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第8章  内発的教育課程の導入要因および定着要因

第5節 総括的考察

 以上、特色ある学校を目指して内発的に教育課程を改編した事例校4校の調査結果から、

教育課程全体について、および「産業社会と人間」についての導入要因と定着要因につい て、得た知見を元に考察を試みた。

 社会情勢や生徒状況の変化、それに伴う文部省や教育委員会の制度の改善に伴い、内発 的に教育課程を改編した事例校は、複雑な学校の組織環境の中で改編を成し遂げている。

 事例校における内発的教育課程改編を規定する要因としては、①背景として、帰属意識 の高いより多くの教師や組織が問題意識・教育課題を持ち、改善の必要性を感じているこ

と、②改革をするか否かについては、通常の職務を抱えている既存の組織よりも、専門的 に取り組むことのできる新しい組織を作って検討を開始させる方がよいこと、③学校改革 組織が検討を始めるにあたっては、学校内外の多方面からの情報を収集・整理して分析し、

得られた現状認識については教員の共通理解を得ること、④改革を実行するに際しては、

現状認識に基づいて教育課題を整理し、課題についての共通理解を得た上で改革を進める こと。以上の内容を順序立てて遂行していくことの必要性についての示唆を得た。また、

一連の改革過程を通して、⑤校長のリーダーシップは必要不可欠であり、⑥協働性の高い 教員風土も改革をバックアップする重要な要因であることの示唆も得た。なお、仮説モデ ルには書き表せなかったが、⑦教育課程を大幅に改編することは、教員の急激な負担の増 加につながるため、それを緩和するための措置を講ずることが、結果として教員の労働意 欲の維持につながり、教育課程の改編によって学校が改善されれば、それが次の改善へと つながることの示唆を得た。

 また、「産業社会と人間」の導入を規定する要因としては、①科目の意義・目的を十分 に説明した上での理解を図り、②企画組織を設立させて年間計画や指導案を作成し、③科 目のねらいや教員組織の現状に応じて柔軟に指導者を決めていくことの必要性についての 示唆を得た。

 次に教育課程の定着要因についてであるが、事例校のインタビューから様々な問題点に ついての知見を得ることはできたが、その解決策についての知見を得るところまでは行か なかった。ただ、特色ある教育課程を定着させるためには協働性の高い教員風土が少なか らず影響はしているようだ。なお、教育課程を定着させるということは維持するというこ とではなく、常に社会情勢や生徒状況を見て、必要に応じていつでも教育課程を改善しよ うとする姿勢を持つことであって、守りに入ってはいけないことの示唆は得た。

 「産業社会と人間」の定着要因については、①この科目の企画組織が、年間計画や授業 内容について常に改善する意識を持って企画し、指導者が別の教員の場合は、研修も充分 に行うこと、②指導者の選定や引き継ぎについては一定のビジョンをもって計画すること、

③授業内容に関連する分掌や教科とは綿密な連携を採ることについての示唆を得た。

 本研究においては事例校4校を対象に実施したが、高校の場合はそれぞれの学校によっ て学校特性にかなり違いがあるため、今回得た示唆が当てはまらない高校も多く存在する

と推測される。より多くの高校の教育課程に関する事例研究の蓄積の中で、より多くの高 校が参考とできる示唆を得るために本研究が役立てば幸いである。

 また、本研究を進めていく中で、教師の持つ力量を生かしきれていない部分を垣間見た。

これからの高校が特色を作り、その特色を充実させていくためには、教育委員会の人事や 校内人事が重要な役割を果たすのではないだろうか。

 学校教育目標についても、高校では教科をベースとした学校教育の考え方が教員の中で 浸透しているので、多くの教師が関心を持っていないと感じた。特色ある学校づくりを目 指すためには、教科の垣根を低くし、教職員が一丸となって教育にあたる必要がある。そ のためには学校教育目標を全員で再確認し、皆が同じ目的を持つことが必要であろう。

 最後に、以上のような考察を踏まえ、第3章で提示した教育課程改編のモデル図を修正 して論文を閉じたいと考える(図8−5−1参照)。このモデル図は、普通科高校が2003 年に向けて「総合的な学習の時間」や「情報」などを新たに加えて教育課程を編成するに 際して、どのような点に留意すればよいかについて、つまり導入を規定する要因を中心と した内発的教育課程改編の方策についての提案である。もちろん「総合的な学習の時間」

や「情報」の教育課程への導入(きっかけ)は外回的なものではある。しかし、F総合的 な学習の時間」を導入するとなると、目的の設定、教材の選定や企画・指導組織作りなど 教科・分掌の枠を越えた取り組みとなることが十分考えられるため、各学校は各学校内外 の現状を踏まえた議論が必要となる。つまり、教育課程経営全体の改革になると考えられ る。このような観点に立てば、各学校は内発的に教育課程改編に取り組む必要があり、そ うでなければ改善は望めないと考えられる。そこで、多くの普通科高校が学習指導要領の 改訂という外発的な契機を利用して、内発的に、よりよき教育課程改編に取り組む際の提 案である。修正のポイントは上述したように、内発的に大幅な教育課程の改善を実施する ためには、改編のあらゆる場面において教員の負担増の緩和措置について考慮する必要が あるということである。

