第5章 今後の課題
第1節 福祉教育の内容構成
これまで福祉教育の内容構成については, 「障害による能力低下への理 解」 「障害による行動制約の理解」 「障害による参加制約の理解」という 内容の階層性を仮定し,単線型の内容構成をした.しかし前章で考察した
とおり「障害による行動制約の理解」 「障害による参加制約の理解」の階 層性については確認されていない.筆者がこの学習モデルと構築童るにあ たり参考にしたのは,1980年版のモデルである78. (図22)
Disease
→Imp。iment、→Di、abiliti。、→H。ndicap、
む
図22:CIDH1980年版で示された障
このように単線型であると情意領域との関連をもたせやすく,学習の構
78 WHO「The Concepts of Disablement and Functioning」
http://www.who.int/icidh/brochure/concepts.htm
148
第5章今後の課題 造化が容易になると考えたのである.
ここで参考にしたいのが, 「国際障害分類第2版 機能障害,活動,参 加の国際分類」(1997年)79である.この中において,次のような注目され る指摘がなされている.
・これらの概念の間の関係についての十分な情報は提供してない.
・疾病または変調,機能障害,能力障害,社会的不利をつないでいる矢印は,
時折,「因果モデル」とか「経時的な変化」の表現として解釈されてきた.
・この表現では、社会的不利や能力障害から機能障害へと後戻りする動きは 許されず,したがって機能障害から,能力障害,社会的不利へという一方 通行の流れを意味してきた.
・障害の過程における社会的・物理的環境の役割を十分に反映していない.
・1980年版の本文には,状況は単純に直線的に進むのではなくもつと複雑であ ると述べられているが,この記述はもっとはっきりと書かれる必要がある.
これらの指摘と本実践とを照らし合わせてみると,次のような内容構成 の弱さが指摘できる.
障害による能力の低下,能力の低下による行動の制約,行動の制約によ る社会参加の制約という単線的な展開を想定したが,必ずしもこの流れに ならない.つまり児童の学習によっては,社会参加の制約からスタートし,
行動の制約へと興味が向く場合も考えられるし,障害そのものへと興味が 向く場合も実際に見られた.この実践だけで判断することはできないが,
先の指摘のように学習モデルが単線的ではなく複線的にとらえられる必要
7g rlCIDH−21。ternati。nal Classificati。n。f lmp。i,m,nt、, A。ti。iti。、,。nd P。,ti。ip。ti。n
−AManual of Dimensions of Disablement and Functioning Beta−1 Draft for Field Trials,
June 1997(18−7−97版)World Health Organization, GENEVA,1997」(国際障害分類第2 版機能障害,活動,参加の国際分類一障害と機能(働き)の諸次元に関するマニュアルフィー ルドテスト用草案(ベータ1草案)A序章4障害現象の次元4。1障害の概念)
http://www.dinf.ne.jp/doc/ntl/icidh/hsaOO1/hsaOO102.htm
149
第5章今後の課題 があるのではないかと思われるのである.
そこで1997年版に示された障害の分類モデルを提示する, (図23)
Health Condition健康状態 (disorder/disease)変調/病気
Impai㎜ent 機能障害
Activity
活動
Participation
参加
Contextual Factors背景因子 A.Envho㎜ental環境的なもの B.Personal個人的なもの
図23【CIDH−2の諸次元の相互作用についての現在の理解
このモデルにおいても,「障害を機能障害による能力の低下」 「能力の 低下に伴う活動の制約」 「活動の制約に伴う参加の制約」という3つのカ テゴリーに分類することは共通であるが,そのかかわりが複線型となって いる.そして,これらの関係に背景要因を加えることで障害による活動や 参加を制約するあらゆる要因について考察することができる.つまり行動 の制約や参加の制約する要因は,障害ばかりではないことをはっきりと示 しているのである.つまり,これら3つのカテゴリーを階層的に考えるの ではなく,関連するものとして把握しなければならない.
それでは,本実践で確認された「障害を機能障害による能力の低下」が 他の2つの基礎的理解になるということについてはどのように考えればよ いのだろうか.この点を考察するには,本実践が車椅子やブラインドウォ ークという児童にとって理解しやすい,目に見える障害を取り扱っている ことに注意しなければならない.このような障害であれば,機能障害によ 150
第5章今後の課題
る能力の低下を基盤として学習を進めることができるが,例えば知的障害 など目に見えない障害については, 「障害を機能障害による能力の低下」
を基盤として学習を展開することが難しい.一見すると何も違いが理解で きないからである.知的障害者を理解するためには,その行動を理解する
ことによって障害についての理解を深めるようになると考えられる80.
したがって福祉教育の内容を構成するこの3つのカテゴリーについて は階層性を考える必要はなく,学習者の要求する学習対象を中心的課題と して,その関連を考慮しながら学習を展開することが必要であるのではな いかと思われる.
また,どのカテゴリーから学習を開始するかは,子どもの発達にもかか わってくるだろう.本実践では,5年生の児童の興味が「障害による能力 低下」に集まる傾向にあることが確認された.他学年の興味の対象を分析 することにより,福祉を題材にした総合的な学習の系統性が明らかにでき るものと思われる.