第 2 章 ペルー政府の取組みと成果
2.3. 貧困削減の成果
2.3.2. 経済成長と貧困の関連
表 2-18 MDGs進捗報告の数値と目標値
指標 目標値
目標1 貧困撲滅 1991 2001 2015
最貧困者比率(%) 23.0 23.9 ±11.5
貧困者比率(%) 54.4 54.3 ±27.3
5歳未満児に占める低体重児の割合(%) 10.8 7.07 5.4 食料エネルギー消費が最低水準未満の世帯の割合(%) 22.3 35.8 n.a.
目標2 初等教育の完全普及 1991 2002 2015
初等教育純就学率(%) 90.6 89.5 100.0
5年生に進級する児童の割合(%) 75.1 84.1 100.0 青年層の識字率(15-24歳)(%) n.a. 96.64 100.0
目標3 ジェンダー 1991 2002 2015
初等教育における男子に対する女子の割合(%) 98.54 99.86 100.00 中等教育における男子に対する女子の割合(%) 94.47 90.28 100.00 高等教育における男子に対する女子の割合(%) 77.73 101.90 100.00 非農業セクターに賃金労働している女性の割合(%) 41.29 42.2 n.a.
目標4 子供の死亡率の削減 1986-1996 1990-2000 2015
乳児死亡率(1000出生当たり) 50 43 17
5歳未満児死亡率(1000人当たり) 68 60 23
風疹予防接種率(保健省への報告によるデータ、%) n.a 93.0 95.0 (人口・保健調査ENDESによるデータ、%) 74 71.9 95.0
目標5: 妊産婦の健康改善 1992 1996 2000
熟練の保健スタッフによる介助を受けた出産の割合(%) 52.5 56.4 59.3 妊産婦死亡率(推定、10万出生当たり) n.a. 265 185
目標7 持続的な環境づくり 1990 2000 2015
飲料水供給率(%) 63 75 88
下水施設普及率(%) 54 56 78
(出所) Organización de Naciones Unidas, (2004), p19, Cuadro 1、p23, Cuadro 3および4、p31, Cuadro 5、p41, Cuadro 6、
p53, Cuadro 9および10、p63, Cuadro 11、p99, Cuadro 22より作成
(注) ENDESはEncuesta Demografíca y Salud Familiarの略語。
表 2-19 GDPおよび
1
人当たりGDP
成長率の推移(1991-2004年)(単位:%)
1991-1997 1998-2000 2001 2002 2003 2004
GDP成長率 5.8 1.0 0.2 4.9 4.0 4.8
1人当たりGDP成長率 3.9 -0.9 -1.4 3.3 2.2 -
貧困者比率 42.7 48.4 54.0 - - 51.6
(出所) WB, (2005), p30, Table 2.1およびp157, Table A.1.1より作成
(注1) 貧困者比率は、WBがENAHOのデータを基に経年比較を行うために調整をして算出した数値。
1991-97の数値は1997年、1998-2000の数値は2000年のデータによる。
こうした経済成長による貧困削減効果の反応の鈍さは、
GDP
成長率に比して1
人当た りGDP
成長率が低く、経済的ショックに見舞われた際には所得の減少が消費の抑制に つながり、消費面からの回復が遅れることに起因していると考えられる。表2-20
は、1
人当たりGDP
、消費および所得の変化を示しているが、1997
〜2001
年の1
人当たりGDP
成長率がマイナス3.2
%であったのに対し、1
人当たり所得はマイナス1.7
%の落込みに とどまったが、1
人当たり消費はマイナス11.4
%と大きく下回っている。2001
〜2004
年 には1
人当たりGDP
成長率は5.7
%と回復し、1
人当たり所得も0.1
%のプラスになっ ているにも関らず、1
人当たり消費はマイナス2.5
%と落込みが続いた。表 2-20 1人当たり
GDP、消費、所得の変化
(単位:%)
1人当たりGDP
(1994年価格)
1人当たり消費
(ENAHO)
1人当たり所得
(ENAHO)
1997年第4四半期−2001年第4四半期 -3.2 -11.4 -1.7 2001年第4四半期−2004年第4四半期 5.7 -2.5 0.1
(出所)WB, (2005), p35, Table 2.5より作成
2001
年以降、ペルー経済の回復がそれほど顕著な貧困削減に結びつかなかった要因と して、雇用構造との関係も挙げられる。この時期の経済成長は、鉱業セクターに牽引さ れるものであったが、鉱業セクターは資本集約的産業であり、同セクターの伸びは必ず しも雇用の伸びに結びついていない。ペルーの貧困層では、都市貧困層の多くがインフ ォーマル・セクターも含めて商業を中心とするサービス業に従事しており、また、農村 貧困層は農業セクターに従事している。そのため、鉱業セクターが中心となった経済成 長では、貧困層が受ける恩恵は限定的となっている。経済成長と労働力および賃金の関係を見ると(表
