を紹介するとともに、既存技術に対する本研究の位置付けを示した。
第3章では、本研究が対象とする「大規模モバイルIPネットワーク」の具体的な内容と、
対象・目的に応じた提案手法の実現アプローチを述べ、第 4 章以降で述べる各提案手法の 位置付けの明確化を図った。大規模モバイルIPネットワークとして、【1】キャリアクラス の大規模モバイルIPネットワークの構築を目的とした基本的な実現手法、【2】複数の異な る運営主体によって管理されるモバイルIPネットワーク間のローミングを目的とした実現 手法、【3】SIPによるマルチメディア通信のセッション制御を基盤とする大規模ALL IPネ ットワークの構築を目的とした実現手法について、前提となる一般的なネットワーク構成 を示すとともに、考慮すべき課題や特徴と、課題・特徴を考慮した実現アプローチを説明 した。これらの目的に応じた実現手法を、【1】階層的Mobile IPとNAT, DNSの連携によ る実現手法、【2】異なる運営主体間のローミングのための実現手法、【3】階層的Mobile IP
とNAT, SIPの連携による実現手法、として具体的な提案を行うことを示した。
第4章では、第1の提案手法として、【1】階層的Mobile IPとNAT, DNSの連携による 実現手法について、提案手法の要求条件、ネットワーク構成を示すとともに、提案する詳 細な通信手順を述べた。提案手法においては、階層的Mobile IPのHAおよびGFAの双方 にNAT機能を付加するとともに、通信相手ノードから移動端末への論理名による着信を実 現するために、DNSとの連携機能も実現した。本提案手法により、移動端末が外部ネット ワークに移動した際に、通信開始時にグローバルアドレスを割り当てることによって他の 通信ノードとの通信を可能とし、さらにグローバルIPネットワークに接続された外部の通 信ノードから移動端末への着信を実現した。また、提案手法に関する詳細手順を示すとと もに、Rice大学のMonarchプロジェクトによるMobile IP実装をベースとして、提案手法 を実装した結果についても述べた。提案手法を実装したモビリティ・エージェントのソフ トウェアは、ユーザ空間のデーモンプロセスとカーネル内の処理関数やデータエントリと の連携動作により、効率的なプロトコル処理を実現した。性能評価実験の結果、提案手法 を実装したシステムは、アドレス変換などの付加機能を持ちながら、Monarch プロジェク トによる標準的なMobile IPの実装と比較して、十分遜色のない性能が得られたことを示し た。
第5章では、2番目の提案手法として、【2】異なる運営主体間のローミングのための実現 手法の詳細について述べた。こでは、異なる運営主体によって管理・運営され、それぞれ 独立なプライベートアドレスを使用するモバイルIPネットワークを想定するとともに、移 動端末がこのような複数のモバイルネットワークに加入して、それらの間をローミング可 能とするネットワークの実現手法を提案した。移動端末のローミングを実現する上で、移 動端末に割り当てられた複数のプライベートアドレス間の変換や、一時的なグローバルア
ドレスとプライベートアドレスの変換、およびモバイルIPネットワーク間のパケット転送 などをサポートするために、新たな機能ノードGRA (Global Roaming Agent)を導入した。
GRAを導入することにより、各モバイル IP ネットワークの内部では、通常の Mobile IP 手順との互換性を維持しつつ、移動端末がモバイルネットワーク間をローミングした際に、
他のモバイルネットワークからの着信やグローバルインターネットからの着信を含むさま ざまな通信が可能となることを示した。また、提案手法をプロトタイプシステムとして実 装した結果と性能評価についても示した。提案手法【1】で行った実装と同様に、GRA ソ フトウェアは、カーネル内のデータ構造・関数とユーザ空間のデーモンプロセスの協調に よって効率的な処理を実現し、性能評価の結果、収容可能な端末数の観点から、実用的な スケーラビリティを持つことを示した。
第6章では、第3の提案手法として、【3】階層的Mobile IPとNAT, SIPの連携による実 現手法の詳細を示した。ここでは、今後のキャリアネットワークのALL IP化やNGNに向 けた動向も考慮して、VoIPやビデオ会議などのSIPベースのアプリケーションをサポート することを主目的とし、その目的に適したアーキテクチャと手順を提案した。提案手法で は、HAおよびGFAにSIPプロキシー機能を持たせるとともに、GFAにNAT機能を統合 し、階層的Mobile IPによるモビリティ管理とSIPによるセッション制御・管理を連携さ せることを最大の特徴としており、その具体的なネットワーク構成や通信手順の詳細を説 明した。提案手法は、移動端末とグローバルIPネットワーク上の相手ノードとの通信、同 一ホームネットワークに所属する移動端末間の通信、異なるホームネットワークに所属す る移動端末間の通信など、さまざまな通信形態に対応でき、それぞれの形態に応じた通信 手順を規定した。本提案手法は、今後のALL IPを指向したネットワークにおいて、アドレ ス枯渇の課題に対応しつつ、IPv4へのニーズに対応するとともに、端末間の効率的なピア・
ツー・ピア通信を実現するものと言える。
さらに、第7章では、第4章から第6章で説明した提案手法について、主にプライベー トアドレスのサポートと論理名による着信の観点から、アドレス割り当て・変換処理に関 連した機能上・アーキテクチャ上の比較を行い、それぞれの特徴を整理した。さらに、こ のような比較・整理をベースとして、目的・適用領域の異なる 3 つの提案手法が、それぞ れ互いに補完できるものであり、具体例を示しながら、提案手法を組み合わせたネットワ ークの構築が可能であることを説明した。
先に述べたように、大規模モバイルIPネットワークの構築における主要課題であるモビ リティ管理とアドレス割り当て・管理については、IPv6およびMobile IPv6の導入によっ て、アドレス枯渇の問題も解消し、根本的な解決となることも期待できるが、そのために は多くの時間・コストを要すると考えられる。また、IPv6をベースとしたアプリケーショ
ンやサービスについても、現時点ではまだ本格的な普及に至っていない。本研究は、今後 の移動ネットワークと固定ネットワークの統合や、ALL IP化、NGNといった動向も考慮 しながら、このような大規模なモバイルネットワークにおいて、既存の数多くのIPv4ベー スの端末やアプリケーションを利用可能とする点で意義のあるものと考えられる。本研究 の成果として、このようなIPv4のニーズに対応して、移動端末に対するプライベートアド レスのサポートを可能とし、効率的でスケーラブルなネットワーク構築が実現できること を示した。
今後の課題としては、部分的に導入が図られると予想されるIPv6対応の端末・ネットワ ークと、提案手法によるIPv4ベースの端末・ネットワークとの相互通信の実現や、ALL IP
/ NGNの標準化動向を考慮した共通シグナリング/サービス・プラットフォームにおける
プライベートアドレスのサポート機能やIPv4とIPv6の連携機能の検討などがあげられる。
また、本論文では詳細については言及しなかったが、移動端末の認証や通信経路の暗号化 などを含めたセキュリティも重要な課題であり、実際のネットワーク構築においては、効 率化とスケーラビリティの向上に加え、セキュリティの確保が可能なアーキテクチャ・手 順を導入することが求められる。
関連図書
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