• 検索結果がありません。

第 3 章 リンクの損壊を確率的状態として表現できる交通量配分モデル

3.2 定式化

3.2.6 移動時間

39

次に,(3-36)の不等号の前後の変動係数の大小関係を調べる.𝑎𝑤 = (∑𝑘∈𝐾𝑤𝛿𝑤,𝑘,𝑎

𝑝𝑤,𝑘) ⋅ 𝑞𝑤(∀𝑤 ∈ 𝑊)とすると,(3-36)で示される2つのリンク交通量の分散の関係は,

𝑣𝑎𝑟[𝑉𝑎] = ( ∑ 𝑎𝑤2 𝑤∈𝑊

) ⋅ 𝑐𝑣𝑄2< ( ∑ 𝑎𝑤

𝑤∈𝑊

)

2

⋅ 𝑐𝑣𝑄= 𝑣𝑎𝑟 [𝑉𝑎] ∀𝑎 ∈ 𝐴 と表される.ここで,上に示す2つのリンク交通量の分散の割合,(∑ 𝑎𝑤2

𝑤∈𝑊 )/(∑𝑤∈𝑊𝑎𝑤)2 について考える.一般にn個の実数(𝑎1, 𝑎2, ⋯ , 𝑎𝑛)について,

1 > 𝑎12+ 𝑎22+ ⋯ + 𝑎𝑛2 (𝑎1+ 𝑎2+ ⋯ + 𝑎𝑛)2≥1

𝑛 である.上に示す関係を(∑ 𝑎𝑤2

𝑤∈𝑊 )/(∑𝑤∈𝑊𝑎𝑤)2における関係にあてはめると,リンク aを 通過するOD交通需要の個数がnに相当する.したがって,OD間で交通需要の確率的相関 を考慮しない場合,リンクaにおける分散は,OD間で交通需要の確率的相関を考慮する場 合と比較して,最小で1/nだけ小さくなる.なお,リンク交通量の平均は上の2つの場合に おいてそれぞれ等しい.したがって,標準偏差および変動係数は最小で 1/√𝑛だけ小さくな る.

40 𝐷𝑎=𝑉𝑎

𝐶𝑎

∀𝑎 ∈ 𝐴 (3-43)

このとき,リンク移動時間の平均と分散共分散はそれぞれ以下のように書ける.

E[𝑇𝑎] = 𝑡0𝑎⋅ (1 + 𝛽𝑎⋅ 𝐸[𝐷𝑎𝑛𝑎]) ∀𝑎 ∈ 𝐴 (3-44) cov[𝑇𝑎, 𝑇𝑏] = 𝐸[𝑇𝑎⋅ 𝑇𝑏] − 𝐸[𝑇𝑎] ⋅ 𝐸[𝑇𝑏] ∀𝑎 ∈ 𝐴, 𝑏 ∈ 𝐴 (3-45) ここで,E[𝑇𝑎⋅ 𝑇𝑏]は以下のように計算できる.

E[𝑇𝑎⋅ 𝑇𝑏] = 𝐸 [(𝑡0𝑎⋅ (1 + 𝛽𝑎⋅ 𝐷𝑎𝑛𝑎) ⋅ 𝑡0𝑏⋅ (1 + 𝛽𝑏⋅ 𝐷𝑏𝑛𝑏))]

= E[𝑡0𝑎⋅ 𝑡0𝑏⋅ (1 + 𝛽𝑎⋅ 𝐷𝑎𝑛𝑎+ 𝛽𝑏⋅ 𝐷𝑏𝑛𝑏+ 𝛽𝑎⋅ 𝛽𝑏⋅ 𝐷𝑎𝑛𝑎⋅ 𝐷𝑏𝑛𝑏)]

= 𝑡0𝑎⋅ 𝑡0𝑏⋅ (1 + 𝛽𝑎⋅ 𝐸[𝐷𝑎𝑛𝑎] + 𝛽𝑏⋅ 𝐸[𝐷𝑏𝑛𝑏] + 𝛽𝑎⋅ 𝛽𝑏⋅ 𝐸[𝐷𝑎𝑛𝑎⋅ 𝐷𝑏𝑛𝑏]) ∀𝑎 ∈ 𝐴, 𝑏 ∈ 𝐴

(3-46)

確率変数𝐷𝑎𝑛𝑎~𝐿𝑁 (𝜇𝐷

𝑎𝑛𝑎, 𝜎𝐷

𝑎𝑛𝑎

2 )に対応する正規分布の平均と分散はそれぞれ以下のように 定義される.

