取りする形で

(vorgreiflich)判断してはならない。それゆえ,裁判所は,外国裁判の承認要件の存否確認,あるい はその婚姻関係自体の存否確認をすることはできず,州法務局が判断をするまでは,外国裁判の有 効又は無効のいずれも前提とはできない。婚姻事件の外国裁判の承認の可否が,親子事件や扶養事 件等の先決問題として争われる場合にも(外国において裁判離婚した元妻が元夫に対して扶養料支払いを 請求する場合など),裁判所は,附帯して婚姻事件に関する外国裁判の承認の可否を判断することはで きない。さらに,州法務局の決定が下される前に,外国裁判と同じ訴訟物についてドイツで訴えが 提起された場合,外国裁判が承認されれば消極的訴訟要件となるが,その点を裁判所が判断するこ ともできない。これらの場合には,裁判所は職権で裁判手続を中止し,当事者に

FamFG

107

条第

1

項の承認確認手続を行う機会を与え,州法務局の判断を待たなければならない。これは,州法務 局の承認確認手続が手続の障碍となることを意味する375

それに対して,裁判所の判断が州法務局の判断の先取りには当たらない場合,たとえば外国で 離婚判決の対象となった婚姻がドイツ法からみると無効であった場合などには,州法務局の判断を 仰ぐために手続を中止する必要はない。また,ドイツ裁判所は,外国裁判所との訴訟競合のケース において,将来の外国裁判の承認可能性を自ら判断することができる376。保全処分を命ずることも 妨げられない377

4. 承認の対象 (1) 外国裁判

FamFG

107

条は,婚姻の無効又は取消し,離婚,別居,そして婚姻関係存否確認に関する裁

判を承認対象としている。FamFG第

107

条は,外国法上の諸種の制度に対応するために第

98

条の 婚姻事件よりも詳細なリストを掲げているが,FamFG第

98

条も準拠外国法上の(ドイツ法が知らな )制度に合わせて手続を行うことを前提としているため,両者の射程は基本的に一致する378

FamFG

107

条の適用対象となるのは,第一に,外国の司法機関,行政機関その他の国家機関,

あるいは国家元首が行った婚姻事件に関する裁判又は決定である。外国公的機関による裁判又は決 定は,機能的にみて外国裁判に該当し,当該国において形式的既判力を備えており,

FamFG

109

条の要件を具備する場合には承認される。宗教裁判所が行った判断は,当該国において直ちに民事 上の効力をもつ場合には,端的にドイツ州法務局承認の対象となるが,民事上の効力をもつために 国家機関による承認手続が必要とされる場合には,後者の承認決定がドイツ州法務局による承認の

375 Zöller/Geimer, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 6 et seq.

376 Zöller/Geimer, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 35.

377 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 12 et seq., 17 et seq.

378 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 22.

対象となる。当該外国において,婚姻事件の裁判が効力をもつために身分登録簿への創設的登録が 要件となっている場合には,登録がなされて初めて州法務局の承認確認決定が下されるが,承認の 対象はあくまで外国裁判であり,その創設的登録ではない379

外国における請求棄却裁判は,

FamFG

107

条の適用対象とはならない。ただし,請求棄却裁 判が婚姻関係の存否確認に既判力を与える場合には,承認の対象となる。それに対して,①婚姻生 活共同体の回復を命ずる裁判,②一方配偶者に法律行為による離婚に応ずるよう命じる裁判(ユダ ヤ法上のゲット離婚との関係で,夫が妻にゲット〔離婚証書〕を手渡すよう命ずる裁判が下される場合など380), そして③先決問題としてのみ婚姻の存在を確認する裁判などは,

FamFG

107

条による承認の対象 とならない381

(2) 法律行為による離婚

外国において行われた法律行為による離婚,たとえば外国で行われた協議離婚,タラーク離婚

イスラーム法),ゲット離婚(ユダヤ法)等もドイツにおいて承認されうる。ただし,

FamFG

107

条による州法務局の専権性が妥当するのは,外国での離婚において公的機関が関与した場合に限ら れる。多数説及び判例によれば,何らかの形で外国の公的機関が関わっていれば足り,創設的では なく,確認的な関与(記録や登録など)でも足りると解されている。他方,公的機関が全く関与しな い純粋な法律行為による離婚の承認には,州法務局の承認確認手続は必要とされない382

州法務局は,承認確認手続において承認要件の具備を審査するが,承認要件は,ドイツ国際私 法の体系上,わが国と同じく,外国において公的機関が公権的判断を下した場合と,私人の法律行 為によって法律関係が創設された場合で区別される383。前者の外国裁判については,FamFG第

109

条に従い,その既判力等の訴訟法上の効力が承認される。それに対して,外国で法律行為によって 身分関係が創設された場合には,ドイツ国際私法が指定する準拠法に照らして,実体法上の効力が 承認される。それゆえ,外国で行われた法律行為による離婚は,EGBGB第

17

条が定める離婚準拠 法(2012612以降は,ローマIII規則による)の要件を満たす場合には,ドイツで承認される384。 そして,その法律行為による離婚に公的機関の関与があったかぎり,その承認は,州法務局の専権 的な承認確認手続にゆだねられる385

379 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 20.

380特に夫の信教の自由との関係で,Heinz-Peter Mansel, Die kulturelle Identität im Internationalen Privatrecht, BerDGesVR 43 (2008), S.137 et seq.参照。

381 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 23.

382 Schack, op.cit., Rn. 988 et seq.; Zöller/Geimer, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 23 et seq. それに対して,Rauscherは,公 的機関の確認的な関与はあまり意味をもたないため,純粋な法律行為による離婚を含めて,すべて州法務局の 承認確認手続によらしめるとしている。MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 107 FamFG, Rn. 27.

383この二つの承認ルートの区別については,拙稿「イタリアにおける外国判決承認制度と国際私法」国際法外 交雑誌1011号(2002年)52頁以下及び同「国際私法における公序と人権」国際法外交雑誌1082号(2009 年)57頁以下参照。

384特にタラーク離婚については,妻が事前に知らされていなかった場合,あるいは子の監護権も財産分与も受 け取ることができず,一方的に追い出されるような場合には,その承認はEGBGB6条の公序則に反する。

385ドイツ国内では,裁判離婚の専権性が妥当する(EGBGB第17条第2項)。そのため,日本人同士がドイツ在