7. 国際的な規制の整合化等に関する調査
7.1 アメリカ
7.1.4 自主保安規制に関する考え方
アメリカの現地ヒアリング調査における聞き取り内容から、自主保安規制に関する考え方 を以下に整理する。
(1) 規制のあり方
「企業の自己責任」が自主保安の基本的な考え方として多くの機関の共通認識となってお り、規制からの過度に詳細な干渉(細かすぎる報告義務など)は必ずしもよい結果にならな い、といった考え方もなされている。
また企業にとっては社会的なレピュテーションは重要なメリットであり、その評価指標の 透明性を高めることは効果的であると考えられている。
(ヒアリング聞き取り内容)
安全管理のアプローチとして迅速な順に、①企業の自主的な対応、②行政による執行
(NEPなど)、③規則の作成(一番遅い)、である。
工場のオーナーは安全に関する最終的な責任を持たなければならない。
規制が詳細になるほど企業側は単に適合するだけでそれ以上のことを考えなくなる。
そもそも規制で全てを仔細にカバーできるわけがないのだが、究極的にはオーナーが 安全に対して責任を持っており、規制が詳細であるほどオーナーは思考停止に陥る。
逆に「規制は最低限である」ということが明確であり規制が詳細ではないほうがオー ナーは自主的に対応する気持ちになる。つまり自分の経験から言うと規制が多ければ 多いほど安全性は低下する。
「規制は最終的な解決にはならない」ということは市民に理解してもらいたい。政府 は監督機関であり、政府がいくらたくさんの規制を作ったからといって会社の運用が うまくいくとは思えない。
安全管理システムを考えた場合、オーナーに対して求めるのは「安全管理をしっかり やること」というレベルの要件とするとよいのではないか。
実務的に考えて、METIが細かいことを全て管理することは難しい。METIにできるこ とはASMEやAPIの標準に準拠するといった大きな観点からのチェックしかできない だろう。亀裂や何らかの損傷を評価するためには、API579-1 や ASMEFFS-1 といった リスクベースドインスペクションの規格が有効である。
規制は非常に小さな事象(例えば小規模漏洩)まで報告義務を課すべきではない。規 制が報告を要求するのはTear 1(大きい事故)程度にするべきであり、Tear 3(小さい 事故)まで管理するべきではない。それらは閾値を設定して何をモニターするべきか については企業の自主裁量に任せるべき問題である。
先進技術によってより小さなニアミスなどを検出することが出来るようにはなるだろ うが、小さなニアミスまで報告義務を課すことは適切ではないだろう。人々を守るた めに実施していることが時として逆効果になることは皮肉なことである。
自主的な安全管理の取り組みを行う上での最大のインセンティブは、「安全な操業を行
75
っている」という事業所の姿勢を社会的に示し、顧客に認められるということである。
規制は最低限の要求を行い、自主的な取り組みは民間企業によって進め、業界のレベ ルがアップしたら規制要件も上げる、というのが規制の考え方だ。あくまで企業側の 自主的な取り組みを期待しており有用だと理解している。
事故は発生頻度が低い現象なので安全成績だけではよい評価指標にならないと考え、
現在、企業に対して捕捉可能な先行指標をどのように求めていくかを検討している(悩 みは日本と同じである)。現在 API754 の内容が改定されているが、その中では、プロ セス安全のメトリックの改善と、企業側に対して指標の透明性を高める(例えば企業 がウェブサイトでKPIを公表する)ことが検討されている。
(2) 先進技術の活用
先進技術の活用に関して、規制からは具体的な先進技術の活用に関する要件は求めておら ず、先進技術の活用は専ら各企業のオーナーの判断によっている。そしてそれらの前提とな っているのは、保安管理の向上に役立つこととコストメリットがあることが求められている。
例えば EPA担当者は高度技術の活用よりも本質安全の追求を優先するべきだとの考え方を 持っている。
実際にインテリジェントピグなどの技術は既に現場に導入されているが、コストパフォー マンスの観点から幅広い普及にはいまひとつといった実態のようである。
(ヒアリング聞き取り内容)