𝜇𝐷

𝑎𝑛𝑎 = 𝐸[𝑛𝑎⋅ 𝑋𝑎] = 𝑛𝑎⋅ 𝐸[𝑋𝑎] = 𝑛𝑎⋅ 𝜇𝐷𝑎 ∀𝑎 ∈ 𝐴 (3-47) 𝜎𝐷

𝑎𝑛𝑎

2 = var[𝑛𝑎⋅ 𝑋𝑎] = 𝑛𝑎2⋅ 𝑣𝑎𝑟[𝑋𝑎] = 𝑛𝑎2⋅ 𝜎𝐷2𝑎 ∀𝑎 ∈ 𝐴 (3-48) ここで,𝑋𝑎 = ln 𝐷𝑎 ∀𝑎 ∈ 𝐴である.𝑋𝑎は𝑋𝑎~𝑁(𝜇𝐷𝑎, 𝜎𝐷2𝑎)のように,正規分布に従う.対数正 規分布の基本的な性質により,𝑋𝑎のパラメータはそれぞれ以下のように決まる.

𝜇𝐷𝑎= 𝜇𝑉𝑎− 𝜇𝐶𝑎 ∀𝑎 ∈ 𝐴 (3-49) 𝜎𝐷𝑎= 𝜎𝑉2𝑎+ 𝜎𝐶2𝑎 ∀𝑎 ∈ 𝐴 (3-50) 確率変数𝐷𝑎のべき乗もまた対数正規分布に従うことに注意が必要である.リンク移動時間 の積の平均,𝐸[𝑇𝑎⋅ 𝑇𝑏]を定義するときに表れる𝐷𝑎𝑏𝑛 = 𝐷𝑎𝑛𝑎⋅ 𝐷𝑏𝑛𝑏もまた,対数正規分布に従う.

上に示す計算と同様にして,𝐷𝑎𝑏𝑛 のパラメータはそれぞれ以下のように表される.

𝜇𝐷𝑎𝑏𝑛 = 𝐸[𝑛𝑎⋅ 𝑋𝑎+ 𝑛𝑏⋅ 𝑋𝑏]

= 𝑛𝑎⋅ 𝜇𝐷𝑎+ 𝑛𝑏⋅ 𝜇𝐷𝑎 ∀𝑎 ∈ 𝐴, 𝑏 ∈ 𝐴

(3-51)

𝜎𝐷

𝑎𝑏𝑛

2 = var[𝑛𝑎⋅ 𝑋𝑎+ 𝑛𝑏⋅ 𝑋𝑏]

= 𝑛𝑎2⋅ var[𝑋𝑎] + 𝑛𝑏2⋅ var[𝑋𝑏] + 2𝑛𝑎⋅ 𝑛𝑏⋅ cov[𝑋𝑎, 𝑋𝑏]

= 𝑛𝑎2⋅ 𝜎𝐷2𝑎+ 𝑛𝑏2⋅ 𝜎𝐷2𝑏+ 2𝑛𝑎⋅ 𝑛𝑏⋅ 𝜎𝐷𝑎,𝐷𝑏 ∀𝑎 ∈ 𝐴, 𝑏 ∈ 𝐴

(3-52)

本章ではリンク間の交通量の確率的相関を考慮していることから,確率変数𝐷𝑎に対応する 多変量正規分布𝑋𝑎もまた,リンク間の確率的相関が存在する.

cov[𝑋𝑎, 𝑋𝑏] = 𝜎𝐷𝑎,𝐷𝑏

= cov[ln 𝐷𝑎, ln 𝐷𝑏]

= cov[ln 𝑉𝑎− ln 𝐶𝑎, ln 𝑉𝑏− ln 𝐶𝑏]

= 𝜎𝑉𝑎,𝑉𝑏 ∀𝑎 ∈ 𝐴, 𝑏 ∈ 𝐴

(3-53)

上式において,リンク交通量とリンク交通容量は互いに独立であることから,リンク移動時 間のリンク間の確率的相関はリンク交通量のみに影響することに注意が必要である.

41

確率的リンク交通量が正規分布に従うと仮定した多くの既存研究においては,リンク 移動時間は多項式によって表されている.正規分布に従うリンク移動時間のべき乗を求め るにあたり,Clark and Watling (2005)あるいはUchida (2015)はリンク交通量の平均まわりの m 次テイラー級数近似を施している.しかし,本章ではリンクaにおける確率変数𝐷𝑎の𝑛𝑎

次モーメントは対数正規分布の基本的性質により,解析的に直接求めることが可能である.

