本研究は2年間の研究であり,1年目は文献による再登校に向けての方策と別室指導者 の役割及び本市で意欲的に別室運営を行っている中学校の実践例から別室指導の在り方を 探る。来年度は阪神間(6市1町)の公立小中学校 234 校に対してアンケート調査を実施 し,別室の支援の実態と有効性を明らかにして,どのような支援の要素が不登校の解消に 繋がってくるかを考察する。
(1) 不登校児童生徒の心理分析
人間の行動はまわりの人々からの影響が大きい。特に親の接し方,教師の接し方は 児童生徒の心理も変える。そこで,不登校の児童生徒について,その心の動きを中心 にまとめたものが表2である。
< 表2> 不登校児童生徒の心理
段 階 心 理 状 態 家の中 学 校
1 不登校 はじめの心理
プラス
マイナス
保護者からは多くの登校刺激を与えられ,不安 感情を強めているときである。本人は学校に行 けないことに対しての重荷が大変大きく,学校 が心理的に大きなマイナスとなっているため,
相対的に家の中がプラスとなっている。
家の中 学 校 2
家の中のプラス (+)性 が小さく なる
プラス
マイナス
登校刺激を与えれば興奮状態になってしまう が,登校刺激を与えない方法で接することで感 情は安定してくる。すると相対的に学校のマイ ナス性が,小さくなり,家の中のプラス性も小 さくなる。
家の中 学 校 3 学校にプラス(+)
性があらわれる
マイナス
プラス
落ち着いた心理状態の中で,今学校はどんな行 事をしているのかな,自分も行ってみたいな,
友だちは何をしているだろうというプラスのイ メージがいろいろとあらわれてきて,家の中の 生活が嫌になってくる。
家の中 学 校 4 学校のプラス(+)
性が大きくなる
マイナス
プラス
現在の家の中の生活に対して否定的感情が出て きて,学校を休んでいる生活が嫌になり,登校 したい感情が出てくる。
家の中 学 校 5
登 校 刺 激 を 与 えると段階1に 戻る
プラス
マイナス
どうしたらよいかわからなくなっている段階4 の時に,担任や級友が来ると予告したり,朝や 登校時間といった感情興奮の大きい時間帯に家 に行ったりすると登校刺激となってしまい,段 階1に戻ってしまう。
児童生徒の心理面から考えると,段階4の時は登校したい感情が出てくるのである が,学校を長く休んでいることから,級友が何と言うだろう,休みの理由を聞かれた ら何と言おうか,勉強が遅れてしまっているが授業についていけるだろうかなど不安
や心配や嫌なことが浮かんでくる。この感情を紛らわすためにテレビを見たり,ファ ミコンをやったり,時には小説やマンガを一生懸命に読んだりする生活になっていく。
そこで,段階4では登校刺激ではなく,家の中のマイナス性,たとえば父親の厳しい 叱責とか,見知らぬ親類の訪問などの大きな圧力を加えると,朝になってもそれがプ レッシャーとなって登校しやすい心理状態になるようである。
(2) 再登校へ向けてのスモールステップ・プログラム
この方策は,登校できないという状態から一歩一歩学校に近づけて登校できるよう にするものである。一般的な行動段階を示すと表3のようになる。
<表3> 一般的なステップ段階
STEP. 1 朝,決まった時刻に起こす
STEP. 2 STEP.1 に加えて 食事をする STEP. 3 STEP.2 に加えて 服を着る
STEP. 4 STEP.3 に加えて カバンを用意する STEP. 5 STEP.4 に加えて 戸口に立ってみる STEP. 6 STEP.5 に加えて 道路に出てみる
STEP. 7 STEP.6 に加えて 学校の中間点まで行ってみる STEP. 8 STEP.7 に加えて 校門まで行ってみる
STEP. 9 STEP.8 に加えて 別室に行き,指導者と会う STEP.10 STEP.9 に加えて 1 時間目だけ授業に出る STEP.11 STEP.10 に加えて 2 時間目まで授業に出る
この方法は STEP.5 と STEP.6 の間の心理的距離が非常に大きく, STEP.6 に進め なくなってしまうことがある。そこで, STEP.5 からは STEP.6 に進まないで,次の 表4のように修正する方法を実施する。
< 表4> 修正ステップ
STEP. 6 夕方暗くなってから外出してみる
学校の近くまで行ってみる(保護者と一緒がよい)
STEP. 7 STEP.6 に加えて 校門の中に入ってみる
① 下足入れまで行ってみる 廊下まで入ってみる
② 担任の先生に会ってみる
(事前に連絡しておいて偶然のように会う)
STEP. 8 STEP.7 に加えて
③ 教室に行ってみる 担任の先生に会ってみる
STEP. 9 STEP.8 に加えて 別室に入り,保護者と一緒に担任と会ったりする
また,級友2〜3人と会える機会をつくるのもよい STEP.10 STEP.9 に加えて
