4. 塩化物イオンに起因する鋼材腐食の予測法
4.2. コンクリート中の鋼材腐食予測法
4.2.3. 反応境界 Q における腐食反応のモデル化
鉄の腐食反応は次の化学反応式で表わされる.
22
2 H O Fe OH
2O
Fe 1 (4.4)
このとき,対応するアノード反応は次の式(4.5),カソード反応は式(4.6),(4.7)で 表わされる.
Fe 2 e
Fe
2 (4.5)
H O 2e 2OH 2O
1
2
2 (4.6)
2
2O 2e 2OH H
H
2 (4.7)
カソード反応は,O2が存在する環境では式(4.6)の反応が,存在しない環境では式 (4.7)の反応が進行する.
まず,式(4.5) ~ (4.7)の反応に対する平衡電位は平衡論に基づくNernst式を用い てそれぞれ次式で算出する.
Fe 0 Fe
Fe Fe
0
ln 2
2 a
a F E RT
E (4.8)
2 H O 1O 0 OH
O O
0
2 2
2
2 ln
2 a a
a F
E RT
E (4.9)
97
H O OH H 0H H
0
2 2 2
2 ln
2 a
p a
F E RT
E (4.10)
ここで,E0:平衡電位 E0:標準電極電位 a:活量
T:温度
F:ファラデー定数 R:気体定数
また,活量aH2O,aO2は反応拡散方程式で得た反応境界におけるO2量,H2O量に活 量係数を乗じて算出する.
次に,Tafel式を用いてEvans図を作成する.式(4.5) ~ (4.7)に対応するTafel式は,
それぞれ次式のようになる.
0 Fe 10 Fe 0
Fe log
i b i
E
E (4.11)
2 2 2
O 0 10 O O
0 log
i b i
E
E (4.12)
2 2 2
H 0 10 O H H
0 log
i b i
E
E (4.13)
ここで,b:Tafel勾配 i0:交換電流密度
i0:標準電極電位に対する電流密度
98
鋼材の腐食は,鋼材表面のH2Oに溶存したO2が反応することで進行する.その ため,溶存酸素の拡散速度が腐食速度を律速する.そのときの腐食電流密度は次 式の溶存酸素拡散限界電流密度iLとなる.
2O DOc
iL zFD (4.14)
ここで,z:価数
F:ファラデー定数
DDO:溶存酸素の拡散係数 cO2:溶存酸素の沖合濃度
:拡散層厚さ
式(4.10) ~ (4.13)から作成したEvans図の例を図 4-3に示す.ここで,アノード 反応とカソード反応の関数の交点を腐食電流密度icorrとして求める.なお,同図 は式(4.11)と(4.14)が交わる状態を例示したものである.
上記の手順で求めた腐食電流密度icorrを用いてFaradayの法則により式(4.2)の 濃度流束の法線方向成分Qmを算定する.
F z
i Q M
m corr m
m on Q (4.15)
ここで,Mm:腐食原因物質mの物質量
zm:電子e-1molに対する腐食原因物質mの反応量
99
:コンクリート中における鋼材腐食速度の補正係数
図 4-3 Evans 図を用いた腐食電流密度icorrの算出
本研究では鋼材表面において均質な腐食進行,すなわちアノード反応とカソ ード反応が同一位置で生じることを仮定した.ここで,塩化物イオンに起因する 鋼材腐食では,アノードとカソードが固定化された電気化学反応が進行するこ とが知られており,アノード・カソード間のコンクリート抵抗が腐食速度に影響 することが考えられる.そこで本研究では,コンクリート中では鋼材の腐食速度 が低下するとの報告10)も参考とし,腐食速度の補正係数を乗じることとした.
なお,反応境界Qにおける腐食反応はCl-量が増加して閾値を超過したときに 進行すると考えられる.そこで,その閾値はコンクリートのpHとの関係で,次 式により判定することとした11).なお,本研究では全Cl-量で判定し,安全側の評 価とした.
iL
電流密度i(A/mm2)
C1
C2 A
icorr
pH=const.
Tafel勾配
O2
i0 O2
E0
0
EFe
0
iFe
電位E(V vs. SHE)
腐食電流密度
100
OH
Cl 0.6 (4.16) ここで,[Cl-]:全Cl-量[OH-]:水酸化物イオン量
101