6.3.2タイにおける都市の整備状況
6.3,2は、タイにおける都市の整備状況を把握するため、タイの首都であり、代表都市であ るバンコクの①都市形成の過程、②都市の基本指標、③都市行政組織、④都市財政にっ
いて分析する。
1.バンコクの都市形成略史
バンコク(現地では「天使の都」を意味するクルンテープと呼ばれる)は、ラタナコーシン王 朝を築き上げたラマ1世が1782年に王都アユタヤから遷都したことから始まる。当時のバン コクは、アユタヤから70km程下流に位置するデルタ地域、水辺の小集落であった。湿地で 居住環境に適さないこの地へ遷都した最大の理由は、防衛上の必要性によるものであった が、交通の大動脈であるチャオプラヤ川を通じた海外交易の発展に対する期待も大きかっ た49)。ラマ1世は、城壁を築き王宮を造ると共に、運河を張り巡らせて交通・輸送網を整備 するなど、地域の性格としては基本的に東南アジアに見られる河川型交易国家に類似した ものであった鋤。
バンコクは運河の整備により商業の中心地として栄えた。しかし、海外貿易による取り扱い 輸出入商品が増大するに従って、舟運だけではきめ細かなサービスに対応できなくなり、道 路網の整備が積極的に推進され、併せて道路周辺の土地開発も進んだ。このように、道路 建設を契機にバンコクは船による実物経済から市場経済へと移行し、さらには近代化の流 れの中でこれまで未開発であった土地の商品化が進み、図6.3.1に示すように郊外(東側)
が市街地へと膨張し始め、現在へと至ることになる51)。1933年に制定されたテサバーン(市・
町)法に基づきバンコク市が設置された当時は41km2に過ぎなかったが、現在は1,569km2
にも及んでいる52)。
2.バンコクの都市基本指標
現在のバンコク市街地図は図6.3.2に示すとおりである。
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図6.3.2現在のバンコク市54㌃
表6,3.1にバンコクの都市の基本指標を示す。現在、タイでは一極集中によって人口の集 積化が進展している。例えば、バンコク市の人口584万人(全国の9,3%、2003年末)に 対し、全国第2の都市ナコンラチャシマの人口は僅か30万人と規模的には1/10にも満たな い(9)。さらに、バンコ首都圏(BMRIBangkokMetropolitanRegion)の人口は737万人であり、
全国都市人口の59%を占めている〔lo)。
表6.3.1に示すように、全国規模で比較すると銀行数、工場数、商業登録従事者数は多 いが、バンコクの都市化は「産業化なき都市化」55)とも言われている。例えば、バンコクの産 業就業者構成をみると、3次産業に従事するものが全体の75%を占め、全国値2割に比べ て著しく高く、サービス産業への特化、偏向が著しい〔川。また、道路網に関しては、バンコク 中心市街地の道路率は8.1%(東京B.6%、大阪16,2%、ニューヨーク23.2%、パリ20%)と なっており(12)、都市基盤の整備は、未だ十分ではない。
表6,3.1バンコクの都市基本指標(13)
項目 数量 単位 項目 数量 単位
人ロ数 5,570,743 人 スラム数 1,246 箇所
面積 1,568.74 km2 スラム内世帯数 293,929 戸
人ロ密度 3,560 人/km2 スラム内人ロ 1,247,175 人
家屋数 1,562,110 戸 映画館数 86
学校数 1,456 校 百貨店数 71 店
学生数 991687 人 生鮮市場数 165 市場
教自 52,174 人 寺院数 433 寺
保健所/支所数 65/80 所 銀行数(支店数) 1,016 店
院数 158 所 工場数 19,735 工場
医院数 2,524 所 商業登録事業者数
斗 院 893 所 株式会社 15,110 社
助産 院数 21 所 有限会社 4,490 社
西洋医蹴局数 2,968 店 式公開会社 215 社
タイ 医思局 436 占
タイでは住居のストック(建物戸数)に関する公式データが存在しておらず、住宅公社
(National Housing Authority:NHA)は航空写真を分析して住宅戸数を分析している。この うち、バンコク首都圏(バンコク都と隣接するサムットプラカーン県他2県、およびパトンター二 一県他近郊4県の既成市街地)を対象として1990年に行った住宅開発形態別集計値は 表6.3.2、1988年次における全体構成比は図6.3、3に示すとおりである。
なお、10年毎に行われている国勢調査(Population and Hous重ng Census)によると居住で 見たバンコク首都圏の電化率100%(全国87.3%)、専用便所を持つ世帯の割合9割(全国 81.7%)と質的にも設備・衛生面での居住水準が向上している傾向が確認される。(14)
