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 消費者行政の使命の一つは、悪質商法 を始めとする様々な消費者被害・トラブ ル(以下本節において「消費者被害等」

という。)から消費者を守ることにあり ます。しかし、消費者行政が対処すべき 消費者被害等は現実にどの程度の規模で 存在するのかはっきりは分かりません。

例えば交通事故であれば、運転手には道 路交通法(昭和35年法律第105号)によ り警察への報告が義務付けられています が、消費者被害等に関しては消費者にこ うした報告義務があるわけではなく、実 際に全国の消費生活センター等の行政機 関の相談窓口へ相談がなされるのは全体 の2~3%程度となっています89。また、

事故の態様から明らかである交通事故と は異なり、何をもって消費者被害等とす るのかも必ずしも明確ではありません。

 しかしながら、道路交通行政の分野で は交通事故の年間件数や年間死傷者数が ベンチマークとして用いられているよう に、消費者行政の分野においても、行政 評価・政策評価の客観的な指標の一つと して消費者被害等の状況を可視化する必 要があります。消費者被害等の状況を把 握するための一つの指標として、全国の 消費生活センター等に寄せられた相談情 報(PIO-NET情報)があり、この白書

でも様々な消費者被害等の状況を説明す るために相談情報を活用しています。こ れは、消費者被害等の端緒やトレンドを 把握するためには極めて有効な情報です が、あくまで消費者やその家族等から相 談があったものだけに限られており、相 談情報に現れない実際の消費者被害等の 規模がどの程度なのかはこれだけでは明 らかにすることはできません。

 そこで今回、消費者庁では消費者被害 等の全体のおおまかな規模を明らかにす るため、過去の取組や海外の事例等を参 考に、消費者被害・トラブル額の推計を 試みました。

 今回の消費者被害・トラブル額の推計 は、2008年に内閣府が公表90した推計及 び海外における同様の事例を参考に、消 費者被害等の推計件数に消費者被害等の 平均金額を乗じる手法により実施しまし た。具体的には、消費者被害・トラブル 額は単純化すると「消費者被害等の総数」

×「消費者被害等1件当たりの平均金額」

で求めることができるため、まず全国の 満15歳以上から無作為抽出して意識調 査91を行い消費者被害等の「発生確率」

を求めた上で消費者被害等の総数を推計 し92、これに相談情報(PIO-NET情報)93 から計算される平均金額94を乗じ、所要 の補正を行って推計値を算出するという 手法を採っています。

( 5 ) 消費者被害・トラブル

 また、今回の推計に際して、推計手法 の精緻化を図るために以下の工夫を行っ ています。

① 実態に近い消費者被害等の件 数の把握

 一口に「消費者被害等」と言っても、

悪質商法による詐欺的なもの、契約・解 約時のトラブル、粗悪品の販売、不適正 な表示・広告に基づく誤解による購入、

強引な勧誘による意図しない購入等様々 なものがあり、単に消費者被害等の経験 の有無を尋ねても回答者は自身の被害に ついて正確に回答することは困難です。

そこで、上の例のような消費者被害等の 態様別に経験を尋ねることにより、より 実態に近い消費者被害等の件数の把握を 行っています。

② 相談情報(PIO-NET情報)の 特性に応じた補正

 今回の推計では、PIO-NET情報の「契 約購入金額」「既支払額」といった項目 により平均金額を算出していますが、実 際には消費者は小さな消費者被害等では わざわざ消費生活センター等に相談をす ることはせず、より深刻な消費者被害等 ほど相談率は高いものと考えられ、PIO-NET情報から得られる平均金額は実態 より相当高い水準にあるものと推測され ます。そこでこうした相談情報の特性を

考慮し、少額のものと高額のものを分け て推計することで推計値の補正を行って います。

③ 高齢者の特性に応じた補正

 図表4-1-15で見たように、近年高齢者 の消費者被害等が大幅に増加しています が、高齢者の特性として、本人が被害に 気付かず相談しないということがあり

(図表5-2-2参照)、特に認知症の高齢者 等に顕著に見られる傾向があります。こ のため、本人が自ら回答することが前提 の意識調査では、本人が認識していない 消費者被害が十分に把握できない可能性 があります。そこで今回の推計では、こ うした高齢者の潜在被害が一定数存在す るものと仮定し、その分を推計値に上乗 せする形で補正を行っています。

 以上により、実際に推計を実施した結 果、2013年(暦年)1年間の消費者被害・

トラブル額(消費者被害・トラブルに関 する商品・サービス等への支出総額)は、

約1,010万件の消費者被害等の件数(推 計)に対し約6.0兆円との推計結果が得 られています (図表4-1-33)。

 なお、検討に際しては、消費者庁にお いて「消費者被害に関連する数値指標の 整備に関する検討会」(座長:田口義明 名古屋経済大学消費者問題研究所所長)

