第 3 章 提案手法の位置付けとアプローチ
3.1 キャリアクラスの大規模モバイル IP ネットワーク構築に関するアプローチ
基本的な第 1 のアプローチとして、通信キャリア等の大規模モバイルIPネットワークを 想定したネットワークの実現手法について検討を行う。ここでは、単独の通信キャリアを 想定し、プライベートアドレスを持つ移動端末に対して、汎用的な通信アプリケーション をサポートすることを目的とする[15][16][27]。具体的なネットワーク構成としては、
3GPP2 等で標準化されている移動体ネットワークのアーキテクチャ[8]や実際の商用移動
体ネットワークの構成を考慮する。このような通信キャリアの大規模モバイルIPネットワ ークの構成例を図 3-1に示す。
図 3-1に示すように、通信キャリア等の大規模モバイルIPネットワークでは、基地局(BS:
Base Station)を収容するPCF (Packet Control Function)やAR (Access Router)と呼ばれる 通信ノードが存在し、さらに複数のPCF / ARを収容する形でPDSN (Packet Data Serving Node)あるいはAGW (Access Gateway)と呼ばれる通信ノードが存在する。PDSNやAGWの 配下のネットワークは、アクセスネットワークと呼ばれ、一般的には、地域ごと(都市や県
PCF / AR PCF / AR PCF / AR PCF / AR
PDSN / AGW PDSN / AGW
HA
BS
MN
移動体バックボーン
AAA AAA
AAA
アクセスネットワーク アクセスネットワーク IPコアネットワーク
BS アプリケーション
サーバ等
グローバル インターネット
MN
図 3-1 通信キャリアによる大規模モバイルIPネットワークの構成
単位等)に分割されたローカルなアクセスネットワークや、無線通信方式の違いなど、アク セス手段に応じたアクセスネットワークが複数存在する。これらの複数のアクセスネット ワークは、IPコアネットワークを介して移動体バックボーンと接続される。移動体バック ボーンでは、複数のアクセスネットワークを統合するモビリティ管理機能(Mobile IPのHA 等)や、認証・課金(AAA: Authentication, Authorization and Accounting)機能、サービス ごとのアプリケーションサーバ機能等が実現される。また、ゲートウェイルータ等を介し て、外部のグローバルインターネットとも接続される。
上述のような通信キャリアの大規模モバイルIPネットワークに関して、その特徴や課題 と、それらの特徴・課題を考慮した実現アプローチを以下に示す。
(1) 図 3-1に示すように、大規模モバイルIPネットワークは、複数のアクセスネットワーク
をIPコアネットワークで収容し、モビリティ管理や認証・課金を実現するための移動体バ ックボーンで全体を管理するという階層的な構成を持つ。このような階層構造を持つ大規 模モバイルIPネットワークのモビリティ管理機能を実現するためには、第 2 章で述べた階 層的Mobile IPを適用することが有効である。そこで、階層的Mobile IPをベースとしたモビ リティ管理機能と、プライベートアドレスのサポート機能、および外部とのグローバルな 通信を実現するためのNAT機能を連携させるアプローチを採用する。
(2) 第2章で紹介したMobile IP環境でプライベートアドレスを利用するための既存技術に おいては、移動端末に対する外部からの着信を考慮していないという課題がある。今後の 通信サービスの高度化、端末の多様化を考慮すると、移動端末からの発信だけでなく、移 動端末に対する着信を実現するとともに、このような着信機能は汎用的な仕組みをベース として幅広い通信アプリケーションに対応することが望まれる。そこで、階層的Mobile IP によるモビリティ管理機能ならびに NAT機能に加えて、DNSと連携して、移動端末の論 理名(NAI: Network Access Identifier)による着信を実現するアプローチを採用する。移動 端末に対しては、各ホームネットワークに対応した固有のアドレス(ホームアドレス)として プライベートアドレスを割り当てるとともに、各ホームネットワークのドメインに対応し た一意の論理名を割り当て、この論理名によって外部からの着信を実現する。
(3) 移動端末に対しては、ホームネットワークに応じた固有のプライベートアドレスを割り 当てる。しかし、RFC 1918 [13]で規定されているプライベートアドレス空間(表 3-1参照) として、利用可能なプライベートアドレス数は最大で1700万程度である。一方、近年の携 帯電話の加入者数は単一の通信キャリアでも数千万のオーダーであり、携帯電話以外の端 末も考慮すると、今後さらに多くの端末を収容することが求められる。このため、単一の 通信キャリア内においても、例えば通信サービスの種別ごとや加入者のグループごとなど に、重複する複数のプライベートアドレス空間を導入することが必要となる。このため、
Mobile IPによるモビリティ管理機能の実現においては、複数の論理的なホームネットワー クの存在を想定し、プライベートアドレスの重複に対応する機能を実現する。
表 3-1 プライベートIPアドレス空間
クラス プライベートIPアドレス空間 アドレス数 クラスA 10.0.0.0 ~ 10.255.255.255 (10.0.0.0 / 8) 約1670万 クラスB 172.16.0.0 ~ 172.31.255.255 (172.16.0.0 / 12) 約100万 クラスC 192.168.0.0 ~ 192.168.255.255 (192.168.0.0 / 16) 約65000
(4) 通信キャリアのネットワークでは、端末の認証・課金が必須であり、このための AAA (Authentication, Authorization and Accounting)サーバ(RADIUSサーバ等)の導入が必要 となる。プライベートアドレスを用いたモバイルIPネットワークの実現においても、移動 端末の論理名をベースとしたAAA機能を導入する必要がある。
以上のアプローチを採用する第1の提案手法に関して、以下では「階層的Mobile IPと
NAT, DNSの連携による実現手法」と呼ぶこととする。