表6.3.2バンコク首都圏の開発形態別住宅戸数(1974、1984、1988年)(15)
開発形態 1974 1984 1988
増却数(84←88)
年増加率
8←88)
大規模開発 20,193 113,755 270,800 157,045 34.5%
ショップハウス 134,766 247,552 257,266 9,714 1.0%
小規模/個別開発 262,345 363,323 479,955 116,632 8.0%
スラム
139,326 160,145 170,638 10,493 1.6%公共住宅 28,533 74,708 85,000 10,292 3.4%
その他 N.A. 38,951 51,323 12,372 7.9%
合計 585,163 998,434 1,314,982 316,548 9.4%
厨大規模開発
■ショップハウス 口小規模/個別開発 ロスラム
■公共住宅 囲その他
図6.3.3バンコク首都圏住宅別構成 186
3.バンコクの都市行政組織
政府行政機関として全国の都市行政を所管・監督しているのはタイ国内務省公共事業 都市計画局(Department ofPublic Works and Town&CountryPlanning,Ministry of lnterior:DPT。2002年10月の省庁再編に伴い都市地方計画局(DPTC)を改組)である。
同局は広範に同国の都市行政事務を取り扱っており、これまではバンコクを除く地方都市の 都市計画の策定も所管業務であったが、1999年に制定された「地方分権法」により、現在
当業務は地方自治体の事務事項56)となっている。
バンコクの都市行政を所管するのはバンコク首都圏庁(Bangkok Metropolitan
Admillistration:BMA)である。バンコクは首都としての行政区域を拡大させてきたが、特別 法である1975年の「バンコク都行政組織法」の制定以降は図6.3.4に示す現在のような行 政区分に定められており57)、現在は50の区(DistrictOffice;Khet)で構成されている。
バンコクは、タイにおける経済・文化・教育・情報の中心地であり、行政面でも中央集権体 制の要としてその存在は大きい。都知事は任期4年の公選制(県知事や郡長は官選、直接 選挙で自治体首長が選ばれるのはバンコクのみ)であり、関係諸法令およびバンコク都条例
(Kho Banyat)に基づき都の政策を策定し、行政を執行する。部局(Department)は、次官 事務局(PermanentSecretaryDepartment)など14局で構成されている581。
BMRと県(全国に70県)の相違点は、①行政区域内に県自治体、市、町、衛生区が無く、
全区域を直轄管理している、②特別法によって設置され、選挙によって選出された知事の 権限が大きいことであり、政府の出先機関も少なく、地方自治体の中では自治能力は高く、
治安維持、公共事業をはじめ行政事務の内容も幅広い鋤。
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図6.3.4バンコクの行政区と行政区分地図60)
4.バンコクの都市財政
バンコクの財政収入は表6.3。3に示すとおりである。バンコクの総生産額はタイ全体の 実に4割に及ぶ規模を担っているが61)、中央財政全体との割合と比較すると収入で2.5%、
支出で2.3%程度にすぎない62)。このようなrl割自治」に満たない財政規模のもとで、r不十 分な財政状況のために主要な開発事業を自前で実施できず、都市開発計画における地方
自治の原則が崩れてしまっている」63)状況にある。
財政不足の解決策としては、中央政府との調整協力と分担率の明確化、会計・予算の合 理化、公共サービスの受益者負担、新規財源の確保、民営化の促進等の方策が示されて いる64)。しかし、中央と地方の収入格差は、過去40年間変化していない。構造的な変革 が行われない限り、慢性的な財政不足の解消は困難65)であり、バンコクの開発財源の確保 は大きな課題となっている。
表6.3.3 第4次バンコク都開発計画期(1992年〜96年)における財政収入66}
(単位:100万バーツ)
項目内訳 1992 1993 1994 1995 1996(%)
財政収入(合計) 13,316 18,339 23,918 23,036 31,006(100。0)
経常収入(小計) 10,256 11,840 14,170 17,000 20,400(65,8)
1.租税 9,145 10,590 12,819 15,348 匪8,286(89.6)
2.都資産 715 770 822 1,020 1,443( 7.1)
3.手数料等 293 334 365 444 432( 2。1)
