第 4 章 階層的 Mobile IP と NAT, DNS の連携による実現手法
4.7 性能評価
HA+NAT (AAA-h, DNS) CN
GFA+NAT (AAA-v)
RFA
FA MN ルータ
HA CN
FA MN ルータ
ルータ
(a) 階層的Mobile IP + NAT (b) 標準Mobile IP (Monarch) モニタ
モニタ
モニタ
モニタ モニタ
HUB HUB
HUB HUB
* GFAと同 一のPCを ルータとし て使用 ルータ*
モニタ
モニタ
モニタ モニタ
モニタ
ルータ
ルータ ルータ
図 4-9 評価実験ネットワーク構成
4.7.2 実験結果
図 4-9に示した評価実験ネットワークにおいて、pingによる応答遅延時間とftpスループ ットを測定した結果を表 4-2に示す。ping応答時間は、64バイトのpingを100回実行した 場合の最小値、平均値、および最大値を示している。また、ftpスループットは、2 Mバイ トのファイル転送を10回行った場合の平均値を示している。
表 4-2より、ping応答時間、ftpスループットともに、提案手法(階層的Mobile IP + NAT) は標準Mobile IPと比較して、若干性能の劣化が見られるが、性能劣化の度合いはそれほど 大きくないと言える。提案手法は、NAT機能をはじめとする付加的な機能をサポートする 一方で、標準Mobile IPと遜色のない性能を実現していると言える。提案手法は、標準Mobile IPと比較すると、プライベートアドレス/グローバルアドレス変換処理やGREトンネリン グ処理が追加のオーバヘッドとなる。GREトンネリングは、標準Mobile IPで使用されるIP
in IPトンネリング(IPヘッダ20バイトの追加)よりも、8バイト余分に必要となる。これら
の要因を考慮しても、提案手法では、カーネル内での効率的な転送処理により、処理オー バヘッドの増加をできるだけ抑えることができたと考えられる。
表 4-2 エンド・ツー・エンドのping応答時間とftpスループット
測定項目 階層的Mobile IP + NAT (提案手法)
標準Mobile IP (Monarch) ping応答時間 (MNからCN)
(最小値 / 平均値 / 最大値)
4.64 / 4.81 / 5.25 (msec)
4.48 / 4.58 / 5.45 (msec) ping応答時間 (CNからMN)
(最小値 / 平均値 / 最大値)
4.63 / 5.07 / 5.49 (msec)
4.48 / 4.61 / 5.13 (msec) ftp (MNからCN)
(平均値)
474.7 (KByte/s)
480.7 (KByte/s) ftp (CNからMN)
(平均値)
432.4 (KByte/s)
476.1 (KByte/s)
さらに、各モビリティ・エージェントにおける処理オーバヘッドを調査するため、プロ トコル・モニタによってキャプチャしたパケットの転送時間を計測した。転送時間は、各 モニタ地点における送信パケットと対応する応答パケットのキャプチャ時刻の差分を求め、
さらにモニタ地点間の差分を計算することで、各通信ノードにおける往復の合計処理遅延 を見積もった。
図 4-10に、HAに対するMNの位置登録処理、MNからCNへのping要求/応答、CNから MNに対するDNSクエリ/応答とping要求/応答の各応答時間の測定結果例を示す。図 4-10において、要求パケットおよび応答パケットは同一のイーサネットリンクでキャプチ ャしており、取得時刻の差分をミリ秒(msec)で表している。例えば、HA、GFA、RFA、お よびFAにおけるMobile IP位置登録要求(RRQ)/応答(RRP)の処理時間は、各ノードの前後 のイーサネットリンクでのキャプチャ結果より、それぞれ0.3 msec、0.5 (0.8 – 0.3) msec、
0.4 (2.5 – 2.1) msec、0.5 (4.3 – 3.8) msecと見積もることができる。MNからCNに対する ping要求/応答に関しては、HAでの処理時間が0.2 (1.5 – 1.3) msec、GFAでの処理時間が 0.2 (1.7 – 1.5) msecと見積もることができる。また、CNからMNへの着信のケースでは、
HAにおけるDNSクエリ/応答 (グローバルアドレスの割り当て処理を含む)が 1.5 msecと
見積もられ、ping要求/応答の処理時間はHAにおいて0.1 (3.9 – 3.8) msec、GFAにおいて 0.3 (3.8 – 3.5) msecと見積もることができる。
標準Mobile IPの場合についても、同様な方法で処理時間の見積もりを行った。その結果、
ping 要求/応答については、いずれの方向の場合においても、HA での処理時間が約 0.1
msec、FAでの処理時間が約0.2 msecであった。これらの結果から、各モビリティ・エー ジェントにおける処理オーバヘッドは、提案手法の場合も標準Mobile IPと同程度であると 言える。
上述のような評価結果より、階層的Mobile IPとNATおよびDNSを連携させた提案手 法の実装は、Monarchプロジェクトによる標準Mobile IPの実装と比較しても遜色のない 性能が得られていると結論できる。提案手法におけるアドレス変換や階層的なモビリティ 管理に関しては、カーネル内での効率的なパケット転送処理の実現により、オーバヘッド を抑えることができたと言える。
MN FA HA
+NAT CN
アドレス割当要求 RRQ
アドレス割当応答 データ (トンネリング)
データ (トンネリング) データ (ping)
データ RFA
4.3 3.8 2.1
R R GFA R
+NAT
0.8 0.3
2.5 RRP
RRQ
データ (ping)
0.3
4.6 4.3 3.0 2.9 1.7 1.5 1.3 0.2
1.5 2.4
0.2 0.6 2.0 2.1 3.5 3.8 3.9 5.0
DNSクエリ DNS応答 RRP
データ (ping)
図 4-10 パケット転送時間(応答遅延)の測定結果 (msec)