第 2 章 ペルー政府の取組みと成果
2.1. 貧困削減に向けた政策的枠組
2.1.3. 主要な貧困削減プログラム
フジモリ政権下で実施されたプログラムの継続も含め、トレド政権下においても様々な 貧困削減プログラムが実施され、それらはガルシア政権でも継続されている。ただし、
その実施体制については、地方分権化の潮流とともに変わりつつある。トレド政権下ま では、
❑ 大統領府( Ministerio de la Presidencia)
〜首相府(PCM)
直轄の貧困プログラム❑ 各セクターを所管する省が直接実施する貧困層および最貧困層をターゲットと
するプログラム❑ 独立採算の公的組織( OPD
:Organismos Públicos Decentralizados
など)が実施す る貧困プログラム48
2004
年に取り組みを開始。様々な社会プログラムの受益者の特定と選定のための情報システム。社会プログラムの受益者
100
万人の情報をもとに、ターゲッティング単位として30
の地方政府でパイロットプ ロジェクトが実施されている。2009
年までに世帯選定基準設定と2
千万人の受益者単一登録(RURB:
Registro Único de Beneficiarios)を行うことを目指している。
というようにおおまかに分けてみることができた。独立した政府機関としては、「社会 開発協力基金(
FONCODES: Fondo de Cooperación para el Desarrollo Social
)」、「教育・保 健インフラ機関(INFES
:Instituto Nacional Infraestructura Educativa y de Salud
)」、および「インフォーマル資産フォーマル化機関(
COFPRI
:Organizmo de Formalización de Propiedad Informal
)」等があった。しかしながら、前述のようにガルシア政権の社会プログラム改革計画の下、これら独立 した機関の一部は統廃合され、各省直轄プログラムへと移管されつつある。本項では、
ガルシア政権下でも継続されている主な貧困層向けのプログラムについて、セクター別 に概観する。
(1)
マルチセクタープログラムMDGs
や国家合意などに掲げられた貧困削減の目標を達成すべく、トレド政権で大統領 直轄にて開始され、最貧困層を直接ターゲッティングしているプログラムとして「
JUNTOS
(共に)」がある。ガルシア政権下では、特に食料確保に関する収入ギャップの改善、教育・保健面での人的資本開発支援、村落コミュニティの経済活動を振興す ることを目的として、2007年の
JUNTOS
の予算がさらに拡大されて継続実施されてい る。社会開発協力基金(
FONCODES
)については、生活インフラ支援から、持続的な収入 を図るための生産活動支援についても重点がおかれてきているが、その実施や維持管理 業務はトレド政権になって徐々に地方政府への移管が進行中である。表 2-5 主要マルチセクタープログラム
プログラム/実施機関名 担当機関 概要(対象者・対象地域等)
JUNTOSプログラム
(Programa Juntos)
首相府
(PCM)
保健、栄養、教育分野の支援や市民身分証明書発行のため に貧困層世帯(母親)に資金を供与している。9つの最貧困 州(アプリマク、アヤクーチョ、ワヌコ、ワンカベリカ、
プーノ、カハマルカ、ラ・リベルタ、フニン、アンカシュ)
の67郡、320区にある村落で実施。2005年から開始。
社会開発協力基金
(FONCODES)
女 性 社 会 開 発 省
(MIMDES)
複数のプログラムやプロジェクトを実施。例えば、「生活向 上」のコンポーネントでは、FONCODES作成の貧困マップ と貧困世帯調査など特定された 700 世帯以下の貧困、極貧 コミュニティに対し、社会経済インフラの建設支援。「生産 支援」では、社会経済マイクロ回廊(農村の生産拠点から 市場へとつなげる)小規模ビジネスを支援。
現在の名称は、2005年以降。前身の社会投資基金は1991年 から実施。日本の国際協力銀行(JBIC)、米州開発銀行(IDB)
などの国際援助機関の資金支援あり。
(出所)各プログラムのウェブページなどから作成(2007年8月現在)
(2)
セクター別プログラム(a)
