本論文は,光ファイバ通信網における保守監視方式ならびに効率的利用方式に関 して,様々な信号処理技術を駆使することで新技術を切り開くべく行った研究につ いてまとめた.本研究の対象は,いずれも光ファイバ通信網に係わる低コスト化,
高信頼化,効率化に関する技術に帰着する.
まず,光ファイバ通信網における技術動向と本論文における研究の位置付けを明 確にした(第2章).保守監視方式については,いろいろなアプローチが考えられ たが,簡素化,信頼性,コスト,特に設置環境を考慮した特殊な設計を必要とする 光海底ケーブルネットワークを対象とした,中継器監視方法(第3章)ならびにフ ァイバ線路障害位置検出法(第4章)について纏めた.これらは,信号伝送方式の 特徴をとらえ,システムコストへのインパクトが少なく,最大限効果的な方式研究 を指向した.次に,効率的利用方式においては,光ネットワークにおける光ファイ バ・インフラや帯域リソースの有効利用を図るための技術として,波長安定化方法
(第5章)ならびに光ラベルスイッチング方式(第6章)について纏めた.さらに,
地上デジタルテレビ放送ネットワークの効率展開を図るための技術として,同期系 光ネットワークが有する特徴を有効活用した地上デジタルテレビ放送信号伝送方 式(第7章)の研究成果を纏めた.
本論文における主要な成果を以下に要約する.
第 2 章まとめ
通信キャリアは,高信頼・高速光ファイバ網(SONET/SDH)の構築を推進し,
現在では日本国内で広く整備されるに至っている.一方,近年のインターネットト ラヒックの急速な増加によって,IPトラヒック転送に適した効率的かつ安価な伝 送システム方式が指向されている.すなわち,固定的な光パス設定から,よりダイ ナミックな光パス設定が望まれており,光クロスコネクト(OXC)をはじめ,光バ ーストスイッチング(OBS)や光パケットスイッチング(OPS)へ研究がシフトし ている.一方,光ファイバの伝送容量を増やすため,波長分割多重(WDM)伝送
が不可欠となっているが,SONET/SDHからOPSまで,何れのシステム方式でも,
WDMは必須技術であり,波長間隔の狭窄化は極めて重要である.一方,中継伝送 系に視点を移すと,メトロポリタンエリアから基幹系(コア)までの陸上伝送路と,
大洋を横断する光海底ケーブル伝送路に大別されるが,敷設環境が特殊な後者は,
新しい技術の適用が必須である.以上の光ファイバ通信網の動向と,本研究の位置 付けを明らかにした.
第 3 章まとめ
光増幅中継伝送線路における線路監視手段の一方法として,恒久的に接続した光 ループバック法による安価で高信頼な全光監視方法を提案するとともに,光ループ バックの要求条件,監視装置におけるPN相関検出による微弱信号検出技術,光デ ータ信号除去技術の提案を行った.実際に,中継システムのループパック信号検出 を実験的に評価し,中継区間障害の検出が十分可能であることを確認した.以上の 通り,本方式は,光増幅システムに適した監視概念を勘案し,透過線路の特徴を最 大限活用した中継線路の全光監視手段を採用することにより,従来の光・電気変換 を伴う中継器監視方式と比較して,経済的かつ効果的な線路監視システムを実現し た.本研究成果は,TPC-5CNをはじめ,APCN,FLAG,JIHなどの主要な大洋横 断ケーブルシステムにおいて採用された.
第 4 章まとめ
光増幅中継伝送システムの高精度障害点探索法として,OTDR法を適用するため の要素技術について述べた.まず,光中継器において連続接続された後方光回路
(HLBP)を用いたOTDR法について提案を行ない,多中継伝送路における当該光 回路への要求条件と,コヒーレント OTDR の構成法,本方法を用いた光増幅中継 伝送システムにおける測定可能な距離を明確にした.以上により,最長5,600kmに もおよぶ光ファイバ区間の測定を達成し,本方式の有効性を実証した.さらに,波 長分割多重(WDM)光中継システムにおけるインサービス測定の可能性を論じる
と共に,400kmにも及ぶ長距離無中継伝送システムの線路監視手段としての応用方
法の提案も行った.
