4. 塩化物イオンに起因する鋼材腐食の予測法
4.4. シールドトンネル継手部付近の数値シミュレーション
4.4.1. 塩水噴霧による劣化促進試験
111
112
日噴霧0.5日噴霧停止のサイクルを基本として,205日間噴霧した.試験温度は 35℃,噴霧時の湿度は90%を標準とした.また,噴霧面はシールドトンネルの内 空側を想定した1面として,他の面はシール処理を行った.
次に,試験体緒元を図 4-10に示す.試験体は幅350 mm,高さ200 mm,長さ 650 mmのRCセグメント2つと,これを締結するボルト継手から構成されている.
コンクリートは普通ポルトランドセメントを用いて水セメント比50%とした.ま た,鉄筋は主筋にSD345のD16を,配力筋にSD295のD10を用いた.また,継手部 は材質がSM490であり,幅151 mm,高さ100 mm,厚さ12 mmの継手板(図 4-11)
とM22の鋼製ボルトから構成される.
試験装置を図 4-12に示す.100 mm厚の断熱材で試験容器を作成した.試験容 器内の温度はサーモスタットと電熱線で調整することとした.また,試験容器の 外部に配置した加湿器で水蒸気を供給し,散水ノズルを通じて塩水あるいは水 道水を噴霧する試験装置を製作した.
試験後には,JIS A 1154に準じてコンクリートの塩化物イオン量を測定し,鉄 筋をはつり出して腐食状況を確認した.
表 4-3 塩水噴霧試験ケース
ケース 噴霧溶液 配力筋の純かぶり 試験期間
Case1 5%NaCl水溶液 20 mm 205日間
Case2 5%NaCl水溶液 32 mm 205日間
Case3 水道水 20 mm 205日間
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図 4-10 塩水噴霧試験の試験体緒元
図 4-11 塩水噴霧試験の試験体緒元(継手金物)
350
継手板
アンカー筋(D13 ) 継手ボルト(M22)
[単位:mm]
200
650
配力筋(D10@150mm,かぶり20mm)
主筋(D16) 噴霧面
(a) 正面図(Case1,3)
配力筋(D10@150mm,かぶり32mm)
(b) 正面図(Case2)
(c) 平 面図(Case1,2,3 )
100
51 25
65 12 アンカー筋(D13)
160
151 6 9 121 9 6
[単位:mm]
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図 4-12 塩水噴霧試験装置
c) 試験結果
試験期間の湿度の推移を図 4-13に示す.2.5日間噴霧,0.5日間噴霧停止のサイ クルを基本として乾湿を繰り返した結果,噴霧時の湿度は80~90%程度,噴霧停 止時は15~50%程度で推移した.噴霧停止時は装置外の湿度と同程度まで低下す ることを確認している.なお,装置内の温度は試験期間を通じて約35℃が維持さ れていた.
図 4-13 装置内湿度
水蒸気供給装置 温度計 湿度計
断熱材
試験体
水蒸気供給装置
散水ノズル 電熱線
試験容器内湿度[%]
0 50 100 150 200
100 80 60 40 20 00
20 40 60 80 100
7/22 9/10 10/30 12/19 2/7
試験容器内湿度(%)
日付 5%塩水噴霧(かぶり20mm、Gmax15mm)
経 過日数[日]
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噴霧試験後の試験体の状況を図 4-14に示す.Case1ではセグメント部の配力 筋位置にひび割れが生じた.一方,Case2およびCase3では目視確認できるひび割 れは生じなかった.
噴霧試験後の継手部付近の状況を図 4-15に示す.Case1とCase2は同程度の腐 食であり,継手板およびボルト頭部に錆が層状に付着していた.Case3は塩水を 噴霧したケースと比較して腐食は軽微であり,ボルトのねじ山の形状を目視で 確認することができた.
噴霧試験後にはつり出した鋼材の腐食状況を図 4-16に示す.Case1では,配力 筋に腐食が生じていることが確認された.セグメント部のひび割れは配力筋の 位置に発生しており,鉄筋腐食に起因するひび割れであると考えられる.かぶり が大きいCase2および水道水を噴霧したCase3では,セグメント部の鉄筋腐食は確 認されなかった.これより,塩水噴霧試験におけるセグメント部の鉄筋腐食は,
かぶりおよび噴霧溶液の影響を受けることが分かった.また,継手部の重量は試 験の前後でCase1は45.5 g,Case2は49.4 g,Case3は27.5 g減少していた.これより,
継手部の腐食は噴霧溶液の影響を受けることが分かった.
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図 4-14 塩水噴霧後の試験体外観(全体)
図 4-15 塩水噴霧後の試験体外観(継手部付近)
(a) Case1
(b) Case2
(c) Case3 ひび割れ
(a) Case1 (b) Case2 (c) Case3 ボ
ル ト 頭 部 側
ナ ッ ト 側
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図 4-16 塩水噴霧後の試験体外観(鉄筋・継手金物はつり出し後)
(a) Case1
(b) Case2
(c) Case3
ひび割れ位置の配力筋が腐食
腐食なし
腐食なし
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Cl-量の深度方向の分布状態を図 4-17に示す.Case1の配力筋純かぶりに相当 する20mmの位置では3~7 kg/m3であり,塩化物イオンの影響による腐食が進行す る環境とされている1.2kg/m3を超過していた.
また,これをコンクリート表面におけるCl-量の経時変化を考慮したFickの法 則に基づく予測式7)に最小二乗法でフィッティングした.その結果,本試験は表 面濃度係数Sが8.3 kg/m3/√年の環境で3.9年に相当する促進試験であったことが 分かった.
図 4-17 塩水噴霧後のコンクリート中の塩化物イオン濃度分布