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第4節 考察

BaCi7/us pseudofirn7us OF4Yi生株の典型的な細胞一っ当たりのべん毛の本数は1本 で様々な位置に存在した。運動性向上株では2−3本であり周毛性であった。これらは 培養pHの影…響をあまり受けなかった(図2−1)。またフラジェリンの発現量はpH非依存的

であった(図2−2)。同じ好アルカリ性細菌であるBaCi7/us ha/odurans C−125株(以下

C−125株)ではpH依存性のべん毛形成、フラジェリン発現が報告されており[3]、C−125 株の細胞一つ当たりのべん毛の本数は、培aSpH IOのとき平均21本であるが、培養i pH6.9のときはべん毛はなくフラジェリンもまったく発現しておらず運動性もなく、この点 で両者は異なっていた。C−125株ではアルカリ性pH環境下においてpHホメオスタシス に重要な酸性高分子の発現が中性環境下では著しく低下しているが[17]、OF4株で は同様の働きを持つS−layer蛋白質の発現量が中性pH条件下でもアルカリ性条件下 とあまりかわらないという報告がある[18]。このようにC−125株では培養pHによって蛋白 質の発現が大きく変わるがOF4ではそれほど変わらないという例が見受けられ、 pH依 存的な蛋白質発現調整の機構はC−125株とOF4株ではかなり異なっていると考えられ る。中性pH条件下でべん毛やS−1ayerタンパク質を発現することは効率が悪いが、これ は外部pH環境の突然の上昇に備えていると思われるものと考えられる。 C−125株も OF4株も中性条件下で培養すると運動性が著しく低下することが知られていた。その 原因はC−125株ではべん毛の非形成であると考えられるが、OF4株の場合、生育下限 pHのpH7.5でもべん毛を形成しており、それ以外の原因が考えられた。

 OF4株の遊泳速度は、230mMまではNa+濃度の対数的増加に従って直線的に上昇

した(図2−5)。これは好アルカリ性細菌Baci71us sp. YN −1株や[2]、固定子としてMotPSし

か発現しない枯草菌変異株と同様の傾向であった[4]。また、中性pH条件下ではアル カリpH条件下よりもH+濃度が高いため、中性pHではNa 駆動型べん毛モーターの固 定子MotPSにおいてH+が競合阻害を起こす可能性が示唆された。このほかにも中性

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pHにおける低い膜電位が影響している可能性もある[11]。

pH8〜11におけるOF4株の遊泳速度はNa+濃度が230mMを超えると徐々に低下した。

これはMotPSに二つ以上のNa+結合部位があることを示唆しており、枯草菌のMotPSに おいても同様の可能性が示唆されている[4]。このような部位はおそらく一つは細胞内 に、もう一つは細胞外にあると考えられており、べん毛を回転させる部位のほかにも、

Na+濃度が高いときには回転を抑制する役割を果たす部位が存在すると想定されてい る。同じような可能1生は大腸菌やサルモネラ、ビブリオのべん毛モーター固定子でも指

摘されている[19]。

 また、pH7においてはNa+濃度が230mMを過ぎても遊泳速度の上昇が観察された

(図2−5)。一般に、pH7付近まで生育が可能な好アルカリ性細菌は、生育においてアル カリ性pH環境下よりも中性pH環境下でより多くのNa+を要求する性質がある[19]。この 好アルカリ性細菌の中性pH環境下での高Na+濃度要求性は、中性pH環境下ではH 濃度が高いため、Na+/Soluteシンポーターにおいて競合阻害が起きている可能性を示 唆されている[20]。べん毛モーターにおいても同様の競合阻害が起きている可能性が 示唆された。中性pH環境下ではNa+駆動型べん毛モーター固定子MotPSの二つの Na+結合部位において競合阻害が起きると仮定すると、 OF4株の遊泳速度は中性pH 環境下においてべん毛モーターの回転を起こす部位に競合阻害が起きることによっ て低下するが、そのような中性pH条件下では、べん毛の回転に抑制をかける部位にも 競合阻害が起こるため、Na+濃度が230mM以上になっても遊泳速度が上昇するという モデルが考えられた。

 野生株、および運動性向上株の運動性はEIPAによって著しく抑制された(図2−6a)。

これはべん毛モーター固定子MotPSが完全にNa+と共役していることを示しており、他

の好アルカリ性細菌での報告と一致した[12,13]。

 運動性向上株の運動性は粘度2.5cP(PVP濃度1%)までは上昇したが、野生株では

pH7以外ではこのような運動性の上昇はほとんど見られなかった(図2−6b,c,d)。 PVPな

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どの線状高分子の添加によって培地の粘性が上昇すると細菌の遊泳速度が上昇する ことはすでに報告されており[21]、線状高分子の存在によって物体の運動に異方性が 付与されるというモデルが提唱されている。運動性向上株は高粘性液体培地だけでな く、pH10のアルカリ性軟寒天培地上でも野生株よりも高い運動性を示した(図2−7)。運 動性向上株のフラジェリンの発現量と細胞一っ当たりのべん毛の本数は野生株よりも 増加しているが、テザードセル解析の結果から単独のべん毛モーターのトルクは野生 株と変わらなかったことから、これらの運動性の向上は、べん毛の本数が複数になった ことにより複数のべん毛が束になった構造を形成したことが起因していると考えられた。

大腸菌では周べん毛がバンドル化すると、運動時に菌体のプレがなくなること、バンド ル化したべん毛全体ではトルクの減少を抑えることができる可能性が報告されている

[22]。

 運動性向上株の変異点を同定するため、運動性向上株のフラジェリン遺伝子とhag 遺伝子、べん毛の数と位置を規定すると考えられているflh・G遺伝子とfihF遺伝子

[23−26]の配列を調べたが、野生株と変わりなかった(データは示していない)。運動}生

向上株の変異がどこに起きているは分からないが、運動性向上株の運動性の増加の 主な要因は、細胞一つあたりのべん毛の本数が増加したことであることは間違いない

と考えられた。

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