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求められる政策決定のコード変更 「リスクのパラドクス」 の克服

ドキュメント内 .o.c.o ren (ページ 72-89)

以上のような議論から, 「想定外」 の事態への対処には, 地方自治体の 政策決定のコード変更が必要であることが明らかとなる。 では, どのよう にコード変更をしていくのが望まれるのであろうか。 それが, 政策決定に 内在する規則コードと責任コードの変更である。 それは, リスクを負う責 任を回避するのではなく, リスクを負った場合の結果責任を問わないとい う意味である。

この指摘を行う理由は, 現実的に緊急時とりわけ災害直後における政策

決定を, ストリート・レベルに委ねるように変更することが必要かつ重要 だからに他ならない。 人命救助や保護のために一分一秒を争う緊急時にお いて, ストリート・レベルの判断と決断による臨機応変の対応をしていく ことは, むしろ当然の要請である。 しかしながら, この指摘は一般的にも 妥当だと思われるが, 現実の地方自治体の政策執行においては, 簡単では ない。 それは, 前述のように, 緊急時だとしても平常時に作用する結果責 任を求める責任コードが継続するために, ストリート・レベルでの判断と 決断を躊躇してしまうからである。

もちろん, 緊急時における政策決定の変更については, 各地方自治体で は災害対策基本法などの法典コードと予防原則コード (precautionary principle code) を基に, 防災計画の中でマニュアル化されている。 しか しながら, 実際に災害が発生すると, あらかじめ技術的に定められた技術 的コードの通り, すなわち 「想定された範囲内」 の方法でしか政策決定さ れないのである。 この環元について, ナセヒは次のように指摘する。

脱パラドクス化の技術 確立計算, 限界値, 数学的な予想方法, 等々の形式 も, 科学の外部の観察者には見えるのであり, したがっ て, それらの技術も実はパラドキシカルな状況において実施されてい るという事実に直面させられうる28)

つまり, 確立計算, 限界値, 数学的な予想からパラドクスを克服しよう とすることすらも, パラドクスを生み出すということである。 そうである ならば, そうした合理的, 科学的そして技術的な政策を, 緊急時には一旦 解除しなくては, パラドクスから抜け出せないということになる。 それを 具体的に示すと, 緊急時におけるストリート・レベルでの政策決定へのコー ド変更と, 法的な責任コードの変更をしていくことである。

こうしたコード変更の妥当性と, 行政的な結果責任を求める責任コード

からの脱却の必要性の根拠を, 以下で提示していこう。

ストリート・レベルでの判断と決定

前述のように, 北川が災害時における政策決定をストリート・レベルで 行うべきだとする提言を行っている。 これを北川は 「現場主義」 と表現し, また, 金井は 「自治専行」 と表現している。 本稿で主張する政策決定のコー ド変更を求める趣旨も, 現場で発生している課題についての政策判断と決 定を, ストリート・レベルの職員の裁量に委ねるということである。 した がって, 彼らの趣旨と違いはないものの, 「現場主義」 の中身の違いを示 しておきたい。

「現場主義」 という語られ方には, 平常時におけるボトム・アップ型政 策決定を謳う場合にも使われているが, それは, 緊急時においては適応で きないものである。 ボトム・アップ型政策決定の場合には, 最終決定者は 首長を想定されるのであるが, 緊急時に最終決定者の決済を得る暇がない 場合に, どのように政策を判断そして決定するかという点が, 課題として 浮上するからである。

ストリート・レベルでの政策の判断と決定を求める理由は, 現場で発生 した緊急課題について解決する方法論については, 現場に接近している担 当者が最も確実に理解し, 対処する必要性があるからに他ならない。 その 方法論を中央に具申する暇もない段階では, 現場により接近した職員の裁 量による的確な判断と決定が重要なのである。

ストリート・レベルで政策の判断と決定を実行できない理由は, 個々の ストリート・レベルでの職員の能力の問題もさることながら, その判断と 決定によって将来発生するかもしれない新たなリスクとしての結果責任を 負うことに, 個々の職員が躊躇するからに他ならない。 そして, 現場での 判断と決定を優先しようとしても, 必ず地方自治体という組織においては, 決裁を積み重ねる重層的な政策決定の問題が残るからである。 さらに, ス

トリート・レベルの職員の持つ知識や経験の有無による戦略としての自己 規制が問題として残る29)

こうした課題が残されるために, 前述のように, 多くの地方自治体では, 緊急時でのトップ・ダウン型の政策決定への変更を想定している。 それは, コード変更を緊急時にいつ, どのように判断するかという問題と関連して いる。 なぜなら, コード変更をストリート・レベルでは判断できないとい うパラドクスが内在しているからである。 その代償として, ストリート・

レベルでの判断と決定による責任を, 政策決定者が負うことを宣言するの である。 ところが, それは, 緊急時のトップによる統制と責任を強く出す がゆえに, 本来緊急時には有効かつ必要なはずのストリート・レベルでの 裁量行為と根本的に衝突してしまうのである。

