第5章 研究2
5.4 結果の考察
5.4.1 研究課題 1 に関わる考察:PWD のタイプ
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76 表5-30
PWD抜粋1 【グループ⑦ PWD-J (Age Limit): エピソード16・R-OC】
ターン ID 発話内容
1 7-1 後も一個くらいほしいね、なんかある?
2 7-2 反対の?サポートとして?
3 7-1 反対、うん。
4 7-2 でも、そのもし、年齢を、決めるってなった時にさ、その、なんていう の。
5 7-1 何歳を基準にするっていうこと?
6 7-2 そう。それむずかしいよね。そのさぁ、人によってそれこそ。ほんと判 断力とかさぁ、その、病気の・・・その、に認知症とかさぁ、
7 7-1 うん、
8 7-2 全然、年に関わらずさ、いるわけでさ、
9 7-1 個体差によりけりだから、一概に年では 10 7-2 うん、うん
11 7-1 くくれないってことですかね。
12 7-2 うん。
13 7-1 OK.じゃぁ、正確な年齢を決められないってこと?
14 7-2 そう。(沈黙)
15 7-1 まぁね、70歳だからって言ったってなんかひふみんみたいなやつもいる しね。
16 7-2 (笑)たしかに!もう、頭めっちゃいい、みたいな(笑)
17 7-1 (笑)(沈黙)
注:タイトル中のカッコ内はライティング課題の内容を示す。エピソード番号は通し番号で何番目のエピ ソードであるかを示す。IDは表1のIDに対応。以下同様。
このエピソードは、ある年齢に達した高齢者に対しては一律に運転免許証の返納を義務 付けるべきだ、という議論への反論の根拠をもう一つ提示しよう、という、議論全体の構成 を意識した7-1の発話から始まる。それを受けた7-2が、高齢者の判断力の衰えは個人差が大 きく、年齢で決めるのは難しい、という指摘をするのであるが、それは最初から明確な形に なっていたわけではなく、7-1とのやり取りの中で明確化していくことがここから見て取れ る。ターン4で、「なんていうの。」と7-1に明確化・抽象化のための助けを求め、その後さ らにやり取りをしたうえで、ターン9及び11で7-1が「個体差に寄りけりだから、一概に年で はくくれない」という形にまとめ上げる。そのまとめ方に7-2は納得し、同意する。7-1もそ
の後、20秒間の沈黙の間にもう一度自分がまとめ上げた点について考えたうえで、ターン15
で同意を示し、「まあね。」という発話して、さらにその主張を裏付ける具体例を提示して おり、協働して議論を構築していく様を見て取ることができる。
PWD-Jには数多くこうしたエピソードが見られている。具体例や、明確な形になっていな いアイディアを抽象化し、コンセプト化する、という作業は的確な語彙を必要とするため、
母語活用のメリットが出やすい部分だと考えられる。
アンケートの回答でも、「どのPWDが最も有効だったか」、という問いに対し、7名のも のがPWD-Jを挙げ、その理由として議論の深さや効率の良さを指摘している。次の2-1のコ メントは、母語を活用することで内容ばかりでなく文の構成などについても議論できたこ
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とを指摘しており、PWD-TLよりもより深く、効率よく議論できたことについて述べている 点で興味深いものである。
母語でのPWDだと、論題に対してより深いところまでパートナーと議論ができた。
内容もそうだが、文の構成などにも、PWDの時に話し合えて、実際にwritingに入 るときに、すらすらと書けた。トランス・ランゲージングでも内容については議論 できたが、PWDとしては、不十分なままライティングにはいってしまった。
2-1とPWDを行った2-2も、PWD-Jが最も有効なPWDであるとしたうえでその理由を「自分
の意見を伝えるときに考える必要がなく、その分内容の議論に時間を多く費やすことがで きたため。」と提示し、PWD-Jの有効性を強調している。このような、議論を深めるための 母語の活用は、多くのバイリンガル教育研究においても指摘されているものである。
5.4.1.1.2 PWD-E における非熟議型エピソード
PWD-Jの例とは対照的に、PWD-Eでは目標言語のみでディスカッションするという条件
に縛られ、議論を深められないエピソードが見られた。次のエピソードはその好例である。
表5-31
PWD抜粋2 【グループ① PWD-E (SNS): エピソード2・NR-OC】
ターン ID 発話内容
1 1-2 And negative effect…hummm negative effect…(笑)
たん、たんごがでてこない あーあーあー んーんーんー単語が出てこ ない
2 1-1 the lower of…the lower of…あー the lower of academic ability 3 1-2 あーlawyer?
4 1-1 lowers. lower means あー 5 1-2 politic…?
6 1-1 lower means 下がる 7 1-2 Ahh oh...
8 1-1 Lower of academic ability. Academic ability means…
9 1-2 Ummm I think so too.
