第5章 研究2
5.4 結果の考察
5.4.4 研究課題4に対する考察:熟議型エピソードの長さと PWD 活用度及び作文の質 . 90
5.4.5.2 学習者の英語運用能力と PWD 活用度
次に作文へのPWDの活用度と学習者の英語運用能力の関係について検討する。5.3.5.2 に示したように、全体としてはPWD based IU数は学習者の英語ライティング力及びスピ ーキング力と中程度の相関を見せている。つまり、学習者の英語運用能力が高ければ高い ほどPWDを作文に活用できたことになる。
しかし、個々のPWDタイプ別にみると、興味深い結果が見出された。PWD-Eでは
PWD-based IU数及びその率は学習者のライティングスコアと中程度から高い相関を見せ、
PWD-JでもPWD-based IU数は高めの相関をみせるのに対し、PWD-TLではそうした相関
は認められないことである。PWD-based IU率に限って言えば、同様の結果がスピーキング のスコアとの相関においても確認された。言い換えると、PWD-JやPWD-Eの条件にあっ ては、そもそも英語の運用能力が高い学習者はPWDで話された事柄を作文に活用できる が、PWD-TLの条件ではその活用度は英語の運用能力とは関係がないということである。
例えば、グループ3は二人とも英語の運用能力が高くない学習者で、スピーキングスコ アもライティングスコアもかなり低いペアである。しかし、以下に提示する通り、3-1が
PWD-TLを受けて産出した作文のある段落には、PWDで行われたディスカッションのう
ち3つものエピソードが活用されていることが見て取れる。
The third effect is that you connect in the word by using Facebook. The line is only Japan. China or America don’t use this tool. ① Then Facebook is useful.
Many people use Facebook. So When You push the Friend butane, you will increase to a friend. ② Sure, SNS is a danger. If you put on the picture, this picture remains to SNS forever ③ [sic].
【3-1-TL: SNS より抜粋】
下線部①の部分に貢献したと考えられるPWDのエピソードをPWD抜粋7に示す。この エピソードは全体的に3-1の発話量が圧倒的に多い。それでもこれが熟議型であると判定さ れたのは、受け身の聞き手に回っているようでありながら、3-2はターン24で3-1が探して いる語彙を提示するなど、能動的な役割を演じているためである。日本でよく使われるLINE
(文中では line と小文字表記になっていることに留意)は他国では使用されていないこと
から、Facebookの有用性を論じられるという発想に先に至ったのは3-1だったが、そこ説明
において重要な役割を果たすtoolという語彙を提示したのは3-2だった。それをうけて、 3-1はその作文でその語彙を活用しているのである。
94 表5-37
PWD抜粋7 【グループ③ PWD-TL (SNS): エピソード10・R-C】
ターン ID 発話内容
1 3-1 そう Maybe so many of people
2 3-2 うん
3 3-1 use for SNS, SNS?
4 3-2 um huh
5 3-1 うーんLINE is mail. Instagram is
6 3-2 自慢
7 3-1 自慢大会(笑)
8 3-2 (笑)うん
9 3-1 フフフ、自慢大会なんだ、Facebook is ah connect in the world, 10 3-2 Ah huh
11 3-1 positive effect..
12 3-2 うん
13 3-1 so American people don't use LINE 14 3-2 hum
15 3-1 maybe
16 3-2 うん
17 3-1 だからso Facebook
18 3-2 うん
19 3-1 use many of country
20 3-2 うん
21 3-1 people あ so contact…communication 22 3-2 hum
23 3-1 this is so communication of なんだろう system?
24 3-2 ツールじゃね?
25 3-1 tool. そうそうそう。かなー?
さらに、3-1は下線部②で、PWD抜粋8に提示するエピソードで話し合った、ワンクリッ クで友達申請ができるというFacebookの便利さについても言及する(文中ではbuttonのス ペリングがbutaneとされていることに留意)。ここでは3-2が相手の発言に一定程度の疑義 を示し、3-1がそれに応じるやり取りが含まれている。
95 表5-38
PWD抜粋8 【グループ③ PWD-TL (SNS): エピソード18・R-C】
ターン ID 発話内容
1 3-1 いや、no, no, no, Facebook is so easy for to connect but so mail I get so mail address?