を2013年11月~2014年3月までに計4回 開催し、推計手法等について検討を行い

92)意識調査結果からは、1年間に人口100人当たり約8.9件の消費者被害等が認知されているとの結果を得た。これ を基に消費者被害等の件数を推計している。

93)2013年の消費生活相談情報(2014年1月31日までの登録分)を用いている。

94)厳密には、PIO-NET情報から得られる金額は「契約購入金額」や「既支払額」であり、消費者被害・トラブル額 とは異なるが、他に活用可能な金額情報が存在しないことからこれらの数値で代替している。なお、「消費者意識 基本調査」では試験的に被害相当額、派生的な被害額、問題対応費用等についても尋ねているが、サンプルの少な さ及び回答の正確性の問題のため、推計に用いるには精度が不十分なものと判断した。また、このような性格から、

本推計値は厳密には「消費者被害・トラブルに関する商品・サービス等への支出総額」と称すべきものだが、便宜 上「消費者被害・トラブル額」と表現している。なお、多重債務者問題等により深刻化している消費者金融等の融 資サービスによる消費者被害等も消費者問題の重要な一分野であるが、技術的な観点から今回の推計には含めてい ない。

ました。

 ここでは、「契約購入金額」「既支払額

(信用供与含む)」「既支払額」の3つの 推計値を示しています。このうち、「既 支払額」(実際に消費者が事業者に既に 支払ってしまった金額)に「信用供与」

(クレジットカード等で決済しており、

まだ支払いは発生していないがいずれ引 き落とされる金額)分を加えたものが消 費者が負担した金額の実態に近いものと して取り扱っています。

 なお、本推計はあくまで消費者の意識 に基づくものであり、消費者被害の捉え 方が回答者により異なること、意識調査 の性格上一定の誤差95を含むものである こと等から、少なくとも毎年の短期的な 増減を政策評価等に用いるには、必ずし も十分な精度が期待できるものではあり ません。ただし、今後毎年推計を実施し

ていくことにより、中長期的に見れば消 費者行政の成果を測定する上で有効な指 標となります。

 この推計から得られた約6.0兆円とい う消費者被害・トラブル額は、国内総生 産(GDP)の約1.2%、家計支出の約2.1%

に相当する規模のものであり、また、国 民の13人に1人が1年間に何らかの消費 者被害に遭っていることになります。ま た、平均被害・トラブル額(既支払額(信 用供与含む))は約59万円、国民一人当 たりでいうと約4.7万円という深刻なも のとなっています。なお、具体的な被害 の内訳を本推計により示すことは困難で すが、PIO-NET情報を併せて考えると、

1件当たりの被害・トラブル額が高額と なる傾向のある金融商品や建築・不動産 関係の消費者被害等が相当部分を占める ものと考えられます。

図表4-1-33 消費者被害・トラブルに関する商品・サービス等への支出総額(2013年)

契約購入金額 既支払額

(信用供与含む) 既支払額

消費者被害・トラブルに関する

商品・サービス等への支出総額 約6.5兆円

(約1,067万件) 約6.0兆円

(約1,010万件) 約5.4兆円

(約977万件)

GDP(478兆2,248億円) 約1.4% 約1.2% 約1.1%

家計最終消費支出(285兆5,191億円) 約2.3% 約2.1% 約1.9%

(備考)  1 .「消費者意識基本調査」において、次の問に対する回答を集計した結果に基づき件数を推計している。「あなたがこの 1 年間に購入し た商品、利用したサービスについてお尋ねします。この 1 年間に、以下に当てはまる経験をしたことはありますか。①けが、病気を する等、安全性や衛生に問題があった、②機能・品質やサービスの質が期待よりかなり劣っていた、③思っていたよりかなり高い金 額を請求された、④表示・広告と実際の商品・サービスの内容がかなり違っていた、⑤問題のある販売手口やセールストークにより 契約・購入した、⑥契約・解約時にトラブルにより被害に遭った、⑦詐欺によって事業者にお金を払った(又はその約束をした)、

⑧その他、消費者被害の経験。」

     2 .PIO-NETに登録された2013年の消費生活相談情報(2014年 1 月31日までの登録分)に基づき平均既支払額を算出。

     3 .GDP、家計最終消費支出については、内閣府「四半期GDP速報2014年 1 - 3 月 1 次速報値」を用いて算出。

【参考】 英国及びオーストラリアにおける消費者被害・トラブル額の対GDP比は以下の通りである。

    英国     :約0.2%(=30.8億ポンド/1.56兆ポンド:2012年)

    オーストラリア:約1.0%(=142.2億ドル/1.47兆ドル:2011年)

    ※ 英国の消費者被害・トラブル額は「ConsumerDetriment2012」より。

    ※ オーストラリアの消費者被害・トラブル額は「Australianconsumersurvey2011」より。

    ※ GDPは「NationalAccountsMainAggregatesDatabase(UN)」より。

    ※ いずれも推計方法が異なるため単純に比較できない。

第1節第4章第1部  消費者問題の概況