第3章 総合的な学習の単元構想と授業の実際
第1節 福祉教育の内容構成モデル
(1)障害を理解する知識内容の構成 学校教育における福祉教育の目的は,
・福祉に対する関心と理解を深めること
・福祉の心を育てること
・福祉の実践意欲を向上させ態度を身につけさせること
である67.福祉とは幅の広い概念である.その内容を見ても,高齢者福 祉,障害者福祉,児童福祉等さまざまなものが存在する.これまでの実 践では,学校教育における学習は,高齢者福祉と障害者福祉が中心に展 開されている.これは,これらの問題が福祉の理念を学習するのに典型 的な事例にあたることが理由であると考えられる.しかしながら,前章 で指摘したように,これまでは「思いやり」を中心とする心情的・情緒的
67全国ボランティア活動振興センター編『学校における福祉教育ハンドブック』全国社会 福祉協議会,1994年,3頁
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な学習が主体となっており,障害や老化に関する科学的な認識について は軽視されている.この原因として,障害や老化に関して,何を学習す るのかという内容構成が曖昧であること指摘できるのだが,これらの内 容を構成するにあたり参考になるのが世界保健機構(WHO)の示す老 化,障害,病気を包括的にとらえるモデルである.
WHO(1980)では,「The Concepts ofDisablement and Functioning」
(国際障害分類)68において「障害」を次のように分類している.
。 losses or abnormalities of l)odily function and structure (impairme鍛もs),
・limitations of activities(disabilities),
・restrictions in participation(formally called handicaps).
これらは,それぞれ「身体機能の三遷や欠損」「(機能低下にともなう)
行動制約や能力低下」「(行動制約や能力低下にともなう)参加制約」と 訳すことができる.これらの分類を「障害」を構成するものであると考 えると,「障害」を理解するとは,これら3つの構成要素を理解するもの であると考えることができるのである.老化においても同様にとらえる ことができるが,ここからは障害者を中心に論を展開していく.
例えば,病気のために足が動かない人は,歩くことができないという 能力の低下をもつ.そのため,自由に歩きまわるという行動について制 約が生まれる.自由に歩くという行動が制約されるために,コンサート などに出かけるという参加が制約されるのである.つまり障害を理解す るうえでは,能力の低下という一面だけを見るのではなく,それに伴う 行動や参加の制限という視点をもつ必要があるのである.
68WHO「The Concepts of Disablement and Functioning」
http:〃www.who.intlicidh!brochure!concepts.htm
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しかしこれらは消極的なとらえ方であるともいえる.積極的なとらえ 方をすると次のようになる.能力の低下は,その能力を補う器具や機器 によって克服することができる.つまり欠損のために歩くことができな ければ,義足や車椅子,電動車椅子などを使うことにより歩くことがで きるようになる.そうすることにより自由に歩き回ったり,移動したり することができる.参加についてもスロープや段差をなくす,車椅子の 通れる通路,座席の確保など施設の充実,周囲の人の理解によって参加 することができるようになるのである.このように考えれば,行動制約 も参加制約も克服することができるものである.
障害という概念には,身体機能の障害や欠損という一般的な見方とと もに,それに伴う,能力の制約や社会の参加の制限という視点が必要で ある.そして,障害による能力低下に対してそれを補うにはどうしたら よいのかを積極的にとらえることは,「障害者の自立や共生」に対する理 解につながっていくと考えられる.
(2)障害を理解する情意領域の段階
前述した障害に対する知識は,情意とのかかわりと不可分であると考 える.なぜなら,障害者に対して素朴に「かわいそう」と思う気持ちは 否定できるものではない.しかし,この「かわいそう」という素朴な思 いから,障害を積極的にとらえる面を学習することにより知的に再構成 し,さらに体験によってこれらを確かめることによって,なるほどと深 く心に染み入るように理解するようになると考えるからである.体験と 知識が深く結びついて障害を認識するのである.これは,教えられて理 解するものではなく,自分自身が感じ,納得することである.このよう に,「かわいそう」という素朴な認識から,障害を克服することができる
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部分があることを経験と通して認識していくことは,デューイがいうと ころの「経験の再構成」にあたるものである.
それでは,情意面はどのように変化していくのだろうか.ここで参考 にしたいのが,ブルーム(B.S. Bloom)らによってまとめられた「教育 目標の分類学(taxonomy of educational objectlve)」(以下,タキソノ ミー)である.とくに1964年に発表された情意領域の目標分類は,一定 の態度・価値観がどのような段階をおって内面化していくかという観点 から作成されたものである.あることに気づき,その大切さがわかり,
自分自身の態度・価値観の中にそれが位置づき定着していく過程を分析 し,その途上でチェックポイントとなる点を系統的に設定していったも のである.これらの段階は次のようなものである69.
