第2章 学校教育における福祉教育の現状
第2節 福祉教育の概念規定
福祉教育という用語は,1968年「市町村社協当面の振興方策」 (全国 社会福祉協議会)なかで初めて使用され,もともと社会教育にかかわる ものとして,広い意味で用いられたのである.その後,この言葉の概念 規定がされてきたが,主要なものとして阪野は次の3つをあげている52.
①東京都社会福祉協議会福祉教育研究委員会(委員長・一番ヶ瀬康子,
1971年3月)
「社会福祉教育とは基本的には民主主義を根底とした『市民教育』で ある.したがって,それはたんなる知識の伝達であってはならず,人 間の全面的発達と深く関連するものであり,とくに,次の3つの局面
51@「社会福祉用語辞典第2版」ミネルヴァ書房,2000年,17頁「障害をもった人々を一 般社会のなかに当たり前に受け入れていくこと,すべての人があらゆる機会に協力していくこ とをインテグレーション(統合化)という」高山直樹解説
52 纐?レ配『福祉教育の理論と実践一新たな展開を求めて一』相川書房,2000年,5−6
頁
37
第2章学校教育における福祉教育の現状
における探求が必要である.同時にそれらが,関連しあって効果をあ げるものと思われる.①基本的人権を守り,尊重するための人権感覚 および意識の開発,②現行社会福祉制度の理解および生活者としての 知識,経験にもとづいての問題把握,③問題解決のための実践意欲の 林寺と実践方法の体得.」
②全国社会福祉協議会福祉教育研究委員会(委員長・重田信一㍉1971 年5月)
「福祉教育とは,憲法にもとつく社会的基本権としての生活上の福祉 の確保をさまたげる諸問題を解決し,かつ,住民の生活における福祉 を増進するために,地域社会における住民が,それをみずからの,お よび住民共通の課題として認識し,そのうえにたって,福祉増進の住 民運動を自主的・継続的に展開するのを側面的に助けることを目的と しておこなわれる教育活動である」
③全国社会福祉協議会福祉教育研究委員会(委員長・大橋謙策,1983 年9月)
「福祉教育とは,憲法13条,25条に規定された人権を前提にして 成り立つ平和と民主主義を作り上げるために,歴史的にも,社会的に も疎外されてきた,社会問題を素材として学習することであり,それ らとの切り結びを通して社会福祉制度,活動への関心と理解をすすめ 自らの人間形成を図りつつ社会福祉サービスを受給している人々を,
社会から,地域から阻害することなく,共に手をたずさえて豊かに生 きて行く力,社会福祉問題を解決する実践力を身につけることを目的 に行なわれる意図的活動といえる.」
これら3つの共通点を全国社会福祉協議会・全国ボランティア活動振 38
第2章学校教育における福祉教育の現状
興センターが次のように整理している53.
①憲法で規定された基本的人権を現実のものとするために
②社会福祉問題の学習を通じて,それらを自らの課題および住民共通の 課題として認識すること
③現行の社会福祉制度,活動の関心と理解を高め,それらを活用する主 体として福祉問題を解決する実践力を身につけること,
④以上の実践を通して,自らの人間形成と,共に生きる力を養うこと つまり,現実社会を人権思想というフィルターを通して見たときに認 識される問題を,共同体の成員でそれらを解決し,理想的な民主的社会 を構築していこうとするものであるといえる.問題の認識にあたっては,
福祉に対する基本的な理解や現行の社会福祉の制度や活動についての関 心・理解が必要とされる.さらに実践を通して,これらの問題を解決し ていくのであるが,解決することやその過程を通して人間形成や自己実 現を図ろうとするものでもあるといえる. (図3)
理想的な福祉社会の実現 問題の解決
鱗
問 題 解 決
福祉の価値の獲得過程 問題の認識
図3福祉教育のモデル
53全国ボランティア活動振興センター編『学校における福祉教育ハンドブック』全国社会福 祉協議会,1994年,3頁
39
第2章学校教育における福祉教育の現状
以上のことから,福祉教育は「問題解決過程を通して理想的な民主的 な社会の構築」へと向かう教育であり 問題解決過程は単線的に進むの ではなく,螺旋的であったり,還流したりするものであると予想される.
そして,このような学習は生涯にわたるものであり,この過程は,まさ に「経験の再構成」といえるのである。福祉教育を支える思想にはデュ ーイの目指す教育の目的や過程と符合するところが多いのである.
これまで福祉教育の基本的な考え方を説明した.阪野は福祉教育につ いて,教育の目的,対象,学習素材,学習方法という視点から,次のよ
うに整理している54. (表3)
表3福祉教育の整理
視点
目 的
対 象
学習素材
学習方法
内 容
福祉教育は,人権思想を基盤に, 「自立と共生」の福祉社会や福祉のまちづくりをめ ざして日常的な実践や運動を展開する主体の形成を図ろうとするものである.より具 体的には,①福祉的な心情や態度を培う,②社会福祉についての知的理解・知的関心 を深める,③社会福祉への自発的・市民的参加(実践と運動)を促すことを目的とす
る.
福祉教育は,子どもから高齢者まで,また社会福祉サービスの利用者を含め,その地 域で生きる生活主体・権利主体としてのすべての住民を対象とする.従来,福祉教育 は,児童・生徒を基盤とした,生涯学習の一環としての福祉教育の展開が求められて
いる.
福祉教育は,地域の「社会福祉問題」を個々の住民の具体的な生活意識や生活実態と のかかわりにおいてとらえ,学習する.そのなかで,高齢者や障害者をはじめとする その地域で生きる生活主体・権利主体としての住民とのかかわりを重視する.
福祉教育は,社会福祉問題の緩和・解決をめざして,その学習と個々の住民の日常的 な生活とを有機的に結合させるために, 「福祉体験学習(福祉体験活動)」を重視す
る.
以上,福祉教育の概念規定について述べた.この教育は,生涯教育の視 点から規定されている.次にこの枠組みの中で学校教育に期待されるも のは何かを明確にしてみたい.
54 纐?v「福祉・ボランティア教育の概念」阪野
な展開を求めて』相川書房,2000年,11−12頁 貢編著『福祉教育の理論と実践一新た 40
第2章学校教育における福祉教育の現状