11 アジア原油市場でのマーカー原油
ドバイ原油
ドバイ原油は, 仕向地の制約がない故, 取引に利便性の高い原油として 絶対値価格でのスポット取引が活発に行われている。 そのスポット価格は OPECが設定するバスケット価格にも採用される3)ほか, 中東産原油の価 格指標となっている。 現在, オマーン原油価格との月間平均は日本国内を 始めアジア向けの中東産原油の価格指標となっている。 しかし, ドバイ原 油は生産量が年々減少傾向にあり (2010年においては日量約7万バレル), 指標としての適格性を疑問視する向きがあった。 そこで, 有力なエネルギー 価格調査会社であるプラッツは, 仕向地の制約のないオマーン原油の代替 受渡を認め, ドバイ原油の取引を対象として, アセスメントを行っている。
ドバイ原油のエクイティ持分は米国のコノコ・フィリップス35%, 仏の
トタール25%, スペインのレプソルYPF25%, ドバイ政府15%となっ
ている。 API度は約31度, 硫黄分は1.93%である。
オマーン原油
オマーン原油は, ドバイ原油よりも埋蔵量が多く, 日量約75万バレル
(2010年) と, 比較的産出量が安定しており, 仕向地の制約を受けないこ とから, ドバイ原油とともに中東産原油の価格指標となっている。 この原 油のエクイティ持分は, オマーン政府が60%, ロイヤル・ダッチ・シェ
ルが34%, トタール4%, パルテックス2%となっている。 オマーン原油
は, API度が約33.5度で, 硫黄分が0.96%。
WTI原油
WTI原油は, 米国テキサス州沿岸部の油田で産出される原油の総称。
WTI原油は, 日量約30万バレル (2010年) 産出される原油で, NYMEX に1983年から上場されたLight Sweet Crude Oil (軽質低硫黄原油) の 受渡供用品の代表的なものである。 NYMEXの同市場は, 石油先物取引 としては世界最大の出来高を有することから, 北米のみならず世界の指標 油種として利用されている。 NYMEXの受渡しは, テキサス州に隣接す るオクラホマ州のクッシングで行われるため, 受渡場所の混雑状況により 価格が影響を受けることもある。
WTI原油はAPI度が35〜50度と超軽質で, 硫黄分も0.22%と少なく 良質であり消費地に近いことから, ドバイ原油やオマーン原油よりも一般 的に高値で取引されている。
なお, サウジアラビアやクウェートは, 2010年1月から, 米国向けの 原油輸出における価格フォーミュラを改訂し, 米国向け原油輸出価格を従 来のWTI原油のスポット取引価格連動から, ASCI (Argus Sour Crude
Index:米国メキシコ湾岸地域で取引される中質マーズ原油, ポセイドン
原油およびサザン・グリーンキャニオン (SGC) 原油の加重平均価格) 連動に変更した。 この背景として, これらの油種は中東産原油同様, 硫黄 分の多い中質原油であり, 硫黄分の少ないWTIよりも近い性状であるこ と, また, これら3油種のスポット取引は日量40〜60万バレルと, 米国 で最も活発に取引されている原油であることから, より現物原油の需給を
反映すると考えられたことなどが挙げられる。 さらに, 3油種の生産地が 分散していることから, 局地的な自然災害などの影響が緩和されるという 点も考慮されたものと思われる。 マーズ原油は通常, WTIよりも割安に 評価される傾向にあり, 今後の米国向け中東産原油の価格形成に一定の影 響がある。
ブレント原油
ブレント原油は, 北海油田・英国領海北部のブレント油田で日量約18.7 万バレル (2007年) 産出される原油で,IPE(現ICE Futures Europe) に 1988年から上場されている。 ブレント原油は欧州向け原油の指標とされ, NYMEXのWTI原油と並んで, 世界の原油市場の一角を形成している。
プラッツは, ブレント原油, フォーティーズ原油, オゼバーグ原油及びエ コフィスク原油の代替受渡しを認めたBFOE (Brent/Forties/Oseberg/
Ekofisk) 条件のブレント原油の取引をアセスメント価格の対象としてお
り, ICE Futures EuropeのBrent原油先物の決済価格となるICE Brent IndexもBFOEの平均価格となっている。 ブレント原油はAPI度が約38 度, 硫黄分が0.38%であり, 質的にはWTI原油とドバイ原油やオマーン 原油の間に位置付けられる4)。