社会サービス支援教育、栄養・保健セクタープログラムは、人間としての最低限必要なサービスを平等に 供与されるべき分野であり、トレド、ガルシア政権ともに貧困層への直接支援として最 も具体的に政策表明され、実施されてきている。
教育セクターの政策としては、トレド政権の
PEN2002-06
に示されるように「効率的かつ地方分権化されたマネジメント・モデルによる公的および民間の質の高い教育サービ ス」が掲げられていた。また、教育分野における長期的政策として「万人のための教育 に向けた国家計画
2005-2015
(Plan Nacional de Educación para Todos 2005-2015
)」が策定 されている。これは、2015
年までに「万人のための教育(EFA: Education for All
)」49を 達成するため、各国政府、国際機関、NGO
など関係者間で合意された「ダカール万人 のための教育に向けた行動計画(Dakar Framework for Action on Education for All
)に従い、ペルーにおいても
2015
年までに国際的に共通の目標を達成することを目指したもので ある。ガルシア政権においては、トレド政権で着手された初等および中等教育のマネージメン トの地方分権化を進めるとともに、初等教育における読解力向上、算数能力の向上につ いて重視し、教育の質の向上に留意している。教員の質の向上に関しては、国立学校教 員の質に対する全国評価と国家教員研修プログラム(
2007
〜2011
年)の実施を進めつ つある。国家識字プログラム(
PNA
:Programa Nacional de Alfabetización
)が1990
年代から実施 されてきたが、2006年から2011
年を対象に、2百万人の国民が読み書き、算数の基礎 ができるようになることを目指して、全国識字運動プログラム(PRONAMA
:Programa Nacional de Movilización por la Alfabetización
)として実施されている(表2-6
)。ガルシ ア政権では、さらに優先ターゲット地域を絞って確実な成果を目指しており、また、視 聴覚障害者に対する配慮も行うとしている。また、表2-6
に示すとおり、アマゾン地域 などの先住民向けのバイリンガル教育プログラム、また、農村地域をターゲットとした 複式学級用の教室の整備など地域の実情に対応したプロジェクトを行っている。栄養改善のプログラムについては、表
2-6
に示すような1990
年代から継続しているプ ログラムが基本的に実施されている。実施体制については、国家食糧支援プログラム(
PRONAA
:Programa Nacional de Asistencia Alimentaria
)のサブプログラムを地方政府 に移管することが始められていたが、ガルシア政権では、移管の手続きをさらに推進し ている。また、幼児の慢性的栄養失調の改善を達成するために栄養プログラムを拡大す る意向を示している。具体策として、首相府(PCM
)の社会政策各省委員会(CIAS
) により、5
歳未満の幼児、特に3
歳未満を対象に食生活改善、下痢、呼吸器疾患などの 減少、低体重で生まれるリスクの減少を目指した「成長プログラム(CRECER
)」が2007
年6
月に新たに開始されている。第一段階として、7州にある330
の貧困地区、21万9
千人の子供達を対象として実施する予定である50。保健セクターについては、トレド政権下の
PEN2002-06
では「効率的で、公平かつ質の 高い保健サービスへのアクセス」や「セクターの近代化」などを掲げられていた。ガル シア政権は、貧困あるいは極貧状態にある人々に対する国民医療総合保険(SIS:Sistema Integral de Salud)の加入者の拡大を目指し、特に、大衆食堂(Comedores Populares)の
女性やインフォーマル労働者などにも導入することを表明している。49
1990
年に開催された「万人の教育に関する世界会議」(World Conference on Education for All)で「万人の ための教育」の達成が合意されたが、2000年のEFA
アセスメントでは多くの国が未達成であることが 確認され、2000年にダカールで開かれた世界会議では、改めて2015
