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提案手法の特徴と本論文の構成

1. 序論

1.3. 提案手法の特徴と本論文の構成

本研究では,鉄道地下RC構造物の維持管理の合理化に資するため,技術的に 独立した3つの手法を構築した.

1) 地下RC構造物における感潮河川の影響範囲の推定法 2) マクロマネジメントのための補修量予測法

3) 塩化物イオンの影響に起因するコンクリート中の鋼材腐食の予測法

これらを組み合わせることで,地下RC構造物のマクロマネジメント,補修や 予防保全等の詳細検討に資する一連の手法を構築する.構築した手法の特徴と 鉄道地下RC構造物の維持管理との関連を図 1-6に示す.

図 1-6 構築した手法の特徴と鉄道地下 RC 構造物の維持管理との関連

全般検査

調査 健全度の判定

個別検査

調査 変状原因の推定

変状の予測

措置

監視 補修・補強

使用制限 改築・取替

記録

維持管理計画の策定・更新

記録 記録

記録

・・・ ・・・

1 i i+1 n

【手法①】

感潮河川の影響範囲推定法

【手法③】

地下環境における鋼材腐食予測法

【手法②】

補修量の予測法

【特徴】Cl-の調査が必要な範囲推定

【目的】調査計画の立案

【特徴】地盤側,内空側の環境評価

【目的】塩害の変状予測 対策工の仕様検討

【特徴】劣化速度等のばらつき考慮

【目的】マクロマネジメント,予算計画 構造物No.:

個別検査

調査 変状原因の推定

変状の予測

措置

監視 補修・補強

使用制限 改築・取替

・・・ ・・・

15

第一に,地下RC構造物のマクロマネジメントにおける提案手法の活用法を図 1-7に示す.マクロマネジメントは,維持管理の対象である構造物群の変状発生 割合を算出することを目的とする.そのため変状発生原因や箇所には着目しな い.本研究では中性化と塩化物イオンの影響に着目して鋼材腐食の将来予測を 行うが,塩化物イオンに起因する鋼材腐食の速度の方が速いことが知られてい る.そのため,それが生じる可能性がある範囲と,その他の範囲を区別して変状 発生割合,補修量を予測することで,精度が向上すると考えられる.すなわち,

感潮河川の影響範囲推定法と組み合わせることで,補修量予測の精度向上を図 る.

図 1-7 本研究で構築する手法の関連性(マクロマネジメント)

Cl

-中性化 中性化

各箇所の主な劣化要因 変状発生割合

現場データ

分析

劣化速度,ばらつき

0 10 20 30 40

20 2030 3040 4050 5060 6070 7080 8090 90100 100110 110120 120130 130140 140150 150160 160170 170180 180

頻度

かぶり[mm]

手法① 感潮河川の影響範囲推定法

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

0 20 40 60 80 100

発生割合

経年[年]

経年[年]

0 20 40 60 80 100

発生割合[%]

0 20 40 60 80 100

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

0 20 40 60 80 100

発生割合

経年[年]経年[年]

0 20 40 60 80 100

発生割合[%]

0 20 40 60 80 100

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

0 20 40 60 80 100

発生割合

経年[年]経年[年]

0 20 40 60 80 100

発生割合[%]

0 20 40 60 80 100

0 4,000 8,000 12,000 16,000

0 20 40 60 80 100

ひび割れ発生面積[m2]

経年[年]

175,000 12,000 8,000 4,000 2割れ発生面積[m] 0

経年[年]

0 20 40 60 80 100

予測

手法② 補修量予測法

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第二に,補修や予防保全等の詳細検討における提案手法の活用法を図 1-8に 示す.本研究では,鋼材腐食速度が速い塩化物イオンの影響を詳細検討の対象と した.まず,感潮河川の影響範囲推定法を用いて路線各箇所の劣化環境を予測す る.次に,それを予測条件として鋼材腐食の予測を行う.この活用法は,維持管 理において調査データの補間や,補修工法の仕様検討や効果予測に用いること を想定したものである.さらに,新設構造物の計画や設計時に用いることで,予 防保全への転換に資するものである.

図 1-8 本研究で構築する手法の関連性(詳細検討)

本論文の構成を以下および図 1-9に示す.

『第1章』では,本研究の背景,既往研究および本研究で構築した手法の特徴 を示した.

着目箇所の劣化進行 対策工の検討

感潮河川

手法③ 鋼材腐食予測法

予測条件 各箇所の劣化環境

手法① 感潮河川の影響範囲推定法

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『第2章』では,地下RC構造物における感潮河川の影響範囲の推定法を構築 した.地下密度流解析は塩水くさびや汚染物質の封じ込めの検討に用いられる 手法である.本研究では,これを感潮河川の影響範囲の推定に適用することを検 討した.感潮河川の影響範囲は,調査結果によると感潮河川直下および河川境界 から 50m 程度の範囲が影響範囲と考えられたのに対して,解析では直下および 河川境界から50~100mの範囲であることを示し,地下密度流解析の適用性を示 した.

『第3章』では,マクロマネジメントのための補修量予測法を構築した.ここ では地下 RC構造物のマクロマネジメントを目的として,塩化物イオンの影響,

コンクリートの中性化に起因する鉄筋腐食に対する補修量の予測法を構築した.

これは,中性化深さ等の平均値や標準偏差を入力データとして補修割合を算出 する手法である.また,開削トンネルの調査データ分析,丸鋼の引抜き強度試験 等から,開削トンネルの実態を表現するための予測条件を示した.さらに,補修 量を計画する指標となることを期待して,全国規模の将来予測シミュレーショ ンを実施し,変状原因ごとに,経年とひび割れ発生割合の関係をまとめた.