上掲, ドバイ原油は, 現時点でアジア原油貿易の中心的商品であり, 価 格構成メカニズムが各マーカーにより異なるものの, 相互影響が大きく作 用する。 凡そ実情では, ドバイ価格はWTI価格とオマーン価格との均衡 により決定する (表1)。 アジア現物石油市場については, シンガポール Reuter等による極東石油価格インデックス (FEOP) があるものの, こ れがプラッツウィンドウに参照される事例は少い。
12 アジア原油市場の特性
アジア原油需要の市場予測
1980年から2010年までの全世界原油需要の増加分の半分はアジア地域 であり, 日本の総消費量約3.5倍になる。 アジアの中で一次エネルギー消 費が最も著しい中国では, 2030年には15億〜18億トン (原油換算) と予
表1 アジア原油市場に関連する主要マーカー原油の国際比較 ドバイ原油 オマーン原油 WTI原油 ブレント原油 生 産 量
(年間推定) 約7万bbl/d 約75万bbl/d 約30万bbl/d 約50〜60万bbl/d 転売・仕
向地限定 制限なし 制限緩い 制限なし 制限なし 取引価格 市場価格 OSP(準市場価
格) 市場価格 市場価格
API度 約31度 約33.5度 約35〜50度 約38度
輸出消費
地 域 主にアジア向け 主にアジア向け 米国内 主に欧州 (他, 北 米, アジア向け)
市場特徴
・埋蔵量と生産 量が少ない。
・プラッツウィ ンドウ上の取 引では売手オ プションによ り, オマーン 原油で代替受 渡が可能。
・DMEで上場 しているオマー ン原油先物取 引の月間平均 価格を翌々月 に 船 積 み さ れるオマーン 原油OSP。
・テキサス原油 のパイプライ ン輸送による 米国内向け原 油。
・製品価格に強 く影響を受け る。
・主に欧州向け だが, 水際原 油として輸出 の柔軟性があ る。
・Forties, Ose-berg, Ekofisk での代替受渡 が可能。
出所:日本エネルギー経済研究所 石油情報センター資料2011等より作成。
ドバイ原油は現在も生産縮小し, 石油最大消費地アジア地域が中東原油価格決定をこのマー カー原油に依存する合理的根拠は希薄化している。 唯一の合理的選択理由は仕向け地制限 の無いことによる。 日本の石油業界にドバイマーカーを修正しブレントマーカーの可能性 を指摘する意見も強い (「原油のアジア・プレミアムを縮小する方策の提案」 日本エネルギー 研究所375回定例部会2002小川芳樹教授)。
測されている。
アジア原油貿易市場の特性
アジア市場での石油製品取引の貿易量は, 石油ナフサを利用した石油化 学半製品またはナフサ自体の貿易量が多くを占める。 また消費地精製に近 い貿易形態のシンガポール・ジュロンコンプレックスと東南アジア, アジ ア周辺国という地域では, ガソリンなどの多種大量の石油製品貿易が行わ れている。 特に, 東アジア地域では, 韓国製油所が, 中国市場, 日本市場 を中継貿易のターゲットとしており, 日本に輸入される石油製品の主要な 供給国となっている。 さらに日本への石油製品輸入については, 製品ごと に異なった関税が課税されており, これも石油価格に大きな影響を与えて いる。
また, 石油製品輸入については, アジアの輸入元と日本との環境規制の 格差が価格決定の面で課題となっている。 日本市場においては, サルファー
出所:日本エネルギー経済研究所資料2004年より作成
図1 アジアの一次エネルギー消費予測
フリー化 (ガソリン, 軽油に含まれる硫黄分を10ppm以下までに低減) が高度に進展している。 その一方で, 主要な石油製品の輸入相手国である 韓国の環境規制は比較的進んでいるものの, その他の北東及び東南アジア 諸国における環境規制は遅れている。 このような状況においては, 日本の 品質規格に対応させるため輸入相手国の脱硫設備の増強が必要となり, 短 期的には海外市場との価格裁定が働きにくいことに繋がっている。
アジア原油市場のマーカー原油
アジア市場は, 中東産原油の流通が最も多く, そのマーカー原油はドバ イ原油 (及びオマーン原油が準じる) である。 東京工業品取引所では, そ のマーカー原油のスポット価格を最終決済価格とするアジア向け中東産原 油価格を上場している。 アジア原油貿易の主要取引国はサウジアラビアで あり, 石油貿易の主要銘柄はエクストラ, スーパーライト, 価格構成は (ドバイ+オマーン)/2FOB+調整値となる (表2)。
この他, アジア市場では, シンガポールで行われている業者間の市場外 OTC(Over The Counter) 市場がある。 OTC市場では, 実際に相対で 取引されたスポット価格を民間の価格報告機関が収集報告し, その報告さ れた価格を参考として, 個々の取引価格が決められている。 中東産原油以 外では, マレーシア産のタピス原油やFOBシンガポールの石油製品の取 引も行われている。