第 5 章 観測データに基づく不確実性を考慮した交通状態の推定
5.3 数値計算
5.3.3 経路移動時間の更新
5.3.3 では,経路移動時間の平均のハイパーパラメータを更新する過程を示す.経路移
動時間の更新過程では,リンク交通量についての最尤推定を通じて交通感知器データから
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推計される経路移動時間は,ベイズ統計学における経路移動時間の平均の事前分布に対応 している.この経路移動時間の平均の事前分布は多変量正規分布に従うと仮定する.この多 変量正規分布から生成されたサンプル観測データを用意する.この生成されたサンプル観 測データが非欠測パラメータpの割合に従って,欠損されるものとする.この非欠測パラメ ータ𝑝は対象とする道路ネットワーク内の各交通需要における非プローブ車両の混合率と して解釈される.5.3.2に示す事前分布からランダムに1,000個のサンプルを生成した.非欠 測パラメータpの違いによる,経路移動時間の平均の更新過程を検証するために,非欠測パ ラメータをそれぞれ0.1,0.3,0.5の3つのパターンで設定した.図5-4, 図5-5, 図5-6はそ れぞれ,経路移動時間の平均の事後分布におけるハイパーパラメータ𝐦̃の推移を示している.
図5-4 ハイパーパラメータ𝐦 の推移 (𝑝 = 0.1)
図5-5 ハイパーパラメータ𝐦 の推移 (𝑝 = 0.3)
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図5-6 ハイパーパラメータ𝐦 の推移 (𝑝 = 0.5)
図5-4,図5-5,図5-6を参照すると,非欠測パラメータpが大きいとき,多くのサンプル数 を必要としなくても,ハイパーパラメータが安定して収束することがわかる.図5-7は,非 欠測パラメータpをそれぞれ変化させたときの,経路1のハイパーパラメータmの更新過 程を示している.
図5-7 ハイパーパラメータ𝐦の推移 (経路1)
図5-7の結果から,それぞれp=0.3とp=0.5のときのハイパーパラメータは,p=0.1のハイ パーパラメータに比べて,サンプルを生成した元の確率分布である,事前分布の平均に近づ くことがわかる.
次に,予測分布と事前分布を比較するために,それぞれ多変量正規分布に従う2つの分 布間のKLダイバージェンスを計算する.KLダイバージェンスの定義は以下の通りである.
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KL[𝑝1(x)|𝑝2(x)] = − ∫ 𝑝1(x) ln𝑝2(x)
𝑝1(x)𝑑x (5-30)
本章では,事前分布,尤度分布,事後分布が多変量正規分布に従うと仮定している.したが って,KLダイバージェンスは次のように規定される.
KL[𝑝1(x)|𝑝2(x)]
=1
2{(ξ2− ξ1)𝑇Σ2−1(ξ2− ξ1) + 𝑇𝑟[Σ2−1Σ1)] + ln|Σ2|
|Σ1|− 𝑑} (5-31) なお,𝑝1(x)と𝑝2(x)はそれぞれ以下のように多変量正規分布に従う.
𝑝1(x)~MVN(ξ1, Σ1), 𝑝2(x)~MVN(ξ2, Σ2)
(5-31)中のTは,ベクトルまたは行列の転置操作を意味する記号である.なお,dは多変量
確率変数の次元である.図 5-8 に非欠測パラメータ p の KL ダイバージェンスの推移を示 す.p=0.3ならびにp=0.5のとき,KLダイバージェンスは,p=0.1のときのKLダイバージ ェンスよりも早く 0に収束している.この結果から,非欠測パラメータ pが経路移動時間 のパラメータ推定の効率に影響を与えることがわかる.
図5-8 KLダイバージェンスの推移