2-21
)、鉱業セクターの労働力シェア は1
%に満たないが、平均賃金は10.61
と他のセクターの比較で最も高く、生産高の上 昇率に対して、労働力の伸びは小さく、賃金の伸びは大きい。都市貧困層が多く従事し ている商業では、労働力のシェアは20
%であり、平均賃金は2.66
と低い。弾性値で見 た場合、商業の生産高の労働弾性値は0.74
、賃金弾性値は0.51
であり、本来は生産高 が1
単位増加した場合、雇用も賃金も増加することが見込まれる。しかしながら、1997
〜
2004
年については、生産高の伸びは1.77
%と低かった上、雇用も賃金上昇率もマイ ナスとなった。また、農村貧困層が多く従事している農業では、労働力シェアは33
% と最も大きいが、平均賃金は1.28
と最も低い。生産高に対する労働弾性値は0.84
と最 も高く、生産の増加に対する雇用吸収力は大きいが、賃金弾性値は0.46
であり、生産 が増加しても賃金の増加は他のセクターに比べて低い。なお、1997
〜2004
年について は、生産高、労働力ともに成長したものの、賃金上昇率はマイナスとなっている。こうしたことから、
1997
〜2004
年については、貧困層に関係の深い農業および商業セ クターにおける賃金上昇率がマイナスとなり、1997
年に比して2004
年の貧困者比率が 改善していない要因になっているものと考えられる。表 2-21 経済成長と労働力および賃金の関係
年成長率(1997-2004)
(%)
生産高 労働力 賃金
労働力 シェア
(%)
平均賃金
(指数)
生産高の 労働弾性値
生産高の 賃金弾性値
鉱業・石油 7.62 3.58 12.4 0.66 10.61 0.43 0.65
農業 3.47 4.60 -1.79 33.63 1.28 0.84 0.46
電力・水 4.13 -3.79 7.11 0.27 8.23 0.37 0.74
漁業 4.05 5.33 11.61 0.64 4.44 0.59 0.81
サービス 2.31 1.31 0.17 31.39 4.17 0.72 0.50
製造業 2.15 1.35 7.43 9.25 4.44 0.66 0.53
商業 1.77 -0.05 -2.07 20.15 2.66 0.74 0.51
建設 -1.09 -2.36 -0.48 4.00 3.62 0.64 0.61
(出所)WB, (2005), p.35, Table 2.7より作成
WB
の貧困アセスメントでは、また、2015
年までの経済成長の貧困削減へのインパクト をシミュレーションしており、その結果から、貧困削減のためには以下の点が導き出さ れる。❑ 経済成長率:今後、経済成長率を 5
%に維持すれば、MDGs
の目標である貧困人 口を半減させることが可能である。したがって、どのようにして経済成長率5%
を確保するかが貧困削減におけるマクロ経済面における課題である。
❑ 地域格差:地域別にみると、農村部より都市部における経済成長の貧困削減効果
は大きいが、地域間格差を悪化させないためには、農村部において、いかに経済 成長の効果を浸透させるかが課題である。❑ セクター別動向:経済成長の貧困削減効果をセクター別にシミュレーションした
場合、最も大きなインパクトがあるのは商業であり、次いで農業である。商業に ついては、都市部における貧困削減効果が大きく、また、農業については、農村 部、特に最貧困者比率の低下にインパクトが大きい。❑ 税率:税率の変更のみでは貧困削減効果はほとんどなく、都市部においては負の
影響が懸念される。しかし、経済成長と税制を通じた再配分に関する政策が組み 合わされた場合、貧困削減効果は大きい。したがって、経済成長の効果をいかに 政策を通じた再配分によって貧困層に波及させるかが鍵となる。なお、経済財政省(
MEF
)の多年度マクロ経済指針(MMM
)においても、貧困削減の ための経済成長率をシュミレーションしているが、MDGs
目標を達成するためには、今 後、年率7
%の経済成長が必要としており、より厳しいマクロ経済マネージメントが求 められる結果となっている。現在の経済成長が主に一次資源の国際市場価格の上昇とい う外部要因によるものであることから、資源価格の上昇あるいは高位安定という前提が 崩れたときには、貧困削減目標の達成も厳しくなるであろう。また、税率に関しては、近年、金額が伸びている資源税の配分は、資源産出地還元制度をとっているため、資源 に恵まれない貧困州は不利な扱いを受けることになる。また、還元資金を地方政府が有 効に利用していく能力についても今後強化されなければならない。