年までに達成するための行動計画 が発表され、その後、実施に向けた国際戦略が打ち出された。50 ウェブページ
http://www.pcm.gob.pe/crecer/C_Ambito.html(2007
年8
月現在)。表 2-6 社会サービス支援における貧困層向けプログラム/プロジェクト例
プログラム名 担当機関 概要(対象者・対象地域など)
教育
国 家 識 字 運 動 プ ロ グ ラ ム
(PRONAMA)
教育省
(MED)
15歳以上の識字能力がない人々を対象に識字教育を実施。女性、農 村居住者が主な対象者となる。ガルシア政権下では、州、郡レベル、
特に郡内でもより重度な貧困、非識字率の高い区、市町村にターゲ ットを絞って、集中的かつ継続的実施で非識字率の減少を目指す。
バイリンガル教育プログラム
(Programa de Educación Bilingüe)
同上
様々な人種(インディヘナなど)の国民に対し、文化的かつ言語学 的に適切な教育を提供し、教育の質の向上と平等の達成を目指す。
生徒と教員向けの教材の作成やバイリンガル異文化間教育に関する 教員の生涯教育を実施。
農村地域教育プロジェクト (Proyecto de Educación en Áreas Rurales)
同上
教育システム下で学習する青少年(男女)の修得レベルを上げる一 方で、都市部と村落部の間の不平等ギャップを埋めることが目的。
2005 年、教育指導法案策定と共にカリキュラムの多様化が開始さ れ、複式学級用の教室建設や生涯教育システム提案などがなされた。
2005年の受益者は約9,500人。ガルシア政権下ではさらに1万人以 上の受益者を狙っている。
栄養・保健
一杯の牛乳プログラム
(Programa del Vaso de Leche)
地方政府
(経済財務省か らの資金移転)
最も脆弱で社会・経済的に抑圧された社会グループである6歳以下 の幼児と妊産婦、乳幼児を持つ母親を対象に栄養レベルの向上を目 的として実施。受益者は年々拡大(1998年260万人から2003年460 万人へ)。
WAWA WASI全国プログラム
(PNWW)(注1)
女性社会開発省
(MIMDES)
4 歳未満で特にリスクの高い状態におかれた貧困層および最貧困層 の幼児に対し、総合的な発育のための活動(健康、栄養補給、幼児 教育)を全国で展開。働く母親の支援として保育所を提供。1993年 から実施。米州開発銀行(IDB)の資金支援あり。
国家食糧支援プログラム
(PRONAA)
同上
食糧安全保障を支援すると同時に深刻な貧困層の栄養レベル改善に 貢献することを目的としたもの。ハイリスクにある脆弱なグループ を優先的に支援。ガルシア政権下では「栄養総合プログラム(PIN:
Programa Integral de Nutrición以下のサブプログラムとして実施。
幼児食糧支援プログラム(幼児の慢性栄養失調対策として、6 ヶ月 から3歳未満の幼児を対象、妊産婦の栄養支援も行う)
幼稚園、小学校の子供の食糧支援(3歳以上6歳未満と6歳以上12 歳までの子供)
なお、PRONAAのプログラムの中で、地方政府へ移管しつつあるの は、「大衆食堂(Comedores Populares)」、「結核患者とその家族のた めの食糧・栄養プログラム(PANTBC)」、「孤児あるいは栄養リスク がある子供の食糧栄養プログラム(PROMARN)」などである。
国民医療総合保険制度
(SIS)
保健省
(MINSA)
最貧困層あるいは貧困層の脆弱者を対象に保健サービスへのアクセ スを向上させ、健康改善を目指すもの。所得レベルによって、医療 サービスが無償のタイプの保険と最低限の料金を支払うタイプの保 険がある。母子が優先される。SIS が始まる以前の母子保険、学校 保険を統合し、2002年に開始。2007年6月時点、全国で476万人が 加入。
(出所) 各プログラムのウェブページなど(2007年8月現在)
(注1) WAWA WASIとはケチュア語で「子供の家」
(b) 生産活動・経済インフラ支援
トレド政権、ガルシア政権ともに貧困層向けの経済活動支援やインフラ整備は実施され てきている。しかし、教育、栄養、保健サービスなどが将来的な政策目標の優先事項と して前面的に打ち出されているのに比較し、持続的な経済活動支援やインフラに関する 具体策や重点事項についてはあまり明らかにされていない。
貧困層が多い農業セクターについては、トレド政権の