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知的財産権と国際取引についてのいくつかの論点

ドキュメント内 わが国の国際収支における中長期的な分析 (ページ 62-74)

   

3-1 . はじめに ― 知的財産権の重要性の高まり ―

  知的財産権の経済的な重要性が高まっていることはいくつかのデータによって裏付 けることが可能である。第一に、研究開発など知識・情報生産への投資の増大というこ とが挙げられる。4つの産業分野において、2000年度の単独決算ベースで、研究開発、

広告宣伝、設備投資を開示している企業について、研究開発、広告宣伝、設備投資の総 計を100とし、それがどの程度行われているかを見たものが表3-1である。医薬品産業 においては、研究開発投資のシェアが 70%を超えるのに対して、設備投資は10%強で あり、その比率は 7:1 である。医薬品企業にとって、投資とは研究開発投資と言って も良い。また、通信・ゲーム産業においても、ほぼ70%以上、電気産業においても 60%

以上を研究開発投資が占める。さらに、伝統的な自動車産業においても、研究開発投資 が設備投資を上回っている。これは単体ベースであるので、内外の子会社を含めると、

設備投資の割合はもっと高まるが、こうした産業における日本の主要な企業にとって、

本社ベースでは研究開発が最も重要な投資となっていることがわかる。

表 3‑1  無形資産と有形資産への投資比率(2000 年度) 

    研究開発

(%)

広告宣伝 (%)

設備投資 (%)

投資総額  (10億円) 医薬品    武田薬品工業    70.1% 16.1% 13.8% 113.3

  エーザイ    75.9% 12.4% 11.7% 61.3

通信・ゲーム    日本電信電話    80.7% 1.3% 18.1% 255.7

  スクウェア    74.3% 11.8% 13.8% 19.6

電気    東芝    64.0% 4.2% 31.8% 436.8

  富士通    67.3% 4.8% 27.9% 488.6

自動車    トヨタ自動車    55.8% 12.4% 31.8% 767.3

  マツダ    49.9% 15.8% 34.3% 137.4

出所:日経 NEEDS、単独決算、投資総額=研究開発+広告宣伝+設備 

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第二に、中国を初め、製造能力が世界各国で高まっていること及び投資の自由化を背 景に、先進工業国の企業の海外展開が進んでいる。その際に、海外投資収益の確保のた めに、所有権をどのように効率的に設定するかが重要になっているが、所有権を補完す る手段として、知的財産権も重要になる。同時に、ライセンス機会も拡大するので、資 本関係がない海外企業とのライセンス取引も拡大している。

第三に、TRIPS協定が開発途上国においても2000年1月から履行義務が発生し、各 国はそれを履行するよう知的財産制度を整備しているという世界的な知的財産権の強 化の流れが挙げられる。

こうしたことを背景に、世界全体で、技術貿易が拡大してきた。技術貿易による収入 の多い上位4カ国は、米国、英国、独、日本であるが、表3-2に見るように、いずれの 国においても、近年、収入、支出ともに対 GDP比率で拡大している。各国で技術輸出 からの収入が拡大していることは、外国における自国の知的財産権の利用拡大と外国で の知的財産権の保護強化があることを反映している。同様に、技術貿易の支出が拡大し ているということは国内での外国の知的財産権の利用拡大と国内での知的財産権の保 護強化があったことを反映している。ただし、この統計は OECD の資料を出所とする ものであり、ある国が知的財産権を創造していなくても、知的財産権を管理する本社が あれば、その国に技術貿易の収入が計上されることになるので21、本社機能の所在に大 きく左右されることにも留意する必要がある。

      

表 3‑2  技術貿易の動向 

    収入(Million US$) 収入(対GDP比率) 支出(Million US$)

    1985 1990 2001 1985 1990 2001 1985 1990 2001

米国  6,678 16,634 38,668 0.16 0.29 0.39 1,170 3,135 16,359

英国  1,037 2,064 16,375 0.23 0.21 1.15 922 2,728 7,862

独  1,173 6,335 13,896 0.19 0.42 0.75 1,652 6,941 20,607

日本  982 2,344 9,816 0.07 0.08 0.21 1,229 2,569 4,114

OECD合計  14,406 50,112 110,262 0.16 0.29 0.45 11,159 39,929 87,090 出所:OECD 

21 子会社が特許出願をする場合もあるが、多くの場合、特許出願は本社が行っている。その場合、本社所 在地で特許が管理され、ライセンスも基本的に本社所在地で管理されている。

次に、米国での特許付与動向を見ると、米国企業あるいは米国人への特許の付与件数 は80年代には殆ど伸びていなかったのが、1990年代には1990年に53,000件だったも のが、2001年に99,000件とほぼ倍に増えており、90年代に大幅に増大していることが わかる。また、米国全体の特許に占める外国人の割合は、1981年の39.2%から2001年

の46.4%へと大きく増えている。外国人の割合の拡大は、米国の企業が米国内で事業を

行う際にも外国の特許権者にライセンス料を払う必要性が高まっていることを意味す る。外国の内訳を見ると、日本だけではなく台湾、韓国を含めた東アジア諸国への件数 拡大が著しい。台湾企業への米国特許付与件数は1981年の 87件から2001 年の6,545 件に増えており、これは仏、独両国よりも多い。ただ、台湾の産業競争力が強いのは、