2 3-2 うん
3 3-1 so Facebook is one click!
4 3-2 ふふふふふ。いや、わかるよ、言いたいことは。
5 3-1 yeah? One click. one click! "Friend" button.
6 3-2 (笑)
7 3-1 (笑)
8 3-2 まぁそうとは限んないからね。
9 3-1 yeah
10 3-2 one click して友達になる?
11 3-1 いや、そうじゃない?
12 3-2 そうなの?知らんけど。
13 3-1 Facebook or…
14 3-2 Facebook使わないもん
さらに、下線部③については、次に提示するまた別のエピソードから発想を得たことが見て 取れる。
表5-39
PWD抜粋9 【グループ③ PWD-TL (SNS): エピソード13・R-C】
ターン ID 発話内容
1 3-2 もうめんどう
2 3-1 早く。Please tell me. Your opinion. いや。
3 3-2 humm ahhh, コミュニケーションでしょ?(自分に)
4 3-1 communication, or and あ いいや あれ、うーんとね、
5 3-2 受信・・・xxx(判別不能)
6 3-1 うんちょっと待って、あれ、あれ just wait, 写真だ、picture
7 3-2 (笑)
8 3-1 so ummm maybe so when I まぁなんていうの?Sent
9 3-2 うん
10 3-1 うーん so picture 11 3-2 ya?
12 3-1 for the Twitter
13 3-2 うん
14 3-1 so なんつーの 「残る」
15 3-2 うん
16 3-1 internet is so use on the internet あーなんつーの picture is so 17 3-2 うんまあ 言いたいことはわかる
18 3-1 わかる?ちょっと待って 「残る」 だよ「残る」から、あ、
19 3-2 うん
20 3-1 for example so this picture is so ahh 21 3-2 「悪用」ってことを言いたいの?
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ターン ID 発話内容(続き)
22 3-1 yeah 「悪用」もあるけど this picture is so… for example so…picture is so Seven Elven picture とか(笑)あるじゃん(笑)
23 3-2 著作権?
24 3-1 著作権。著作権。著作権。そうそうそうそうそう。
25 3-2 あー 何、肖像権の話してんの?
26 3-1 いや、それはちょっと言い過ぎじゃない?
27 3-2 え、だって、人の写真をのっけて誰かが使ったら肖像権違反じゃん。
28 3-1 あぁ。
29 3-2 え、それをいいたいんじゃない?
30 3-1 違う。
31 3-2 (笑)違ったの。
32 3-1 すごく違う。たぶん。
33 3-2 深読みをしてしまった(笑)
34 3-1 インターネットに、
35 3-2 うん
36 3-1 ほら、例えば、一回上げたもの、残るじゃん。
37 3-2 うん。
38 3-1 っていうことを言いたい。
39 3-2 あー。よくも悪くも?
40 3-1 安易なもの
41 3-2 いい写真でも悪い写真でも?
42 3-1 うん、例えば、いや、so I take I take so picture
43 3-2 うん
44 3-1 now
45 3-2 うん
46 3-1 you
47 3-2 うん
48 3-1 so and so I get いやgetではないな 49 3-2 あげるのね
50 3-1 あげてー、so 載せる
51 3-2 うん
52 3-1 so my twitter
53 3-2 うん
54 3-1 so したら、and then, so your this picture, on there 残る
55 3-2 うん
56 3-1 for the internet. じゃない?
このエピソードでは、3-1が日本語でも英語でもどのように表現すべきかあまりはっきり できていない内容について、若干深読みしながらも3-2が様々な語彙を提示しながら明確化 していくプロセスが見て取れる。最終的にこの時点で3-1は「残る」という日本語を何とい う英語にすべきか未決のままではあるが、ほぼ英文を完成させるに至っている。
この例は、英語の運用能力が低い学習者であってもTLを活用しながら熟議型エピソード を表出し、それをライティング力の限界はありながらも実際の作文に反映させることがで きることを端的に示している。PWDのディスカッションで話し合った項目を順に羅列する
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のではなく、自分の論理展開に合うように順番を組み替えながらまとめ上げて一つの段落 を構成できている点からも、これらのエピソードが意味のあるディスカッションとして深 いレベルでこの学習者の思考に影響を与えたことが見て取れる。
反対に、英語の運用能力が高い学習者の中にはPWD-based IU 率が低いものも散見する。
特にライティング力が高めの学習者は、PWDで話されたことについて、自分なりに言葉を 加えてさらに深めながら書くため、結果としてはPWD-based IU率が下がる傾向にある。例 えば、11-2はPWD-TLのあとその作文の中で次のようなパラグラフを書いた。
Secondly, students can get much money. If students have longer holiday, they can get times to work much longer and can earn much money. Money that they earn use many kinds things such as travel, buying texts and books. It is useful for students’ future to get money [sic].