4.その他 104 145 164 188 239( 1,2)
特別収入(小計) 3,060 6,499 9,748 6,036 10,606(34.2)
1、政府補助金 1,948 3,157 4,929 5,270 10,606(100.0)
2.基金 1,112 3,342 4,819 766 一
188
6.3.3タイにおける都市問題の発生要因
6.3.3は、土地区画整理がタイの都市で必要となった社会的な需要、緊急性を明らかに
する。
そのためには、都市計画制度に関連が深く、特に土地区画整理を実施するにあたり大き な影響を与える①都市計画、②土地利用計画、③都市開発手法の実態と整備課題を分析 し、これにより、タイの都市問題の発生要因を把握する。なお、3っの項目は、例えば土地利 用と居住施設など、他の項目の要素を一部包含し、連関L合っていることから、これらにっ いては取り込んで検証を行う。
1.都市計画の実態
タイで最初の都市計画がバンコクにおいて制定されたのが1952年である。同国の、近代 的な都市計画制度の歴史は未だ浅いが、バンコクでこれまでに策定された「都市計画
(PhangMuang)」は表6.3.4のとおりである。
これら「都市計画」とは、いわゆる都市整備マスタープランに相当し、都市の開発計画の 枠組みと都市整備の方向性を示し、土地利用計画を基本として、人口配分、交通体系、都 市施設の整備・配置などの諸計画を含んだ内容となっている67)。また、表6.3.4以外にも MIT68)、EC69)、JICA(都市環境改善プログラム)70)など幾っかの外国機関によって都市計 画(案)が策定され、併せて都市計画研究も進められている(16)。
新規の都市計画は、経済社会の大きな変動を踏まえ、計画の実効性の確保や、計画実 施を担保するための各種法規制の整備等、これまでの計画の根本的な見直しと修正が迫ら れている川。
表6.3.4バンコクの都市計画の概要(17}
策定年 都市計画名 策定機閉 対象地域と想定人口 総要
1960 r大バンコク計画1990年(Greater angkok Plan25331通称リッチフォールド
告)
米国の対外援助機関である SOM(米国在外使節団)が援助
一環として米国のコンサルタン 会社に委託して策定。
対象地域は、当時のバンコク市、ト ブリー市、ノンタブリー県および ムットブラーカーン県の都市部を めた460km2であり、90年の想定 口は450万人。
同計画の目的は、合理的で全体的な枠組みを提示 る総合的な計画を前提として、水道供給、保健、排
、学校等の実際的なプランを提示し、首都地域に ける継続的なプランニングを制度化することにあっ
。
1971 「修正大バンコク計画(Phang akhonluang2533)」
上計画に基づき、内務省都市計 部が策定。
対象地域は、バンコク市、トンブ ー市、サムットブラーカーン市を
心とする540km2。90年の想定人 は450万人。当時の人口は280 人。90年の人ロは650万人と想
。
60年以降の10年間の状況変化を踏まえ、首都にお る諸間題は他の地方との関係が大きいこと認識し 上で作成された。そこで国レベル、地方レベル、首
レベルの3つのレベルの政策を連携させようとし
。
197フ 「2000年首都計画(Phang Nakhonluang
543〉』
内務省都市計画部が策定。 バンコク都全域をカバーする 21,569km p
r75年都市計画法』に づく最初の都市計画法として 市計画委員会で承認された。
1992 「バンコク都総合都市言十画(Phang Muang uam Krungthep Mahanakhon)192年計
」
内務省がバンコク都および首都 総合開発計画委員会を設置
、8年闊にわたり公聴会や種々 手続き、ブロセスを経て5年の 限付きで施行された。
2001年のバンコク人口を760万人と 定し、土地利用を確定させ、14 ブロックに分けた。さらに都市化 せる地域を83年の448km2から 001人には932km2と拡大させるこ
にした。
土地利用、交通・運輸を核にした「92年計画」の目的
、都心部の過密状態や交通問題を緩和させるため 他核心的都市発展、首都圏の工業部門の分散で る。前提となる状況認識は、92年までの5ヵ年の地 急上昇、民間及び政府の事業実施の弊害、経済 大、公共交通システムの欠如、不十分な道路であ
、内務省と民間が協力し、望ましい開発と発展の必 性を認識しつつ、都市の拡大をコントロールするこ になった。
2.土地利用計画の実態
バンコクにおける経済活動の集中傾向は地方からの急速な人口流入を引き起こし、人口 は1970年から30年間で3倍近くに膨れ上がった72)。
人口密度の過密化はバンコクの土地利用を大きく変容させることになる。それまでの浮き 家や木造の1戸立て建築など固定性、集約度の低いものから、棟割長屋(トゥクテーオ)の導