地方自治体の緊急時における 「法の逸脱」

地方自治体が実施する政策は, すべて法的根拠に裏書きされたものであ る。 それは平常時であろうと, 緊急時であろうと同様である。 この秩序の 保持を趣旨とする法の原則の元で, 緊急時において通常の法的枠組みを逸 脱した政策を執行すべきか否か, そしてそれが妥当か否か, という検討が 必要となる。 この法律問題は, 別途十分に議論される必要性があるが, こ こではその概要のみ触れておきたい。 それは, 法は法から逸脱する行為の 存在を前提としているのであって, 決してそれは法の 「想定外」 ではない ことを確認しておくためである。

① 緊急避難と行政責任

緊急避難は, 自己または他人の生命, 身体, 自由もしくは財産に対する 現在の危難を避けるためのやむをえない行為であって, その行為から生じ た害が, 避けようとした害の程度を越えないものと, 形法37条1項と民 法第720条2項で規定されている。 緊急かつやむを得ない場合, 他者の利

益の侵害も認められる30)。 この侵害は, 他にその行為しか方法が存在しな かったという場合に認められる。 なぜなら, 法の任務は国民の正当な優越 的権利の保護にあるからである31)

この緊急避難とは形法や民法のみならず, 地方自治法などの行政法にお ける緊急時の職員の行為にも適用される。 ただし, 行政の緊急避難行為に おいても不法行為責任と賠償責任が問われる場合がある。

この非常事態における行政による緊急避難行為の 「免責」 については異 論もある。 例えば, 長谷部恭男は 「リスク社会の出現は, コントロールの 可能性を度外視した結果に対する厳格な責任を各人に問うことにつながる 可能性がある」32)と指摘する。 これは, リスク概念とリスクの複雑性が拡 大されてきた社会であるから, リスクへの対処の行政責任というものが, より大きな範囲に無限に問われることを指摘しているものである。 たとえ, 個々の職員の行為について, 賠償責任などの法的責任が問われることがな くとも, 行政の管理責任者である首長は政治的責任を問われることもあり 得る。 むしろ, 首長などの政治的責任は中身が曖昧なまま, 無限に拡大さ れているのである。

このような緊急避難行為の責任に関して, 無限の責任が問われる懸念へ の明確な回答は用意されていない。 そのため, 地方自治体において, 緊急 時の緊急避難行為に対して無限責任が問われることになった際の, 弁明責 任を果たせるための理論的な検討が必要とされる。 いずれにせよ, 緊急時 に発生する行政の無限責任をどのように対処するべきかが曖昧であるため に, 実際に緊急事態が発生した時に, 行政が緊急避難的な措置を行うこと を躊躇してしまうことに至るのである。

② 行政の裁量権と行政責任

法が想定していない事態の対処において, 行政の裁量行為は認められて いる。 むしろ, 社会に発生する様々な諸問題に対しては, 行政が裁量権の

もとに, 積極的に解決に取り組むことも期待されている33)。 それは, もと より法は社会の全ての事象を網羅できないというのが, 法の基本的思想に あるからである。 したがって, 地方自治体の日常的な業務の多くは, スト リート・レベルにより近い職員による裁量行為として実施されているので ある。

このストリート・レベルでの裁量行為には, 公益衡平を斟酌していくこ とが求められる。 つまり, 法を杓子定規に適用することで, かえって公益 を侵害するリスク・トレード・オフへの認識である。 人の生命の安全を確 保するのが公益であり, 法を厳格に守ることではない。 この観点からは, 緊急時にコード変更による裁量行為をいかに速やかに行えるかどうかが鍵 となる。

しかし, 地方自治体による裁量行為は無制約ではない。 社会的通念から 著しく逸脱した場合に, 裁量権の濫用として批判されるのが通例である。

また, 裁量行為には, 結果の予測に対する注意義務が付加される。 さらに, 裁量行為も法による統制, 行政内部での統制そして司法統制の範囲内で認 められているものである。

平常時において行政統制が確実になされている場合には, 組織的な裁量 行為が適切に行われるであろう。 しかしながら, 緊急時においては, 行政 統制が機能しなくなるのは明らかであるために, 緊急時こそ行政統制と矛 盾したり, 法規から逸脱したりする臨機応変の対応が必要とされるはずで ある。 ところが, 逆に緊急時において裁量行為が作用しなくなる。 それは, 社会通念上求められる緊急時における行政の裁量行為とは, 緊急時であっ ても法規からの 「逸脱」 を許容されないのである。

逆に言えば, 法規から逸脱しないように, あらかじめ緊急時における地 方自治体の 「責任」 について, その中身の変更を行っておくことによって, 対処すべきということを示している。 しかし, 容易に理解できるように,

「想定外」 の事態への対処は, 法規からの逸脱の可能性を孕んでいる。 法

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