第4章 「ともに生きる新川〜新川小からの発信〜」の授業分析
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第2節認知的領域についての分析と考察
この節では,まずアンケートをもとに変容に見られたと思われるグ ループや児童の学習活動や児童の書いた感想などを分析することによっ て,変容の見られた要因について検討していく.
次に筆者が設定した認知的領域の3つの階層について検討する.認知 的な領域では,この3つの領域が階層をなしておりして「障害による能 力の低下の理解」をこの水準の最も基礎的な部分,つぎに「障害による 行動の制約の理解」, 「障害による社会参加の制約の理解」へと発展す るものと考えた.この仮説について検討していきたい.
(1)認知的領域における児童の変容と学習活動
まずアンケートにおいて変容のみられたグループと個人について,児 童の学習活動や感想などの記述から分析していきたい.
①グループの変容
各グループの課題と「知識の水準」におけるアンケート得点では,8 グループ中で有意に(p〈.05)に向上したグループはない.(表15)
表15各グループの課題と知識水準のアンケート得点
グループ 課 題 知 識
:事前 事後有意差 1今すぐ始めようボランティア 2.60
2手話とはこれだ! 2.71 3バリアフリーと車いす 2.75 4 障害者のための施設と工夫 2.57 5 ケビンの一日と聴導犬 2.63 6 パラリンピックのきょうぎとル2.44 7 障害をもった人たち 2.58 8バリアフリーってどんなの? 2.45
2.60 2.92 2.95 2.75 3.13 2.75 3,08 2.80
なし なし なし なし なし なし なし なし
そこで有意水準をp〈0.1に設定し検定を行ったところ,グループ5と6に ついては変容が見られた.この2っのグループについて考察していきたい.
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(ア)グループ5の分析
グループ5のアンケート得点から見た変容の様子を図10に示す.
グループ5の学習課題は,「ケビンの一日と聴導犬」である,「ケビン」
とは以前来校された全盲の障害者の盲導犬のことである.盲導犬などの 介助する動物に興味をもつていたこのグループのメンバーは,介助する 動物についてくわしく調べてみたかったようであるが,残念ながら有効 な資料や情報にたどり着くことができなかった.そこで教師を交えた話 し合いの中で「盲導犬と聴導犬」について調べてみることにしたのであ る.盲導犬については,役割や訓練過程などを調べているが,実際に視 覚障害者宅を訪問し,散歩などで半日を過ごした.そして視覚障害者本 人にインタビューしたり,盲導犬を観察したりする学習を行った.その 学習での感想を次のように記述している.
・もうどう犬は,家にいるとあくびをしたりして,でも外に出るとしっかりしている.
・(5−C12)ケビン君は家にいるときはぼんやりしているけど,外に出て仕事をしている ときはしっかりしていた.(5−C14)
・ケビン君は家にいるときはふつうの犬で,ハーネスをつけるとかっこいい盲導犬に
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なるのだな.(5−C22)
・盲導犬は飼い主の指示で動く.ケビンは,外では びしつ としているけど,家の中 にいるとふつうのペットです.(5−C38)
ここでの感想を見ると,一般に抱く盲導犬のイメージと実際のイメー ジとの「ずれ」が児童たちの中で起こっていることが分かる.さらに実 際の盲導犬の様子をつぶさに観察できたことは,盲導犬について一層の 親近感を増したと思われる。それに加え障害者宅へ訪問したことで障害 者の自立した生活を肌で感じることへとつながつたと思われる.このこ とは児童5−C38の「Kさんとケビン君の生活ぶりを初めて知ってなんか 良かった」という感想からうかがわれる.さらにアンケート項目2「障 害者をもつ方やおとしよりは,できないことばかりでかわいそうだ」に おいて,事前のアンケートでは「そのとおり」2人置だいだいそのとお り」1人であったのが,事後のアンケートでは「そのとおり」0人「だ いだいそのとおり」1人となり, 「そう思わない」3人に変化している ことからも窺える.
また「ケビンは私の最初で最後の盲導犬です」という視覚障害者のK さんの発言がとても心に残ったということを児童たちが発表会で取り上 げて報告している.この訪問学習で盲導犬と障害者の心の交流に触れる ことができたのではないかと思われる.