朝,登校してみる
はじめは少し遅く家を出て,保護者と一緒か担任と 一緒(家に迎えに来てもらうか,校門で会うなどの 方法)で別室に登校する
STEP.11 STEP.10 に加えて 保護者は少しの時間一緒にいて,帰宅する
STEP.12 STEP.11 に加えて 在校時間を1時間,2時間と多くする方法と,はじ
めから午前中,1日としてしまう方法がある
別室にはほとんど担任もしくは親が連れて行くのであろうが,別室の指導者はでき れば前もって家庭訪問し,顔見知りになっておきたい。また,別室に登校して来たと きには優しく病後時のように,「気分は大丈夫?」「疲れていない?」「休みなさい」
「ベッドで横になる?」など優しい言葉をかけ,「元気になってよかったね,でも,学 校へ来るのは疲れたでしょう」という接し方をする。
・本人が話すことをよく聞いてやり,2日目,3日目も朝は優しく配慮する。
・別室にいる時間もはじめは1時間程度とし,2時間,午前中,昼食を食べてとし ていく。
・同級生が下校する前に帰すのがよい。
・まずは別室に引き寄せて居場所づくりをする
・担任の訪問による信頼関係の回復,深化をはかるようにする
・教室に向かって押し出す力を徐々に高めないと,楽しく別室登校をし,別室から 教室に行けなくなってしまうこともある。
別室登校が明るく,自信をもってできるようになってくると,この間指導者は優し く接し,担任も身体を馴らしてから教室に来ればよいという接し方をし,級友も訪問 させる。こうして徐々に担任,級友と仲よしになってきたら,別室を徐々に住みづら くしていくことが必要である。
・多忙を理由に別室の掃除を手伝わせる ・ゴミを拾わせたりする
・意図的にゴミをちらかして,掃除を手伝わせる ・少しの時間留守番をさせる
・時にはちょっとしたことを注意する
このように徐々に別室のマイナス性を強め,昼食を級友2〜3人ととらせるなどし ながら,多くの級友とも会わせるようにし,別室から教室への段階的な行動を起こさ せる。
・体育の時間に級友のいないことを確かめてから,指導者と一緒に教室に行って みる
・好きな時間に1時間だけ教室に行ってみる ・午前中は教室に行ってみる
・1日中教室に行かせる
担任は教室に引き寄せる配慮を,級友たちと協力して学級の中に育てる必要がある。
<別室から教室復帰へ(その1)>
<はじめての別室登校のときの留意点>
<別室から教室復帰へ(その2)>
(3) 別室指導者の役割
別室に登校する児童生徒へ有効な支援を行うためには,指導者としてカウンセリン グマインドを生かした支援と,学級担任をはじめ教職員組織や保護者との連携を通し た指導・支援を行うことが大切である。そこで,別室指導者が行うべき支援の内容を 整理したものが表5であり,その支援内容に方法・技法を当てはめ4つの役割に分類 したのが表6である。さらに,表5,表6を基に相談指導者の果たす役割別に支援内 容の方法・技法を具体的にあらわしたものが表7である。
< 表5> 支援段階
段 階 支 援 内 容
第1段階 リレーション づ くり 別室指導者と児童生徒間の望ましい交流が成立するまで 第2段階 別 室 登 校 へ の 導 入 リレーションができてから別室登校に導くまで
第3段階 別 室 登 校 別室に登校を開始してから主に別室で過ごしている間 第4段階 教 室 へ の 再 登 校 教室復帰させる時と再登校してからしばらくの間
< 表6> 別室指導者の対象別支援技法・方法と別室指導者の役割
段 階(表5参照)
対 象
役 割 児 童 生 徒 保 護 者 教 職 員
児童生徒 保護者 教職員 かかわり行動 かかわり行動
インテーカー
( 導 入 役 ) 情 報 収 集 情 報 収 集 1 1 快 楽 原 則 支 持
カウンセラー
( 相 談 役 ) 抵 抗 予 防 傾 聴 1〜2 1〜4 シェーピング
ス キ ル 訓 練 戦 略 モチベーションを高 める
アドバイザー
( 助 言 役 )
教室参加への レディネス
助 言
3〜4 1〜4
コーディネーター
(連絡調整役)
協 力 要 請
ヒューマンネットワーク チームづくり リ フ ァ ー
1〜4
このように別室の指導者はインテーカー(導入役)・カウンセラー(相談役)・アド バイザー(助言役)・コーディネーター(連絡調整役)の4つの役割をもっているので あるが,指導者はその役割を一人で抱え込まず,学級担任・不登校担当・養護教諭・
スクールカウンセラー等を構成メンバーとするチームづくりを行い,定期的に話し合 いをもつことが大切である。この中で児童生徒の状況,家庭での状況,別室での状況 などの共通理解を行うとともに,別室登校生一人一人の今後の教室復帰に向けた支援 の在り方を検討するなど,組織的に指導・支援していくことが必要である。