7. 国際的な規制の整合化等に関する調査
7.2 ドイツ
7.2.1 保安規制の概要
(1) 保安規制法(セベソ指令)
EU において加盟国間における規格の整合化(「ニューアプローチ」と呼ばれている)が 進められており、この指令が策定された1987年以降、多数の改定が行われている。特に、
今まではセクターごとに異なっていた指令の構造を統一化しようという「新規制枠組み
(NLF:New Legislative Framework)」の流れで、2016年中には全ての指令の構造が統一さ れることになっている。ここで統一化されるのは、規定の構造に限定され、技術的な内容に 大きな変更点は無い。
EU指令の規定は、域内の自由な流通を確保するために策定されているため、最低限の要 件が規定されているのみで、各国では、より高い安全性を確保するための規制を設けること ができる。
1)セベソ指令概要14
セベソ指令II(96/82/EC)の見直し後、2012年7月4日にセベソ指令III(2012/18/EU)
が採択された。主な変更点は下記の通りとなっている。
・ 指令の対象となる物質一覧を、危険物分類に関するEU法に沿った形で改定
・ 情報へのアクセス、公正性、意思決定への参加について市民の権利を強化
・ 情報の収集、管理、可用性、共有に関する方法を改善
・ 検査をより効率的に実施するため、より厳しい規格を導入
・ 行政の負担を軽減するための合理化および簡素化を含む、規定の明確化
事故を完全に防ぐことはできないため、セベソ指令では、事故が人間の健康と環境に与え る影響を最小限にすることを目指している。
12 “NFPA 30: FLAMMABLE AND COMBUSTIBLE LIQUIDS CODE “, Chapter 9 Storage of Liquids in Containers — General Requirements 9.3.5, p30-27,
http://www.nfpa.org/codes-and-standards/document-information-pages?mode=code&code=30, National Fire Protection Association, 2015 Edition
13 “NFPA 30: FLAMMABLE AND COMBUSTIBLE LIQUIDS CODE “, Chapter 9 Storage of Liquids in Containers — General Requirements 9.3.10, p30-28,
http://www.nfpa.org/codes-and-standards/document-information-pages?mode=code&code=30, National Fire Protection Association, 2015 Edition
14 http://ec.europa.eu/environment/seveso/legislation.htm
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セベソ指令では、所定量をこえる危険物質が保有される「施設」を対象としており、保有 される危険物質の量に応じて施設を分類し、上位クラスの施設にはより厳しい条件が課され ることとなっている。
運用事業者は大事故を防ぐために必要な措置を全て実施しなければならず、人体および環 境に対する事故の影響を限定しなければならない。具体的な内容としては次のようなことが 挙げられる。
・ 対象施設の通知(第7条)
・ 大事故防止措置の実施(第8条)
・ 危険度の高い施設に関する、安全報告書の作成(第10条)
・ 危険度の高い施設に対し、内部非常時計画の作成(第12条)
・ 事故発生時の情報提供(第16条)
加盟国には、要件への適合を確保するため、次のような義務が課されている。
・ 危険度の高い施設に対し、外部非常時計画の作成(第12条)
・ 施設立地に関する土地利用計画の実施(第13条)
・ 関連情報の公開(第14条)
・ 事故発生時における必要な実施措置の確保。緊急措置、運用事業者による救済措置の 実施、被害者への情報提供など(第17条)
・ 欧州委員会への事故報告(第18条)
・ 施設の非合法な利用ないし運用の禁止(第19条)
・ 検査の実施(第20条)
2)セベソIIIの規定15
a. 土地利用計画の要件
① 指令の対象となる施設と居住地区、公共利用目的のビルおよびエリア、レクリエ ーションエリアとの間に、安全が保てる適切な距離をおくこと。また、主要な輸 送ルートからは出来る限り離れることとする。
② 施設周辺に、自然および環境上特別な配慮を必要とするエリアがある場合は、適 切な距離、あるいは他の措置を実施し、それを保護すること
③ 既存の施設については、人体および環境に対するリスクを増加させないよう、第 5 条に従って追加的な技術措置を施すこと
b. 安全報告書の内容(最小要件)
1. 内部非常時計画
① 非常時の実施手順を設定する権限を有する担当者の氏名または職位、およびサイ ト内緩和措置の責任者
15 http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32012L0018&from=EN
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② 外部非常時計画を所管する規制機関との連絡窓口となる担当者の氏名または職 位
③ 重大事故を発生させる可能性が予見される条件、または出来事に関し、その条件 または出来事を管理し、その影響を制限するために実施すべき措置の内容。安全 装置、および、利用可能なリソースに関する記述を含めること
④ サイト内の人々に対するリスクの影響を制限するための措置。警報の実施方法、
および警報発信時に実施すべき行動に関する記述を含めること
⑤ 外部非常時計画を管轄する規制機関に対する初期警報連絡の実施方法、初期警報 に含める情報の種類、より詳細情報が得られた際にその情報を連絡する方法
⑥ 必要に応じ、職員が実施すべき対応に関する教育。また、サイト外部の非常時サ ービスの調整についても適宜含めること
⑦ サイト外緩和措置に対する支援方法 2.外部非常時計画
① 非常時の実施手順を設定する権限を有する担当者の氏名または職位、およびサイト 外緩和措置の責任者
② 事故の初期警報を受け取る方法、および警報・召集の手順
③ 外部非常時計画実施に必要なリソース調整の方法