聴導犬については,聴導犬について書かれた本を読んだり,インター ネット上に公開されているホームページに電子メールで質問したりする ことにより学習を深めていった.子犬の頃から高度な訓練を受け,犬種 も限られる盲導犬に比べ,人懐っこい犬であればどんな犬(多くは捨て 犬)でも聴導犬になれるという事実は,大きな驚きであったようだ.さ
らに聴導犬の数に対して聴覚障害者がとても多いという事実,聴導犬の
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認知度が低いという事実を児童たちは問題視していることは,この児童 たちは福祉問題を知的に理解しているといえる.
このグループの学習後における感想の一部である.
・聴導犬は捨て犬から選ばれるんだな.聴覚障害者に対して聴導犬の数が少ないので増や したらいいなと思いました.(5−C14)
・聴導犬という犬がいたなんて知りませんでした.聴導犬のことをよく調べてみると,盲導犬は 種類が限られているけれど,聴導犬はどんな犬でもなれるのでびっくりしました.(5−C22)
・聴導犬について調べているとき,聴導犬は5頭ほどしかいないのに,聴覚障害者は何十万 人といるので,も一つと,も一つと聴導犬が増えるといいです.(5−C38)
この記述からは,訓練が容易な聴導犬を増やし,聴覚障害者がもっと 聴導犬が利用できれば,障害による活動や社会参加への制約から解放さ れることを願っていることが窺える.
障害者の(ための)設備がいっぱいあるから,障害者の人は助かっていると思う.(5−C12)
障害者にとって不便な施設があります.私はもっと障害者のための施設を作ったらいいなと 思います。(5−C22)
このような記述からも,児童思考の流れが障害者の社会参加へ向かっ ていると思われる.
以上のことをまとめてみると,このグループの学習は,障害者の生活 を知るという「障害による能力低下についての理解」と盲導犬や聴導犬 の役割を知るという「障害による活動制約についての理解」の2つの点 を学習した結果,知的理解も増え, 「障害者による社会参加の制約」に 興味が向いたと考えることができる.
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(イ)グループ6の分析
グループ6のアンケート得点から見た変容の様子を図11に示す.
グループ6の学習課題は「パラリンピックのきょうぎとルール」につ いてである.このグループに集まった児童たちは,スポーツ好きが多い.
調査を行った年にシドニーでオリンピックが開かれ,同時にパラリン ピックが催されテレビを通じて児童たちの間にも「パラリンピック」とい う言葉は聞いたことがあるようである.児童たちの課題設定の理由は次 のようなものである.
体が不自由な人にできることを調べたかった.(6−C13)
オリンピックとパラリンピックのルールがどう違うか調べてみたいと思った.
(6−C15)
パラリンピックを(テレビで)少し見たとき,調べてみたいと思っていた.(6−C18)
日本では何人ぐらいパラリンピックに出ているのか,競技やルールについて気に なるからです.(6−C27)
・障害をかかえた人は,ふつうの人のようにできないと思っていた.でもパラリン ピックの競技の本には義足をはめて走っている人の写真をみて興味をもつた.
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(6−C33)
・パラリンピックの意味が分からなかった.(6−C37)
これらの理由を見ても分かるように,パラリンピックについての意味 や内容については,ほとんど理解していなかったといってよいが,これ
にかかわって調べることで興味をもったようである.
このグループでの学習は,おもに図書資料とインターネットに上に公 開されているホームページからの情報である.これらの学習過程で彼ら が一番驚いたことは,自分たちが予想していたよりもたくさんの競技が あったことである.車椅子テニスや陸上競技はもちろん,長野パラリン ピックの資料からはウインタースポーツにおいてもたくさんの競技があ ることを見つけている.
さらにパラリンピックの出場者に対して次のような事実の発見と感
想を得ている.
パラリンピックにでる選手の半分以上が事故で足や手を失っていることが分かった.でも後遺症 は残らなかったのかな.もし後遺症が残っていたらスポーツはできないのかな.(6−C33)
「もし…」の感想は障害をもっていてもスポーツをしたいという障害 者の心情に迫るものであり,器具により障害による能力の低下を補うこ
とができることを前提として「スポーツを楽しむ障害者の存在」を認知 しているといえる.さらにこの児童は,隣接校区に在住する車椅子バス ケットの選手と電話等で連絡をとることができごともあって,障害者ス ポーツを一層身近なものとしてとらえることができたのではないかと思 われる.学習が終わったあともシドニーパラリンピックに出場した車椅 子バスケットの選手の講演会があることを知り,参加している.
このグループの学習後の感想に特徴的な記述が見られる.
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