我々が第一にやらなければならないことは基本的なハザードの把握であり、失敗シナ リオ、コントロール方法、多層防護の構造であり先進技術の導入ではない。(EPA)
化学プロセスの関心事は安全であり、高度技術を使うことではなく、本質的(inherently)
にリスクレベルを下げるような工夫(低音低圧のプロセスなど)が必要だ。最初にや るべきことは何もしなくても安全な状態の inherent safety である。Inherent Safety は PHAの一環でより安全なプロセスを志向する考え方である。(コントロールなしでも事 故を防止する)
先進技術については企業が自主的にとりくむものでありEPAからの指導などはしてい ない。企業が自主的に予防措置(階層的なプロテクションの導入など)に取り組むこ とを期待している。
連邦法と州法では義務としては最低限の要件しか決められていない。それにどのよう に対応し技術を導入していくかは、それぞれの所有者の判断に依っている。
設備を持つことは破裂などの大きなリスクを保有することになる。所有者は自分の高 価な資産を守るためにどうするべきかを一生懸命に考えている。そのために、彼らは 最新技術の導入も一つの選択肢である。
ルールメークの観点からは、高度技術の活用について、OSHA のほうから個別の先進 技術の使用を要求・奨励することはできない。先進技術の活用は企業側の判断になる。
76
企業側でリスクの低減・管理のために技術の活用が有効であると判断した場合にはそ のような説明を受け入れる。例えばタンクの内部の検査にロボットを活用するような 事例についても、タンクの設備の欠陥の発見を効果的にできるという場合にはその説 明を受け入れている。
業界側でも自主的に安全基準を設定しているが、一部はコスト削減を強く意識したも のになっており、企業の自主的な努力に任せることには安全基準が緩んでしまうとい う一定のリスクも存在していると考えている。
テキサス州では超音波を使った検査技術を活用(航空・原子力業界から来た技術)し て設備の評価を行っている。設備を評価するための方法がAPI579に記載されており、
石油業界で活用している。
トランスコンチネンタルという巨大なパイプラインでは検査用の丸い「ピグ」を実際 に使っている。
スマートピグはアメリカでは実際に広く使われており、ASME B31.8 に記載されてい る。配管ではリスクベースドインスペクションB31.8Sが参考になる。)
先進的な技術を規格に取り入れることは、規格開発委員会で検討される。
航空機では飛行中にエンジンのセンサーからたくさんのデータを収集し地上で分析 し、エンジンの健全性をリアルタイムで監視している。プラントでもセンサーをたく さん設置すれば同じようなことができるのではないかと期待している。この点につい てはASMEも検討を行っている。
配管の壁面肉厚の測定にはセンサーで自動的に実施しても何千ものセンサーからのデ ータにはたくさんのエラーが含まれている。これらを統計的に処理することによって 腐食の管理予測がしやすくなると考えており、重要な先進技術だと考えている。現在 はまだ技術が十分に発達していない。
インテリジェントピグはパイプラインで水素配管の肉厚測定で実際に測定につかって いる現場導入の事例を知っている。これは非常に小さなリークも見つけることができ る。これは先進技術と呼べるかもしれない。
赤外線画像で見えないガスに色をつけて表示することができる。これは既にアメリカ で製品として販売され現実に使われている。
スマートバルブも現場で使われている。例えばタンカーからタンクまで柔軟性のある ホースで物質を荷揚げするが、この配管は非常に頻繁に破損する、ここにスマートバ ルブを設置することで、配管の破損による影響を局限化している。
ビッグデータ解析は継続的に機器監視をする技術に使える。モニタリング自体は50年 以上取り組みがなされてきた。コンピューターがリアルタイム解析をできるまでに強 力になってきたのはまだ数年のことであり、まだまだ今後の改善の余地があり可能性 を感じている。
ビッグデータ解析については、データを集めるところまでは実現しているが、まだ安 全管理のための有意味な情報を活用するまでには至っていないと理解しており今後の