1.0受け入れ[注意すること](Receiving【Attending])
2.0反応(Responding)
3.0価値づけ(Valuing)
4.0組織化(OrganizaHon)
5.0価値あるいは価値複合体による個性化(Characterization by a
Value or Value Complex)
これらは情意領域の側面的な段階を示している.これらの段階を福祉 教育の観点から考えると,次のようになると考える.ここでは,タキソ ノミーの分類に加え,筆者が設定した情意の分類も加えている.(表1)
69梶田叡一著『教育評価』有斐閣双書:,1983年,111−132頁
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表8情意領域の分類
水準 タキソノミー 福祉に関する内容 情意の分類の分類
関心
受 容 ・障害者や高齢者などについて何らかの感想をもつ.
気づく 反 応 ・福祉に対する活動を通して,何らかの感想を持ったり,福
モノ対して興味や関心を持ったりする.
価値化 ・福祉に関する学習をすることに対し,自分なりに意義を感
カる.
分かる 態度 組織化 ・学習で得られた意義を自分なりに理解し,日常の様々な事
ロと結び付けて考えることができる.
行動化 ・ボランティアなど自分に何かできることはないか考える. 行動する
(3)障害を理解する学習モデル
これまで述べてきたことを障害者理解の学習モデルとして示す.(図5)
情意領域
行動する
分かる
気づく
実践へ向かう態度
総合的理解
具体的理解
感覚的理解
認知領域 能力低下 活動制約 参加制約
図5福祉教育の学習モデル
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ここでは理解の段階を「感覚的理解」「具体的理解」「総合的理解」とい う3つの段階を設定した.それぞれの段階は次のような内容が設定でき るのではないかと考える.(表9)
表9学習段階と内容
学習の段階 内 容 例
障害が病気,事故などによる身体機能の欠損 あの人は事故などに 感覚的理解 や低下のためであることが分かり,そのことにつ よる障害があって歩け
いて何らかの感情をもつ. ない.
障害者は何もできない存在ではなく,できない あの人は歩けないけ ことは実は障害による能力低下にかかわるもの ど,車椅子に乗って 具体的理解
だけであり,それらは様々な器具や器機によっ いろいろなところに行
て補助される, くことができる.
障害者が様々な活動に参加できないことの原 車椅子が通れるス
因は,施設が整っていない,周囲の人の理解 ロープや通路,周囲 総合的理解 が得られないことに原因があることを理解する. の人の支援があれば
さらにその原因を何とかしたいと考える. 買い物やコンサートに
行くことができる.
以上のように障害者理解に関する学習モデルを設定した.このモデル にそって具体的な単元を設定し,実践した.
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第2節総合的な学習の時間「学びの時間」の単元構想
(1)新川小学校児童の福祉に対する実態
新川小学校で福祉(高齢者,障害者.ボランティア)に対するアンケー ト調査を行った(巻末資料2,3,4,5参照).
この調査の結果,障害者に対しての調査は次のような結果となった.
ア 障害をもった人に出会ったことはあるか
新川小学校には特殊学級があるが,在籍している子どもの数が少ない.
昨年度は6年生が1人,今年度は1年生が1人在籍している.また現在 の学年のうち特殊学級に在籍する子どもが同学年にいたのは4年生だけ である.(1〜2年生にかけて在籍し,その後転校した.)
子どもたちの傾向を見ると,特殊学級に在籍する子どもがいる1年生
(知的障害の児童)では,障害をもった人に1よく会う】,または【ときど き出会う]と答えた児童は全体の25%程度である.全体を見ても【よく会 う],または[ときどき出会う]と答えた児童は多くても4年生の60%程度 である.2年生以上になって急にこの割合が増えているという特徴が見
られる.
イ.何かの障害をもった人についてどう思うか
2年生以上では[お金や品物を送って助けたい]という項目よりも[実 際に手を差し伸べて助けたい]のほうが多い.また,[どうしてよいか分 からない]という項目はどの学年においても多い.また[ほかの友達と同
じように接する]と答える子どもはあまり多くない.
ウ.自分が障害をもっていたらと,考えたことはあるか
この項目については学年があがるごとにその割合が増えてきている.
(図6)
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