エレクトロニクス分野であり、エレクトロニクス分野は特許件数が多いので、単純に数 だけでは議論できないが、何れにせよ、台湾や韓国の技術力が上がり、多数の特許を米 国でも取得できるようになっている。中国を見ると、2001 年に 266 件の特許権を付与 されており、これは10 年前の韓国と同程度である。今後世界的に特許出願数が拡大す る中、日本の企業が中国の特許権者にライセンス料を払うということも起きてくるだろ う。

表 3‑3  米国での特許付与動向 

  1981 1985 1990 1995 2001

U.S. 43,249 43,394 52,977 64,510 98,666

JAPAN 8,758 13,351 20,743 22,871 34,891

GERMANY 6,453 6,906 7,862 6,874 11,895

TAIWAN 87 199 861 2,087 6,545

FRANCE 2,281 2,516 3,093 3,010 4,456

UNITED

KINGDO 2,604 2,620 3,017 2,681 4,356

SOUTH

KOREA 18 50 290 1,240 3,763

CHINA P.REP. 3 1 48 63 266

TOTAL 71,114 77,273 99,220 113,955 184,057

Foreign/Total 39.2% 43.8% 46.6% 43.4% 46.4%

出所:USPTO 

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1998年から2000年にかけての各国の特許出願動向を見ると、特許出願の拡大、特に 外国人出願の拡大という現象が見られる。表3-4に見るように、例えば、インドを見る と、1998年に出願件数は約1万件だったが、2000年には約6万件と2年間に6倍にな っている。しかも、2000 年の時点で、外国人比率が 99.9%である。中国においては、

1998年に約8万件だった特許出願件数が、2000年には約12万件に増えており、外国人

比率も約 80%に達している。ただ、インドと比較すると、比較的高い水準で、自国の

特許件者が存在するのが中国の特徴である。他方で各国の商標出願動向を見るとやはり 各国で大幅に増大しているが、商標は技術的な新規性は必要ないので、どの国において も、出願者の国内比率が高い。また、途上国において特に出願件数が増えている。

      

表 3‑4  各国への最近の特許出願動向 

1998年 1999年 2000年 外国人比率

日  本  401,932 405,655 436,865 11.3%

米  国  262,787 294,706 331,773 47.1%

韓  国  121,750 133,127 172,184 57.4%

中  国  82,289 89,042 122,306 79.1%

インド  10,108 41,496 60,942 99.9%

EPO  113,408 121,816 143,074 56.9%

ドイツ  202,771 220,761 262,550 70.0%

イギリス  176,187 192,875 233,223 85.6%

表 3‑5  各国への商標出願動向 

    1998年  1999年  2000年  2000年  外国人比率  韓  国  57,454 87,332 110,073 17.7%

中  国  153,692 165,128 212,602 14.5%

日  本  112,469 121,861 145,834 14.7%

インド  36,271 66,378    

イギリス  65,992 70,887 85,578 28.7%

ドイツ  78,472 85,777 97,337 15.8%

米  国  246,611 260,766 292,466 14.1%

最後に、製薬及びバイオ部門においては米国を中心に大学による特許取得が拡大して いることにも注目すべきである。米国特許取得者の上位1,400社において、1996‐2000 年の間のバイオ部門の特許取得者の 37.2%が大学であり、大学の他政府部門等を含め、

自分では特許を実施しない機関を総計すると、特許取得の5割近くを占めている。つま り、研究開発に特化している部門が特許を持つようになってきている。こうした特許権 者は当然、ライセンスによってのみ知的財産権を活用できるので、技術取引を拡大させ るひとつの要因となっている。

3-2 . 知的財産権強化の国際取引への影響

3‑2‑1  国際取引への影響経路 

次に、知的財産権強化の国際取引への影響について論じたい。知的財産権には事業に おける先行優位性の確保とライセンスという二つの活用の方法がある。知的財産権の排 他権の強化によって、不法なコピーや模倣・迂回が減少するので、研究開発などを自社 実施した場合の専有可能性が強化される。つまり、研究開発力の強い企業の生産・販売 収益が向上することになる。国際取引においても、こうした企業の輸出収益が拡大する とともに、直接投資収益も向上することになる。同様に、知的財産権が強化されること によってライセンス収益も拡大する。知的財産権の強化がライセンス収益の拡大に与え る影響には二つの経路がある。一つはライセンシーの事業収益の拡大であり、もう一つ はライセンシーとライセンサーの交渉における威嚇点がライセンサーに有利に変化す るということがある。

多くの実証研究が示すように、知的財産権の基本的な機能は研究開発を基盤とした事 業収益を高めることにあるので、国際取引における影響においても、金額ベースでは、

ライセンス収入が増えることよりも、新しい研究開発を体化した製品の輸出価格が上昇 して収入が増え、直接投資収益が向上する影響が大きいと言える。つまり、サービス貿 易への影響よりも、モノの貿易や直接投資収益への影響が大きいといえるだろう。

ただし、知的財産権の強化が比率的にどの程度影響を与えるかという点については、

ライセンスへの影響が大きいと考えられる。ライセンス料はもっぱら知的財産へのリタ ーンであるのに対して、輸出は全ての生産要素への対価を含んでおり、また直接投資収 益は技術と共に資本への対価を反映しているからである。Smith(2001)による実証分 析によると、知的財産権が強化された国においては、ライセンス収入が直接投資収入や 輸出と比べて比率的により伸びているということが示されている。

また、特許権などの知的財産権の強化には、ノウハウの取引も拡大する効果がある。

例えば、ソフトウエアの契約では、その著作権の許諾のみならず、トレードシークレッ トであるソースコードも許諾の対象となることが多い。ソースコードがないとその改変 ができないからである。このように知的財産権の取引においては、著作権や特許権に加

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