『第 4 章』では,塩化物イオンの影響に起因するコンクリート中の鋼材腐食 の予測法を構築した.ここでは反応拡散方程式と平衡論・速度論に基づく鋼材腐 食速度の算定式を用いた予測法を構築した.これは,酸素,水,塩化物イオンの 3つを腐食原因物質と仮定してコンクリート中の移動を予測し,時々刻々の鋼材 腐食速度を算出する予測法である.これを三次元有限要素解析プログラムに実 装した.構築した手法を用いて,鉄筋コンクリート部材を対象とした予測解析を 行い,環境条件に応じた鋼材の腐食状況を把握した.また,鋼材が複雑に配置さ れたシールドトンネルのセグメント継手部を対象に塩害環境を再現した促進試 験と,その数値シミュレーションを行い,複雑に鋼材が配置された部材の腐食状

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況を把握した.さらに,鉄筋コンクリート部材の補修に関する数値シミュレーシ ョンを行い,断面修復や電気防食の効果を定性的に把握した.

『第5章』では,本論文のまとめを示した.

図 1-9 本論文の構成

5章 結論

◎まとめ 1章 序論

◎研究背景 ◎既往研究

4章 塩化物イオンの影響に起因するコンクリート中の鋼材腐食の予測法

◎外的塩害に起因するコンクリート中の鋼材腐食の予測法の構築

◎適用例:シールドトンネルのセグメント継手部,補修効果 2章 地下RC構造物における塩化物イオンの影響範囲の推定法

◎感潮河川由来の塩分が地下水に含まれる範囲の予測法の構築

3章 マクロマネジメントのための補修量予測法

◎塩化物イオン濃度分布等のばらつきを考慮した予測法

◎現場データ分析,室内試験に基づく予測条件の例示

マクロマネジメント 詳細検討

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【第1章 参考文献】

1) 厚生労働省健康局:水道事業におけるアセットマネジメント(資産管理)

に関する手引き~中長期的な視点に立った水道施設の更新と資金確保~,

2009.

2) 武藤義彦,小西真治,諸橋由治,仲山貴司,牛田貴士:地下鉄箱型トンネル の塩害範囲に関する研究,土木学会論文集 F1,Vol.70,No.3,pp.I_75-I_82,

2014.

3) S. Konishi, T. Kawabata and K. Kamei: Study on Potential Area of Chloride Ion Attack in Subway Tunnel from View Point of Chloride Ion Penetration Route in Ground and Concrete of Tunnel Lining, International Symposium on Geotechnical Aspects of Underground Construction in Soft Ground, Vol.9, pp.261-269, 2018.

4) 村下敏夫:本邦における地下水の塩水化,地質調査所月報,Vol.33,No.10, pp.479-530,1982.

5) 杉尾哲,森耕司:浸透層条件が不圧浸透地盤内の塩水侵入に及ぼす影響につ いて,土木学会論文集,Vol.411/II-12,pp.73-80,1989.

6) 川谷健:鉛直浸透による塩水くさびの変形について,災害科学総合シンポジ ウム講演論文,Vol.10,pp.251-254,1973.

7) 福尾義昭:被圧地下水の塩水化について,日本地下水学会会誌,Vol.14,No.2, pp.33-44,1972.

8) 出井紘:海岸地下水の塩水化について,日本地下水学会会誌,Vol.17,No.1, pp.30-46,1975.

9) 小橋秀俊,三木博史,平山光信,菱谷智幸,山本博之,大北康治:地盤汚染 の影響予測に用いる分散長の決定方法について,土木学会論文集 No.764/III-67,pp.53-67,2004.

20

10) 立石卓彦,大村仁,高砂直幸:数値解析を活用した淡水レンズにおける集水 井構造の検討,農業農村工学会論文集,No.302,pp.I_131-I_144,2016.

11) 小西真治,佐藤豊,仲山貴司:トンネル維持管理計画へのリスクマネジメン トの適用方法,鉄道総研報告,Vol.19,pp.51-56,2005.

12) 加藤隆,上田孝行,森地茂:山岳トンネルの維持管理段階におけるリスクの 定量化についての研究,トンネル工学報告集,Vol.18,pp.1-8,2008.

13) 安田亨,大津宏康,大西有三:道路トンネルの維持・補修問題へのリスク工 学理論の適用に関する研究,土と基礎,Vol. 51, No. 10, pp. 18-20, 2003.

14) 宇野洋志城,木村定雄:道路トンネルにおけるはく落リスク変動モデルの特 性評価,土木学会論文集F4,Vol.68,No.2,pp.92-108,2012.

15) 松島学,田中秀周,横田優,中川裕之:塩害劣化を受けるコンクリート構造 物の ライ フサ イク ルコ ストを考慮 し た最適補 修時期 ,構造工学 論文集 Vol.53A,pp.156-164,2007.

16) 田中尚,藤森裕二,貝戸清之,小林潔司,安野貴人:加速劣化ハザードモデ ル:コンクリート中性化への適用,土木学会論文集D,Vol.66,No.3, pp.329-341,2010.

17) 岸谷孝一:鉄筋コンクリートの耐久性:鹿島建設研究所出版部,1963.

18) 土木学会:2017年制定コンクリート標準示方書[設計編],2018.

19) 土木学会:フライアッシュを混和したコンクリートの中性化と鉄筋の発錆に 関する長期的研究(最終報告),コンクリートライブラリー,No.64,1988.

20) 谷内田昌煕,石橋忠良,佐藤勉:鉄筋コンクリート橋梁のひびわれと鉄筋腐 食に関する調査・研究,土木学会論文集,No.378/V-6,pp.195-202,1987.

21) 谷村幸裕,長谷川雅志,曽我部正道,佐藤勉:鉄道RCラーメン高架橋の中 性化に関する耐久性照査法の適用に関する研究,土木学会論文集,