Uchida (2014)のように,𝐷𝑎が正規分布に従っている場合,このモーメントを求めるにあたり,

Isserlis (1918)が示す手法を用いる必要がある.したがって,リンク交通量およびリンク交通

容量がそれぞれ対数正規分布に従う場合,リンク移動時間の定式化は容易になる.

BPR関数の基本的な定義より,リンク移動時間は確定項と確率項を持つことがわかる.

以下に示す通り,確率項は対数正規分布に従う.

𝑇̂𝑎 = 𝑇𝑎− 𝑡𝑎0~𝐿𝑁 (ln 𝛽𝑎+ 𝜇𝐷

𝑎𝑛𝑎, 𝜎𝐷

𝑎𝑛𝑎

2 ) ∀𝑎 ∈ 𝐴 (3-54)

つまり,リンク移動時間は確定項の分だけ,右に移動するためshifted lognormal distribution に従うことになる(例えば,Srinivasan et al., 2014).経路移動時間はリンク移動時間の総和 によって表される.

𝑇𝑤,𝑘= ∑𝑎∈𝑨𝛿𝑤,𝑘,𝑎⋅ 𝑇𝑎 ∀𝑤 ∈ 𝑊, 𝑘 ∈ 𝐾𝑤 (3-55) 経路移動時間もまたリンク移動時間と同様に確定項と確率項で構成される.リンク交通量 の確率項の総和はAbu-Dayya and Beaulieu (1994)によって,対数正規分布に従うと仮定する ものとする.経路移動時間の確率項は以下のように記述される.

𝑇̂𝑤,𝑘= 𝑇𝑤,𝑘− ∑𝑎∈𝑨𝛿𝑤,𝑘,𝑎⋅ 𝑡𝑎0~𝐿𝑁 (𝜇𝑇̂𝑤,𝑘, 𝜎𝑇̂

𝑤,𝑘

2 ) ∀𝑤 ∈ 𝑊, 𝑘 ∈ 𝐾𝑤 (3-56) 経路移動時間の確率項のパラメータ,𝜇𝑇̂𝑤𝑘と𝜎𝑇̂2𝑤𝑘はリンク交通量の定式化と同様に,

Abu-Dayya and Beaulieu (1994)の近似を用いて計算できる.経路移動時間の平均と分散はそれぞ

れ以下のように定義される.

𝐸[𝑇𝑤,𝑘] = ∑𝑎∈𝑨𝛿𝑤,𝑘,𝑎⋅ 𝐸[𝑇𝑎] ∀𝑤 ∈ 𝑊, 𝑘 ∈ 𝐾𝑤 (3-57) var[𝑇𝑤,𝑘] = cov [∑ 𝛿𝑤,𝑘,𝑎⋅ 𝑇𝑎

𝑎∈𝐴

, ∑ 𝛿𝑤,𝑘,𝑎⋅ 𝑇𝑏 𝑏∈𝐴

]

= ∑𝑎∈𝐴𝑏∈𝐴𝛿𝑤,𝑘,𝑎⋅ 𝛿𝑤,𝑘,𝑏⋅ cov[𝑇𝑎, 𝑇𝑏] ∀𝑤 ∈ 𝑊, ∀𝑘 ∈ 𝐾𝑤 ∀𝑤 ∈ 𝑊, 𝑘 ∈ 𝐾𝑤

(3-58) リンク a におけるリンク移動時間の総移動時間は𝑇𝑎⋅ 𝑉𝑎 = 𝑇̂𝑎⋅ 𝑉𝑎+ 𝑡𝑎0⋅ 𝑉𝑎𝑇𝑎⋅ 𝑉𝑎 = 𝑇̂𝑎⋅ 𝑉𝑎+ 𝑡𝑎0⋅ 𝑉𝑎となり,右辺の2つの項はそれぞれ対数正規分布に従う.Abu-Dayya and Beaulieu (1994) の近似に基づくと,リンク a における総移動時間𝑇𝑎⋅ 𝑉𝑎は対数正規分布として近似される.

道路ネットワーク全体の総移動時間∑𝑎∈𝐴𝑇𝑎⋅ 𝑉𝑎もまた,同様の考え方によって,対数正規分 布に従うものとみなすことができる.

42