④ サイト内緩和措置に対する支援方法
⑤ サイト外緩和措置の実施方法、および、安全報告書にて設定された重大事故シナリ オへの対応、発生しうるドミノ効果に対する検討。環境に対する影響を与えるもの も含めること
⑥ 公衆、および、指令の対象外となる近隣施設ないしサイトに対する、事故情報およ び実施してもらう必要がある対応事項を連絡する方法
⑦ 他国にも影響を与える重大事故の発生時に、他の加盟国の非常時サービスに対する 情報提供の方法
c. 欧州委員会に通知する重大事故の基準
I. 下記の段落1に含まれる重大事故、あるいは段落2から5に挙げられた影響が1つでも
発生した場合は、欧州委員会に通知を行わなければならない 1. 危険物質が含まれている事故
付録I第1部のコラム3、または第2部コラム3に定められた量の5%を超える危険 物質について、火災、爆発、事故的流出が発生した場合
2. 次に挙げる人体および不動産への損害
① 死亡
② 施設内における6名以上の負傷、24 時間以内の入院
③ 施設外における1名以上について 24 時間以内の入院
④ 事故による施設外住居について、居住不可能となる程度の破損
⑤ 2 時間以上に渡る避難、または隔離。人数×時間が 500 以上となる場合
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⑥ 2 時間以上に渡る飲料水、電気、ガス、電話の遮断。人数×時間が 1000 以上とな る場合
3. 環境に対する直接的な被害
① 永久的、または長期的な生息域の破壊
② 著しい、あるいは長期的な淡水および海水生息域の破壊
③ 著しい帯水層、または地下水の破壊 4. 資産に対する損害
① 施設内の資産に対する 200 万ユーロを超える損害
② 施設外の資産に対する 50 万ユーロを超える損害 5. 他国への影響
事故を発生させた加盟国の領域外において、危険物質による影響が発生した場合 II. 上記の基準には満たないが、重大事故の予防、および、その影響を制限することに関 し、加盟国が特に重要と考える事故、または、「ニアミス」
3)圧力装置指令
EUレベルでは、圧力容器に対し、圧力装置指令(PED 97/23/EC)、可搬圧力装置指令(TPED
2010/35/EU)、簡易圧力容器指令(SPVD 2009/105/EC)、の3つの指令が適用される。
PED指令(97/23/EC)は、「ニューアプローチ」政策に基づく整合化指令の一つだったが、
「新規制枠組み(New Legislative Framework)」に従って改定が加えられており、2016年7 月には、新指令2014/68/EU16が施行される予定となっている17。
圧力装置指令の対象範囲は非常に広く、圧力容器、圧力コンテナ、熱交換器、ボイラー、
配管、安全装置、圧力付属装置等が含まれている。これらの装置は、石油・ガス、化学とい ったプロセス産業、ガラス、紙等の高熱プロセス産業、エネルギー生成等で利用されている。
(2) ドイツ国内規則
セベソ指令、圧力容器指令等のEU指令は、ドイツの雇用保護法(ArbSchG)及び産業安 全規則(BetrSichV :Betriebssicherheitsverordnug)に展開されるが、その内容は一般的なもの に留まっており、具体的な規則はTRGS18およびTRBS19といった技術規則に規定される。
TRGSおよびTRBSは、現在の技術水準に基づいて定められるもので、この規定を順守し ていれば上位規制の要件を満たすものとみなされる。別の方法を採用することも許されてい るが、その場合、その安全性を自ら証明しなければならない。
高圧ガス関連の主な規則は以下のとおりである。
16 http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32014L0068&from=EN
17 http://ec.europa.eu/growth/sectors/pressure-gas/pressure-equipment/directive/index_en.htm
18 http://www.baua.de/en/Topics-from-A-to-Z/Hazardous-Substances/TRGS/TRGS.html
19 http://www.baua.de/de/Themen-von-A-Z/Anlagen-und-Betriebssicherheit/TRBS/TRBS.html
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- TRGS 407(ガス分類ごとのリスクおよび対策)
- TRBS 3145, TRGS 745(輸送)
- TRBS 3146, TRGS 746(貯蔵)
- TRBS 1201-1, 1201-2(検査)
図 日本とドイツの法体系の比較
出所)「国際先端テストご説明用参考資料」平成25年5月8日経済産業省商務流通保安グループ高圧ガス保安室
ドイツでは、2002年と2015年に保安規制の全面的な改定が実施された。その背景は、以 前は製造業者と取り扱い事業者の両方を対象としていたEUの規制が、製造業者(メーカー)
と取り扱い事業者に対する規制として分離されたため、それぞれ別に規定されることになり、
同時に、より一般的な製品に対応できるよう、柔軟性の高い規制に変わった。
旧規制では工場で実施する安全および技術的な規則について、検査方法や検査間隔が規定 されていた硬直的な内容とも言えるものだったが、新規制では具体的な技術仕様ではなく、
一般的な要件が規定されるようになり、リスクベースのアプローチが取られるようになった。
新制度になってから、事業者自らがリスク評価を実施し、対策を決定しなければならなく なった。また高圧ガス事業者が実施するリスク評価と対策の内容については、第三者機関の 評価を受けることが義務付けられている。
ただし柔軟な規制の恩恵を受けているのは大規模事業者に限られ、中小企業にとってリス ク評価実施は負担が大きいものとなっているとの指摘もある20。
(3) PvU
例えば、今回ヒアリング調査を実施した BASF は、最高水準の安全性を確保している独 立性の高い機関として社内組織が国(ZLS)による認可を受けており、自社の保安検査を実 施しており、他の第三者機関による評価等は行われていない。
この制度には歴史があり、BASFのように以前からTUVに相当するような検査機関を所
20 ヒアリングコメント参照。