第 4 章 確定的なリンク交通量に基づく確率的リンク移動時間の評価手法
4.4 小括
69
図4-10 リンク移動時間の分散共分散行列の成分に対応する各リンクの移動時間の総和
(4-28)と(4-29)の定義により,𝑋𝑇+− 𝐭𝟏𝑇と𝑋𝑇−𝑇+ 𝐭𝟏𝑇の2つの行列はそれぞれ等しい.換言す れば,2つの行列は互いにそれぞれ2𝐭𝟏𝑇と−2𝐭𝟏𝑇だけ平行移動したものである.また,図 4-10に示す,ベクトルの各成分の相対的な順序と平均リンク移動時間tの相対的な順序は 互いに類似している.これは,𝑡𝑎(𝑣𝑎+ 𝜋̂𝑎|𝑎′)と𝑡𝑎′(𝑣𝑎′+ 𝜋̂𝑎′|𝑎)の比は,(4-19)に示すリ ンク移動時間の平均によって決まるためである.
70
約を伴うネットワークデザイン問題に適用することができる.また,提案する手法を現実の 道路ネットワークで観測されたデータに適用することも主要な課題である.付録4Bにおい て,提案したリスクプレミアムの指標を用いて,各リンクの交通量と移動時間の情報から,
道路ネットワーク全体のリスク寄与度を計算する手法を示した.テストネットワークにお いて,実際に数値計算を行い,結果を示すことも今後の課題である.
付録 4A Duncan (1977)の手法
ここでは,Duncan (1977)の手法をネットワーク問題に適用した場合の定式化を示す.
Duncan (1977)では,リンク移動時間の共分散に対応する 2 変量リスクプレミアムの組は,
(4-24)を直接解くことによって得られる.(4-20)のMoore-Penroseの一般化逆行列を導入する
ことにより,以下に示す2変量リスクプレミアムの組を特定することができる.
π
̂𝑎,𝑏=1
2(u𝑎,𝑏𝑇 )−𝑡𝑟[U𝑎,𝑏Σ𝑎,𝑏] ∀𝑎 ∈ 𝐴, 𝑏 ∈ 𝐴 (4-A1) 以下に示すように,(𝒖𝑎,𝑏𝑇 )− は𝒖𝑎,𝑏𝑇 の一般化逆行列である.
(𝒖𝑎,𝑏𝑇 )−= 𝒖𝑎,𝑏
‖𝒖𝑎,𝑏‖2∀𝑎 ∈ 𝐴, 𝑏 ∈ 𝐴 (4-A2)
ここで,(4-A1)の“tr”は転置操作を意味する記号である.𝐮𝑎,𝑏は非零ベクトルである.(4-A1)
のように特定される2 変量リスクプレミアムは 2 次ノルムを最小化することによって求ま る.各リンクペア(𝑎, 𝑏 ∈ 𝐴)に対して,上記の手法によって2変量リスクプレミアムを定義す ることができる.|𝐴| × |𝐴|通りの2変量リスクプレミアムの組を求めたとき,それぞれの第 一成分を集めて,|𝐴| × |𝐴|の行列Π1を定義する.同様にして,それぞれの第二成分を集めて,
|𝐴| × |𝐴|の行列Π2を定義する.それぞれの行列の成分は以下の通りである.
Π1= (
𝜋̂1|1 ⋯ 𝜋̂1||𝐴|
⋮ ⋱ ⋮
𝜋̂|𝐴||1 ⋯ 𝜋̂|𝐴|||𝐴|
) , Π2= (
𝜋̂1|1 ⋯ 𝜋̂|𝐴||1
⋮ ⋱ ⋮
𝜋̂1||𝐴| ⋯ 𝜋̂|𝐴|||𝐴|
) (= Π1𝑇) (4-A3)
付録 4B リスクプレミアムを用いた道路ネットワークの評価手法
道路ネットワーク全体の総移動時間の平均は,リスクプレミアムを用いて以下のよう に表される.
𝐸[𝑇𝑇] = ∑𝑎∈𝐴𝐸[𝑇𝑎] = ∑𝑎∈𝐴𝑡𝑎(𝑣𝑎+ 𝜋𝑎) (4-B1) リンク移動時間の平均,𝑣𝑎が微小量𝛥𝑣𝑎だけ変化するとき,総移動時間の微小変化は以下の とおりである.
𝛥𝐸[𝑇𝑇] = ∑𝑎∈𝐴𝑒𝑎⋅ 𝛥𝑣𝑎 (4-B2)
ここで,𝑒𝑎はリンク交通量の平均𝑣𝑎についての総移動時間の平均E[𝑇𝑇]の感度である.