本研究成果により,海底ケーブルシステムの迅速な障害修理が可能となったほか、
システム組立や敷設工事において中継システムの状態を簡単に把握することができるよ うになった.本方式は, ITU-Tの光増幅海底ケーブルシステムの国際規格である
に障害探索方式として規格化され,現在,TPC-5CN以降に建設された世界のほぼ 全て光海底ケーブルシステムに採用されていると見られ,現在もシステムの建設な らびに障害時に広く使用されている.また,無中継システムにおける成果は,無中 継光海底ケーブルシステムの国際規格であるITU-T G.973(Characteristics of
repeaterless optical fibre submarine cable systems)に,障害探索方式として規格化され,
活用されている.
第 5 章まとめ
高密度WDMシステムの光送信器を低コストかつ簡易的に実現するための高精 度波長安定化技術の提案を行った.光波長弁別に必要なDFBレーザの周波数ディ ザリングによって生じる光強度成分の抑圧手段を組み合わせた新しい制御方式の 提案し,その有効性の検証を行った.本方式によると,信号多重用の波長多重合波 器を波長弁別としても利用でき,またディザリングによって生じた光強度成分を,
高速データ用の変調と共用させて除去する方法を講じることによって,光回路の低 コストと簡素化を図ることができる.本研究では,数値シミュレーションを行い,
課題を明確にした上で,提案方法の検証を行うと共に,実際に実験を行って原理検 証と,シミュレーションとの相互検証を図った.波長安定化制御の実験の結果,本 提案方式は,DFBレーザ出力や光学損失等の変動に対して耐力があり,60時間の 測定で,320MHzの波長安定度を達成した.また,AM除去機能は,ディザリング によって劣化したデータ信号の品質を改善可能なことも確認した.本方式は,さら にデータの高速化が必要なアプリケーションに有効であると考えられる.
第 6 章まとめ
光バーストスイッチング技術を概説し,装置・システム構成上の観点で適すると 考えられるIBTシグナリングを用いた光ラベルスイッチング方式を提案した.本ラ ベル方式として,ペイロード信号ビットストリームから構成されるBPSK信号を構 成することで,光送信器やネットワーク伝送機器との親和性が高く,受信感度やエ ラー耐力に優れたルーチング情報の転送が可能となることを示した.さらに,本提 案ラベルに基づき,光ラベルスイッチングノードを試作し,光バーストネットワー クにおける自律的ディフレクションルーチング実験を行い,システムの可能性を実 証した.
光バーストスイッチングは,前述の通り光回線交換ではない信号のカットスルー を前提とした方式であり,End-to-Endにおける100%のリソース確保は見込めない.
リソース利用効率の向上と光バースト信号の棄却率の改善を図るためには,リソー ス予約手段,動的リソース割り当てアルゴリズム,サービス品質(QoS)設定によ る差別化,および波長変換や光遅延線によるコンテンション回避手段の研究がさら に必要である.本研究成果をベースに,次世代光スイッチング技術として開発が進 められているGMPLSによるインテリジェントな回線交換方式と共存でき,光バー ストスイッチングの最大効果が得られるような光スイッチング技術に成熟してい くこを期待する.
第 7 章まとめ
キャリアクラスの光通信ネットワークとして使用されている高速デジタル同期 網方式(SONET/SDH)の特性を有効に利用し,地上デジタル放送システムの効果 的な展開を図るべく,放送系と融合させた通信ネットワークの有効利用に関する研 究について纏めた.SONET/SDH回線を用いたOFDM-IF信号伝送装置の開発を行 い,本伝送装置によるOFDM信号の基本伝送特性,所望の等価C/N特性と出力ス ペクトル特性が得られることを確認した.また,フィールド実験を行い,本方式の 使用によってSFN運用で問題となるような特性劣化が生じないことを確認した.
さらに,長距離ネットワークを用いたフィールド実験を行い,周波数同期安定性を 検証した.OFDM-IF伝送方式は,原理的に中継段数や伝送距離の影響を受けにく く,高精度のOFDM波形伝送が可能である. SONET/SDHネットワークの同期特 性を有効利用することで,デジタルTTL(送信所間リンク)ネットワーク構築の一 手段として期待できることを示した.
本研究成果が,今後のグローバル・マルチメディア社会を支える低廉で高信頼な 光ファイバ通信網の発展に寄与することを願って,本論文を締めくくることとした い.