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腐食生成物の種類を考慮したひび割れ発生時の腐食量の算定手法

3. マクロマネジメントのための補修量予測法

3.3. 丸鋼のひび割れ発生時の腐食量と付着強度低下に関する室内試験

3.3.4. 腐食生成物の種類を考慮したひび割れ発生時の腐食量の算定手法

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腐食した丸鋼の付着強度について,ひび割れ発生前は付着強度の増加が認め られた.これは腐食生成物の体積膨張に起因する内圧が抵抗力として作用した ためと考えられる.ひび割れ発生後は異形棒鋼の設計値を下回るものの,ひび割 れ幅1.0 mm以下では異型棒鋼の文献値と同程度であることが分かる.

図 3-14 腐食量と付着強度の関係

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は異形棒鋼の設計値よりも大きい値であった.ただし,これは腐食生成物の種類 による体積膨張率の差異に起因する可能性も考えられる.そこで腐食生成物の 種類を考慮したひび割れ発生時の腐食量の算定手法を構築して,試験結果を検 証する.

ここで,元・関9)は円筒モデルを基本としてひび割れ発生時点の鉄筋腐食量お よび発生後の腐食量とひび割れ幅の関係式を提案している.また,有限要素解析 によりかぶり深さ等の影響の補正係数を算出している.また,西澤ら10)は電食試 験と促進試験で生じた腐食生成物の粉末X線回析分析により,腐食生成物の違い がひび割れ幅と腐食量の関係に与える影響を検討している.これらの手法は実 験データをよく再現することが示されているが,かぶり等の条件毎に補正係数 の設定が必要となる.そのため,実務に適用する際には想定される構造諸元に対 応する補正係数が必要となる.そこで,本研究では実務での使用を念頭に,手法 の簡便性を重視した一次元ばねモデルを構築した.

b) 定式化

ひび割れ発生時の腐食量の算定モデルを図 3-15に示す.モデルは4節点3要素 の一次元ばねモデルを用い,鉄筋中心からかぶりコンクリート表面までを解析 領域とする.また,境界条件は次式を仮定する.

ls lc

 

ls lr lc

u u

0 4

1 0

(3.6)

ここに,ls0:鉄筋の材料ばね初期長さ(r0に等しい)[mm]

u1, u4:節点1,4の変位[mm]

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ls, lr, lc,:鉄筋,腐食生成物,コンクリートの材料ばね長さ[mm]

ひび割れ発生の判定は,弾性則を仮定してかぶりコンクリート表面に発生す る引張荷重Ft4を算定して次式で評価することとした.

t c

t

F f

F

4

 

4

(3.7)

ここに,c:コンクリートのポアソン比

F4:提案した手法による節点4の荷重[N]

ft:コンクリートの引張強度[N/mm2]

腐食深さrは,腐食生成物の体積膨張率rを用いて幾何学的関係から次式で 表わされる.

s

r

r r r

l

r   3 0

1

 (3.8)

ただし, 100 2 100

0 loss

s

r w

r   (3.9)

ここに,r:腐食生成物の体積膨張率

r0, rs:それぞれ腐食前後の鉄筋半径[mm],

wloss:鉄筋の平均断面減少率[%]

腐食による断面欠損の大部分が鉄筋のかぶりコンクリート表面側で生じる11)

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ため,解析領域の断面減少率は鉄筋の平均断面減少率wlossの2倍と評価すること とした.

提案した手法は,図 3-15に示すモデルを式(3.6)の境界条件のもとで,式(3.7) の判定式に適合するひび割れ発生時の腐食深さrを算出する.さらに幾何学的 関係に基づいて腐食量に換算することで,ひび割れ発生時の腐食量を算定する ものである.

図 3-15 ひび割れ発生時の腐食量の算定モデル

c) 室内試験結果の検証

試験体諸元から設定した室内試験結果の算定条件を表 3-4に示す.蛍光X線分 析の結果,室内試験で発生した腐食生成物にはFeとOが主成分であり,その比率 が約3:4であった.そのため主成分はマグネタイトFe3O4であると仮定して体積膨 張率rを設定し,検証を行った.提案した手法によるひび割れ発生時の腐食深さ

rは0.063 mmであり,換算するとひび割れ発生時の腐食量は48.6 mg/cm2となる.

ks,ls,Es kr,lr,Er,r kc,lc, Ec, fc,c 鉄筋 腐食生成物 コンクリート

1 2 3 4

r0

rs

健全な鉄筋の半径

腐食した鉄筋表面までの半径

u4

ポアソン効果 による引張荷重

腐食範囲 Ft4

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表 3-4 室内試験結果の算定条件

項目 記号 値

弾性係数(鉄筋) Es 204.5 [kN/mm2] 弾性係数(腐食生成物) Er 0.2 [kN/mm2] 11) 弾性係数(コンクリート) Ec 30.2 [kN/mm2] ポアソン比(コンクリート) c 0.2

圧縮強度(コンクリート) fc 51.3 [N/mm2] 引張強度(コンクリート) ft 3.2 [N/mm2] 6) 体積膨張率(腐食生成物)r 2.1 12)

鉄筋径 2r0 16 [mm]

※マグネタイトFe3O4の値を仮定

提案した手法による算定値と試験値の関係を図 3-16に示す.算定値は,試験 値とよく整合していることが分かる.また,既往の検討例10)に示される一般的な 体積膨張率r =3.2を用いた算定値と式(3.5)による設計値は対応している.

ここで,腐食生成物の種類は変状原因によって異なることが知られている.既

往研究13), 14)によると,中性化,塩害ともに主成分はマグネタイトFe3O4であり,

中性化ではゲーサイト-FeOOHを,塩害ではゲーサイト-FeOOHとアカガネア イト-FeOOHを含有する.

これらの体積膨張率rを用いたひび割れ発生時の腐食量の範囲を図 3-17に示 す.提案した手法を用いると,試験体諸元の場合,ひび割れ発生時の腐食量のば らつきが23.5 ~ 48.6 mg/cm2の範囲であることが分かった.

なお,本試験では水セメント比が50 %で試験体を作製しており,実際の構造 物は試験体よりも強度が低いことが考えられる.過去の標準配合の例 15)を参考

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に圧縮強度を24 N/mm2,弾性係数を25.0 kN/mm2とすると,ひび割れ発生時の 腐食量のばらつきが14.5 ~ 27.5 mg/cm2の範囲と試算される.

図 3-16 提案した手法による算定値と試験値の関係

図 3-17 提案した手法によるひび割れ発生時の腐食量の範囲 0.0

0.5 1.0

0 50 100 150

ひび割れ幅[mm]

腐食減少量[mg/cm腐食量[mg/cm2] 2] 提案した手法でr=3.2

ひび割れ発生(試験値)

提案した手法でr=2.1Fe3O4を仮定)

ひび割れ発生(設計値)

0 50 100 150

0 0.5 1.0

ひび割れ幅[mm]

0.0 0.5 1.0

0 50 100 150

ひび割れ幅[mm]

腐食減少量[mg/cm2] 提案した手法で-FeOOHを仮定

提案した手法でFe3O4を仮定 ひび割れ発生(予測値)

腐食量[mg/cm2]

0 50 100 150

0 0.5 1.0

ひび割れ幅[mm]

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