第8章 内発的教育課程の導入要因及び定着要因

教育課程評価一教育目標の達成度を中心として

新教育課程の実施

内発的教育課程の改善(特色ある学校づくり)

教員の負担増の緩和措置(内発的動機付けの高揚)

@精神面と労働量・労働内容

教員風土

「総合的な学習の時間」および、

V教科・科目の企画・指導組織の設立

組織による現状認識と ロ題・目標の設定

@学校改革組織

@教育課程経営組織

@教育課程編成組織

教員の共通理解

@現状認識

@教育課題

@教育目標

学校改革組織の設立

個々の教師や各組織が抱える教育課題

@学年・教科・分掌・委員会

学校内外の現状 生徒・教員・教員組織・教育課程

@       保護者・地域・教育行政

図8−5−1 教育課程改編のモデル図く導入を規定する要因を中心として〉

(1)全部セットです。3年生だけコースにすればいいというんじゃなくって、全部パヅケージングする   ことに意味がある。2年生も3年生も全部まとめてこういう構想で作られたカリキュラムというふ   うに作ってきたつもりなんで。ただ、最終的にはここに落ち着きましたけど、職員会議に出すとき   はかなりまだ荒削りやったです。だから未確定要素が強いという危惧をされた方は多かったです。

  その辺は最終的にしましようということで、みなさんに分かってもらって。(A−D)

(2) それぞれの学校がね、学校の教育課題というものを明確に認識する必要があると思うんですよ。例   えばA県の中でこの学校はどういう役割を担っているのか、どういう役割を期待されているのかと、

  そういうことは明確に認識する必要があると思うんですよ。だから各学校の教育課題の中で、どう   多様化していくのかということですね。… だから出発点として各学校の役割なり特色なり目指す   ものなり、そういうものをちゃんと持った多様化・個性化・特色化が必要だろうと思いますね。(C

  一A)

(3) 現在がいくらよくても現状に甘えておってはいかん(A−C)

(4) これからは我々だけで学校教育がなされるわけじゃなくて、地域のみなさん、あるいは保護者のみ   なさん、そういう人たちの声というのもやっぱり重要視して(学校づくりに)参画してもらう時代に   なってるんですよ。だから、これからはそういう人たちに協力を求めるということも学校改革には   必要になってくるかもしれんね。具体的な作業としては「保護者の考えていることはこうなんだ」

  ということをアンケートして、それを教職員に提示するとかね。(C−B)

(5)教育委員会に対して現場の情報を提供するということも大事なことでしょうね。これには両面の意   味があって、「こちらとしてはこういうニーズがあるからこういう手当をしてほしい」ということも   あると思うし、「現場の感触としてこの施策についてはこの点についてもう少し考えた方がいいんじ   やないですか」という意見具申をするという面もありますしね。(C−A)

(6)情報を提供するということやね。これまでずっとね、教職員に対して流す情報量が少なかったね。

  教育委員会からの教育改革プログラムとか中央の審議会の答申なんかを冊子にして全員に配るとい   うことやねん。とにかく情報をどんどん先生方に出す、読んでもらう。それが僕はとっても大事や   と思う。(C−B)

(7) 今の人事で言うと教育委員会のペースでされてますけど、… 「こういう先生が欲しい」というこ   とを強く教育委員会に言っていこうと思っています。(B−A)

(8) 先生方の持っている良い面、学校の良いところ、それに新しいものをつなぐ。だから僕はどの先生   方もね、営みとしてやってきたことを意味づけしてあげるということと、それとそれに合う新しい   プランニングをつなげるということが大事やと思いますね。(D−A)

(9)人間には成就感が必要です。だから先生もきちっと評価してやらなあかん(A−B)。

(10) 先ず一番大切なことは学校をきっちりと分析すること。現状認識。(D−A)

(11)私自身の経営方針としては年に1回は全職員と話をしょうということで… 。 できるだけコ   ミュニケーションを図ることによって教育改革の必要性をできるだけ分かってもらって、仕事に打   ち込んでいただくという立場ですね。(B−A)

(12) 私はね、職員会議の後ぐらいに月2回ぐらい議論をするんです。言い残したことがあるような人   とか、その時は校長という立場ではなくて一緒に議論をやるんですね。(A−B)

(13) 校長が何かを変えたいと思っても、それを聞いてくれる教員がおらんかったらあかんわ。協力者   がいないと難しいね。(C−B)

(14) 新しい学校経営の方法を自分で勉強する。普通管理職は勘と経験でやっているんです。これはこ   れで素晴らしいんですよ。だけど今からの時代ね、勘と経験だけではなかなか大変ですね。それは   それでなかなか素晴らしいんですけども、やっぱりこういう改革の時代というのは、勘と経験を元   にした理論武装というかな、理論を身につけることが必要ですね。(D−A)