71 𝑒𝑎=𝜕𝑡𝑎(𝑣𝑎+ 𝜋𝑎)
𝜕𝑣𝑎
=𝜕𝑡𝑎(𝑣𝑎+ 𝜋𝑎)
𝜕(𝑣𝑎+ 𝜋𝑎) ⋅𝜕(𝑣𝑎+ 𝜋𝑎)
𝜕𝑣𝑎
= 𝑡𝑎(1)(𝑣𝑎+ 𝜋𝑎) ⋅ (1 +𝑑𝜋𝑎
𝑑𝑣𝑎) ∀𝑎 ∈ 𝐴
(4-B3)
(4-13)より,𝑑𝜋𝑎/𝑑𝜋𝑎は以下のように導出される.
𝑑𝜋𝑎 𝑑𝑣𝑎 = 𝑑
𝑑𝑣𝑎(1 2
𝑡𝑎(2)(𝑣𝑎)
𝑡𝑎(1)(𝑣𝑎)𝑣𝑎𝑟[𝑉𝑎]) ∀𝑎 ∈ 𝐴 (4-B4) 特にリンク移動時間の分散を総交通需要の変動係数とリンク交通量の平均の積,var[𝑉𝑎] = (𝑐𝑣 ⋅ 𝑣𝑎)2で表す場合 (Tani and Uchida, 2018),𝑑𝜋𝑎/𝑑𝜋𝑎は次のように表される.
𝑑𝜋𝑎 𝑑𝑣𝑎 =1
2(𝑛 − 1) ⋅ 𝑐𝑣2 ∀𝑎 ∈ 𝐴 (4-B5)
総移動時間の分散を以下に示すようなベクトル表記で表す.
𝑣𝑎𝑟[𝑇𝑇] = 𝒆𝜮𝒗𝒆𝑇 (4-B6)
Σ𝑣はリンク交通量の分散共分散行列であり,𝑒は以下に示す感度ベクトルである.
𝒆 = (𝑒1, ⋯ , 𝑒|𝐴|) (4-B7)
移動時間の不確実性が総移動時間の標準偏差で測られる場合,リスクは感応度に対して線 形同次関数であるため,the Euler’s homogeneous function theoremを適用することによって,
リンク交通量の平均𝑣𝑎に関するリスク寄与度は次のように計算される.
𝑟𝑎=𝜕√𝑣𝑎𝑟[𝑇𝑇]
𝜕𝑒𝑎 ⋅ 𝑒𝑎= 𝑒𝑎
√𝑣𝑎𝑟[𝑇𝑇]⋅ ∑ 𝑒𝑎⋅ 𝜎𝑎𝑏
𝑏∈𝐴
∀𝑎 ∈ 𝐴 (4-B8)
∑ 𝑟𝑎 𝑎∈𝐴
= √𝑣𝑎𝑟[𝑇𝑇] (4-B9)
ここで,𝜎𝑎𝑏はリンクaとbの間の交通量の共分散を意味する.同様に,移動時間の不確実 性が総移動時間の分散によって測られる場合,リスクは感度に対して 2 次同次関数である ため,リンク交通量の平均,𝑣𝑎に関するリスク寄与度は次のように計算される.
𝑠𝑎=1 2
𝜕 𝑣𝑎𝑟[𝑇𝑇]
𝜕𝑒𝑎 ⋅ 𝑒𝑎= ∑ 𝑒𝑎⋅ 𝜎𝑎𝑏 𝑏∈𝐴
∀𝑎 ∈ 𝐴 (4-B10)
∑ 𝑠𝑎 𝑎∈𝐴
= 𝑣𝑎𝑟[𝑇𝑇] (4-B11)
(4-B10)を計算するためには𝜕𝜋̂𝑎|𝑏
𝜕𝑣𝑎と𝜕𝜋̂𝑏|𝑎
𝜕𝑣𝑎 を陽に定義する必要がある.定義の詳細を以下に示 す.リンク交通量の平均,𝑣𝑖 (∀𝑖 ∈ A)に関して,恒等式(4-19)の一次の偏微分は以下のように 求まる.
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𝜕𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋𝑖)
𝜕𝑣𝑖
⋅ 𝑡𝑗(𝑤𝑗) + 𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋𝑖) ⋅𝜕𝑡𝑗(𝑤𝑗)
𝜕𝑤𝑗
𝜕𝑤𝑗
𝜕𝑣𝑖
−𝜕𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋̂𝑖|𝑗)
𝜕𝑤𝑖
𝜕𝑤𝑖
𝜕𝑣𝑖
⋅ 𝑡𝑗(𝑣𝑗+ 𝜋𝑗) = 0 ∀𝑖 ∈ 𝐴
(4-B12)
ここで,
𝑤𝑖 = 𝑣𝑖+ 𝜋̂𝑖|𝑗,𝑤𝑗 = 𝑣𝑗+ 𝜋̂𝑗|𝑖 ∀𝑖, 𝑗 ∈ 𝐴 (4-B13)
𝜕𝑤𝑖
𝜕𝑣𝑖 = 1 +𝜕𝜋̂𝑖|𝑗
𝜕𝑣𝑖 ,𝜕𝑤𝑗
𝜕𝑣𝑖 =𝜕𝜋̂𝑗|𝑖
𝜕𝑣𝑖 ∀𝑖, 𝑗 ∈ 𝐴 (4-B14)
𝜕𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋𝑖)
𝜕𝑣𝑖 = 𝑡𝑖(1)(𝑣𝑖+ 𝜋𝑖) ⋅ (1 +𝜕𝜋𝑖
𝜕𝑣𝑖) ∀𝑖 ∈ 𝐴 (4-B15) リンク交通量の平均に関するリンクコスト関数の逆関数を用いて,2変量リスクプレミアム 𝜋̂𝑗|𝑖は以下のように導出される.
