1. 規律対象 (1) 総説
FamFG
第100
条は,血縁上の親子関係事件に関する国際裁判管轄を定めている。同条によれば,血縁上の親子関係事件については,子,母,父,あるいは母の妊娠時に同衾していたと宣誓した男 性がドイツ人であるとき又はドイツに常居所をもつとき,国際裁判管轄が認められる。土地管轄は,
FamFG
第170
条による。ドイツの本国管轄が認められ,当事者のいずれもドイツ国内に常居所をもたない場合には,ベルリンのシェーネベルク裁判所が管轄をもつ(FamFG第170条第3項)263。 従前は,
BGB
旧第1600e
条第1
項に基づく父子関係の確定がZPO
第640
条以下に基づいてい たのに対して,相手方死亡後のBGB
旧第1600e
条第2
項に基づく手続は,非訟事件とされていた。259 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 76.
260 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 77.
261 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 78.
262 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 99 FamFG, Rn. 79.
263 Zöller/Geimer, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 12 et seq.
それに対して,
FamFG
制定後は,血縁上の親子関係事件は一括して申立手続(Antragsverfahren
)と されており(FamFG第171条),もはや家事事件(同第112条)には分類されていない。なお,1997
年親子法によって嫡出子及び非嫡出子の区別が撤廃されて以来,ZPO第640a
条第2
項においては,国際裁判管轄も統一的に規定されていた264。
(2) 適用範囲 (a) 事項的適用範囲
FamFG
第100
条が対象とする血縁上の親子関係事件は,FamFG第169
条に定める事項に相当 する。具体的には,①親子関係の存否確認,特に父子関係の認知の有効又は無効確認に関する手続,②
DNA
検査に対する同意に代わる手続及び試験的採取の承諾を命ずる手続,③親子関係鑑定書の閲 覧又はその謄本の作成に関する手続,そして④父子関係の否認に関する手続を指す。(b) 条約上又はEU法上の規範
血縁上の親子関係に関する国際裁判管轄を定める
EU
規則,多国間又は二国間条約は存在しな い。ブリュッセルIIbis
規則,1961
年未成年者保護条約,1996
年子の保護条約は,いずれも親権・監護権について定めるに過ぎず,親子関係の存否に関する争いは対象外としている265。
(3) 国際裁判管轄の決定 (a) 管轄原因の主体
血縁上の親子関係事件については,FamFG第
99
条のように子だけを中心に管轄を決定するの ではなく,それ以外の関係当事者も管轄原因を基礎付ける主体となる。FamFG第100
条によれば,子,母,父,そして母の妊娠時に同衾していたと宣誓した男性がドイツ人であるとき又はドイツに 常居所をもつときには,国際裁判管轄が基礎付けられる。
FamFG
第100
条にいう父母とは,準拠法上(EGBGB第19条によって決定される)266,父又は母 としての法的地位をもつ者をいう。本条に基づく裁判手続が親子関係の否定を目的としていること は,これらの管轄原因を妨げない。反対に,血縁上の親子関係に関する申立てが父子関係又は母子 関係の確定を目的としている場合には,これらの者が本条にいう父又は母に当たる。子を分娩して いない女性が母子関係の積極的確認又は分娩に基づく母子関係の否定を申し立てる場合にも(BGB
264 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 1 et seq.; Zöller/Geimer, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 1.
265 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 6; Zöller/Geimer, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 2. ただし,親子関係の 存否に関する手続を行うための子の代理人として,補助補佐人又は後見人が選任される場合には,ブリュッセ
ルIIbis規則及び両ハーグ条約が適用される。
266 EGBGB第19条第1項によれば,血縁に基づく親子関係は,原則として子の常居所地法,父又は母の本国法
の選択的連結による。母が婚姻している場合には,子の出生当時の婚姻の身分的効力の準拠法(EGBGB第14 条第1項)によることもできる(子の出生前に婚姻が死亡によって解消されている場合には,婚姻解消時のそ れを基準とする)。他方,同条第2項によれば,父母が婚姻していない場合には,母の妊娠に基づく父の責任は,
母の常居所地法による。
第1591条は,そのような争いを予定していない),その者が母に当たる。
BGB
第1600
条第1
項第2
号に 基づく父子関係否認事件においては,母の妊娠時に同衾していたと宣誓した男性,すなわち生物学 上の父も,管轄原因を基礎付ける主体となる267。(b) ドイツ国籍
FamFG
第100
条にいうドイツ人は,同第98
条第1
項第1
号及び同第99
条第1
項第1
号にいう ドイツ人と同じ概念によっており,ドイツ国籍をもつ者のみならず,難民や難民申請者等も含む。その者が重国籍者であり,その一つがドイツ国籍である場合には,国籍の実効性を問題とすること なく端的に管轄原因となる(詳細は,上述II-A参照)268。
(c) ドイツにおける常居所
管轄原因としての常居所の概念は,
FamFG
第98
条第1
項第2
号及び同第99
条第1
項第2
号と 同じである。常居所を管轄原因とすることで,母だけがドイツに常居所をもつ場合(子の出生後にド イツに移住してきた場合も含む)にも,外国にいる父を相手方として,ドイツで父子関係の存否を争い うることになり,父の法的地位を侵害するおそれがある。しかし,これは1997
年親子法が父子関係 に関しても母を独立の当事者と見ていることの帰結であり,現行法上は致し方ないとされる269。(c) 限定列挙及び専属管轄の否定
FamFG
第100
条の管轄原因は,限定列挙であり,それ以外の管轄原因は認められない270。外国人当事者の本国や準拠法所属国におけるドイツ決定の承認可能性は問題とされない。解釈 論上,不便宜法廷地(forum non conveniens)の法理を認める学説もあるが,支持は得ていない271。
FamFG
第100
条は,子の保護の必要性に基づく管轄(FamFG第99条第1項第2号第2文参照)を認め ていないが,無国籍の子又はドイツに居所をもつ子については,保護の必要性が存する場合もあり うるため,緊急管轄の可能性は肯定されている272。血縁上の親子関係事件について合意管轄が否定されること,また手続開始時に管轄原因事実が 失われた場合にも管轄の継続が認められることは,他の家事事件と同様である。特に血縁上の親子 関係は,親権・監護権等に関する親子事件のように動的ではなく,静的に過去の時点における実体 法上の要件を審査すれば足りるため,子の福祉に配慮して管轄の継続を制限する必要はない。管轄 原因が専属的ではなく競合管轄が認められることも,他の家事事件と共通する(FamFG第106条)273。
267 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 8 et seq.
268 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 13 et seq.; Zöller/Geimer, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 3 et seq.
269 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 15 et seq. Rauscherは,この場合にもFamFG第98条第1項第4 号の場合と同様に,ドイツ裁判の外国における承認可能性を要件とすべきことを提唱している。
270 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 18. 従前は,ZPO第640a条第2項の管轄原因に加えて,土地管 轄に関する規定も準用できるとする見解もあったが,現行法上は否定されている。
271 Zöller/Geimer, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 8 et seq.
272 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 19; Zöller/Geimer, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 1.
273 MünchKomm/Rauscher, op.cit., § 100 FamFG, Rn. 21 et seq.