【11-2-TL:Holidays より抜粋】
これは、次の二つのエピソードを元に書かれた部分だと考えられる。
表5-40
PWD抜粋10 【グループ⑪ PWD-TL (Holidays): エピソード4・NR-C】
ターン ID 発話内容
1 11-1 これいいのかな、ちょっとアドバンテージ、で、ん~と、many
students have ちゃう、have, wor, part time job. So if they get long holidays, he ちゃう they can 稼ぐ many much money (笑)
2 11-2 あー(笑)たしかに。
表5-41
PWD抜粋11 【グループ⑪ PWD-TL (Holidays): エピソード5・L】
ターン ID 発話内容
1 11-1 稼ぐってなんていうんだ?(つぶやき)
2 11-2 earn earnみたいな。(しばらく書く)
しかし、11-2はライティング力の高さもあってか、下線部で示された、PWDで直接話し た事柄に加えて、なぜ学生にとってお金が重要なのか、という説明を足している。このた め、この部分についていえば、全体としては9つあるIUのうち、厳密にPWDに基づいて書 かれたIUは5つであって、自分で補足した部分が多くなればなるほどPWD based IU率は下 がる。PWD-TLの条件下で書かれた作文のPWD based IU率が、学習者のライティングやス
ピーキングのスコアと相関関係になかったのは、以上のような様々な活用の方法がPWD-98 TLにはあったためと考えられる。
学習者のアンケートの回答にも、それぞれのPWDに対する評価をする上で、自らの英語 の運用能力に触れて説明しているものが見られた。例えば、今回の参加者の中で最も運用能 力が高いグループに属している7-1は、最も有効だったPWDとしてPWD-J を挙げ、その 理由を次のように説明している(強調筆者)。
PWDを行う時とエッセイを書く時では頭の切り替えが違うからPWDは母語の方 が楽。英語でPWDをするとできないこともないけど母語の方が多くの意見が出て くるためエッセイを書きやすい。英語でPWDをしても結局は出てきたフレーズを そのまま使うことも少ないし、母語ほどアイディアも出てこないので、PWDでは 多くの量のアイディアが欲しいため母語の方がよい。その後、母語の意見をエッセ イで英語に訳すことはスムーズにできるから母語が良い。
同時に7-1は、有効ではなかったPWDにPWD-EとPWD-TLの両方を挙げて、その理由 について次のように述べている(強調筆者)。
個人的にライティングは得意だから、エッセイを書くときに苦労はない。ゆえに PWDでは多くのアイディアがほしいからスムーズに話が進む母語のPWDの方が よい。英語でも悪くはないが、日本語のPWDには劣る。TLは、切り替えが難し く、あまり役に立ったとは感じなかった。質より量のあるPWDがしたいからTL と英語では量を稼げないから、あまり役に立たなかった。
この二つのコメントには、「母語で PWD を行っても、それを英語にする上では困難を感 じない」ことが担保されているからこそ、PWDの評価をするにあたり、アイディアがたく さん出せるかという点のみによって判断できる、という自分自身についての理解が表現さ れている。
反対に、自分の英語能力に自信を持たない3-2は、PWD-EとPWD-Jの両方を有効でなか ったと評価し、その理由についてこう述べた(強調筆者)。
まず自分は英語能力が低いので英語のみディスカッションでは話し合いにならな い。母語だけでやると英語に変換しなくてはいけないのでトランス・ランゲージン グのPWDの方がよい。
このコメントは、英語の運用能力が低い学習者にとって、トランス・ランゲージングの PWDが有効である理由を端的に示したものである。PWD-Eでは主にスピーキング力の制約 によって質の高いディスカッションができないことと、PWD-J では主にライティング力の