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第6章 結論

6.1 結論

本研究では、無収水対策 選択モデルを用いて、最適な対策を分析した結果、以下のよ うな知見と示唆が得られた。

(1)構築したモデルにより、無収水対策の最適な選択について分析できることが明 らかとなった。 個別の無収水対策を別々に検討するのではなく、複数の対策を 総合して実施した結果の無収水量を目的関数とする整数計画法を用いることに よって、複数の無収水対策間の相互作用による影響 や、無収水対策の効果の減 衰も考慮に 入れた最適化が可能となった。 効果、費用、効果の減衰等が異なる 多種類の無収水対策を、どのような順番で、どのような割合で組み合わせて対 策を講じることが最も効果的な無収水の削減につながるか示すことができ るた め、途上国における無収水対策の計画立案において適用することが可能である。

対策の効果、費用便益比などを定量的に示すことができるため、途上国に対し て無収水対策の必要性 や効果を啓発する際にも有用であると考えられる。 本研 究で構築したモデルは、①途上国における現状からの無収水の削減を扱い、② 予算制約を考慮に入れた定量的な分析を行い、③多様な無収水対策を取り上げ てその組み合わせの最適化を検討している、という点で先行研究にはない新規 性がある。

(2)無収水対策の選択には、予算制約が大きく影響することが明らかとなった。対 策に充てられる予算が少ない場合には、漏水 探知・修理、メーター更新、違法 接続対策を優先することが望ましい。利用可能な予算が増えるに従って、メー ター設置、給水管更新、送 配水管更新の順に施設投資を伴う対策が 実施できる ようになる。

(3)無収水対策の費用便益比は大きい。水道料金が低い水準であっても、積極的に 無収水対策に取り組むべきである。水道料金が上がれば、費用便益比も上昇し、

無収水対策に取り組む必要性は高まる。 また、無収水対策は対策実施後も効果 が持続するため、経済性を検討する際には中長期的な観点から判断するべきで ある。

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(4)水道料金収入 のみを原資とする自己予算の範囲内で無収水対策を行う場合には、

見掛け損失の削減は可能であるものの、単価の高い給水管更新や送配水管更新 には十分な予算を充てることができず、 予算投入率を増やしても無収水量の削 減が進まない状態となる。この時の無収水率は15~16%であり、このレベルよ りもさらに無収水率を下げるためには、援助や補助金を導入して、 予算投入率 を大幅に増やし、給水管更新や送配水管更新を十分に実施する必要がある。

(5)施設条件の変化による影響を分析するため、違法接続率初期値、メーター設置 率初期値、送配水管総延長、送配水管管種、水圧を変化させた場合の無収水対 策の最適な選択を調べた結果、予算制約と対策の種類によって、施設条件の変 化が対策数量や対策予 算の構成比に大きく影響を与える場合と、影響をほとん ど与えない場合の双方があることが分かった。これは、予算制約に応じた各対 策の優先度の違いが影響しており、優先度が予算制約の変化に反応して変化し つつある対策は、その予算制約の下で施設条件が変化すると予算配分も影響を 受けると考えられる。これに対して、ある予算制約の下では優先度が高い、あ るいは劣後するということが明確である対策については、その予算制約におい て施設条件が変化しても、最適な予算配分は影響を受けない。このことは、施 設条件を適切に把握してから予算配分を慎重に 検討すべき対策と、施設条件の 如何に拘わらず優先すべき、あるいは優先すべきでない対策が存在し、それら は予算制約に応じて変化することを意味している。

(6)5年間という短期間での無収水量の最小化を目的とした場合と、20年間という中 期的な無収水量の最小化を目的とした場合では、選択するべき対策や、各対策 に取り組むべき時期が異なることが分かった。管路の更新のような、単価は高 いものの無収水削減効果が持続し、経年劣化による漏水の増加を未然に防ぐこ とができる対策は、20年後の無収水量の最小化を目指した場合の方が、5年後の 最小化を目指した場合よりも優先度が上がり、早い段階から着手することが望 ましいという結果になった。 予算投入率が少なく、管路更新に予算を充てるこ とができない場合でも、時期が後半になるほど漏水探知・修理を重視した方が 良いという結果であった。このように、中期的な最適化を考慮した場合には、

