第5章 研究2
5.4 結果の考察
5.4.4 研究課題4に対する考察:熟議型エピソードの長さと PWD 活用度及び作文の質 . 90
5.4.5.3 学習者の英語運用能力と産出された作文
次に、それぞれの条件下で産出された作文の質と学習者の運用能力について検討する。
本研究では、総語数、語彙の多様性、及び質的評価得点の3つの観点で作文の質をとらえ ているが、6.5.1.3に示したように、いずれも全体としては学習者のライティング力と中程 度の相関を見せている。これは、ある意味当然のことであって、本研究で参加者のライテ ィング力を測定するために使用したTOEIC S & W testがその目的に照らして妥当なもので あったことを示すとともに、本研究のために開発したルブリックや語彙の多様性の指標な どが妥当なものだったことを示しているにすぎない。また、そもそもライティングのスコ アとスピーキングのスコアはある程度相関する(本研究の参加者においてはN = 20, r =.574, p =.008)ため、スピーキングのスコアとも低度~中程度の相関を見せていることも想定さ れる通りである。
しかし、注目すべきは、PWD-TLの条件下では語彙の多様性とライティングのスコアは 相関関係にないことである。これはPWD-TLの条件下では、ライティングスコアが低い学 習者であっても母語の活用を認められた状態でのPWDを活用できた場合には多様な語彙を 使用した作文を産出できたことを示すと考えられる。
また、質的評価得点でみると、No-PWD及びPWD-TLの条件下ではスピーキング力との 相関は見られない。No-PWDではそもそもPWDを行っていないので、これは特に驚くべき 点ではないが、PWD-TLで相関が見られなかった点については、この条件下では語彙の多様 性の例と同様、母語も交えて自在に行うPWDがスピーキングスコアの低い学生にも良い効 果をもたらしたと推測することができるだろう。
この好例を2-1のPWD-TLの条件下で産出された作文に見ることができる。
In many countries students have much longer holidays than the ones students in Japan get.
I think Japanese students should get longer holidays. There are two reasons for that.
First, students are able to do anything what they want to do if students get longer holidays.
【CE3, 12】 For example, if students want to go to many countries, they can do that because they have a lot of time to do what they want to do. 【CE3, 8】 It is not only fun, but also it might be good experience for university students. In university life, students always worry about their future and thinking of job, 【CE8】so touching and getting to know about new culture or countries give university students some hint for future. In addition, if they have long vacation, of course they can study abroad. 【CE1】 It also causes good experience to students. In my experience, I
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have experienced studying abroad for one month. 【CE10】My listening skill was improved well, but if I could stay there more longer, 【CE10】my English skills will more improve. This is one of reasons that students should get longer holidays.
Secondly, if students get longer holidays, they can get more money with part-time job.
【CE15】Some students pay their tuition by themselves, 【CE15】so the money will not only consume for playing or hanging out, some students pay their tuition to earn a lot of money while vacation. 【CE15】Then, they don’t need to worry about tuition and concentrate on their study.
It is second reason that students need to get longer vacation.
In other hand, some people say if the holiday is for two or three month, students will don’t study and scholar will get worse. However, it is easy to solve. If professor give a lot of homework to students, students have to study if they don’t want to study. 【CE2】
In short, if students get longer holidays, they can travel many countries and study abroad for long span.【CE1, 8】 In addition, they earn the money to pay their tuition. 【CE15】Then they will be able to concentrate on their study. That’s is why I think students should get longer holidays like other countries [sic].
【2-1-TL: holidays】 注)下線部はPWD-based IUの部分、【 】内の数字は対応するPWDのエピソードの通し番号を示す。
2-1のTOEICのスピーキングのスコアは200点満点中90点で、20名の参加者の中で11
番目の成績だったため、スピーキングの成績が特に良い学習者ではない。しかし、ここに見 られるように、62.1%に上るIUがPWD-basedとなるほどPWDの内容を十分に活用するこ とで合計26点(満点は30点)という高い質的評価得点を得ている(内訳は、導入4点、主 題6点、論拠6点、バランス6点、構成4点)。また、多くのエピソードを活用することに よって幅広い話題をカバーし、語彙の多様性も向上していると考えられる。実際ここで活用 されたエピソードはすべて、多少の英語の単語が用いられているもののほとんど日本語で 行われたもので、TLの条件を最大限に活用した例とみることができる。繰り返し活用され ているエピソード15を以下に例示する。
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PWD抜粋12 【グループ② PWD-TL (Holidays): エピソード15・R-C】
ターン ID 発話内容
1 2-1 うん part time job とか。
2 2-2 できる?
3 2-1 うん。
4 2-2 あーそだね、お金稼げるからね。
5 2-1 あぁ、いいじゃん。
6 2-2 まぁ平日に行きたくない・・
7 2-1 明日 だから、うん、
8 2-2 (笑)
9 2-1 So if students pay 学費
10 2-2 うーん
11 2-1 by themselves 12 2-2 なるほどね
13 2-1 That's not part time job
このエピソードに至るまでにこの二人は、現状の休暇でも十分に長いことや、長い休暇を 有意義に活用できるか否かは人による、という点を指摘し、日本の大学でももっと長い休暇 を与えるべきである、という論題に対して否定的な見方を提示している。その反対側の意見、
すなわち肯定的な視点としては留学や旅行に行きやすくなるメリットを挙げたのち、他に 何かないか考えながら二人ともアイディアが出ないまま45秒沈黙している。その沈黙を経 て、2-1がアルバイトの可能性に思い当たり、ターン1で発話するが、そこに2-2はすぐに 反応して「できる?」と2-1の発話を完成させる形で同意を示す。ターン5で2-1がそもそ も自分で思いついた点であったにも関わらず「あぁ、いいじゃん」と同意しているのは、こ の論点の明確化が二人の協働作業によって作り上げられていったことを示していると考え られるだろう。ターン6で2-2は、長期休暇でなくてもアルバイトはできる、という想定さ れる反論に対してのディフェンスも提示し、二人が納得したところで、2-1がアルバイトの 意義を強めるために、これが学費という、重要な目的のためにされることがある点を追加す るのである。この流れからすればターン13の2-1の発話は、おそらくは学費目的のために 行うアルバイトは一般的に学生が行う遊ぶお金を手に入れるためのアルバイトとは一線を 画していることを指していると考えられる(産出された作文にも “Some students pay their tuition by themselves, so the money will not only consume for playing or hanging out, some students pay their tuition to earn a lot of money while vacation.”とあることからも推測できる:強調筆者)。 このエピソードでは、二人がアイディアを出し合ってまとめ上げていく様子を見ること ができ、まさに熟議型エピソードの典型例であるといえるが、ここでは、その発話のほとん どが日本語で行われている。
このように、英語のスピーキング力があまり高くない学習者にとっても、活用しうる熟議 型エピソードが表出できれば良い作文を書く助けになるのが、PWD-TL だとみることがで きる。