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第 5 章 ディザリング強度成分キャンセルを用いた波長安定化方法

5.2 多波長安定化方法

5.2.1 インライン光多重器を用いた安定化

本研究で使用した波長安定化手法は,波長合波器で生じる複数の誤算信号を一括 して検出するものである.図 5.1に,多波長光送信器における波長安定化方法の概 念図を示す.本送信機では,レーザに周波数変調を与えるため,発振器(OSC)か らの信号でレーザの注入電流を変調する(ディザリング).AWG波長合波器の出 力信号の一部を光カップラで取り出し,伝記信号に変換する.電気変換されたAM 信号は位相検波器(PSD)によって同期検波が行われ,AM強度すなわち波長誤差 信号が抽出される.この波長誤算信号はレーザの温度制御回路に帰還され,レーザ 温度制御デバイスであるペルチェ素子(TEC)を介してレーザ温度を制御する.光 送信機の送信波長は,この温度制御によってAWG波長合波器の最低透過波長(ピ ーク)にロックする.

AWG波長合波器の合波波長は高密度に配置される.したがって,周波数のフィ ルタリング効果によってデータ信号波形が劣化しないように,通過帯域を十分確保 する必要がある.しかしながら,このような広帯域を有するAWG波長合波器では,

波長弁別効率(FM-AM変換効率)が極めて低く,波長安定化精度に影響を与える.

一方で,DFBレーザの注入電流にディザリングを行うと,FM成分だけでなくAM

成分も生じる.よって,波長弁別効率の低下と相まって,このAM成分は,波長弁 別における誤差を増加させる要因となる.

AWG

Multiplexer CPL WDM

Output CONT

f1

EA

DATA

Transmitter 2 (λ2)

PSD OSC

TEC

Transmitter 1 (λ1) LD

Transmitter N (λN)

PD

図 5.1 WDM光送信機の概略構成

5.2.2 強度成分による波長弁別誤差

従来法による波長安定性能を把握するために,ディザリングによって生じるAM 成分が波長弁別に与える誤差について数値計算を行った.ピークトップの光透過特 性を有するAWG合波器の伝達関数はガウス分布 [40] となるので,光伝達関数は,

次式で与えられる.

( )

δf =

( )

Δν δf

T 2 ln2 2

exp (5.1)

ここで,δ f はバンドパス中心周波数からの周波数シフト量,Δvはガウシアンフ ィルタの半値全幅(FWHM: full width at half maximum)である.

) (t

Si はバンドパスフィルタを通過したことによって生じる受光器出力における 強度変調成分であり,レーザの周波数ディザリングとバンドパスフィルタの伝達関 数の相関で求められる.

( )

t mRPT

( )

f t

Si = δ cosω (5.2)

ここで,mはディザリングによって生じる強度成分の光変調度,Rは受光器の光 電変換係数(V/W),Pは平均光パワーである.一方,ディザリングによって生じ る強度変調成分と周波数変調成分の位相関係をφとし,周波数変調成分の位相遅延 は熱効果によるものとした.また,光周波数シフトは,レーザへの注入電流のディ ザリング信号に対して逆位相に現れる.したがて,レーザの光周波数δfsは次式で 与えられる.

(

ω +φ

)

−δ δ

=

δ d t

f

fs cos

2 (5.3)

ここで,δdはレーザ光の最大光周波数偏移量である.よって,強度成分Sd(t)は 光周波数ディザリングとフィルタ特性から求めることができる.

( )

t RPT

( )

fs

Sd = δ (5.4)

さらに,Tfs)はテイラー展開によって次式の通り近似することができる.

( )

= ⎢⎣

( )

δ − ′

( )

δ δd

(

ωt

)

⎥⎦

f T f T RP t

Sd cos

2 (5.5)

) (t

Sd は,WDMフィルタ特性と周波数ディザリングに相互作用によって求められ,

DC成分とAC成分の2つの成分が生じる.バンドパスフィルタの伝達関Tf)の微 分値に比例する.よって,受光器における角周波数ωを有する信号成分S(t)は,デ ィザリングによって生じるレーザのAM成分Si(t)と,AWGの透過特性で生じる微 分成分が含まれる.