漏水対策の優先度が上がると考えられる。

(7)5年後の無収水量を最小化するという目的関数で最適化した場合と、単位費用当

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たりの無収水削減効果が高い順番に対策を実施した場合を比較した結果、対策 実施の順序や5年間の合計対策数量には多少の違い が出るものの、5年間の無収 水削減量の差は極めて小さいことが分かった。5年間という短期間での比較であ ることや、5年後の無収水量の最小化を目的関数とした場合であっても、対策の 選択に当たっては単位費用当たりの無収水削減効果が大きく効いていると考え られることが理由であると思われる。 途上国においては入手可能なデータが限 られているため、まず短期的に取り組むべき対策を選定する際には、単位費用 当たりの無収水削減効果を把握することに注力し、その大きい順に予算を充当 して対策を実施するという考え方でも、十分に効果的な対策が実行で きる可能 性がある。

(8)無収水量の原単位が変化した場合に最適な対策の組み合わせにどのように変化 が生じるか感度分析を行った結果、メーター更新、違法接続対策、漏水探知・

修理のように、どの予算投入率の下でも優先度の高い対策は、原単位が変化し ても対策数量は大きくは変化せず、実施可能な数量のほぼ上限まで対策を行う ことが最適であった。一方、給水管更新にように優先度が劣後する対策は、原 単位が小さくなると、予算投入率によっては最適な対策数量が大幅に減少する ことがあることが明らかとなった。

(9)無収水削減対策単価が変化し た場合に最適な対策の組み合わせにどのように変 化が生じるか感度分析を行った結果、予算制約に応じて、対策単価が対策数量 に大きく影響する対策と、そうでない対策が明確に分かれることが分かった。

対策の優先度が高く既に上限数量まで対策を実施している、あるいは対策の優 先度が低く、対策数量が0である場合で、かつ対策単価の増減によっても他の対 策と比較した場合の優先度に変化がない場合は、対策数量に変化が生じないも のと思われる。予算制約に対して優先度がセンシティブに反応するような対策 については、事前に単価を 把握した上で対策の優先度を判断する必要がある。

(10)上述のとおり 施設条件の変化に関する分析や、無収水量原単位及び無収水削 減単価の感度分析から、最適な対策数量が大きく変動するのは 、優先度が大き く変動するような対策と予算制約の組み合わせの場合に限定される ことが分か った。途上国では入手が難しいデータが多いが、最適な対策数量に影響する要 因は限定的であり、最適解が不安定であるということはないと言える。

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(11)援助の投入を行うと、十分な予算と、対策実施に投入できるリソースの増加

(国内リソースのみならず海外のリソースも利用可能となると想定)により、

送配水管や給水管の更新を多く実施できるようになるため、給水管や送配水管 からの漏水を大幅に削減することができる。また、援助資金を借り入れるため の償還財源は、見掛け損失を削減することで得られる水道料金の増収で十分ま かなえることが分かった。 これより、投入できる予算額に応じて、まず自己予 算の場合は見掛け損失対策や漏水の探知・修理から開始し、水道料金の増収に よって少額の借り入れが できるようになったら、援助を借り入れて給水管の更 新による漏水削減を本格化させ、さらに水道料金収入が増えて償還財源が増加 したら、より多額の援助の借り入れを行い、送配水管更新を本格化させる、と いう段階的な無収水対策を講じることで、大幅な無収水率の低下が可能である ことが示唆された。

(12)上記の点に伴い、開発援助の役割としては、 まず技術協力によって自己資金 でも対応可能な見掛け損失対策や漏水探知・修理に関する能力強化に取り組み、

無収水の削減によって料金収入が増加し、返済原資が確保できるようになった 後に、資金協力によってコストのかかる管路の更新を支援するという段階的な 組み合わせが考えられる。 また、資金協力も、まずは少額の融資によって給水 管の更新を支援し、次いでより多額の費用がかかる送配水管の更新へと進むこ とが効果的と考えられる。 既に独自の対策で見掛け損失対策や漏水探知・修理 に取り組んでいて、財務状況が良好な水道事業体に対しては、資金協力から支 援を開始すればよいと考えられ、逆にそれらの優先度の高い対策にも着手でき ていない水道事業体に対しては、まずそれらの対策を実施する能力が育成でき るような支援を行うことが先決であると言 える。これより、無収水対策に対す る援助の形態を選択する際には、対象となる水道事業体の対策実施状況、無収 水率やその構成、債務返済能力等を見極めることが必要であると考えられる。