10 1-1 あーこれどっちだ、まいいや、書くか。
ターン1で1-2が苦しみながら思わず日本語で発話していることにも明らかなように、随 意に使えるわけではない目標言語でのディスカッションを強いられた場合、語彙の限界に よってディスカッションが制限されてしまう。さらに、このエピソードでは、発音上の問題 による誤解も生じ、さらに混乱が進む。ターン2で1-1が言おうとしているのは、SNSを使い すぎることによる学力の低下、という問題であるが、lower というべきところで、ほとんど
lawyer に近い発音をしているため、1-1はその論点を理解できない。1-2がこの単語を lawyer
と聞き間違ったのはターン5でその意味を「政治的な?」と確認しようとしているところか
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らも推測できる。弁護士はもちろん政治家とは異なるが、限られた語彙の中で少しでも近い ものを選んだものと考えられるからだ。話がかみ合っていないことを感じた1-1は、本来 PWD-Eでは禁じられているにも関わらず、いわば強硬手段としてターン6でTLに踏み切って、
自分の発話の意図をなんとか相手に伝えている。ただし、やはりここではあくまでも緊急避 難的に使った日本語であるという意識があるためか、この後日本語を活用して議論を深め ることはなく、結果として非熟議型のままこのエピソードは終了する。
このPWDに基づき産出された作文では、このエピソードに関係する部分としては1-1はわ ず か数 フレ ーズ 、“First, People suffer from a smartphone dependency, and scholastic ability
decline.[sic]” という一文の中で触れただけにとどまり、1-2は言及すらしていない。1-1及び
1-2のスピーキングのスコアはそれぞれ50及び70と、本研究の参加者の中では低いほうに位 置する。PWD抜粋2の例に端的に示されるように、特にスピーキング力が低い学生は英語 のみの使用を強制された場合、熟議型エピソードの産出は減少してしまうことが確認でき たといえるだろう。
実際、多くの参加者がアンケートの自由記述に同様の点を指摘している。5-2 は、英語の 作文産出に有効ではなかったPWDとしてPWD-Eを上げ、その理由を次のように述べている。
自分がもっている意思・考えのすべてをペアと共有するのが難しく、細かな部分の 意思疎通がうまく取れなかったがためにライティングにおいて内容の薄いエッセ イになってしまったという印象を受ける。「相互理解」という面で非常に苦労した。
ここにはお互いがもつ言語資源を活用しきれないもどかしさがよく表れているといえる だろう。そうした制限の中で行われたプレライティング・ディスカッションが「内容の薄い」
作文の産出につながってしまうという指摘は、目標言語のみで教育しようとする手法に対 する警告と捉えることができるだろう。
5.4.1.1.3 PWD-TL における熟議型エピソード(1) ・目標言語では深められな い議論を深めるための TL
学習者の目標言語のみ、という制限を外し、必要に応じて母語を活用できるPWD-TLでは、
運用能力に制約を受けずに議論を深められるため、PWD-Eに比べて熟議型エピソードがで やすくなることが本研究では明らかにされた。PWD抜粋2で議論を深めることに失敗して いるグループ①は、PWD-TLでは以下のような熟議型エピソードを展開できている。
79 表5-32
PWD抜粋3 【グループ① PWD-TL (Holidays): エピソード7・R-C】
ターン ID 発話内容
1 1-2 Umm European people, for あ people get, longer vacation, but, because, family spend vacation. So, as a country, maybe European country has a longer vacation, so students only get longer vacation.
2 1-1 うん
3 1-2 umm それだけじゃあんまり意味がない
4 1-1 European country, spending family,
5 1-2 うん
6 1-1 is important.
7 1-2 うん。
8 1-1 So European culture, European vacation is so long.
9 1-2 うん。
10 1-1 But in Japan case, あぁ あまりないと思う。
11 1-2 うん
12 1-1 I think 文化的影響もあると思う。
13 1-2 そう
14 1-1 習慣というか
15 1-2 European people think ah なんだっけ、仕事は悪だ、みたいな。仕事をす
ることは、やむを得ずやってるっていう理由でやってるだけで… 16 1-1 あぁぁ
17 1-2 日本人は、仕事が大好きっていう…だって。
18 1-1 あぁなるほど。仕事をとるか、家族をとるかってこと?
19 1-2 日本人は貧乏根性が抜けずってことだって(笑)。
20 1-1 あぁーなるほどね。これ、異文化理解で取り上げたほうがいいんじゃない か?
21 1-2 うーん。
22 1-1 これ、フランスすごいね。これフランス、あり得ねぇな、これ。有給休暇 5週間ってとり放題やん。
23 1-2 5週間ね。1か月ちょっと。うーん。たぶん。
24 1-1 えー。
25 1-2 so I think Japanese culture mismatch, so manyあ longer holidays 26 1-1 hummm so disagree
27 1-2 でもどうなんだろうなこれ、考えたことない。
28 1-1 Different of culture.
29 1-2 うーん
30 1-1 こういう文化的違い 31 1-2 うん
32 1-1 なんだっけ、cultural differenceか。
33 1-2 けど、たぶん、休みすぎると、逆に心配するんじゃない?Worry 34 1-1 あぁ
35 1-2 I don't working, I am OK?みたいな
36 1-1 XXXX (判別不能)
37 1-2 うん
38 1-1 Japanese people's working job is so important 39 1-2 うん
40 1-1 比較的違いはあるかも。