( )

⎢⎣

( ) ( )

δ

(

ω +φ

)

⎥⎦

′δ

− ω δ

= d t

f T t f

T m P R t

S cos

cos 2 (5.6)

ここで,位相検波器(PSD)における同期検波処理において,周波数ディザリン グによる微分成分は,基準信号であるcos(ωt+φ)によって抽出できる.したがって,

同期検波出力Ssd(t)はS(t)から求められる.

( ) ( ) ( )

( ) ( ) ( ) ( )

( ) [ ( ) ] ( ) [ ( ) ]

⎭⎬

⎩⎨

⎧ δ ω + φ +

′ δ

− φ + φ + ω δ

=

φ +

⎥⎦ ω

⎢⎣ ⎤

⎡ δ ω − ′δ δ ω +φ

=

φ + ω

=

1 2 2 2 cos cos

2 2 cos

1

cos 2 cos

cos cos

d t f T t

f T m RP

t d t

f T t f

T m P R

t t

S t Ssd

(5.7)

) (t

Sst におけるAC成分は,PSD出力の低域フィルタ(LPF)によって除去され る.よって,DC成分Sdcは以下の通り求めることができる.

( ) ( )

⎥⎦

⎢⎣⎡ δ φ − ′ δ δ

= cos 2

2

1 d

f T f

T m RP

Sdc (5.8)

ここで,第1項はディザリングによるレーザ強度成分に起因する波長弁別誤差,

第2項は周波数ディザリングによる波長弁別出力を表している.

以下のシミュレーションでは,最悪条件を考え,レーザ出力におけるディザリン グによる光強度成分と光周波数成分との位相関係は一致(cosφ =1)するものとし た.

図 5.2に,AWG波長合波器を用いた波長安定化のシミュレーション結果を示す.

図 5.2(a)は,帯域0.21nm (26.2GHz)を有するAWG合波器の伝達関数である.本シ ミュレーションでは,最大光周波数偏移δdは400MHz,光変調度mは0.6%とした.

図 5.2(b)は,AWG合波器の出力に現れる各AM成分を示している.(i)はディザリ ングによって生じた光周波数変調成分と,AWG合波器の透過特性から生じるAM

成分,(ii)はディザリングによって生じるレーザからのAM成分,(iii)はこれらの和

である.図 5.2から,δ f がAWG合波器の透過特性の中心波長に存在しても,波 長弁別器の出力にはオフセットが生じてゼロにならないことがわかる.

例えば,通常Aに設定すべき基準点を,図中のBに設定した場合,レーザから のAM成分によって,受光パワーやレーザの光変調度が変動すると,波長弁別の誤

差が生じる.したがって,波長弁別出力をプリセットされた基準点Bに保持する ようなフィードバックが行われ,結果的に信号波長は変動してしまう.

図 5.3に,従来の波長安定化手法において,帯域が0.1~0.4nmの光フィルタを 使用した場合,光入力パワーに対する光周波数シフト量のシミュレーションを示す.

狭帯域光フィルタを使用した場合の波長シフトは,広帯域のものより小さい.これ は,狭帯域光フィルタを用いたときのFM-AM変換効率が,ディザリングによって レーザで生じるAM成分より大きいためである.一方,広帯域光フィルタの場合,

十分なFM-AM変換効率が得られないため,AM成分が無視できなくなる.波長安

定化回路で検出されるレーザのAM成分(振幅)は,受光パワーに比例するため,

受光パワーの変動が,波長安定性に影響する.したがって,広帯域光フィルタを使 って波長安定性を改善させるためには,ディザリングに起因するレーザAM成分を 抑圧することが必要となる.

図 5.2 計算結果

-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 Optical frequency shiftδf (GHz)

-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4

Amplitude (a.u.)

(i) FM-AM component by FM dithering

(iii) Total (ii) AM component

A B

-50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 0.0

0.5 1.0 1.5

Transfer function

Gaussian function Δν=0.21nm(26.2GHz)

δd=400Mp-p m=0.6%

(a)

(b)

図 5.3 波長制御エラーのシミュレーション結果