𝜋̂𝑗|𝑖 = 𝑡𝑗−1(𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋̂𝑖|𝑗) ⋅𝑡𝑗(𝑣𝑗+ 𝜋𝑗) 𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋𝑖)) − 𝑣𝑗
= ( 𝑐𝑗𝑛
𝛼 (
𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋̂𝑖|𝑗) ⋅𝑡𝑗(𝑣𝑗+ 𝜋𝑗) 𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋𝑖)
𝑡0,𝑗 − 1
))
1 𝑛
− 𝑣𝑗 ∀𝑖, 𝑗 ∈ 𝐴
(4-B16)
連鎖律によって,リンク交通量の平均に関してπ̂𝑗|𝑖を以下のように偏微分できる.
𝜕𝜋̂𝑗|𝑖
𝜕𝑣𝑖
=𝜕𝑡𝑗−1(𝑢)
𝜕𝑢
𝜕𝑢
𝜕𝑣𝑖
∀𝑖, 𝑗 ∈ 𝐴 (4-B17)
ここで,
𝑢 = 𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋̂𝑖|𝑗) ⋅𝑡𝑗(𝑣𝑗+ 𝜋𝑗)
𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋𝑖) ∀𝑖 ∈ 𝐴, 𝑗 ∈ 𝐴 (4-B18)
𝜕𝑡𝑗−1(𝑢)
𝜕𝑢 =𝑐𝑗𝑛⋅ 𝑡0𝑖
𝑡0𝑗 ⋅ (𝑢 𝑐)
𝑛
+ (𝑐𝑗𝑛⋅ 𝑡0𝑖
𝛼 ⋅ (𝛼 (𝑢 𝑐𝑗)
𝑛
+ 1) − 1)
1 𝑛−1
∀𝑖, 𝑗 ∈ 𝐴
(4-B19)
𝜕𝑢
𝜕𝑣𝑖= 𝑡𝑖(1)(𝑣𝑖+ 𝜋̂𝑖|𝑗) ⋅ (1 +𝜕𝜋̂𝑖|𝑗
𝜕𝑣𝑖 ) ⋅𝑡𝑗(𝑣𝑗+ 𝜋𝑗) 𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋𝑖) +𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋̂𝑖|𝑗) ⋅ (𝑡𝑗(𝑣𝑗+ 𝜋𝑗)
𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋𝑖))
(1)
∀𝑖, 𝑗 ∈ 𝐴
(4-B20)
𝑡𝑖(1)(𝑣𝑖+ 𝜋̂𝑖|𝑗) = 𝑡0𝑖⋅ 𝛼 ⋅ 𝑛 ⋅ 𝑐𝑖−𝑛⋅ (𝑣𝑖+ 𝜋̂𝑖|𝑗)𝑛−1 ∀𝑖, 𝑗 ∈ 𝐴 (4-B21)
73 (𝑡𝑗(𝑣𝑗+ 𝜋𝑗)
𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋𝑖))
(1)
= 𝜕
𝜕𝑣𝑖(𝑡𝑗(𝑣𝑗+ 𝜋𝑗) 𝑡𝑖(𝑣𝑖+ 𝜋𝑖))
= −
𝑡𝑗(𝑣𝑗+ 𝜋𝑗) ⋅ 𝛼 ⋅ 𝑛 ⋅ (𝑣𝑖+ 𝜋𝑖 𝑐𝑖 )
𝑛
𝑡0𝑗⋅ (𝑣𝑖+ 𝜋𝑖) ⋅ (𝛼 ⋅ (𝑣𝑖+ 𝜋𝑖 𝑐𝑖 )
𝑛
+ 1)
2⋅ (1 +𝜕𝜋𝑖
𝜕𝑣𝑖
) ∀𝑖, 𝑗 ∈ 𝐴
(4-B22)
(4-B12)-(4-B16)と(4-B17)-(4-B22)の線形連立方程式を解くことによって,2 変量リスクプレ
ミアム,𝜕𝜋̂𝑖|𝑗/𝜕𝑣𝑖と𝜕𝜋̂𝑗|𝑖/𝜕𝑣𝑖のリンク移動時間の平均に関する偏微分を導出できる.同様の 手順によって,𝜕𝜋̂𝑖|𝑗
𝜕𝑣𝑗と𝜕𝜋̂𝑗|𝑖
𝜕𝑣𝑗の偏微分もまた導出できる.
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